著者
長南 幸恵
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.53-61, 2017-09-30 (Released:2019-04-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

感覚の問題は、ASD 児の半数以上にあり、DSM-5 の診断基準にも新たに加わった。しかしASD 児の感覚の特性と行動の実態は明らかではない。今回は、ASD 児の視覚、聴覚、触覚の低反応と行動の実態を明らかにすることを目的とし、知的障害および言語障害のない年長児3 例を対象に保育活動への参加観察から得たデータを基に質的記述的分析を行った。視覚では視野の狭さにより「無関心」にみえる行動に繋がり、聴覚では感覚の同時処理や言語処理の困難さから「無視」や「無反応」にみえる行動として現れると考えられた。触覚では不確かな体性感覚が見られ、情緒的発達を妨げる要因となる可能性が示唆された。感覚全般の支援として感覚刺激負荷の減少、中心視で対象を捉えられるような視覚支援、ゆっくりと短文で話す聴覚特性への配慮、伸縮性のある衣服の着用や触覚体験を重ねるなどの触覚支援等が重要である。
著者
今本 繁 門司 京子
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.69-75, 2014-05-31 (Released:2019-04-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1

トイレに行くこだわり行動が見られた自閉症幼児に対して視覚的スケジュールの利用によるこだわり行動の減少の効果を検証した。さらに予定以外での排尿要求に応じるためにPECS によるトイレの要求行動の指導を行った。具体的なこだわり行動としては、療育活動の自由遊びの時間に部屋をとび出して勝手にトイレに行く行動が頻繁に見られていた。実際に排尿する場合もあるが、しない場合はトイレの立ち便器の排水ボタンを何度も押そうとしたり流れる水を手で触ったりするなどの行動が見られた。トイレに行くことを支援者が身体的に制止しようとすると大声を出しながら抵抗を示した。それまで視覚的スケジュールにそって活動を順番に行う行動レパートリーを持っていたことから、視覚的スケジュールにトイレの絵カードを入れて提示することで何度もトイレに行こうとする行動は徐々に減少していった。またスケジュールで予定されていない時に、対象児がトイレのスケジュールを取って室内を落ち着きなく歩き回っている時にトイレに誘導した際に排尿があったことから、PECS でトイレの要求行動を指導することで自発的にトイレの要求ができるようになった。指導の効果について家庭と学校での質問紙によるアンケート調査と母親からのエピソードデータにより明らかにする。
著者
砂川 芽吹
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.13-21, 2021-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
31

本研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の女性当事者を対象とした海外文献の質的システマティックレビューから、①協力者の属性や研究方法の特徴を明らかにすること、および②ASDの女性の経験に関する研究知見をまとめることを目的とする。そしてそれを踏まえて、ASDの女性の主観的な経験理解と支援に向けた質的研究の課題と展望について検討する。過去20年間に英語で刊行された質的研究を対象とした系統的な論文選択のプロセスを経て、最終的に19編の論文が抽出された。対象となった論文の特徴、および各論文で示された結果の主なテーマをまとめた。その結果、ASDの女性が思春期以降、特性と社会環境との相互作用の中で困難を経験し対処してきたことが、当事者自身の視点から明らかとなった。また、ASDの特性が女性のライフイベントに影響を与え、当事者は女性特有の困難を経験していたことが示唆された。本研究を通して、ASDの女性の理解と支援において、ASDがあり、かつ女性であるという観点から、その主観的な経験を捉えるような質的研究の重要性が示唆された。
著者
富士本 百合子 安達 潤
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.15-21, 2020-02-29 (Released:2021-02-28)
参考文献数
6

本研究の目的は、自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)のある当事者が運動制御を行なう場面や自己身体を認識する場面で、視覚情報と体性感覚情報の統合について検討することである。能動的な運動制御である描画運動をする図形描画課題と、受動的な触刺激位置弁別課題の2つの身体関連課題を設定し、検討を行なった。各課題ともに、視覚情報あり条件と視覚情報なし条件の2つ条件で行ない、視覚情報の有無が課題遂行に及ぼす影響を検討した。その結果、ASDのある当事者は視覚情報が得られず体性感覚情報のみを頼りに描画するとき、描画運動の初期で描画行動の調整が困難になることが示された。また触刺激位置弁別課題では、視覚情報が得られずに触刺激の提示された身体位置を判断する際にASDのある当事者は、課題の難度に左右されず身体表象の明確さに個人差が大きいことが示された。
著者
田原 太郎
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.69-77, 2021-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
12

本研究の目的は、即時性エコラリアを示す自閉スペクトラム症の幼児へのイントラバーバル訓練におけるモデル提示の効果を検討することである。訓練は、音声プロンプトによる訓練期間、モデル提示を追加した期間、9カ月後のフォローアップ(維持テストと追加訓練)の期間から構成されていた。場面は家庭および通所施設の療育場面で行われた。対象児は即時性エコラリアを示す自閉スペクトラム症の女児だった。訓練開始時は2歳3カ月だった。独立変数の操作として、音声プロンプトを用いた訓練を続け、それにモデル提示を加えた指導を2セッション実施した。ターゲット行動は、名前、年齢、住所の3 つの質問に対するエコラリアのない適切な応答行動とした。結果、当初は音声プロンプトによる介入で訓練の効果がみられなかった。しかしモデル提示を導入後、正反応率が上昇した。その後モデル提示や音声プロンプトを除去した後も正反応がみられた。また質問の文章や人物を変えても答えられるなど一定の般化がみられた。一方で、9カ月後のフォローアップでは名前以外の反応は維持されていなかった。結論としてはまず介入方法の変更の効果がみられた。しかしモデリング時の道具などの剰余変数があり、独立変数をモデリングに限定することはできなかった。また介入効果の維持やターゲット行動の選定などの課題も残された。最後に臨床的意義として本事例の介入法は類似の事例に応用する際、コストが低く、実施が容易である利点が考えられた。
著者
松瀬 留美子 坂本 剛 松瀬 善治
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.57-66, 2018-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
8

障害者差別解消法(2016 年)が施行され、各大学では自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder : ASD)学生への修学支援について合理的配慮の観点から新たな制度の構築が試みられている。本稿では、私立大学におけるASD学生への修学支援の取り組みを紹介し、それらの支援実践を通して明らかになった課題を講義担当教員が直面する課題として焦点をあてて検討した。第一に、小規模大学における取り組みとして、施行年度の障害学生の入学時相談、講義時における支援申請についての資料を提示した。第二に、複数の大学における事例をヴィネットの形式で紹介し、教員がASDと関わるときに配慮が求められる課題として、①講義実施と講義内行動、②定期試験の時間延長と成績評価、③意思疎通と学内外活動、④教員側のASDに対する知識と指導経験量の差、⑤体験から学ぶことの5 点を取り上げ、合理的な配慮を検討する際に有用な知見を導き出して考察した。また、ASD学生への合理的配慮として、どこまでを合理的配慮の範疇に該当するのかは、各大学が実情に合わせて事例を積み重ねて精査をしていく必要がある。さらに、合理的配慮を検討する際には、ASD学生の社会参加に有用であるという基本的視座に立つということと、全学でASD学生を受け入れるような風土を醸成していくことが重要であると論じた。
著者
小林 重雄 小坂井 翠 山本 順大
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.33-36, 2018-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
2
被引用文献数
2

対象は「知的遅滞を伴う自閉症」と診断された小学校支援学級1 年に在籍している児童である。排尿習慣が未確立で、家庭ではオムツで生活している。そして、家庭外では排尿しないことが深刻な問題となっていた。デイケア・サービス機関が中心となり、オムツをトレーニングパンツに変更し、定時排尿指導を導入し、家庭・学校において、これへの変更と維持を積極的にサポートした。その結果、指導6日目にデイケアの機関での排尿があり、その後、学校などでの排尿も可能となった。また、家庭でのオムツを完全にはずせる状態となった。
著者
高橋 順治
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.71-79, 2012-10-20 (Released:2019-04-25)
参考文献数
5
被引用文献数
2

本研究は、不登校状態にあり、自閉症スペクトラム障害が疑われる小学校6 年生のA児の事例について、本児と家族、そして、担任へ実施した総合的な支援についてまとめたものである。本事例では、2 年にわたって支援してきた経緯を振り返り、A児を指導する担任へ、A児を支える家族へ、通級指導教室に通級するA児へ、それぞれの場面で行った支援がどのように効果をもたらしたかを検証した。その結果、構造化やスモールステップ等の方法を、さまざまな場面で援用して総合的な支援を行ったことが、不登校状態のA 児へいかに効果をもたらしたかを明らかにした。
著者
小林 重雄 山本 孝子
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.81-87, 2012

<p>知的に境界線レベルにある幼児(年長クラス)が、発達予測(つまづき予測)も含む「アセスメント」に基づいて、発達センター(大学)・幼稚園(半年)・小学校(3 年)・家庭とのチームワーク下で積極的・計画的な支援を受けてきた経過をまとめたものである。「後追い」教育を廃し、「先取」教育を強力に導入した。結果として、少なくとも小学校3 年までアカデミックスキルに遅れを示すことなく学校生活を送ってきた。4 年生では、それ以降の課題克服に取り組んでいる。該当児の場合、「他者とのかかわり形成への支援」、「言語刺激からのイメージ化の促進」、「数の概念学習」が主要な補強ポイントであった。</p>
著者
永冨 大舗
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.15-23, 2018

<p>1歳半ぐらいの子どもは物には名前があるということが分かり、大人が物の名前を教える過程で語彙が急激に増加する語彙爆発という現象が起こる。しかし、ASD 児は主症状であるコミュニケーションの障害のため、質問への応答能力を獲得したとしても、自分から疑問詞を用いて尋ねるという疑問詞始発が起きないとされている。本研究は、疑問詞始発が見られないASD の男児とPARS によりASD の特性が強いとされる女児に対し、音声プロンプトを用いて、未知な刺激を提示された時に、自ら「これ何?」と尋ねる疑問詞始発の獲得のための介入を行った。教材として、対象児が知らないと予想されるイラストカードや漢字カードを用い、対象児が知っていると予想されるカードとランダムに提示することにより、疑問詞始発が必要な機会を設定した。介入期では、対象児の疑問詞始発が生起しない時、「これ何?」と音声プロンプトを行い、模倣した後にイラストの名前や漢字の読みを教えた。音声プロンプトは段階的にフェイドアウトした。その結果、対象児は音声プロンプトを用いた介入期が始まると疑問詞始発が生起し、介入を行っていない未知な情報を含む刺激に対しても疑問詞始発が生起するようになった。また、日常場面においても、疑問詞始発を用いる様子が見られるようになった。また、「どこ?」や「だれ?」といった指導をしていない疑問詞始発が生起するようになった。更に、2 ヶ月後のフォローアップ期においても介入の効果が維持された。</p>
著者
佃 吉晃
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.17-29, 2017

<p>本研究は他校通級児童男児Aへの支援を通して、担任との連携・協力の在り方や通級による指導の効果、保護者支援について検討した。Aの不快感を下げながら成功体験を増やす在籍校担任と連携した支援や保護者にAへの実際的な養育を促す支援を継続的に行った。その結果、Aは気分のメリハリが残るもののクラスで活動する場面が増え、回避逃避行動パターンを修正するに至った。また保護者と定期懇談会を設定し、具体的な養育について話し合ったものの、保護者がそれに基づいた養育の実行や進路決定に多くの時間を要した。しかし6 年生より在籍校に特別支援学級が新設されたことに伴い、保護者は納得して学びの場を変更することができた。クラスや通級指導教室での自己達成的な学習によりAの活動の増加及び行事の成功体験が生じ、担任と情報を共有し支援方法を綿密に相談できたことがAの変容につながったと推察された。通級担当者は担任のクラス運営を考慮に入れた上で、対象児童や保護者の支援をする俯瞰的な視点をもつ必要性が示され、その上で担任と互いの実践に敬意を払い、主体的な実践を支え合うことが『協働』であると考察された。保護者支援はその個別性が課題であるが、保護者とつながり続けるための児童への丁寧な支援の繰り返しや共感的・未来志向的な就学相談が、共に「丁寧に生きる」支援者の必然的な姿勢として示唆された。</p>
著者
綿引 清勝 澤江 幸則 島田 博祐 中井 昭夫
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.59-67, 2020-02-29 (Released:2021-02-28)
参考文献数
16

本報告では、身体的不器用さを有する学齢期の自閉スペクトラム症児の運動発達上の困難さと支援方略を検討するため、投運動の困難さを主訴とした2 名を対象に、3 種類の投運動課題を用いた介入の結果から、その特徴を分析した。方法は20XX 年1 月~3 月の3 カ月間において、アセスメントは協調運動の発達を調査するためにMovement Assessment Battery for Children-2(M-ABC2)を実施した。運動に対する心理的な評価は、運動有能感に関する質問紙調査を実施した。介入プログラムは、課題指向型アプローチの理念に基づき「強く投げる課題」、「弱く投げる課題」、「ねらった所に投げる課題」の5 つの課題を含むプログラムを5 回実施した。その結果、投動作の改善では、2 名ともに体幹部の評価得点の向上が見られた。しかし末梢部の評価得点は、協調運動全般に遅れがある事例で向上が見られなかった。以上のことから投運動の質的な変化を踏まえ、身体的不器用さを有する自閉スペクトラム症児の臨床的な特徴と介入効果について得られた知見を報告する。
著者
鈴木 徹 平野 幹雄
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.67-72, 2018-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
11

本研究では、知的障害特別支援学校中学部および高等部に通うASD児と知的障害児を対象とした自己/他者理解課題の実施と教員を対象とした社会的相互作用場面に関する半構造化面接の実施から、ASD児における自己/他者理解の程度と社会的相互作用との関連について検討した。結果として、ASD群は自己/他者理解課題の通過率が知的障害群よりも低かった。また、ASD群では自己/他者理解の程度が低い(高い)と社会的相互作用の自己/他者理解の問題が多い(少ない)傾向を示したが、知的障害群ではそのような傾向は認められなかった。これらのことから、ASD児においては、自己/他者理解の程度と社会的相互作用の様子に関連があり、自己/他者理解の程度が社会的相互作用における自己/他者理解の問題の頻度に反映されていることが示唆された。
著者
酒井 貴庸 設楽 雅代 脇田 貴文 金澤 潤一郎 坂野 雄二 園山 繁樹
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.19-28, 2014-11-30 (Released:2019-04-25)
参考文献数
26

発達障害児者への適切な関わりには周囲の理解が必要とされており、教育現場においても国内外を問わず、発達障害の理解が重要視されている。そして、特別支援教育の推進や近年の発達障害への認知の広がりに伴い、発達障害についての講演や研修会が全国各地で開催されている。また、発達障害をもつ生徒に関わる教師に対し、障害特性に関する知識の促進や対処方法についての知識や技術を促進することを目的とした介入研究が報告されているが、研修によって得られた知識を標準化された尺度で測定している研究は、極めて少ない。そこで、発達障害の障害特性に関する知識の程度(知識度)に着目し、自閉性スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder:ASD)の障害特性知識尺度(LS-ASD)の開発を試みた。なお、本研究では、高等教育機関における発達障害関連の相談の中で相談件数が最も多く、気分障害や不安障害との合併といった二次障害のリスクが特に高いASD に焦点をあてた。LSASD は、能力測定の分野においてさまざまな成果を上げている項目反応理論(IRT)に基づいて開発された。学生、医療福祉従事者、教師の825 名の回答データについて分析し、最終的に44 項目において内容的・基準関連妥当性、信頼性が確認された。IRT に基づいて開発された尺度であるため、LS-ASD は十分な信頼性を維持しつつ、回答者の知識度に合わせた項目を抜粋しての使用やComputer Adaptive Test としての使用可能性をもつ尺度となった。
著者
田端 佑介 柴 かつよ
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.33-37, 2013-10-31 (Released:2019-04-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1

本研究は度々頻尿行動が発現した自閉症児に対して、排尿の回数を軽減させ、適切な排泄行動を再確立することを目的として介入を行い、その効果を検討した。本事例は特に疾患がなく実際には尿が出ないか、極僅かしか出ないにも関わらず、トイレに行きたがる行動が度々発現し、両親の生活面の負担が増加していた。生活面の調査を行い、生活面の指導、両親へトイレット・トレーニングのフォローなどを行った。介入の結果、適切な排泄行動を再確立することができ、介入終了後においても適切な排泄行動が維持された。
著者
河村 優詞
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-55, 2018-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
30

研究の目的:小学校の特別支援学級に在籍する児童に対する漢字の筆順指導において、色・数字刺激による指導の効果を明らかにすることであった。研究計画:A-B-プローブデザインを使用した。場面:小学校の教室で実施した。対象児童:特別支援学級に在籍する児童(介入1:6 名、介入2:4 名)であった。独立変数の操作:介入1 では色・数字で筆順を示した薄い色の線を鉛筆でなぞる学習を行わせた。介入2では、プリントに色・数字で筆順を示した見本を付し、空白のマスに筆記させた。行動の指標:正確な筆順で書けた漢字の数をカウントした。結果:介入1、2 ともに正しい筆順で書けた漢字の数が増加した。介入1では同じ構成要素をもつ他の漢字に筆順の汎化が見られた。介入2では筆順が他の筆順に干渉し、誤答となった可能性のあるケースが見られた。結論:色と数字は視覚的且つ弁別が容易な刺激であり、有効な筆順指導の方法であると考えられた。筆順の汎化や干渉を踏まえ、指導する順序に配慮が必要なケースがあると考えられた。
著者
河村 優詞
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-55, 2018

<p>研究の目的:小学校の特別支援学級に在籍する児童に対する漢字の筆順指導において、色・数字刺激による指導の効果を明らかにすることであった。研究計画:A-B-プローブデザインを使用した。場面:小学校の教室で実施した。対象児童:特別支援学級に在籍する児童(介入1:6 名、介入2:4 名)であった。独立変数の操作:介入1 では色・数字で筆順を示した薄い色の線を鉛筆でなぞる学習を行わせた。介入2では、プリントに色・数字で筆順を示した見本を付し、空白のマスに筆記させた。行動の指標:正確な筆順で書けた漢字の数をカウントした。結果:介入1、2 ともに正しい筆順で書けた漢字の数が増加した。介入1では同じ構成要素をもつ他の漢字に筆順の汎化が見られた。介入2では筆順が他の筆順に干渉し、誤答となった可能性のあるケースが見られた。結論:色と数字は視覚的且つ弁別が容易な刺激であり、有効な筆順指導の方法であると考えられた。筆順の汎化や干渉を踏まえ、指導する順序に配慮が必要なケースがあると考えられた。</p>
著者
田中 哲
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.47-51, 2013-03-28 (Released:2019-04-25)
参考文献数
2

ASD の養育者が虐待加害にいたる過程を分析するとともに,支援される必要を指摘した。社会性 の問題に関連しては,女性の場合には自らの母親や支援サービスなどとの不適切な関係から,養育が閉塞状況に陥りやすく,男性の場合には養育に参入する役割を見つけにくい傾向があることが指摘できる。子どもとの相互関係に関しては,女性養育者の場合には愛着形成そのものに困難をきたす事例が認められ,男性養育者の場合には,密着した母子関係に割り込む方法が見つからないことに由来する困難が認められ る。衝動性に関連しては,自らの衝動を回避困難であると考える心性に,ASD の特徴を認めることができ, 虐待的な行為への嗜癖的な固着にこの衝動性が関与する場合がある。状況認知に関連しては,被害的な認知が養育態度に持ち込まれることによって生じる,子どもに対する不適切な影響の可能性を指摘することができる。