著者
小沢 慶彰 村上 雅彦 渡辺 誠 冨岡 幸大 吉澤 宗大 五藤 哲 山崎 公靖 藤森 聡 大塚 耕司 青木 武士
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.696-700, 2015 (Released:2016-09-10)
参考文献数
8

直腸腫瘍に対し砕石位にて手術施行後に下肢コンパートメント症候群を合併した2例を経験したので,その予防対策とともに報告する.症例1は61歳男性.直腸癌に対し腹腔鏡下低位前方切除術施行した.体位は砕石位,下肢の固定にはブーツタイプの固定具を用い,術中は頭低位,右低位とした.手術時間は6時間25分であった.第1病日より左下腿の自発痛と腫脹を認めた.後脛骨神経・伏在神経領域の痺れ,足関節・足趾底屈筋群の筋力低下を認めた.下肢造影CTで左内側筋肉の腫脹と低吸収域を認めた.血清CKは10,888IU/Lと高値,コンパートメント圧は22mmHgと高値であった.左下腿浅後方に限局したコンパートメント症候群と診断し,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.症例2は60歳男性.直腸GISTに対し腹会陰式直腸切断術を施行した.体位,下肢の固定は症例1と同様であり,手術時間4時間50分であった.術直後より左大腿~下腿の自発痛と腫脹を認めた.術後5時間には下腿腫脹増悪,血清CKは30,462IU/Lで,コンパートメント圧は60mmHgと高値であった.左下腿コンパートメント症候群と診断,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.直腸に対する手術は砕石位で行うことが多いため,下腿圧迫から生じる下肢コンパートメント症候群の発症を十分念頭におく必要がある.一度発症すれば重篤な機能障害を残す可能性のある合併症であり,砕石位を取る際には十分な配慮をもって固定する必要がある.また,発症した際には早期に適切な対処が必要である.当手術室ではこれらの臨床経験から,砕石位手術の際に新たな基準を設定,導入しており,導入後は同様の合併症は認めていない.それら詳細も含めて報告する.
著者
三橋 学 金丸 みつ子 田中 謙二 吉川 輝 稲垣 克記 久光 正 砂川 正隆 泉﨑 雅彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.483-491, 2019 (Released:2019-12-18)
参考文献数
14

延髄大縫線核のセロトニン(5-hydroxytryptamine, 5-HT)神経は,下行性疼痛抑制系として鎮痛作用を発揮する.一方で,痛みを増強させるという報告もあり,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の鎮痛薬としての使用が広まるなか,5-HTの疼痛制御に関する検討が必要である.近年,光遺伝学的手法によって大縫線核の5-HT神経を選択的に刺激することが可能になった.本研究では,5-HT系下行性疼痛抑制系の障害が示唆されている間欠的寒冷ストレス(intermittent cold stress, ICS)モデルのマウスを用い,光遺伝学的手法による大縫線核の5-HT神経の選択的刺激が鎮痛作用を発揮するか検討した.青色光照射で大縫線核の5-HT神経を刺激するため,光感受性チャネルを5-HT神経細胞に発現させた遺伝子改変マウス(Tph2-tTA::tetO-ChR2(C128S))に対し,大縫線核直上に光ファイバーを刺入,留置した.このマウスにICSを与えてICS群とし,青色光照射による大縫線核5-HT神経への刺激が疼痛閾値へ与える効果を行動学的手法で評価した.機械刺激性疼痛試験としてvon Frey test,熱刺激性疼痛試験としてHot plate testを用いた.対照群にはSham ICS処置を行った.ICS群とSham ICS処置によるマウス群を比較検討したところ,ICS処置はvon Frey testによる疼痛閾値を低下させた.しかし,遺伝子改変マウスに青色光照射で刺激をしても,von Frey testによる疼痛閾値の変化は認めなかった.一方, Hot plate testで疼痛閾値を評価すると,Sham ICS処置による疼痛閾値の変化とICS処置による疼痛閾値の変化に有意な差はなかった.しかし,曝露処置(ICS処置か,Sham ICS処置か)と時期(処置前か,処置後か)に関わらず,青色光照射で疼痛閾値が上昇した.つまり,ICS処置は,von Frey testによる疼痛閾値を低下させたが,Hot plate testによる疼痛閾値を変化させなかった.一方,青色光照射による大縫線核5-HT神経への刺激は,Hot plate testによる疼痛閾値を上昇させたが,von Frey testによる疼痛閾値を変化させなかった.以上より,大縫線核の5-HT神経への刺激は,熱刺激性疼痛に対する鎮痛作用を発揮した.一方,ICS処置で機械刺激性疼痛に対する疼痛閾値は低下したが,その機序に大縫線核の5-HT神経の積極的な関与は示唆されなかった.
著者
西見 愛里 磯﨑 健男 笠間 毅
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.126-134, 2018 (Released:2018-09-11)
参考文献数
25

A disintegrin and metalloprotease (ADAM) familyは組織障害や炎症反応において重要な役割を担っていると考えられている.ADAM-17はtumor necrosis factor (TNF)-αをsheddingする蛋白分解酵素として最初に発見された.今回,われわれは,自己免疫性炎症性筋疾患におけるADAM-17の発現と間質性肺炎での炎症における役割を検討した.自己免疫性炎症性筋疾患(多発性筋炎26名,皮膚筋炎34名,clinically amyopathic dermatomyositis (CADM) 10名)患者の血清中のADAM-17をenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法にて測定した.そして,臨床所見や臨床データとの関連を検討した.さらに,免疫染色法を用いて,自己免疫性炎症性筋疾患患者の筋生検の組織上でのADAM-17の発現を確認した.自己免疫性炎症性筋疾患の血清中のADAM-17は,健常者(19名)の血清中のそれと比較し有意に高値であった(mean±SEM;1,048±312pg/ml and 36±18pg/ml,p<0.05).副腎皮質ステロイドand/or免疫抑制剤での加療後の患者血清中のADAM-17は,治療前の血清中のそれと比較し有意に減少していた(1,465±562pg/ml and 1,059±503pg/ml,p<0.01).ADAM-17はfractalkine/CX3CL1,CXCL16それぞれと有意に正の相関を認めた.また,間質性肺炎合併自己免疫性炎症性筋疾患患者(46名)の血清中のADAM-17は,間質性肺炎非合併自己免疫性炎症性筋疾患患者(24名)のそれと比較し有意に上昇していた(1,379±454pg/ml and 413±226pg/ml,p<0.05).さらに,自己免疫性炎症性筋疾患患者の筋生検組織にてADAM-17の発現を確認した.ADAM-17は自己免疫性炎症性筋疾患患者,特に間質性肺炎合併患者に発現しており,肺の線維化において何らかの役割を担っている可能性が示唆された.ADAM-17は間質性肺炎合併自己免疫性炎症性筋疾患において治療標的となり得る可能性がある.
著者
渡辺 誠 村上 雅彦 小沢 慶彰 五藤 哲 山崎 公靖 藤森 聡 大塚 耕司 青木 武士
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.647-651, 2015 (Released:2016-09-10)
参考文献数
18

炭水化物含有飲料水 (CD) の胃内容排出時間を超音波検査にて検討する.健康成人被験者4例 (男女各2例,平均年齢52歳) に対して,水,6.2% CD (ポカリスエット®),12.5% CD (100mlあたり6.3gのブドウ糖末を付加したポカリスエット®) を,中7日隔日で各々400ml全量摂取し,腹部超音波検査にて胃幽門部面積 (PA) を経時的に測定した.全例,各飲料水の摂取は可能であった.水では,45分で摂取前のPAと同等になった.6.2% CDでは60分で全例,摂取前のPAと同等になった.12.5% CDでは,4例中2例において摂取後60分で,また90分で残り2例も摂取前のPAと同等になった.健康成人被験者において,400mlの12.5% CDは,摂取後90分以内に胃から排泄された.全身麻酔導入2時間前までの12.5% CD摂取は可能であることが示唆された.
著者
福田 賢一郎 森川 健太郎 八木 正晴 土肥 謙二 村上 雅彦 小林 洋一 中島 靖浩 中村 元保 香月 姿乃 鈴木 恵輔 井上 元 柿 佑樹 前田 敦雄 加藤 晶人
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.58-68, 2020

患者に対する医療安全の確保は感染管理とともに病院における危機管理の骨格である.さらに病院評価としても院内の医療安全システムの構築が求められている.近年では予期せぬ院内急変への対応だけではなく,院内急変の予防に向けた取り組み(RRS:Rapid Response System)が注目されている.昭和大学病院および昭和大学付属東病院では緊急性に応じて院内急変プロトコールがいくつか存在する. RRS導入前における予期せぬ院内急変について,特に緊急性の最も高い緊急コード事例(コードブルー事例)について検討を行った.方法:2014年4月から2018年3月までの4年間にコードブルーの要請があった症例129例を対象として解析を行った.院内急変のうち入院患者は41.0%であり,その他が外来患者や患者家族・職員であった.平均年齢は63.6歳であった.心肺停止症例は26.4%であり,平均年齢は71.2歳であった.心肺停止症例の82.4%は入院患者であった.発生頻度は入院1,000人当たり4.36人であった.心肺停止患者のうち44%で蘇生に成功したが,神経機能が急変前まで改善した例は全心肺停止症例の20.6%のみであった.心拍再開までの時間が短い症例で神経機能予後は良好であった.昭和大学病院および昭和大学付属東病院では院内心肺停止の発生頻度は過去の報告よりは少ない傾向にあったが,今後の院内急変対応の課題としては院内心停止患者の救命率をより向上させること,さらには院内心停止発生率をさらに低下させるためRRSの導入を含めたシステムの構築が必要である.院内発生の心肺停止症例でも予後不良例は依然として存在している.したがって,院内急変あるいは院内心肺停止を予防することが将来的な病院の医療安全の確保の方策として極めて重要である.
著者
伊藤 桜子 小口 江美子 市村 菜奈 稲垣 貴惠 村山 舞
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.11-27, 2019

超高齢社会のわが国では,高齢者の筋力の維持・増進を図るため,多くの運動教室が開かれており,運動は継続してこそ介護予防効果が高まるとされている.小口が考案した音楽運動療法プログラム(以下GEMTOM(小口メソッド)とする)は,心身の状態を改善し,良好に維持するリハビリトレーニングや介護予防運動として活用され,音楽療法理論に基づく,主に椅子座位での体操を活用した運動療法により,機能改善効果を高めることが示唆されている.そこで今回は,小口メソッドを使用する地域の介護予防教室に参加する高齢者が,介護予防のための運動を継続するには,「楽しい」と思える運動を行うことが,1つの大切な要因であると考え,「運動する際に楽しいと感じる要因は何か」,「楽しみの度合いはどの程度か」「運動や音楽に対する意識はどうであるのか」等について調査し,運動継続との関連性について検討した.O区介護予防教室の音楽運動療法プログラムに,終了時まで継続参加した65歳〜90歳(平均年齢78.2±6.1歳)の男女12人を対象とし,3か月経過時(初心時)と9か月後の終了時点(継続時)にアンケート調査を実施し,その結果を比較検討した.運動の楽しさ得点と継続希望得点の2者間には,初心時(r=0.814,p=0.007),継続時(r=0.640,p=0.034)の両方において有意な相関があり,楽しさが増せば,継続希望も増すことが明らかとなった.また同参加者への別項目のアンケート調査から,初心時には仲間や音楽など精神的な要素を楽しいと感じ,一方,継続時には運動による身体的変化の自覚を楽しいと感じる傾向があり,楽しさの要因が初心時と継続時では異なる傾向を示した.さらにまた,同参加者への別項目のアンケート調査から,参加者は初心時より継続時において運動時の音楽の必要性をより強く感じる傾向を示し,運動に慣れていない初心時には,音楽は運動のリズムを取るのに必要だと感じ,運動に慣れた継続時には,音楽のリズムが運動をしやすくすると感じる傾向があった.これらの結果から,運動の苦手な高齢者に運動を継続させるためには,初心時から継続時まで参加者が「楽しい」と感じる要因が運動プログラムの中に存在することが必要であり,かつ運動指導者は,参加者の経時的に変化する楽しさの要因に合わせた「楽しさ」を提供する工夫が必要であることが示唆された.運動に音楽が加わることにより,参加者の楽しさが増すだけでなく,初心時に,音楽は参加者が運動のリズムを取るのを助け運動に慣れやすくし,継続時に,音楽のリズムは参加者に体を動かしやすいと感じさせる傾向があった.音楽と運動を同時に起用し,仲間と共に無理なく体を動かすGEMTOM(小口メソッド)は,楽しさや覚えやすさが継続性に繋がることから,参加者の心身の機能維持や機能改善に効果的である.加えて,音楽のメロディーやリズムは参加者の脳に働きかけて運動のリズムを取りやすくし運動になじませ,そしてまた,体を動かす刺激は脳にフィードバックされて音楽と呼応し体を動かしやすいと感じさせている可能性があることから,GEMTOM(小口メソッド)は,認知機能の衰えがみられる参加者や高齢者の介護予防には,より適した運動であることが示唆された.本研究の結論は以下である.①運動の楽しさと継続性には初心時,継続時ともに有意な相関が認められ,継続時に参加者の楽しさは増加していた.②運動継続には,参加者が「楽しい」と感じられる要因が必要であり,その要因は運動に慣れていく時間経過と共に変化する傾向があった.③高齢者の運動継続および介護予防効果の向上には,参加者の楽しさの要因となるものをプログラムに段階的に取り入れて提供することが重要であると考えられる.
著者
小松﨑 記妃子 山田 真実子 福宮 智子 佐藤 陽子 山﨑 あや 渡辺 純子 福地本 晴美
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.499-507, 2020 (Released:2021-01-28)
参考文献数
7

看護学生による臨地実習に関する評価尺度の動向を明らかにする.本研究は,臨地実習での教授者の教育能力および学生の看護実践能力の両側面の能力を評価するための資料とする.医中誌Web Ver.  5を用いて,検索対象年は2005年1月〜2015年9月,検索式は「臨地実習」and「看護学生」and「評価」とし原著論文に限定した.その中から看護学実習に関して尺度を用いた評価を行っている文献(独自質問紙のみを使用した文献は除外)を分析対象とした.検索の結果,1,132件が抽出された.このうち本研究の条件に該当する文献は73文献あった.使用されている評価尺度は55種類あり,1文献に対し1〜11の尺度を用いるなど多岐にわたっていた.評価者は,教員,指導者,学生の3つに分類でき,評価対象は,教員,指導者,学生,実習過程(実習全般),実習環境の5種類に分類できた.人を評価対象とした文献のなかで,教員を評価した文献は4件で最も少なく全て2011年以降に確認された.指導者を評価した文献は20件,学生を評価した文献は45件あり,2005年から確認できた.教員を評価対象とした文献のうち,その評価者は,学生3件,教員(自己評価)1件であり,評価尺度は,前者は全て日本語版Effective Clinical Teaching Behaviors(以下ECTB),後者は教授活動自己評価尺度―看護学実習用―が用いられていた.指導者を評価対象とした文献における評価者は,学生14件,指導者(自己評価)6件であった.評価尺度は,前者のうち11件がECTB,3件が授業過程評価スケール―看護学実習用―であり,後者は全てECTBが用いられていた.近年の看護学実習における教育評価に関する研究では,教授者の教育実践能力を評価する尺度には,授業過程評価スケール―看護学実習用―やECTBの共通性が確認されたが,教員を評価対象とした研究は僅かであった.また,評価の時期は,基礎実習後と領域実習の前後などで2時点から3時点で実施されており,基礎看護実習から全ての実習終了後までなど一連の過程を通じた学生の評価に関する研究は見当たらなかった.看護実践能力における要素別の評価尺度を組み合わせて実習を評価していることが明らかになった.
著者
大下 優介 八木 敏雄 平林 幸大 石川 紘司 江黒 剛 逸見 範幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.752-756, 2020

2013年6月に富士山が世界遺産に登録されて以降訪日観光客が増加しそれに伴い救急受診される症例臨床の現場で経験される.しかし,旅行者がどのような病態で受診されているのかの詳細な報告は無い.本研究の目的は,訪日旅行客の受診内容を調査し,今後の対策を検討する事である.2015,2016,2017年度に当院に受診された訪日旅行客をretrospectiveに調査した.それぞれの年度に受診された患者総数は154人,149人,171人であった.平均年齢は36歳(0-89)であり,男性223人・女性251人であった.受診時間は平日の一般診療時間内が205人(43.2%)であり,269人(56.8%)は夜間や休日祝日の受診であった.受診の原因となった疾患は感冒などの内科系疾患が168例,骨折や脱臼などの外傷が166例,膀胱炎や尿路結石などの泌尿器科系疾患が22例,不正性器出血などの婦人科疾患が21例で,小児科受診が64例であった.また来院時CPAが1例にあった.近隣住民であれば翌日まで経過を見ることも可能な症例も旅程のため,夜間の受診を余儀なくされている状態であった.一般的に入院精査を行っていたと考えられる症例も移動の予定などのため再診予定も立てられず応急処置のみとなっている症例もあった.海外からの訪日外国人の受診状況を調査した.夜間休日であっても,さまざまな疾患で受診されておりGeneralistとしての対応が求められている現状であった.今後さらに外国人旅行者が増えると考えられ,その対策は急務である.
著者
江戸 由佳子 髙木 睦子 太田 千春 川嶋 昌美 浅野 和仁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.325-330, 2017 (Released:2017-12-19)
参考文献数
24

妊婦では,妊娠の継続や胎児の発育のために非妊婦と比較し,著明な物質代謝の変動やホルモンバランスの変化が観察される.また,分娩に際しては断続的な強い痛みが認められる.これら妊娠・出産に伴う一連の反応によって母体は酸化ストレス反応に曝されていることが推察されるものの,妊娠と母体の酸化ストレス反応に関しては十分に検討されていない.そこで,本研究では非妊婦と正常な経過を辿っている妊婦から尿を採取し,尿中に含まれる酸化ストレスマーカーの検出を試み,その結果から妊娠と酸化ストレスの変動について検討した.対象とした酸化ストレスマーカーは脂質過酸化物であるイソプラスタン,ヘキサノイルリジン,ビリルビンの過酸化物であるバイオピリンならびにDNAの酸化障害産物である8-OHdGであった.対象妊婦を妊娠初期,妊娠中期,妊娠後期そして産後1か月に区分し,上記酸化ストレスマーカーを測定したところ,すべてのマーカーの尿中含有量が非妊婦,妊娠初期ならびに中期と比較し妊娠後期においてのみ統計学的に有意に増加した.また,これら酸化ストレスマーカーは産後1か月で非妊婦のそれらと同濃度にまで減少した.胚胞が子宮に着床すると胎盤が形成され,徐々に発育,妊娠後期ではその機能や胎盤構成細胞の活性化が最大となる.胎盤そのものの機能や構成細胞の活性化は大量の活性酸素を産生するとされていると考えられていることから,妊娠後期の母体では非常に強い酸化ストレス反応が惹起された可能性が推察された.

1 0 0 0 OA 褥瘡と栄養

著者
鈴木 文
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.120-127, 2014 (Released:2014-09-27)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
真野 英寿
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.372-377, 2014 (Released:2014-12-23)
参考文献数
8
著者
富田 真佐子 福地本 晴美 鈴木 浩子 芳賀 ひろみ 河口 良登 竹内 義明 川上 由香子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.667-675, 2019 (Released:2020-02-06)
参考文献数
25

炎症性腸疾患患者の健康関連QOLを包括的視点と疾患特異的視点から明らかにし,炎症性腸疾患と共にある患者のQOL説明モデルを示すことを目的とする.対象者は,都内にあるA大学病院消化器内科に通院中の外来患者63名.質問紙法により,対象者の属性(疾患名,性別,年代,社会活動,治療年数,治療内容,手術歴),包括的尺度としてSF-8,疾患特異的尺度として著者が作成したIBD患者のQOL尺度19項目を用いた.分析は,各項目について記述統計量を算出し,SF-8の平均値について国民標準値および既存の文献と比較した.QOLモデルを作成するためにSF-8とIBD患者のQOL尺度各項目とのピアソンの相関係数を算出した.QOL尺度は5つの下位概念ごとに因子数を1とした主成分分析によって合成した成分得点を用いた.これらの相関係数を参考にモデル図を作成し,パス解析を行い,総合効果を算出した.倫理的配慮として調査は匿名にて行い,書面にて調査の目的と方法,自由意志での参加,拒否による不利益がないことについて説明した.本研究は昭和大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:403).対象者は,潰瘍性大腸炎51名(81%),クローン病12名(19%),男性28名(44%),女性35名(56%),年齢は40歳代が最も多く18名(29%),平均治療年数平均11.7±8.9年,治療内容は,5-ASA薬46名(73%)が多く,開腹手術経験ありは8名(13%)であった.SF-8の8つの概念のスコアの平均は50前後で,PCS(身体的サマリースコア)は50.1±6.4,MCS(精神的サマリースコア)は48.6±7.0であった.国民標準値と比較したところほとんど有意な差はなかった.SF-8とQOL尺度の5つの下位概念の成分得点との相関係数は±.218〜.698であった.SF-8のPCSとMCSを最終的な従属変数とした健康関連QOLモデルを描いたパス解析を行った.総合効果では,「心理社会的生活への負担」に最も影響するのは「食生活上の困難さ」であり,健康関連QOLのPCSとMCSに最も影響するのは「心理社会的生活への負担」であった.対象者のSF-8のスコアは国民標準値とほとんど差がなく,下痢や腹痛による苦痛が少なく食生活上の困難も少ない者は,健常者と大差ないQOLを維持できることが示された.パス解析の結果から,仕事や心理的な負担,食生活の困難さを感じている者は健康関連QOLが下がるが,周囲からのサポートは活力をもたらし,心理社会的負担を軽減させ,前向きに病いと付き合うことにつながることも示された.

1 0 0 0 OA 横紋筋融解症

著者
板谷 一宏 市川 博雄
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.394-398, 2015 (Released:2016-01-23)
参考文献数
17
被引用文献数
2
著者
大下 優介 八木 敏雄 平林 幸大 石川 紘司 江黒 剛 逸見 範幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.384-388, 2019 (Released:2019-11-08)
参考文献数
8

登山ブームに伴い富士登山を楽しむ方が増えてきている.しかし登山に伴い受診を要する疾患についての報告は多くない.そのため当院に受診した症例を調査し今後の予防と対策を検討した.2018年の富士山の登山シーズンに受診された症例を後ろ向きに検討した.受診された症例は24名(男性10名,女性14名)であった.平均年齢は48歳(16歳~73歳)であった.受傷患者の富士登山経験回数は初回が13人(54.2%)であり,1~3回目が6人(25%),4~5回目が1人(4.2%),10回以上が4人(16.7%)であった.登山のレベルの自己評価では16人(66.7%)が初心者,5人(20.8%)が中級者,3人(12.5%)が上級者と答えた.また16人の初心者の内3人(12.5%)は登山そのものが初めてであった.受傷時の疲労度は,「とても疲れていた」6人(25.0%),「やや疲れていた」10人(41.7%),「やや余裕があった」2人(8.3%),「十分余裕があった」6人(25.0%)であった.当院に受傷された症例は,登山初心者が,疲れている状態で受傷されていた.