著者
石川 誠
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.26, pp.65-81, 2005-03-31

This paper attempted an analysis of MATISSE AND PICASSO : A Teacher's Guide, provided by the Museum of Modern Art, New York (MoMA QNS) in 2003. One purpose of the paper is to explain the philosophy and methods of education and expansion of the museum, especially regarding the support program for teachers. The paper also attempts to develop an understanding of relations between the museum and school. As a result, it is seen that the Visual Thinking Curriculum of MoMA has a curriculum concept for students at an age of logical thinking. Teacher support adhered to a concrete MoMA concept. The program's clear goal orientation makes it deserving of careful attention from researchers of art education.
著者
片岡 杏子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.35, pp.243-254, 2014-03-20

本論では,子どもの体験における「空間」に着目し,印象的な風景との出会いや造形場面における空間の感じられ方が,主体意識としての<わたし>を支える可能性について検討した。論中では,まず人が肯定的に捉えた体験が自己構造と一致するというC.ロジャーズの理論をふまえて,体験の記憶に伴われる空間のパースペクティブ性が,体験を肯定的に捉えていくうえで重要であると仮定する。そして壮大な風景の中で驚きを感じる体験や,絵の具遊びを行う子どもの体験を取り上げながら,人が印象的な空間体験を通して自分の物語を表現し,生きようとする存在であることを説明する。これをふまえて,子どもが冒険や失敗をする過程において,風景の包容性と作業空間の共同性が体験を肯定するための支えとして機能し,その記憶がさらなる課題の局面において<わたし>を支える根拠となるであろうと考察する。
著者
谷口 幹也
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.245-257, 2006

本論文では,「今を生きる私」の多層性に着目した美術教育の重要性を提案している。「近代の自由な個人」に関する検討を行った後,砂澤ビッキ,川俣正ら二人の作家の営為の比較から,美術教育における主体イメージの変更の必要性を導きだしている。そこで「アイデンティフィケーション」に着目することを通して,美術における体験を「境界空間」として問いただし,他者とともに新たな現在を創る協働作業に取りかかるための基礎的な場として,美術教育を再定義する必要があると結論付けている。
著者
立川 泰史
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.32, pp.267-279, 2011-03-20

本稿は,造形活動における子どもの意味生成過程に働く「差異」に注目し,「意味」が生成する場面の内実を探りながら実践的課題を明らかにしようとするものである。ここでは,M.バフチンの対話論をG.ドゥルーズらの現代思想へと読み広げるやまだようこの「生成的網目モデル」の視点を援用し,異学年における「差異」の意識調査や造形活動にあたる子どもの会話分析を中心に考察した。それによって,子どもの「差異」の意識は,「意味づくり」と深い関係があるが,その捉えに学年間で違いがみられること,また,対話による意味生成過程が示す多声的性格,身体的な側面や「差異」の働き,「表現」との偶有的関係など,いくつかの特性と実践的課題が明らかになった。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-173, 2012

多様な価値観や差異が増大する社会では,理性的コミュニケーションが有効である一方,近代の理性中心的な合理主義の弊害を越えるべく感性的コミュニケーションが求められる。理性と感性の統合は美的教育の歴史的重要テーマであった。それには単に操作的統合ではなく,矛盾する概念相互の動的緊張関係を伴う統合の具体的方法が必要である。近年の感性研究の中で,気持ちの繋がりを質的心理学的の視点から「感性的コミュニケーション」として研究する理論に注目した。それに依拠することで,「気持ちの繋がりと喜びを感じる実践」「自発性と遊びから始まる実践」「感性と理性を往還する多様な共有方法」「実践者の感性的かつ理性的な省察」が芸術教育実践の新たな指標として導きだされた。
著者
隅 敦
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.231-247, 2012-03-25

本稿では教員を採用する際の採用試験の図画工作科の問題を,小学校で求められる「学力」をつける能力があるか否かを判断する内容であるかという観点から精査した。まず,教育関連法令における「学力」と「評価」の規定について,その扱いについて整理を行った。そして,採用試験問題を,教育関係法令に基づく学習指導要領と,その内容に準拠して発行される教科用図書の内容に照らして分析した。その結果,教員採用試験問題が,教育関連法令で規定された学習指導要領や教科用図書の内容を踏まえていない実態があることが分かり,小学校図画工作科で求められる「専門的知識と技術」について,大学における充実した教育が必要であることが分かった。
著者
杉本 覚 岡田 猛
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.34, pp.261-275, 2013-03-25

近年,美術館においてワークショップという形態の教育普及活動が頻繁に行われるようになってきている。しかし,ワークショップの実践家の数はまだ少なく,その育成が喫緊の課題として挙げられている。この課題を解決するためには,まずはファシリテーターの熟達過程を調査し,その実証的なデータに基づいた教育プログラムを作成する必要があるだろう。そこで本研究では,実際のワークショップにおいてスタッフの活動の様子を参与的に観察するとともに,参加したスタッフに質問紙を実施して,その回答やミーティングでのやり取りをもとに学習や認識の変化を分類し,ワークショップ内の活動との対応を検討した。その結果,スタッフの学習として「ファシリテーションに関する学習」「ワークショップ自体に対する認識の変化」「作品との関わり方に対する認識の変化」「日常の自身の姿勢に対する認識の変化」の4つのカテゴリが見出された。
著者
岡山 万里 高橋 敏之
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.151-162, 2009-03-21

大原美術館が1993年から行っている幼児対象プログラムのうち,絵画鑑賞プログラム「対話」について,筆者らは14年間の実施記録をもとに考察して,以下のような結論を得た。環境との相互作用により発達する幼児に対して行われる美術館職員の発話は,人的環境からの言語的応答であると同時に,絵画という物的環境からの応答に代わるものとなり,対話は幼児と絵画作品の相互作用を促す役割を果たす。「対話」の中で,幼児は言語訓練の機会を得,絵画の諸要素に出会い,絵画や美術館との関わりの端緒を得る。
著者
吉村 壮明
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.22, pp.271-281, 2001-03-30

A course on 'Expressions' would be an appropriate addition to a modern art education curriculum, and how we think of these expressions is proving to be an increasingly important issue. The reason for this is that, growing out of post war perceptions of creative art education that place emphasis on developing children's potential for self expression, a problem has arisen with regard to how art education has responded to works which have come to be recognized as belonging to the contemporary art idiom. The objective of this thesis to discuss the similarities and difference between contemporary art and the latent meaning of expressions used in art education to describe it, with regard to the problems surrounding the development of a methodology for teaching contemporary art. As one can see from present teaching documents, the words that are used reflect a tendency to describe art in the modernist terms of Expressionism, where the emotions and idiosyncrasies of the inner self are given external expression. This disregards such contemporary genres as Dada and Pop Art, however, which are more concerned with relating the externally manifested properties of works, as well as with using the media to further disseminate them. I believe that it is thus necessary to address these particularities and disparities in developing a methodology for teaching contemporary art.
著者
本村 健太
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.23, pp.245-255, 2002-03-30

With the idea of integration of art, unification of art and technology, and teaching the whole man, the historical Bauhaus is still actual today.The purposes of this study are as follows: - Rethinking of the Bauhaus as a design movement of social reform and practice of wholistic education through art. - Finding new subjects for art and education in the multimedia age. - Focusing not only on technological argument and methodology, but also on cultural argument and ideology for research of `the expression through multi media'.The view of `techno culture' (e.g. club-scene, Love Parade, VJ) shows a new life-style with the unification of art and technology. It is important for art education in the future that techno culture as `sub culture' is sensitive to the spirit of the times, encourages experimental trials and proposes a new life-style.
著者
普照 潤子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.331-344, 2009-03-21

1937年にアメリカ合衆国中部の中心都市シカゴに設立されたニュー・バウハウス。同校は,シカゴの文化的・経済的発展に貢献した先進的なデザイン学校であると同時に,1920年代初頭に始まるシカゴの芸術学校改革を牽引する「改革芸術学校」であった。設立以降毎年発行された同校の学校案内カタログを視野に入れ,分析することにより,モホリ=ナギの最晩年の主著『ビジョン・イン・モーション』(1947)には,校長職にあったモホリ=ナギがニュー・バウハウスを舞台としたシカゴの芸術学校改革と同校のカリキュラム作成にいかに取り組んでいったのかが浮かび上がる。本研究では,モホリ=ナギがヨーロッパからアメリカにもたらした改革的芸術教育学の素顔とそのカリキュラム設計上の基本構想を解明する。
著者
畑中 朋子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.27, pp.323-335, 2006-03-31

地域文化施設の教育事業にNPOや企業などの外部組織が参加するケースが増加しているが,そのあり方や評価方法は未だ確立されていない。本研究の目的は,市民が鑑賞者という立場のみに留まらず,ワークショップを通して自ら運営/創作活動に参加できるようなしかけ作りの可能性を示唆することにある。本論では,NPO学習環境デザイン工房によるe-とぴあ・かがわ(香川県情報通信交流館)のワークショップ事例を中心に,民間組織やアーティストとの協同事業を挙げ,それらに共通要素として内在化されているしくみに触れる。さらに,収蔵品とは異なった次元で創造的な体験を促すアートプロジェクトとしてのワークショップの可能性を仮説として示し,現代美術の動向も念頭に置きながら考察する。
著者
ふじえ みつる
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.383-397, 2004

The National Visual Arts Standards formed in 1993, changed art education in the U.S. The standards have been promoted by NAEA, supported by the Federal Government. Those standards are constructed of both the contents standards and the achievement standards, and have discipline-centered features derived from DBAE. The 18 abilities, acquired through art learning, proposed by the Getty Center and based on the standards, show some specific artistic abilities for available assessment. Bat, the division is too complicated. The issue of operation of the standards should avert interfering with local autonomous traditions and the individuality of each child's development.
著者
神野 真吾
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.27, pp.205-218, 2006-03-31
被引用文献数
1

明治期に,西欧の制度を移入し,美術という言葉が生まれて以降,日本においては,美術家たちによって実践される「美術」と,教育現場で行われる「美術教育」の間に,次第に距離が生じ,断絶した状況が生じている。その一方で生涯学習をはじめ,一般市民の美術は,「美術」「美術教育」いずれともほとんど関わりを持たずに,盛んに取り組まれている現実がある。こうした混沌とした状況の中,現在,美術・美術教育をとりまく環境は大変厳しいものとなっている。今こそ,我々は近代化の中で美術と美術教育が辿ってきた道程を顧み,私たち日本人にとって必要な美術の在り方を,構築する必要があるのではないだろうか。
著者
長井 理佐
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.265-275, 2009-03-21

本研究では,中学生以降の対話型鑑賞における目的を再検討するとともに,その目的に向けどのように対話鑑賞の場を構築すべきかについて提言する。目的の見直しに際しては,ハーバーマスの「生活世界」の概念を援用し,対話型鑑賞の場を,日常知のストックとしての生活世界を組み替える場として位置づけた。鑑賞の場の構築については,主に,テート・モダンにおける鑑賞プログラムや筆者の授業実践に基づき,(1)従来の美術の枠内でのジャンル分けを脱構築したテーマ別鑑賞の有効性,(2)学習者とは異なるコンテクストを対話の場に導入する必要性を論じた。
著者
竹井 史
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.263-274, 2012-03

本研究は,土による幼児期の造形的な遊びを活性化させる土環境を砂成分と粘土成分の混在する「土」に求めた。その「土」は,一定の水分を加えることで粘性,可塑性に富み,乾燥後も子どもの手により比較的容易に粉砕可能なものであり,子どもの土による造形活動をその根底において支える環境である。本研究では,その具体例を河川流域の採石プラントから排出される「利用土」に求め,土の性質を粒度分布分析による工学的手法によって明らかにするとともに,その土環境によって展開される造形活動について記録し,その意義について考察した。