著者
伊豆山 敦子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.155-170, 2005-07

文字資料がなくても、方言比較研究により、文法化の過程を知ることができる。文字資料がある日本語上代との比較により、日本語の文法化事例を加えることができる。琉球語の語彙項目^*i-(自動詞する)の文法化過程をたどる。八重山・石垣市宮良(みやら)方言の動詞語形変化の型は、日本語と異なる。5段活用対応型が、更に、1段活用対応型の活用語尾-i-(r-)と同じ形態素を持ち、同じ活用型を持つ。八重山・与那国方言の「する」を意味する自動詞i-(r-)と比較することにより、嘗て、語彙項目だった^*i-(r-)の文法化であることが推定される。その際、日本語連用形相当の形が最も基本的な形であること、その機能的意味が、話し手認識の関与しない、事象生起であることが注目される。
著者
安 平鎬 福嶋 健伸
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.139-154, 2005-07-01

本稿は,中世末期日本語と現代韓国語に共通して見られる,「過去を表す形式と動詞基本形(及び動詞基本形に相当する形式)が現在の状態を表す」という現象について,存在型アスペクト形式(〜テイル・〜テアル/-ko iss ta・-e(a)iss-ta)の文法化の度合いという観点から論じた。結論は以下の通りである。(1)両言語の存在型アスペクト形式は存在動詞(イル・アル/iss-ta)の意味が比較的強く影響しており文法化の度合いが低いので,いわば存在型アスペクト形式の不十分な点を補うようなかたちで,過去を表す形式と動詞基本形(及びそれに相当する形式)が,前の時代に引き続き現在の状態を表していると考えられる。(2)上記(1)の点において,両言語の状況は,アスペクトを表す形式からテンスを表す形式へ,という流れの中で互いに似た段階にあると考えられ,また,「存在」という意味を中心としてアスペクト形式が拡張を見せる,存在型アスペクト形式の文法化の一つのあり方として解釈できる。
著者
劉 志偉
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.16-30, 2010-04

連歌論は従来の研究においては、文学的もしくは修辞的に扱われる傾向が強い。連歌論とテニヲハ論は互いに影響し合いつつ展開していったとされてはいても、その具体像及び影響し合う過程が明らかにされてきたとは言い難い。本稿では、「姉小路式」における文法項目の記述を手掛かりに、連歌論とテニヲハ論が影響し合う過程の検討を試みた。その結果、まず、中世のテニヲハ研究書を代表する『手爾葉大概抄』と「姉小路式」の記述は初期の連歌論書の影響を受けたものであると結論付けた。『手爾葉大概抄』が最初のテニヲハ秘伝書にしては整いすぎていることも、そこから理解される。また、宗祇あたりまでは連歌論書とテニヲハ研究書は各自の重要項目を守った相伝が行われたが、その後は、テニヲハ論の記述が再び連歌論に影響を及ぼすこともあったとの見通しが立つ。
著者
久屋 愛実
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.69-85, 2016-10-01 (Released:2017-04-03)
参考文献数
45

本研究は,「見かけ上の時間」の概念に基づき,意識調査データから日本人の外来語使用意識の変化を予測する。本稿では,既存語から外来語への交替(「外来語化」)がS字カーブを描いて進行していくと仮定し,生年と性別から外来語化を予測する多変量S字カーブモデルを構築した。外来語化のパターンは,単純増加のS字カーブを描くタイプもあれば,一定まで増加した後10代・20代で若干減少するタイプもあった。後者の最若年層における外来語化率の「低位」は,将来的な脱外来語化を意味するものではないと考えられるため,後者のタイプも前者と共通の単純増加モデルで変化予測が行えるようにした。その際,低位を引き起こす要因を撹乱要因として変数化する手続きが必要であった。この手続きにより,後者のタイプの外来語についても(1)生年のみの効果を抽出できる,(2)変化速度の過小評価を防げる,などのメリットが得られ,より正確な変化予測を行うことができた。
著者
高田 三枝子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.17-30, 2007-04

本研究では日本語の語頭の有声破裂音/b,d,g/のVOT(voice onset time)について鹿児島県出身在住話者の音声を分析し,語頭有声破裂音の半有声化(VOTがプラスの値をとる現象)と,語中有声破裂音の鼻音化および語中無声破裂音の有声化との共起関係を考察した。その結果,語頭有声破裂音の半有声音化は語中有声化・鼻音化と直接的な共起関係にはないことを指摘した。また鹿児島県のVOT値比率の結果を東北,北関東,新潟北東部,関東,四国の結果と比較することにより,当該現象に関する鹿児島県の地域的タイプとしては関東や四国に代表される完全有声音統一タイプに近いが,一方高年層にやや半有声音化の割合が高く見られ,この点で中間的タイプに含める可能性と今後の更なる分析の必要性を指摘した。
著者
青木 博史
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.47-60, 2005-07-01

古典語における<コト>を表す補文の名詞節には,「準体型」と「コト型」の2つがある。「準体型」が主語として用いられる場合,その述語は状態性のものに限られる,といった制限がある。目的語として用いられる場合も考え合わせると,「準体型」は,感覚・感情,判断等の「対象」としてのみ用いられているといえる。これに対し,「コト型」にそのような使用制限はなく,両者は性格を異にしている。「コト型」は,古代から現代に至るまで,その機能をほとんど変えることなく引き継がれたが,「準体型」の機能は,「ノ型」が引き継ぐ形となった。「ノ」は<モノ>を表す代名詞が文法化し,<コト>を表す形式へ拡張したものである。このような「ノ」の発達が,「準体型」を衰退させたものと考えられる。
著者
富岡 宏太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.1-15, 2014-10

中古和文において、体言に詠嘆の終助詞カナ・ヤが下接した「体言カナ」・「体言ヤ」には、連体修飾を必須とするという構文上の共通点と、その形式が異なるという相違点のある事が従来指摘されている。本稿では両者の表現性の違い、表現性と構文との関係を明らかにした。「体言カナ」が聞き手の属性を問わず、時間軸上の様々な位置にある事態に言及できるのに対し、「体言ヤ」は上位者には用いられず、ほとんどが現在の事態に言及した例である。以上から、「体言カナ」は様々な事象を考慮した「論理的評価の表明」の表現、「体言ヤ」はそれらを考慮しない「直感的評価の表明」の表現であると考えられる。また「体言カナ」「体言ヤ」の表現性と構文とは密接な関係にあると考えられる。
著者
柴崎 礼士郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.47-60, 2005-10-01

本稿では、日本語の補文標識「と」が証拠表示化する談話的基盤を文法化の観点から考察する。本稿の中心点は以下の3点である。a.文法化には段階性があり、広範なデータベースに基づく具体的頻度によりそれを裏付ける点。b.補文標識「と」が補文動詞を省略して証拠表示化するのは特定の談話構造に起因している点。c.その文法化を特徴付ける談話構造は複数存在し、それぞれの構造的特徴に動機付けられ、頻度として中心的なものから頻度として周辺的なものへと層状の広がりを見せている点。言語変化の層状性は一定の談話構造に起因するものであり、繰り返し生起する談話的基盤に裏付けられたものである。現在進行中の文法化を考察するには具体的頻度の提示が必須であり、具体的頻度の提示は文法化を動機付ける談話的基盤の尺度となる。
著者
松本 昂大
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.86-102, 2016-10-01 (Released:2017-04-03)
参考文献数
24

本稿では,移動動詞に係る格助詞「より」と「を」が,「起点」と「経路」のどちらを表すかを検討する。「より」「を」を承けるかどうかと,その助詞が「起点」と「経路」のどちらを表すかという観点から,移動動詞をA~D類の4種に分類した。A類の動詞は,「より」「を」を承け,「より」は「起点」と「経路」を表し,「を」は「起点」のみを表す。B類の動詞は「より」,C類の動詞は「を」,D類の動詞は「より」「を」を承け,それらはすべて「起点」のみを表す。D類の「出づ」は「出現」を表す場合は「より」,「出発」を表す場合は「を」と結びつくという傾向が見られ,「出現」はB類,「出発」はC類の動詞と意味的特徴が共通する。以上のことから,助詞の用法は移動動詞の意味的特徴によって決定されるということを主張する。
著者
林 直樹
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.35-51, 2016-10-01 (Released:2017-04-03)
参考文献数
27

東京東北部・千葉西部・埼玉東部といった複数域にみられるあいまいアクセントの実態を明らかにするため,下降幅・相対ピークという音響的指標を基に,当該地域話者30人・東京中心部話者7人,計37人を対象とした話者分類を行った。多変量解析手法の一つであるクラスター分析の結果,対象とする話者は三つの群に分類された。本稿では,分類された各群を「明瞭群」「高低差不明瞭群」「型区別不明瞭群」と解釈した。音響的指標を詳細に分析すると,「明瞭群」の下降幅は大きく,相対ピーク位置も型間の距離が大きいことがわかった。一方,二つの「不明瞭群」の高低差は小さく,とりわけ「型区別不明瞭群」は,高低差の小ささに加えて相対ピーク位置の型間の距離が小さいという特徴がみられた。このように分類された各話者群を地図上に付置し,あいまいアクセントの特徴として言及されてきた個人間のゆれを可視化した。最後に,分析によって得られた各群を高低差と下がり目の位置間の距離の程度によって位置づけた上で,当該地域アクセントの変化を,複数の音響的指標が連動する関係として捉え直した。
著者
影浦 峡
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.47-60, 2006-10

本論文では、専門語彙の体系における外来語語基の集合としての位置づけを、計量的な観点から分析する。専門語彙における外来語語基の位置づけについては、個々の外来語が漢語・和語と異なる存在であることを前提として様々な分析がなされてきた。しかしながら、語彙体系の構成において、使用頻度として、外来語語基の集合が、それ以外の語基の集合と異なる位置づけにあることは確実に検証されているものの、外来語語基とそれ以外の語基とが使われたとき、その使われ方が質的に異なるかどうかは検証されていない。本論文では、外来語語基とそれ以外の語基は同じ語基集合に属するものとして語彙の体系を構成しており、たまたま外来語語基が表層的特徴において目に付くためにそれだけを取り出して分析すると使用の度合いが全体として少ないことが観察されるだけなのか、それとも仮に同程度に用いられると考えても外来語語基集合は質的にそれ以外の語基集合と異なるのかを、データに基づいて検証する。農学、植物学、化学、物理学、情報科学、心理学の6分野の学術用語を対象に分析した結果、いずれの分野でも、語基が語彙に最初に取り込まれる状況では外来語は質的に異なった振舞いをするが、いったん語彙に取り込まれた外来語の振舞いには質的な特異性が見られないことがわかった。
著者
平子 達也
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-15, 2013-01-01 (Released:2017-07-28)

本稿は,観智院本『類聚名義抄』中にある平声軽点の粗雑な写しと見られるものを利用し,従来同じ下降調として再建されてきたものの中に現れ方の異なる二つのものがあったことを示すものである。まず,観智院本『類聚名義抄』の中で,従来下降調として再建されるものに差されている声点のうち平声点位置に見られるものを下降調を示す平声軽点の「粗雑な写し」であると認められることを示した。そして,下降調として再建される形容詞終止形接辞「シ」と二音節名詞5類の第二音節に差される声点の在り方が異なることを示し,同じ下降調でも現れ方の異なる二つのものがあることを明らかにした。最後に本稿での議論を踏まえ,従来から議論のある[HF]型の存否の問題について論じた。
著者
田中 牧郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.68-85, 2015-04-01

明治・大正期には多くの漢語が基本語化するが、雑誌コーパスの頻度によってそれを明確にとらえることのできる「拡大」「援助」を取り上げて、基本語化の過程を記述し、既存の基本語との間にどのような関係を構築していくのかについて研究した。その結果、「拡大」においては、新たな語義を加えながら基本語化していくことと、既存語「広がる・広げる」が言文一致によって基本語化するのと連動し、この語と類似性を高め、意味的・文体的な関係を強めていくことが分かった。また、「援助」においては、対象や主体に取る語句の性質を変えながら基本語化していくことと、既存語「助ける」と類似性を高め、意味的・文体的な関係を強めていくことが分かった。
著者
奥村 和子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.49-56, 2016-07-01 (Released:2017-03-03)
著者
服部 匡
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.13-16, 2016-07-01 (Released:2017-03-03)