著者
河野 銀子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.21-33, 2009-10-20 (Released:2021-08-01)
参考文献数
41

This research is to examine the advancement towards women in science-related jobs or fields in university from the viewpoint of gender. The results of TIMSS and PISA show that Japanese students in primary and junior high school are rated highly compared to international standards. However, it is undeniable that many of them carry negative attitudes towards science. It also appears that female students tend to have a much more negative image of science than their male counterparts in Japan. One possible reason for this is the lack of an appropriate environment both at school and at home. Actually, the result of the questionnaire, which I conducted in 2004, clearly reveals that people have a natural tendency to emphasize gender-based courses for students. When they choose their academic courses in high school days, people around motivate males to take ‘science courses’ and females to take ‘humanities.’ It is necessary that we improve the situation for the female students who are blindly led to take ‘humanities’ as their academic course choice. My conclusion of this research is that we need to provide female students with enough support when choosing their course and reevaluate the course selection framework itself.
著者
桑原 雅子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.78-91, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
参考文献数
32

20世紀なかばを端緒として,1990年代の「デジタル革命」以降に急展開し,現在も進行中の科学の変貌と,それに伴って台頭しつつある新科学主義を扱う.この状況に,広義の科学論(科学史・科学社会学・科学哲学+科学技術社会論)は,いかに対応し得たか.科学論自体を批判的に問い直すべきときである. 今世紀になり,コンピュータ容量の急速な増大とともに,計算科学,データサイエンス,ベイズ統計学の伸長が著しい.これらの数理科学を駆使する学術研究を「21世紀型科学」と名付ける.21世紀型科学の特徴と新科学主義の台頭を論じたうえで,日本のSTSが取り組むべき諸課題を提起する.最後に,これらの課題を遂行するためには,21世紀型科学を対象とするインターナル・スタディーズが必要であることを主張する.
著者
杉原 桂太 伊藤 俊
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.127-141, 2021-05-20 (Released:2022-05-21)
参考文献数
16

本稿は,日本における自動運転車の社会実装を議論するために行われたワークショップを提示することを目的とする.このワークショップでは,最新技術である自動運転車の社会実装について広い視点を参加者に提示するために,構築的テクノロジー・アセスメントが用いられた. 第一に,上記の目的を明確にし,本研究のフレームワークを明らかにする.第二に,米国と欧州,日本における自動運転車を取り巻く社会状況を提示する.ここでは,これらの地域におけるこの技術についての社会受容に注目する.その上で,社会実装を議論する場の必要性を指摘する.第三に,自動運転車の社会的な実装を議論するアプローチとして構築的テクノロジー・アセスメントを提示する.そのオランダにおける起源と特徴に着目する.第四に,ワークショップの詳細を示す.ワークショップでは三件の基調講演が行われている.さらに,日本における自動運転車の実装についての議論を促進するために三つのケース・スタディが用いられた.第五に,ワークショップの成果について議論する.最後に,全体をまとめ,今後の研究の必要性について指摘する.
著者
吉田 省子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.109-124, 2021-05-20 (Released:2022-05-21)
参考文献数
51

中島貴子は2004 年に,食品安全委員会のBSEリスクコミュニケーションを検討し,行政や専門家と消費者との間にディスコミュニケーションが存在すると指摘し,その要因を論じた.本稿の目的は二つある.一つは,2004 年と2013 年のBSEリスクコミュニケーションを検討し,別の要因を指摘することである(3 ~4 章).それは,食品安全委員会と憂慮する市民―消費者との間に存在する,リスクコミュニケーションへの期待あるいは解釈の差異である(3 章).その差異は,日本の枠組みでは明示的ではない2 つの概念の不在に関連づけられる.IRGCのリスクガバナンスの枠組みが含む「懸念評価」とコーデックスの「その他の正当な要因(OLFs)」である(4 章). この状況下で消費者団体がリスクコミュニケーションの問題に直面する時,消費者団体は,あたかも自粛するかのように口を閉じてしまう可能性がある.この沈黙という状態を“scienceplanation”という概念を用いて示すのが,第二の目的である(5 章).6 章では,打開策として,ボトムアップでの物語作りの可能性が述べられる.
著者
八巻 知香子 高山 智子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.128-136, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

国立がん研究センターがん対策情報センターは「がん対策推進アクションプラン2005」を受けて設立された組織である.2008 年より「患者・市民パネル」を運営し,患者・市民の視点を取り入れた情報提供活動に努めてきた.2018 年度に初めて,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)との共催により,臨床研究への患者・市民参画のあり方について検討する場を持った.情報発信機関への患者・市民参画については,患者・市民パネルの活動として一定の形を形成してきた.一方で,研究の立案から評価に至る全プロセスへの患者・市民の参画のあり方については検討の途上にあり,今後の医療や研究で求められる役割を考慮しながら,基本理念である「正しい情報に基づいて,国民のためのがん対策推進を支援する」ことを堅持しながら,がん対策情報センターとしての運営方針を確立していく必要があると考えられる.
著者
大野 元己
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.54-64, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
49

本稿では,人-機械のインタフェース・インタラクションを人工知能の観点から議論する既存の研究を,各学問分野および具体的な応用技術から書籍を中心に紹介する.第2章では3つの学問分野(エスノメソドロジー,認知科学,ヒューマンエージェントインタラクション)の,第3章では社会に実装され始めている2つの応用技術(コミュニケーションロボット,自動運転)の議論を概観する.各学問分野や応用技術の議論におけるアプローチは異なるが,いずれも独立した主体の内部のモデルのみに着目するのではなく,外部の環境を内包した状況付けられた人-機械の関係性を強調している.また,応用技術の研究では人-機械のインタラクションのあり方に関する社会的・倫理的議論が積み重ねられている.
著者
安藤 英由樹
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.108-119, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
17

「情報技術」は人間の知的作業に効率性をもたらす一方で,利用者の心的状態への負の影響も持ち得ることが指摘されている.一方で心理学の分野では心の良い状態を示すためのWellbeing指標が検討されており,これを情報技術に実装するPositive Computingの試みが始められている.しかしながらその設計指針については文化的背景に依存するだけでなく,そもそも定量化された心的状態の最適解を与えて,それに従わせることでは本質的な解決にならない.そこで,本稿ではWellbeingを促進する情報技術の方法論のあり方として,ヒトの無意識に着目した方法論について検討を行った.
著者
藤堂 健世 江間 有沙
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.81-95, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
18

現在,IT人材育成とそれに伴う「創造性」の習得が幅広い年齢層に求められている.本研究では,「プログラミング教育」で育む創造力を「タスクわけワークショップ」の作業を用いて可視化できるか検討した.中学生,人工知能学会全国大会学生企画セッションの参加者,大学院生を対象にしてワークショップを行った.そのタスクわけ作業の結果を,①タスクの増え方の特徴,②集団ごとのタスクわけの特徴,③感想文の読み取りの3点から分析した.その結果,特に中学生は「経験からタスクを広げる」能力が他の集団に比べて低いことがわかった.またすべての集団において,タスクを構成しているサブタスクに分割する力が同程度であることが読み取れた.このように,タスクわけ作業の分析をすることで各グループの持っている創造力を可視化することができた.これらの知見を利用し,プログラミング的思考に必要な創造力の可視化を行うことで,児童・生徒の主体的な学びにつながることを示唆した.
著者
美馬 達哉
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.66-77, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
参考文献数
18

ベックやギデンズのような社会理論家が提唱したリスク社会論は,1980 年代以降の現代社会を科学技術の巨大化によるグローバルなリスクの出現として特徴付けた.そして,リスク社会を統治するために専門家支配でも民主的多数決でもない専門家と市民社会との公共的な関わり方を可能とする仕組みを構想し,その点で科学技術社会論にも大きな影響を与えた.本稿では,フーコーの言うバイオポリティクス論を援用して,このタイプのリスク社会論を批判的に検討し,現代社会における個人化されたリスクのマネジメントが「方針・説明責任・監査」の三角形による自己統治であることを示した.こうした状況は,リスクそれ自身の変容の結果ではなく,よりよい未来を夢見るユートピア的な構想力の衰退の帰結と考えられる.
著者
木原 英逸
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-65, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
参考文献数
48
被引用文献数
1

科学技術論STSにとって,科学/技術の民主(政治)的統治は中心的な問いであり続けてきた.しかし,この問いをどう理解し実践するかの点で,1990 年代に立ち上がった日本のSTS「科学技術社会論」は,それまでの「科学論/技術論」との違いを強調して断絶へ向かう志向が強い.まず,「社会問題/社会運動の社会構築主義」の影響で,権力理解が「フレーミング」のような観念に偏った結果,財や力が大きく働く現実が見えにくくなった.また,マクロな社会構造に説明を求めない結果,誰もがその下に置かれている構造をともに変えるために連帯する政治が見失われている.見失ったに止まらず,代わって,ネットワーク社会の民主的自己統治である「ガバナンス」政治を,そしてそのなかで科学技術の「ガバナンス」を目指した結果,連帯する政治を切り崩してさえいる.ガバナンスの技法として考案された,影響を受ける者たちのデモクラシーである「討議民主政」に順い,すべてのステイク・ホルダー,すなわち影響を受ける者の声に応える責任として,「技術者倫理」や「科学者の社会的責任」を唱えてきたからである.「科学技術社会論」に見られる,こうした政治や民主政や倫理についての理解の偏り,狭さを指摘する.
著者
本堂 毅
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.118-126, 2009-10-20 (Released:2021-08-01)
参考文献数
8

In a judicial trial, science meets society. As an expert witness, the author appeared before the judge and experienced how science was treated in a court. From the experience, and from the survey on the records of adjudication and submitted scientific evidences into courts, the author found the lack of fairness in scientific discussion in a court. The author reports and discusses the problems in the following order: 1) why science is required into a court, 2) typical scientific discussion in a Japanese court, 3) conflict between Japanese rules of civil procedure and the fairness of scientific discussion, 4) false image of science in a judicial circle, 5) the relation between the expected role of expert witness and scientist’s code, 6) the problem of the traditional science education, which has led misunderstanding of science in a judicial circle. Finally, we discuss the need for cooperative action between scientists and lawyers.
著者
二階堂 祐子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.118-128, 2019

<p> 科学と医療の進展によって細胞内の染色体やDNAの形状が解明されると,科学者らはその状態に「欠損」「不全」「過剰」などの言葉を付与した.名を与えられたそれらはその後,あたかも構築をまぬがれた実体であるかのように,個体の社会的差異の源泉としてふるまうようになった.こうして,遺伝子の状態が障害の原因であると診断された人の身体は,能力主義的に,あるいは見た目によって価値づけられると同時に,ある遺伝情報を実体として構築するための舞台になっているといえる.</p><p> 本稿では, 遺伝性疾患のある人が,文化的構築物である遺伝情報をどのように用い,受け止めているのかをインタビュー調査事例より明らかにした. 結果,数値や記号として示される診断告知としての遺伝情報と,インタビュー協力者が不可逆的な生の時間の流れを振り返って用いる遺伝情報は,象徴的媒体としての働きが異なっていることがわかった.協力者の生の時間の流れにある遺伝情報は,他者(家族や友人,介助者,医療者,教育者等)との関係,手術の経験,薬の摂取,補助具の利用等の記憶を刻印する媒体として機能していたのである.</p>
著者
柳原 良江
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.79-92, 2019

<p> 代理出産は1976 年に米国で発明された商業的な契約である.当時の批判的な世論に影響された結果,商業的要素の低い人助けとしての位置づけがなされた.その後ベビーM事件により下火となるも,1990 年代に体外受精を用いる形で普及し,2000 年代からは生殖アウトソーシングと呼ばれる越境代理出産が流行し,世界的な一大市場を形成してきた.</p><p> このような代理出産には,乳児売買,かつ女性の赤ちゃん工場化であるとの批判がなされてきたが,後者は女性の〈妊娠・出産というサービス〉と解釈されることで,身体の商品化を免れるレトリックが構築されてきた.しかし代理出産の現状は,それが女性の生命機能全体の商品化であることを示している.</p><p> これら代理出産を支える論理は,生命科学知により分節化されつつ発展する「生-資本」が機能する社会の中で構築されている.そして代理出産市場は,このような社会で人の潜在的な〈生殖可能性〉を喚起しながら拡大を続けている.</p>
著者
児玉 真美
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.55-67, 2019

<p> 世界各地で「死の自己決定権」「死ぬ権利」を求める声が広がり,積極的安楽死と医師幇助自殺の合法化が加速している.それに伴って,いわゆる「すべり坂」現象の重層的な広がりが懸念される.また一方では,医師の判断やそれに基づいた司法の判断により「無益」として生命維持が強制的に中止される「無益な治療」係争事件が多発している.「死ぬ権利」と「無益な治療」をめぐる2 つの議論は,決定権のありかという点では対極的な議論でありながら,同時進行し相互作用を起こしながら「死ぬ・死なせる」という方向に議論を拘束し,命の選別と切り捨てに向かう力動の両輪として機能してきたように思われる.日本でも「尊厳死」のみならず積極的安楽死の合法化まで求める声が上がり始めているが,「患者の自己決定権」概念は医療現場にも患者の中にも十分に根付いておらず,日本版「無益な治療」論として機能するリスクが高い.日本でも命の切り捨ては既に進行している.</p>
著者
花岡 龍毅
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.68-78, 2019

<p> 医療費が増加するのは高齢者が増えるからであるという一般に流布している見解が誤りであることは,医療経済学においては,ごく初歩的な常識である.本稿の課題は,こうした誤った認識の根底にある思想を「高齢者差別主義」と捉えた上で,こうした一種の「生物学主義」が浸透している社会の特質を,フーコーの「生政治」の思想を援用しながら検討することである.</p><p> 生権力は,もともと一体であるはずの集団を,人種などの生物学的指標によって分断する.年齢などの指標によって高齢者と若年者とに分断する「高齢者差別主義」もまた生権力の機能であるとするならば,そして,もしこうした仮説が正しいなら,フーコーの指摘は現代の日本社会にも当てはまる可能性がある.フーコーが私たちに教えてくれているのは,生権力のテクノロジーである生政治が浸透している社会は,最悪の場合には自滅にまでいたりうる不安定なものであるということである.</p>