著者
天渕 律子 橋本 修左
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.40-46, 2002-08-10
参考文献数
5
被引用文献数
1

持別養護老人ホームで生活する高齢者の夏季の室温環境に対する温冷感やその調整への要望を把握するため高齢者45人に対して個別の面接調査を実施した。また,居室の温度,湿度などの実測値とその時点での高齢者の温冷感の申告との関係を観察した。その結果,朝方に寒いとの申告が昼や夜よりも多く,また,暑いと答えた割合は,夜間に多く見られた。高齢者は冷房による冷えと体調との関係に敏感な者が多く,特に下肢の冷えや痛みを庇って上半身の暑さを我慢する場合も見られた。高齢者の温冷感には,個々の心身の状況によって個人差が大きいことが分かった。また,冷房の送風に対して敏感である場合が多かった。
著者
岩佐 由美
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.157-163, 2019-07-26 (Released:2020-09-18)
参考文献数
13

目的 パーキンソン病ケアの標準化に向けて,患者が自身で実施しているリハビリテーションの頻度と内容をヤール度数ごとに可視化する。方法 全国パーキンソン病友の会兵庫県支部会員に対する質問紙調査で得られた252人の回答を,自身でのリハビリテーション実施有無で群分けし,属性,実施頻度を比較した。実施の内容に関する自由記載をテキストマイニング分析し,12のリハビリテーション項目と,それを実施している患者のヤール度数の関係の強さを可視化分析した。結果 患者の78.8%が自身でリハビリテーションを実施していた。実施者のヤール度数は有意に低かった(p<0.01)。実施頻度は平均4.5日/週で,ヤール1で最多(5.3日),ヤール4で最小(3.9日)だった。リハビリテーション項目のうち[体操,ラジオ体操][柔軟,屈伸][散歩,歩行]は,全ヤール度数の患者が実施していた基本的項目であり,これに加えてヤール1~2で[ダンス][スクワット][ヨガ],2~3で[バランス][太極拳],ヤール4では[マッサージ]が追加実施されていることが可視化された。考察 可視化されたリハビリテーションの安全性や有効性を検証し,患者,介護者らが共有できるケアとして標準化していくことが必要だと考えられた。
著者
佐々木 晶世 佐久間 夕美子 叶谷 由佳 佐藤 千史
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.24-30, 2009-04-30 (Released:2017-12-28)
参考文献数
18
被引用文献数
1

ガム咀嚼による脳や認知機能にり与える影響については調査されているものの,ガム咀嚼をしながらの単純作業上,その後の疲労にどのような影響があるのかについては明らかになっていない。そこで,ガム咀嚼が作業効率と疲労に与える影響に関して研究を行った。14名の健康な男女を2:1となるよう2群に割り付け,介人群(9名)にはガム咀嚼をしながら,対照群(5名)にはガム咀嚼はしない状態で内田クレペリンテスト(以下,クレペリン)を行ってもらった。また,クレペリン前後の身体・精神疲労度をVisual Analog Scaleを用いて測定した。その結果,作業後の精神疲労度とクレペリン作業量とに負の相関関係がみられ(p<0.05),精神疲労が高いほど作業量が少ない結果となった。クレペリン作業量には2群間で有意差はみられなかった。クレペリン前後での疲労度の変化では,対照群において身体疲労度が作業後に有意に増加し(p<0.05),介人群では有意な変化はみられなかったものの精神疲労度が低下した。以上より,クレペリン作業中のガム咀嚼により,作業後の疲労が軽減される効果のあることが明らかとなった。
著者
大山 真貴子 岩永 誠
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.452-457, 2023-01-30 (Released:2023-05-01)
参考文献数
11

災害による急激な生活環境の変化は,糖尿病患者のセルフケアを阻害する。本研究では,糖尿病患者が被災によって受けるセルフケア阻害に関する心理的な影響を測定する尺度の開発を目的とした。対象者は熊本大地震を経験した糖尿病患者195名(男性143名,女性52名;63.34±12.01歳,HbA1c値=7.09±0.93%)であった。災害時の糖尿病セルフケア阻害尺度の項目は,被災した糖尿病患者へのインタビューを基に作成した。項目の構成は,抽出された4カテゴリー(「炭水化物中心の食事」,「糖尿病薬の不携帯」,「セルフケアの不足」,「高血糖状態」)からの10項目と将来における病気悪化のリスクに関する2項目を追加した全12項目とした。因子分析の結果,セルフケアの諦め,食事の悪化,将来における病気悪化の懸念の3因子が抽出された。各因子のα係数は0.806以上であり,高い内的一貫性を示すことが確認できた。
著者
清水 真由美
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.341-350, 2021-10-08 (Released:2022-01-31)
参考文献数
21
被引用文献数
3

外国人技能実習生の来日後の健康問題と対処行動を明らかにするために,6名の外国人技能実習生に半構造化インタビューを実施した。逐語録を作成し,研究参加者が経験した特徴的な健康問題と対処行動について,事例ごとにまとめた。さらに,すべての事例について,インタビューガイドの項目ごとに,質的帰納的に分析し,各項目の特徴を示した。特徴的な健康問題は,食欲不振・体重減少,寒冷じんましん,凍瘡(しもやけ),月経痛・膀胱炎,智歯周囲炎,副鼻腔炎であった。質的帰納的に分析した結果,外国人技能実習生は,来日後の健康問題として,【日本の気候風土に起因する健康問題】,【仕事に起因する健康問題】,【環境の変化に起因する健康問題】,【既往症の再発】を経験していた。健康問題発現後の対処行動としては,【母国の医薬品の使用】,【セルフケアによる健康状態の改善】,【信頼できる人への相談】,【医療機関の受診】があった。また,受診後の行動には,【服薬アドヒアランス行動】,【予防的な保健行動】,【高額な医療費による治療継続の断念】があった。日本の気候風土・仕事・環境の変化に起因する健康問題に対して,基礎的な知識,予防や初期段階での対処方法について健康教育や保健指導などにより啓発し,疾患の予防や初期段階での適切な対処行動がとれるように支援することが重要である。
著者
佐々木 八千代 野田 さおり 白井 みどり
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.83-90, 2021-04-30 (Released:2021-08-01)
参考文献数
35

介護予防通所介護を利用する高齢者を対象としたコホート研究のベースラインデータを用いて軽度認知障害(MCI)とその関連要因について検討した。対象の登録は2017年3月と2018年3月とし,聴力測定,日本版 Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)による認知機能検査,自記式質問紙調査を実施した。MoCA-Jの得点が25点以下をMCI, 26点以上を健常に分類した。ロジスティック回帰分析で多要因の影響を調整し,MCIに関するオッズ比(OR)を算出した。本研究の登録者は296人で,認知機能低下者は217人(73%)であった。登録者のうち,質問紙の回答が得られた272人を解析対象とした。年齢が上がるほど,MCIを有する者が多くなっており(65-79歳に対し80-84歳においてOR=2.18,85歳以上においてOR=6.56),糖尿病の既往があるものでMCIに対するORが上昇していた(OR=3.06)。一方,MCIに対するオッズ比が低下したものは,女性(OR=0.46),脳血管疾患の既往あり(OR=0.30),心疾患の既往あり(OR=0.39)であった。また,老研式活動能力指標の得点が上がるほどMCIを有する者の割合が少なくなっていた(1-9点に対し10-11点においてOR=0.20,12点以上においてOR=0.37)。本研究の結果から,加齢や糖尿病はMCIのリスクである可能性が示唆された。
著者
原田 小夜 西垣 里志
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.122-132, 2021-07-27 (Released:2021-10-16)
参考文献数
28

高齢精神障害者支援において精神科訪問看護が介護支援専門員との連携を進める上で直面している課題と対応について明らかにすることを目的に,精神科訪問看護ステーション3カ所6名の精神科訪問看護師にインタビューを行い,質的帰納分析を行なった。その結果,【家族が抱え込んだ精神・身体の両方のケアが必要な高齢者】,【介護支援専門員の高齢精神障害者に対する生活支援力の不足】,【地域での連携が進まないジレンマ】,【訪問看護は介護と障害の架け橋】の4コアカテゴリを抽出した。家族だけで長年援助してきた精神科未治療で身体的ケアの必要な高齢精神障害者の紹介が介護支援専門員から精神科訪問看護に入るが介護支援専門員の精神疾患・精神障害に対する知識不足や観察力不足があるため連携が難しいこと,介護支援専門員は精神科訪問看護の役割が理解できていないこと,支援を進める上で介護保険制度上の課題があること,精神科訪問看護が多職種間の連携を主体的に進めていこうと考えていることが示唆された。
著者
細見 亮太 新井 博文 安永 亜花里 矢萩 大嗣 安武 俊一 吉田 宗弘 福永 健治
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.76-82, 2021-04-30 (Released:2021-08-01)
参考文献数
22

北海道北見市常呂町で生産されているニンニク‘北海道在来’(ピンクニンニク)の生理機能の一つとしてアテローム性動脈硬化症抑制効果を動物実験により評価した。4週齢雄性アポリポプロテインE(ApoE)欠損マウスに高脂肪餌料(HF),HF餌料にさらにコレステロールを添加した高コレステロール餌料(HC),HC餌料にピンクニンニク粉末を5%(w/w)添加したニンニク餌料(HC-G)をそれぞれ自由摂取で与えた。飼育13週間後,常法により解剖を行い,血清および心臓を採取した。また解剖前に各マウスの1日分の糞を採取した。血清および糞の脂質濃度の分析,加えて心臓大動脈弁の脂肪沈着をOil Red O染色で評価した。HC-G群はHC群と比べ,血清総コレステロール濃度の低下,大動脈弁の脂肪沈着の抑制,糞への中性ステロール排泄量の増加が見られた。HC-G群では盲腸重量および1日に排泄される糞重量が増加したことから,ピンクニンニク粉末に含まれる食物繊維の作用により糞への中性ステロール排泄量が増加したと考えられる。これらの結果から,ピンクニンニクの摂取は,血清脂質の改善によって,アテローム性動脈硬化症の進行を抑制することが示唆された。
著者
松井 宏樹 平田 弘美
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.414-422, 2023-01-30 (Released:2023-05-01)
参考文献数
19

本研究は,前期高齢者が骨粗鬆症治療を継続した要因を明らかにすることを目的とし,骨粗鬆症治療を1年以上継続している前期高齢者を対象に,「今までどのように骨粗鬆症治療を継続してきたのか」について半構造化インタビューを行い,質的記述的に分析を行った。その結果,前期高齢者が骨粗鬆症治療を継続した要因として,『骨粗鬆症に伴う問題を自分にも降りかかることとして認識する』,『骨折予防に対する意識の高まり』,『独自の方法で治療を工夫する』,『骨粗鬆症治療に対する前向きな気持ち』,『自分なりの目標を持つ』,『周囲の人による支え』が抽出された。前期高齢者が骨粗鬆症治療を継続するために看護師ができる支援として,骨粗鬆症患者が気軽に相談できるような働きかけを行うこと,骨粗鬆症による合併症や日常生活への影響を患者がイメージできるように支援すること,治療開始から半年以上経過した患者に対しては特に,治療効果を自覚できるように支援することが必要であると考えられた。
著者
吉田 宗弘 斉 悦 吉原 花織 細見 亮太 福永 健治
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.80-85, 2017-07-31 (Released:2017-11-30)
参考文献数
15

茶は微量ミネラルであるマンガンを豊富に含んでおり,マンガンの給源として重要である。緑茶に含まれるマンガンの栄養有効性を確認する目的で,4週齢のWistar系雄ラット18頭を3群に分け,低マンガン飼料(マンガン濃度0.45μg/g),低マンガン飼料に10μg/gのマンガンを炭酸マンガン,または緑茶抽出物として添加した飼料を与えて4週間飼育した。飼育期間終了後に各群ラットの肝臓,腎臓,小腸,脾臓,大腿骨,および脳マンガン濃度を測定したところ,いずれも低マンガン飼料投与群が他の2群に比較して有意に低い値を示した。一方,臓器中マンガン濃度において,炭酸マンガン添加飼料投与群と緑茶抽出物添加飼料投与群との間には差がまったく認められなかった。また,糞へのマンガン排泄量とマンガン摂取にもとづいて算定したマンガンの見かけの吸収率においても,炭酸マンガン添加飼料投与群と緑茶抽出物添加飼料投与群との間に差はなかった。これらのことは,緑茶に含有されるマンガンの栄養有効性が炭酸マンガンと同等であることを示している。
著者
望月 好子 佐久間 夕美子 石田 貞代 座波 ゆかり
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-14, 2021-04-30 (Released:2021-08-01)
参考文献数
23

目的:ジャカルタに住む日本人の母親の現地生活,育児とその支援への思いを滞在3・4年目の駐在員の妻に焦点をあてて明らかにする。方法:2018年9月に,ジャカルタに住む日本人の母親に半構造化面接を実施し,質的統合法を用いて分析した。結果:ジャカルタに住む日本人の母親たちは,①【特有の生活事情への懸念】をもっていた。加えて②【医療への不安感とその対応への変化】を経験し,③【子育て支援への期待感】や④【生活環境への適応感】をもつに至った。さらに母親たちは,⑤【本帰国への不安感】をもちながらも,その反面で⑥【密な人間関係に基づく情報伝達意欲】という肯定的な思いをもつに至った。結論:日本人の母親たちの現地生活,育児と支援への思いは上記の構造をもつことが明らかになった。母親たちは,現地生活が長引くにつれて生活に適応し,否定的な思いから徐々に肯定的な思いに移行していくことが示唆された。また母親たちは,本帰国が近づくにつれて帰国後の日本の生活に対する不安が高まりながらも,情報発信意欲をもち,情報の受け手から担い手へ徐々に移行していくことが示唆された。
著者
岩崎 みすず 水野 恵理子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.36-42, 2013-04-30 (Released:2017-12-28)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究は,統合失調症の子どもをもつ父親へのインタビューを通して,父親の,子どもと病気への対処と病気との向き合い方を明らかにすることを目的とした。3名の父親へ,子どもの症状や日常生活の様子,子どもへの対処,家族や自身の生活などについて半構成的面接を行い,質的に分析した。その結果,父親の対処と向き合い方に関して,【家族への気遣い】と【父親としての在り様】の2つのテーマが得られた。父親は,母親とは異なる責任感をもって子どもと接していると考えられ,家族など周囲の人々と少し距離を置き,間接的に統合失調症の子どもの日常的ケアを行っていた。父親が子どもに対応していると考える程度と,母親が考える程度にはズレがあるため,父親が他の家族のかかわりをサポートする形で日常的ケアを行っていることを,妻たちに理解してもらう必要がある。また,自分の感情を表出することが少なく,専門職者ともつながりにくい傾向があるため,父親自身がケアされる場の提供が望まれる。
著者
白木 由花 宮内 清子 佐久間 夕美子 佐藤 千史
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.25-30, 2008-07-31 (Released:2017-12-28)
参考文献数
13

本研究はヨーガ・プログラムが医療職者の腰痛に及ぼす効果および改善の関連要因について検討することを目的とした。ヨーガ・プログラムは太陽礼拝と3つのポーズで構成した。このプログラムはシンプルにデザインされ,容易に実施可能であった。対象者は,看護師および介護職員の11名とし,6分間のプログラムを自宅で2週間実施した。対象者はプログラム実施前に現在の腰痛の程度,年齢,職種,在職期間について回答した。また,プログラム終了後,腰痛の程度とヨーガ・プログラムの感想を回答した。ヨーガ・プログラム実施回数の平均は9.5±2.8回,最小で4回,最多が14回であった。ヨーガ・プログラム実施後,対象者の腰痛は有意に改善した(p<0.01)。しかし,看護・介護歴,年齢,実施回数は腰痛の変化と相関しなかった。ヨーガ・プログラム感想では,「体が温まった」「汗がでた」といった記述がみられた。本研究で作成したヨーガ・プログラムは医療職者の腰痛の緩和に効果的と考えられる。
著者
川村 晴美 鈴木 英子 中澤 沙織 田辺 幸子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.351-360, 2021-10-08 (Released:2022-01-31)
参考文献数
49

急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感とバーンアウトとの関連を明らかにすることを目的として,全国14カ所の国公立系急性期病院の認知症高齢者が入院している病棟に勤務する看護師2032名を対象とした自記式質問紙調査を実施した。質問項目は,日本版Maslach Burnout Inventory- Human Services Survey(MBI-HSS)に準じたバーンアウトに関する22項目,急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師の困難感に関する16項目,ワークライフバランスに関する24項目,個人要因18項目,職場環境要因10項目とした。有効回答数は1235名(60.8%)であった。MBI-HSSによるバーンアウト総合得点の平均値は12.6点であり,病院間に有意差は見られなかった。バーンアウト総合得点を目的変数とする重回帰分析の結果,バーンアウトに関連する要因は,標準化偏回帰係数が大きい順に,困難感の総合得点,ワークライフバランスの総合得点,自分の健康を維持する能力,職場に対する満足感であった。認知症看護の困難さを感じている看護師はバーンアウトしやすいことから,このような看護師を対象としたバーンアウトを予防するためのサポートプログラムを構築する必要があると考えられる。
著者
松村 成暢
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.53-57, 2011-07-31 (Released:2017-12-28)
参考文献数
9

動物にとって味覚は栄養のあるものを摂取し,有害なものを退けるために必要不可欠な機能である。視覚や嗅覚によりある程度の予備的な判断は可能であるが,食べるか吐き出すかの最終的な判断は味覚によるものである。ヒトにとって味がわからなくなるのは不便ではあるが直接生命に関わるようなことはない。現代ではスーパーや飲食店で安全の保証された食べ物は容易に手に入れることができる。このためいちいち味覚に頼らずとも安全な食べ物をとることはできる。また,ヒトは食に関する情報を多方面から得ているので安全における味覚の寄与はそれほど大きくはない。しかし,われわれの祖先もそうであったように,日々飢餓と隣合わせの生活をしている野生動物にとって味覚とは生死に関わる機能ではないだろうか。また特に先進国において味覚は単に栄養素を摂取するという生理的な欲求を満たすために利用されるだけでなく,食を楽しむという娯楽的な要素や快楽やストレスの解消などの心理的な欲求に対しても味覚は重要な役割を果たしている。つまり味覚は生活の質(QOL:Quality of Life)の維持・向上にも影響を及ぼす重要な感覚機能なのである。
著者
坂爪 一幸
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.50-55, 2012-07-31 (Released:2017-12-28)
参考文献数
21

発達障害や認知症は伝統的には行動や能力から理解されてきた。行動や能力には高次脳機能という基盤がある。発達障害も認知症も高次脳機能に生じた問題であり,高次脳機能を理解した支援が欠かせない。障害のある子どもや成人だけでなく,健常な子どもの能力や行動の発達も高次脳機能の成熟に基づく。また健常成人の加齢に伴う能力や行動の衰えは高次脳機能の低下に起因する。神経心理学の発展に伴って,能力や行動の基盤である高次脳機能の特徴を明確にして対応を策定する神経心理学的なアプローチの重要性が増している。本論では,発達障害と認知症の伝統的な障害理解の問題点,神経心理学的な視点による理解の有用性,そしてそれらに基づく包括的な支援の枠組みをまとめた。神経心理学は胎児・乳幼児・児童・生徒・成人・高齢者を対象にして,高次脳機能という視点から一貫した人間観と健康観を提供できる。