著者
吉田 賢彦 初田 隆 寺元 幸仁
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.445-459, 2015-03-20 (Released:2017-06-12)

これまでの児童画コンクールの是非をめぐる論議においては,子どもが入選作品をどのように捉えているのかといった,子どもの視点にたった考察が欠けているのではないかと思われる。そこで本稿では,コンクール入選作品を刺激対象として,これらを子どもと教師がどのように評価するのか,また,コンクールの入選作品であるという事実認識が作品の価値判断にどういった影響を及ぼすのかを調査・考察した。結果,子どもと教師の作品評価の枠組みや,標準的な作品イメージを基にコンクール作品の評価を行っていること,子どもの評価枠組みは教師の評価に影響を受けていることなどを示すことができた。
著者
池内 慈朗
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 = The Journal for The Association of Art Education (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.40, pp.33-40, 2008

rights: 美術科教育学会rights: 本文データは学協会の許諾に基づきCiNiiから複製したものであるrelation: IsVersionOf:http://ci.nii.ac.jp/naid/120000808450/
著者
田中 幸子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.28, pp.249-262, 2007-03-31

本稿の目的は中学・高校の美術および芸術教育での映画芸術鑑賞の教育的意義を明らかにし,授業案を作成することである。本稿は,まず日本の映画教育の基本的概念の誕生から現在までの変遷をつかみ,さらに美術・芸術教育との関係を明らかにすることからはじめた。次に,芸術としての映画の教育的意義を確認した。そして,鑑賞教育としての映画の解釈の方向性を示すために映画の芸術性について考察した。さらに,前章で考察された内容を踏まえ,映画鑑賞の授業の過程を提案した。最後に結論をまとめ,今後の課題を明確にした。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.223-242, 2014

ポストモダンの芸術体験におけるコミュニケーション研究から,理性と感性の統合におけるコミュニケーションの感性的位相に着目した実践研究を行った。幼児の絵画表現ワークショップを対象に,参与観察とビデオ記録によるビジュアル・エスノグラフィーを基にエピソード分析を行った。芸術体験の中で相互に情動が感受・共有される様子や相互の変容,関係性と場の変容が生まれる様子と過程を明らかにした。こうした芸術体験における相互の変容は言葉の意味伝達だけでなく,情動や身振り,場の雰囲気などが力動感(vitality affect)を伴いつつ,非自覚的・非直接的なコミュニケーションとして豊かに媒介されていた。芸術体験の実相とその意味生成には,感性的コミュニケーションが大きく影響していることが明らかになった。
著者
安東 恭一郎 金 政孝
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.35, pp.61-77, 2014-03-20

現在世界諸国で試みられている創造的思考力のある人材育成と全人的教育を目指す教科融合教育は,理想的な教育理念の実現を目指しているが,異なる教科を融合する意味をどう捉え,どのように構想し実践するのか,が問われる。本稿では韓国で実践されている融合教育の一つであるSTEAM教育の実践現場を訪問観察し,教科融合の原理と実践の場面を捉え,その成果と課題を明らかにすることとした。その結果,STEAM教育実践場面では美術活動が児童の学習意欲を高めるための補助的道具として用いられており,科学教育と美術教育の相互相関性を追求するまでには至っていないことが明らかとなった。
著者
平野 英史
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.35, pp.427-439, 2014-03-20

小論では,阿部七五三吉の手工教育論における玩具観の推移を分析考察した。特に,明治末期から昭和初期における教科課程案とその立案に関する主張に着目して研究を進めた。結果,阿部が円熟期に提案した実践方法には三つの特徴が認められた。第1は,阿部が教科課程の改造を進めるにあたり,玩具的な内容を教科の中心として位置づけ,子どもの興味を「遊び」から「研究」へと移行させる構造を重視したこと。第2は,教科課程において中心的に扱った玩具にかかわる内容が,理科を応用した教材であったこと。第3は,阿部による教科課程の編成方法の影響が,教え子である山形寛に見られたこと,であった。
著者
平野 智紀 三宅 正樹
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.365-376, 2015-03

本研究は,対話型鑑賞で観察される鑑賞者の成長という現象と,それがどのようにして促されるのかを,ヴィゴツキー以降の学習理論,具体的には正統的周辺参加理論(レイヴとウェンガー)と認知的徒弟制の理論(コリンズ)に基づいて明らかにした。鑑賞場面で生起する参加者の全発話をテキスト化し,先行研究をもとに学習支援に関する発話カテゴリを設定して定性的に分析した結果,対話型鑑賞場面ではファシリテーターの学習支援が徐々に鑑賞者に移譲され,さらに鑑賞者同士でお互いに学習支援を"わかちもつ"ことで鑑賞者が成長する現象が確かめられた。さらに対話型鑑賞場面では個人の美的能力の発達よりも"場"としての共同的な発達が促されている様子も明らかになった。
著者
吉田 貴富
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.401-413, 2010-03-20

本論は,三根和浪・宮本恭二郎・吉川昌宏「『高学年造形遊び不要論』の検討」(美術科教育学会誌『美術教育学』第27号,2006年,pp.391〜402)の問題点を指摘するものである。上記論文は,口頭発表:吉田貴富「高学年造形遊び不要論」(第27回美術科教育学会千葉大会,2005年3月27日)への反論であるが,「手法」と「内容」に看過しがたいいくつかの問題点がある。発表者に無断で録音あるいは撮影した記録を用い,その音声を文字起こしした原稿を発表者に校閲させていない。執筆者による誤記や曲解も散見される。その結果,口頭発表は発表内容から歪められて反論の土台とされている。本来有効であったはずの一提案が,不当な手法によって利用された結果,議論そのものが不安定なものとなってしまった。議論を封じ込めようとする姿勢にも問題がある。口頭発表が指摘したリアルでシリアスな問題は,ほとんど論破されていない。
著者
北野 諒
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.34, pp.133-145, 2013-03-25

本稿は,対話型鑑賞における美学的背景についての考察を経由して,芸術をめぐる学びとコミュニケーションの様態を再検討することを目的としている。具体的には,「開かれた作品」「(敵対と)関係性の美学」といった美学理論の解題から,「半開き性」という鍵概念-芸術/学び/コミュニケーションの基礎的条件をなす弁証法的運動-を抽出し,分析を展開していく。行論のすえ,本稿はふたつの可能性(暫定的な結論と仮説の提議)にいたるだろう。ひとつは,「半開き性」を,対話型鑑賞の学びの場面へ実際的に応用する「半開きの対話」の可能性(暫定的な結論)。もうひとつは,「半開きの対話」を楔に,コミュニケーションをメディウムとした現代アートの作品群と芸術教育の実践群とを接着し,新たな芸術教育パラダイムのコンセプト・モデルとして胚胎させる可能性(仮説の提議)である。
著者
渡部 晃子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.441-452, 2010-03-20

本稿は,米国における鑑賞教材『Visual Thinking Strategies』を対象とし,その具体的な教授・学習過程を明らかにするために教育目標について分析したものである。方法として教材に書かれた2つの教育目標(生徒目標と教師目標)について色別し,それぞれの目標の変化や特徴を分析した。その結果,教育目標に示唆されたVisual Thinking Strategies(VTS)の教授・学習過程をたどることができた。また繰り返し表現されている目標の内容から,3つの特徴<1)協同学習への促し2)教授・学習内容の振り返り3)パラフレーズ>があることを明らかにした。
著者
初田 隆 吉田 和代
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.359-373, 2012-03-25

胎内あるいは出生時の記憶を描写した絵(「胎内記憶画」とする)では,光や音,水,へその緒,包まれている様子などが,ジグザグ線や二重円,マンダラ型などの描画パターンで表現されており,それらは,母子にとって意味のあるシンボルだと思われる。そこで,幼児の表現活動を活性化させるとともに,望ましい母子関係への気づきを促すために,「胎内記憶画」を描く活動が有効なのではないかと考えた。本論では,ワークショップ「ママのおなかにいた頃を思い出そう-絆のドローイング-胎内記憶」の実践及び胎内記憶画の分析を通し,以下の点を明らかにした。(1)胎内記憶に関する子どもの発話を,「五感」,「感情」,「姿勢や動き」の3つに分類し,それぞれに対応する描画パターンやシンボルを確認するとともに,胎内記憶画の解釈を行った。(2)母子ワークショップにおいて「胎内記憶画」を用いることによって,幼児の表現活動を活性化させるとともに,母子の絆を深めるといった効果が確認できた。
著者
縣 拓充 岡田 猛
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.1-14, 2009-03-21

本研究では,美術創作をより身近に感じさせる可能性を持った美術展示の方法として,「アーティストが美術創作を専門的に学んでいない学生と関わって作り上げたコラボレーション作品の展示」,及び,「創作プロセスに関する情報の展示」を提案し,それが来館者に及ぼす効果を検討した。展示効果の測定は,質問紙調査と鑑賞中の会話とを組み合わせて行った。その結果,1)コラボレーション作品の展示は,アーティストのパーソナリティに対するステレオタイプを緩和し,創作への動機づけを刺激する可能性を持っていること,2)プロセス情報の展示は,創造の天才神話を緩和し,アーティストに親近感を抱かせる効果があることが明らかになった。
著者
中村 幸子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.27, pp.279-291, 2006-03-31

本考察は,百武兼行(1842-1884)のパリでの絵画研究を明確に示すことを目的としたものである。そこで,時期は異なるが百武と同じくレオン・ボナ(Leon BONNAT,1833-1922)に学んだ五姓田義松(1855-1915)を取り上げた。考察の結果,百武の絵画研究は,ボナとの出会いによって人物習作を中心に展開され,その内容は充実したものとなった。百武にとってのパリ留学は,後に滞在することとなるローマにおける積極的な制作へとつながったといえる。
著者
下口 美帆
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.25, pp.241-254, 2004-03-31

The purpose of this study is to consider Hans Hofmann's view of art education. His art theories and practices had a great influence on American Abstract Expressionism in the 1930's〜1940's. I considered the interrelationship between his art theories and artworks as an artist and his educational practices as a teacher. In addition, he taught his students how to acquire their way of thinking to find their own expression. As a result, his students developed their own expressions and became principal members in the American art scene represented by Abstract Expressionism.
著者
和田 咲子 山田 芳明
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.29, pp.645-655, 2008-03-27

本研究では,対話型鑑賞活動において児童と美術作品との橋渡し役を務めるファシリテーターの役割に焦点を定め,児童に美術への知的関心を喚起させ,美術鑑賞の経験としての質を高める学習として活動を発展させていくためには,彼らの力量がより重視されるべきであることを提起した。更に鑑賞学習プログラムの実践事例をとりあげ,ファシリテーターが鑑賞者の発言を取捨選択し,示唆を提供しながら,鑑賞者を作品理解の深まりへと導く前提として,美術作品についての一定の理解や作品の見方についての知識が必要であることについて,美術史学的立場と教育実践学的な立場から論じた。
著者
森 芳功
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.379-390, 2010

「感動」とは,情動が動くことであり,複数の感情が関わって喚起される。本稿では,美術鑑賞における「感動」の働きに注目し,まず,鑑賞過程における「感動」について,美術史上の「感動」の記録や,鑑賞支援活動の実践を材料として試論的に整理を試みた。そして,「感動」に至るには,鑑賞者のもつ予備的な経験や知識,期待感や緊張感が条件として必要であることや,鑑賞者の経験や知識を鑑賞に結びつける主体的な活動が必要であることを示すとともに,鑑賞過程のなかの「感動」を基点とすることで,鑑賞の手がかりの少ない子どもや,鑑賞を深めたり表現につなげようとしたりする子どもたちに対する支援の視点が得られることを指摘した。