著者
八巻 知香子 高山 智子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.270-279, 2017 (Released:2017-06-14)
参考文献数
44

目的 欧米諸国においては,障害のある人の健康状態が悪いこと,健康サービスの利用が阻害されていることを施策上の課題と捉え,実態の把握と改善に向けた検討が行われているが,日本においては実態すら把握されていない。本研究では,視覚障害者における健康診断・人間ドック(以下,健診と記載)・がん検診受診と健康医療情報の入手の実態を探索的に明らかにすることを目的とする。方法 大阪府堺市在住の視覚障害者のうち,市内の点字図書館に利用登録をしている人および同市の視覚障害者団体の会員計311人を対象として質問紙調査を行い,回答された150件(回収率48.2%)を対象とした。結果 対象者の健診の受診率は男性70.3%,女性62.2%,対策型がん検診の対象年齢における受診率は男性で34.5%~44.8%,女性では30.8%~40.0%であった。健診やがん検診の未受診の理由は,「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」,「毎年受ける必要がないから」など一般住民と同様の回答が多かったが,付き添い者の確保が困難であることや医療機関の対応への不安など,障害による困難や不安もあげられた。健康医療情報の入手にあたっては,「一般的な健康情報の入手経路」において一般マスメディアからの情報入手が多く,「自分や身近な人ががんと診断されたときの情報の入手(以下,がん情報の入手)経路」では,「専門家からの指導」に次いで,一般マスメディアや身近な人を介した情報入手経路をとる人が多かった。考察 本研究の対象者は,相対的にサービス利用や日常生活スキルが確保できている人たちであると考えられ,健診・がん検診の受診については,調査対象地域の一般住民と大きな差は見られなかった。しかし,未受診の理由に障害による不安や困難が挙げられ,改善の必要性が示唆された。健康医療情報の入手については,一般住民ではインターネットや専門的資料の利用の割合が増える「がん情報の入手経路」においても,一般のマスメディアからの情報や人を介した情報入手経路が多数を占めることが特徴であった。医療機関に対して視覚障害のある人への適切な対処方法を周知すること,医療者が視覚障害のある人への説明しやすい環境を整備すること,視覚障害者が利用しやすい健康医療サービスや情報について,視覚障害者サービス機関を通じた周知と一般向けの広い周知の双方が必要であると考えられた。
著者
八巻 知香子 高山 智子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.128-136, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

国立がん研究センターがん対策情報センターは「がん対策推進アクションプラン2005」を受けて設立された組織である.2008 年より「患者・市民パネル」を運営し,患者・市民の視点を取り入れた情報提供活動に努めてきた.2018 年度に初めて,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)との共催により,臨床研究への患者・市民参画のあり方について検討する場を持った.情報発信機関への患者・市民参画については,患者・市民パネルの活動として一定の形を形成してきた.一方で,研究の立案から評価に至る全プロセスへの患者・市民の参画のあり方については検討の途上にあり,今後の医療や研究で求められる役割を考慮しながら,基本理念である「正しい情報に基づいて,国民のためのがん対策推進を支援する」ことを堅持しながら,がん対策情報センターとしての運営方針を確立していく必要があると考えられる.
著者
高山 智子 八巻 知香子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.39-50, 2016-07-31 (Released:2018-01-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

患者自らが健康や医療に関する情報を探し活用する力は、今後ますます重要となり、近年増加するインターネットやソーシャルメディアなどの新しいメディアを介した情報による第二次の情報格差も懸念される。本研究では、健康関連の情報を得るときに、人々がさまざまな情報媒体をどのように活用しているのか、情報入手経路の特徴、人々の背景要因による情報入手経路の活用の仕方を検討し、特にインターネットを介した情報提供方法の今後のあり方の示唆を得ることを目的として検討を行った。その結果、調査協力者の3/4以上が、自分もしくは家族や周囲でがんの経験を持ち、健康あるいはがん関連の情報入手経路は、性別、年齢、教育背景、職業により異なる特徴を示した。今後はこれらの異なる背景要因を手がかりとした情報格差を是正する具体的な介入方法や実際に活用できるアプローチを検討し、情報を探し、活用できる力につながるようにしていくことが必要である。
著者
八巻 知香子 高山 智子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.185-197, 2014-09-02 (Released:2014-09-20)
参考文献数
17
被引用文献数
2

がん相談支援センター(以下,相談支援センター)は,自院の患者・家族のみならず,地域住民に対しても広くがんの情報提供は相談に応じる窓口として,全国すべてのがん診療連携拠点病院に設置された。しかし,認知度や利用者数について不十分との指摘もあり,院内外への活動の周知が必要な段階にある。よって本研究では全国18施設のがん診療連携拠点病院での面接調査を行い,1)院内および院外に対してどのように周知をしているのか,2)その周知の取り組みは相談支援センターの利用の多寡とどのように関係しているのかを検討した。結果より,院内スタッフに相談支援センターが認知され,紹介される取り組みが不可欠であり,その取り組みが相談件数が高く推移する結果につながっていること,院外患者への周知については具体的な取り組みが相談件数に直結するとは限らなかったが,自治体の広報誌への掲載等により高い効果が実感されている事例があることが明らかになった。互いの意欲的な活動実践が共有され,よりよい取り組みが各地で展開されやすくなるような環境作りが重要であると考えられた。
著者
一家 綱邦 山口 斉昭 高山 智子 勝俣 範之 秋元 奈穂子 八田 太一 下井 辰徳 渡辺 千原 藤田 みさお 高嶌 英弘 佐藤 雄一郎 手嶋 豊
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

科学的エビデンスの不明な医療(がん治療に関するものが主たる対象)がもたらす社会的問題への対応策の検討を目的に4分野に跨る学際的研究を行う。(ⅰ)科学的エビデンスの不明な医療の内容を理解するための医学的観点からの研究(ⅱ)科学的エビデンスの不明な医療への法規制を検討する医事法学研究:医療行為そのものと医療行為に基づくビジネス活動を対象とする。(ⅲ)生命倫理・医療倫理のあり方を対象とする生命倫理学研究(ⅳ)法・倫理の規制の前提となる科学的エビデンスの不明な医療の実態把握のための調査研究。さらに、社会的課題としての重要性を鑑みて、研究成果を社会に発信することも研究活動の中で重要な位置を占める。
著者
樫田 美雄 岡田 光弘 五十嵐 素子 宮崎 彩子 出口 寛文 真鍋 陸太郎 藤崎 和彦 北村 隆憲 高山 智子 太田 能 玉置 俊晃 寺嶋 吉保 阿部 智恵子 島田 昭仁 小泉 秀樹
出版者
徳島大学
雑誌
大学教育研究ジャーナル (ISSN:18811256)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.93-104, 2008-03

ビデオエスノグラフィーは、当事者的知識を十分に摂取しながら行うビデオ分析であり、我々はこの方法で、高等教育改革の現場を研究した。生涯学習社会の到来を受けて、日本の高等教育は現在第2 次世界大戦直後以来の改革期にある。すなわち、「知識」より「生涯学習能力」の獲得を志向した、自発性を尊重するような様々な取り組みがなされ始めている。この高等教育の現場に対し、ワークプレース研究を行った。B大学工学部都市工学演習α班を分析対象とした調査の結果、①演習の課題解釈には「従来の指標の相対化の要求の程度」を巡って2つの解釈があり得たこと、②班内にはその2種類の解釈に対応した葛藤・対立的相互行為が存在したこと、③にもかかわらず、班内葛藤を生きる当事者がともに専門性(「都市工学」)を志向していたこと、④したがって、課題理解のいかんにかかわらず、班活動の全体が「都市工学演習」と呼び得るものになっていたこと、⑤その一方で、最終審査会場(ジュリー)ではこの2重性が十分レリバントなものとして浮かび上がって来ていなかったこと、これらのことがわかった。諸結果を総合すると、学生の自主的活動を尊重するタイプの、新しい学習方法の吟味・評価のためには、学生によるその方法の実践状況の分析が有意義であるだろうこと、また、それは、場合によっては教員の評価のパラダイムを変える力を持つだろうことなどが予測された。なお、本報告は、文科省科学研究費補助金「高等教育改革のコミュニケーション分析-現場における文化変容の質的検討-」(基盤研究(B)、 課題番号 18330105、研究代表者:樫田美雄)ほかによる研究成果の一部である。
著者
田村 俊作 高山 智子 三輪 眞木子 池谷 のぞみ 越塚 美加 八巻 知香子 須賀 千絵
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

公共図書館の医療・健康情報サービスを適切にデザインするための知見を得ることを目的に,医療・健康情報サービスの現状調査を行ない,アクションリサーチによりサービス普及を試行した。がん相談支援センターとの連携によるサービスには可能性があり,大規模図書館を中心にサービスは普及しはじめているが,実施自治体は公共図書館設置自治体の2割に達しておらず,普及に向けて多くの課題があること,特に公共図書館員に関連知識・技能の修得機会を提供する必要のあることが明確になった。
著者
中山 和弘 有森 直子 小松 浩子 藤井 徹也 高山 智子 石川 ひろの 佐居 由美 的場 智子 宇城 令 戸ヶ里 泰典
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

Webの情報に翻弄されず、むしろその情報をより活用できるために、患者・家族・国民のヘルスリテラシーの向上を支援するWebサイト(『健康を決める力』(http://www.healthliteracy.jp/)を作成・公開・評価した。コンテンツは次の6つの内容でできている。1.健康のためには情報に基づく意思決定を、2.「信頼できる情報」とは何か、3.知りたい情報はインターネットで、4.コミュニケーションと意思決定、5.健康を決めるのは専門家から市民へ、6.健康を決めるために市民が出来ること、である。
著者
樫田 美雄 寺嶋 吉保 玉置 俊晃 藤崎 和彦 出口 寛文 宮崎 彩子 高山 智子 太田 能 真鍋 陸太郎 五十嵐 素子 北村 隆憲 阿部 智恵子 岡田 光弘
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ビデオエスノグラフィーという新しい研究手法を開発しつつ、実際的な分析にも成果をあげた。即ち、大学生が専門技能を学ぶ実践の状況を相互行為の観点から明らかにした。例えば、医学部PBLチュートリアルにおいて、レントゲン写真をみる'専門的'方法としての「離して見る」という技法が、教師から学ばれ、学生集団のなかで模倣的に獲得されていく状況が確認できた。教育を結果から評価するのではなく、プロセスとして分析していくことへの展望が得られた。ISCAR第2回サンジエゴ大会等で報告を行った。