著者
髙田 琢弘 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 高橋 正也 梅崎 重夫
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2020-0022-GE, (Released:2021-02-11)
参考文献数
26

本研究は,過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち,教育・学習支援業(教職員)に着目し,それらの過労死等の実態と背景要因を検討することを目的とした.具体的には,労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターが構築した電子データベース(脳・心臓疾患事案1,564件,精神障害・自殺事案2,000件,平成22年1月~平成27年3月の5年間)を用い,教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患事案25件,精神障害・自殺事案57件)を抽出し,性別,発症時年齢,生死,職種,疾患名,労災認定理由および労働時間以外の負荷要因,認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報に関する集計を行った.結果から,教育・学習支援業の事案の特徴として,脳・心臓疾患事案では全業種と比較して長時間労働の割合が大きい一方,精神障害・自殺事案では上司とのトラブルなどの対人関係の出来事の割合が大きかったことが示された.また,教員の中で多かった職種は,脳・心臓疾患事案,精神障害・自殺事案ともに大学教員と高等学校教員であった.さらに,職種特有の負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学校教員では部活動顧問や担任が多いなど,学校種ごとに異なった負荷業務があることが示された.ここから,教育・学習支援業の過労死等を予防するためには,長時間労働対策のみだけでなく,それぞれの職種特有の負担を軽減するような支援が必要であると考えられる.
著者
茂木 伸之 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 髙田 琢弘 高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2022-0018-CHO, (Released:2023-09-05)
参考文献数
28

日本では教員の長時間労働や精神疾患による病気休職者数が減少していない状況である.本研究は,過労死等の重点業職種である教職員に該当する義務教育教員の多くを占める公立小中学校教員の公務災害の過労死等防止対策に資する課題抽出を目的として,公務災害として認定された過労死等の負荷業務の特徴について検討した.対象は2010年1 月から2019年3月までに公務災害に認定された全392件(脳・心臓疾患事案146件,精神疾患等事案246件)の内,教員88件(脳・心臓疾患事案52件,精神疾患等事案36件)とした.その結果,脳・心臓疾患の100万人当たりの発症件数は男性が80%を占め,男女の疾患名では脳内出血が最も多かった.精神疾患等は,100万人当たりの発症件数は男性が多く,疾患名はうつ病エピソードが最も多かった.学校別の件数は,脳・心臓疾患は中学校で多く,精神疾患等は小中学校それぞれ半数であった.脳・心臓疾患事案では,負荷業務として「部活動顧問」が最も多く,長時間労働を認定要件とする事案に影響を及ぼした.精神疾患等では,業務による負荷の「住民等の公務上での関係」における保護者によるものが最も多かった.負荷業務である「部活動顧問」,「住民等の公務上での関係」の課題を解決することが,公立小中学校教員の過労死等防止対策のひとつになると考えられる.
著者
山内 貴史 島崎 崇史 柳澤 裕之 須賀 万智
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.63-73, 2023-03-20 (Released:2023-03-25)
参考文献数
17

抄録:目的:わが国における「治療と仕事の両立支援」では,診療報酬改定や,制度についての事業所,医療機関ならびに労働者への情報提供と普及啓発が進められてきた.一方,われわれは,(1)中小企業の労働者は病気の治療のため両立支援を申し出ることにデメリットを強く感じていること,および(2)産業保健スタッフや柔軟な勤務・休暇制度の有無などの要因とは独立して,職場の協働的風土が労働者の両立支援の申出意図を高める可能性があること,を明らかにしてきた.本研究では中小企業の労働者を対象とし,協働的風土および被援助への肯定的態度と,情報提供前・後の両立支援の申出意図の変化との関連を分析することを目的とした.対象と方法:2021年10月,中小企業勤務の20歳~64歳の正社員で,病気による就業制限の経験がなく,両立支援について内容を把握していない労働者モニター3,200人を対象としてオンライン調査を実施した.対象者はわが国の業種・従業員規模別の就業人口割合の縮図となるようサンプリングされた.まず,回答者ががんや脳卒中などに罹患し,主治医から通常勤務は難しいと指摘された場面を想定させ(情報提供「前」),このような状況下での両立支援の申出意図を尋ねた.次に,両立支援のリーフレットを提示し概要を把握させたうえで(情報提供「後」),再度両立支援の申出意図を尋ねた.協働的風土および被援助への肯定的態度を主たる説明変数,両立支援の申出意図を目的変数とした2項ロジスティック回帰分析を実施した.結果:2,531人(79.7%)が両立支援を「情報提供前・後ともに申し出る」と回答した一方で,情報提供前に「申し出ない」と回答した586人のうち173人は情報提供後に「申し出る」と回答が変化していた.「情報提供前・後ともに申し出ない」を参照カテゴリとした2項ロジスティック回帰分析において,産業保健スタッフや柔軟な勤務・休暇制度の有無などの要因とは独立して,協働的風土が強く職場内での支援の先例がある場合には両立支援の申出意図の報告が多かった.とりわけ,情報提供「前」に両立支援を「申し出ない」と回答した者のうち,従業員数が50人~299人の事業場に勤務し,協働的風土が良好で社内に支援の先行事例がある者では,情報提供「後」に支援を「申し出る」への回答の変化が有意に多かった.考察と結論:中小企業の労働者において,リーフレットを用いた情報提供前・後で両立支援の申出意図に顕著な変化は見られず,約8割が「情報提供前・後ともに申し出る」と回答した.協働的風土が良好で社内に支援の先行事例がある者では,情報提供「後」に支援を「申し出る」への回答の変化が有意に多かった.本研究の結果から,協働的風土や支援事例の有無などの職場環境要因が,両立支援に関する情報提供の有用性や両立支援の申出意図を高める可能性が示唆された.
著者
髙田 琢弘 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 高橋 正也 梅崎 重夫
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.29-37, 2021

<p>本研究は,過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち,教育・学習支援業(教職員)に着目し,それらの過労死等の実態と背景要因を検討することを目的とした.具体的には,労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターが構築した電子データベース(脳・心臓疾患事案1,564件,精神障害・自殺事案2,000件,平成22年1月~平成27年3月の5年間)を用い,教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患事案25件,精神障害・自殺事案57件)を抽出し,性別,発症時年齢,生死,職種,疾患名,労災認定理由および労働時間以外の負荷要因,認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報に関する集計を行った.結果から,教育・学習支援業の事案の特徴として,脳・心臓疾患事案では全業種と比較して長時間労働の割合が大きい一方,精神障害・自殺事案では上司とのトラブルなどの対人関係の出来事の割合が大きかったことが示された.また,教員の中で多かった職種は,脳・心臓疾患事案,精神障害・自殺事案ともに大学教員と高等学校教員であった.さらに,職種特有の負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学校教員では部活動顧問や担任が多いなど,学校種ごとに異なった負荷業務があることが示された.ここから,教育・学習支援業の過労死等を予防するためには,長時間労働対策のみだけでなく,それぞれの職種特有の負担を軽減するような支援が必要であると考えられる.</p>
著者
山内 貴史 須藤 杏寿 丹野 義彦
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.114-116, 2007 (Released:2007-10-30)
参考文献数
7
被引用文献数
10 7

The purpose of this study was to develop Japanese version of Paranoia Checklist (JPC), in order to assess persecutory ideation in a non-clinical population. One hundred and twenty undergraduates completed JPC, the Paranoia Scale, and Peters et al. Delusions Inventory (PDI). Results revealed that JPC had one-factor structure and high internal consistency. JPC scores had positive correlations with scores of the Paranoia Scale and PDI. The results of the present study suggested that JPC had high reliability and validity as a measure of persecutory ideation.
著者
山内 貴史 須藤 杏寿 丹野 義彦
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.498-505, 2009 (Released:2011-11-03)
参考文献数
29
被引用文献数
3 8

The Brief Core Schema Scales (BCSS; Fowler, Freeman, Smith, kuipers, Bashforth, Coker, Hodgekins, Gracie, Dunn, and Garety, 2006) were devised to assess schemata concerning the self and others. In the BCSS, four schemata——Negative Self (NS), Positive Self (PS), Negative Others (NO), and Positive Others (PO)——are assessed by means of self-ratings. In this study, we developed the Japanese version of the BCSS (JBCSS) and reported the reliability and validity of the scales, using Japanese undergraduates. There were 200 students in the first survey (Time 1) and 128 in the second survey (Time 2). The results revealed that the JBCSS had a four-factor structure, good internal consistency, and acceptable test-retest reliability. In addition, multiple regression analyses with schemata as the independent variables and paranoid ideation and grandiose ideation as the dependent variables indicated that negative schemata about the self and others were generally associated with paranoid ideation, and positive schemata about the self were associated with grandiose ideation. The analyses suggested that the JBCSS had good reliability and validity as a measure of schemata about the self and others related to paranoid and grandiose ideation.
著者
山内 貴史 須藤 杏寿 丹野 義彦
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.498-505, 2009
被引用文献数
8

The Brief Core Schema Scales (BCSS; Fowler, Freeman, Smith, kuipers, Bashforth, Coker, Hodgekins, Gracie, Dunn, and Garety, 2006) were devised to assess schemata concerning the self and others. In the BCSS, four schemata&mdash;&mdash;Negative Self (NS), Positive Self (PS), Negative Others (NO), and Positive Others (PO)&mdash;&mdash;are assessed by means of self-ratings. In this study, we developed the Japanese version of the BCSS (JBCSS) and reported the reliability and validity of the scales, using Japanese undergraduates. There were 200 students in the first survey (Time 1) and 128 in the second survey (Time 2). The results revealed that the JBCSS had a four-factor structure, good internal consistency, and acceptable test-retest reliability. In addition, multiple regression analyses with schemata as the independent variables and paranoid ideation and grandiose ideation as the dependent variables indicated that negative schemata about the self and others were generally associated with paranoid ideation, and positive schemata about the self were associated with grandiose ideation. The analyses suggested that the JBCSS had good reliability and validity as a measure of schemata about the self and others related to paranoid and grandiose ideation.
著者
山内 貴史 須藤 杏寿 丹野 義彦
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.182-193, 2009-03-01 (Released:2009-04-08)
参考文献数
36
被引用文献数
4 7

本研究の目的は,わが国の大学生にみられる被害妄想的観念を測定するため,Freeman et al. (2005) のParanoia Checklistの日本語版 (JPC) を作成し,その内的一貫性および妥当性を検証することであった。研究1では,大学生244名がJPCおよびパラノイア尺度からなる質問紙に回答した。その結果,JPCは1因子構造であること,およびJPCの十分な内的一貫性が確認された。また,パラノイア尺度はJPCの頻度,確信度,苦痛度得点と有意な相関がみられた。研究2では,大学生124名が,特性不安,自尊心,社会不安,特性怒り,ソーシャル・サポートおよびJPCからなる質問紙に回答した。JPC得点を基準変数とした重回帰分析の結果,不安,社会不安および怒りの強い者,およびソーシャル・サポートの少ない者は被害妄想的観念が強かった。以上の結果から,JPCの内的一貫性と妥当性の一部が確認された。また,不安,社会不安,怒り,ソーシャル・サポートは被害妄想的観念の形成や維持に重要な要因であることが示唆された。