著者
大下 優介 八木 敏雄 平林 幸大 石川 紘司 江黒 剛 逸見 範幸
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.384-388, 2019 (Released:2019-11-08)
参考文献数
8

登山ブームに伴い富士登山を楽しむ方が増えてきている.しかし登山に伴い受診を要する疾患についての報告は多くない.そのため当院に受診した症例を調査し今後の予防と対策を検討した.2018年の富士山の登山シーズンに受診された症例を後ろ向きに検討した.受診された症例は24名(男性10名,女性14名)であった.平均年齢は48歳(16歳~73歳)であった.受傷患者の富士登山経験回数は初回が13人(54.2%)であり,1~3回目が6人(25%),4~5回目が1人(4.2%),10回以上が4人(16.7%)であった.登山のレベルの自己評価では16人(66.7%)が初心者,5人(20.8%)が中級者,3人(12.5%)が上級者と答えた.また16人の初心者の内3人(12.5%)は登山そのものが初めてであった.受傷時の疲労度は,「とても疲れていた」6人(25.0%),「やや疲れていた」10人(41.7%),「やや余裕があった」2人(8.3%),「十分余裕があった」6人(25.0%)であった.当院に受傷された症例は,登山初心者が,疲れている状態で受傷されていた.
著者
西本 雄飛 和田 一佐 岡田 智彰 稲垣 克記 渡邊 幹彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.48-54, 2018

野球肘の診断には臨床上,理学的所見と共に画像診断が重要であるが,MRIなどの定性的な評価が中心で靭帯の弾性などを定量的に評価した方法は少ない.近年,超音波技術の進歩により組織の質的評価も可能になっている.その一つが超音波エラストグラフィーであり乳腺領域や甲状腺領域で臨床応用されている.運動器領域では腓腹筋筋挫傷,アキレス腱,烏口肩峰靭帯などが評価されている.今回,その技術を応用し,野球肘と診断された野球選手において,肘内側側副靭帯(以下MCL)の弾性を定量化することによって,損傷の程度や罹病期間などとの関係を調査し,復帰までの指標になる可能性があるか検討を行った.投球時に肘内側部痛を訴え,野球肘と診断された24名(平均年齢16歳)の野球選手を対象とした.方法は,超音波診断装置を使用し,探触子(L64)に定量化用音響カプラを装着,Real-time Tissue Elastographyにて測定を行った.計測肢位はGravity test に準じて前腕の自重を掛け,仰臥位,肩関節外転90°,肘関節屈曲30°最大回外位とした.適切な圧迫深度で周期的に端子を肘内側に圧迫させ,測定画像から得られたカプラの歪み値を対象組織(MCL)の歪み値で除したstrain ratio(以下SR)を算出し,5つの値のうち中央3値の平均値をSR値と定義し弾性を評価した.SR値は患側3.11±1.13,健側2.48±0.79と有意差を認めた(p=0.03).これらを骨片の有無で検討すると,裂離骨片あり群(n=9)では,SR値は患側3.86±0.73,健側2.61±0.91と有意差を認めた(p=0.006).裂離骨片なし群(n=15)では患側2.66±1.10は健側2.40±0.72と有意差を認めなかった(p=0.45).裂離骨片なし群で発症後1か月未満とそれ以降で比べると1か月未満は患側と健側で有意差はなく,それ以降も有意差は認めなかったが,患側のみで比べると,発症後1か月未満と1か月以上で有意差を認めた.損傷靭帯は弾性が上昇しSR値は低値になると仮説をたてたが,結果は患側で健側より高く,損傷した靭帯は弾性が低下していると言える.裂離骨片なし群では健患側に差はなく損傷の有無によって弾性に違いはないと思われたが,裂離骨片あり群で患側SR値が有意に高く,裂離骨片の有無が靭帯の弾性に影響していた.また,発症後1か月未満の患側SR値と1か月以上の患側SR値を比較すると前者で有意に低値を示した.靭帯の弾性は損傷の時期に変化しており,急性期は弾性が上昇し,亜急性期〜慢性期は弾性が低下している可能性がある.また,裂離骨片を伴うMCL損傷の野球肘では,靭帯の弾性低下が顕著であった.今後,肘MCL損傷の修復の過程をより正確に超音波エラストグラフィーで捉えることができるようになれば,肘MCL損傷の評価にさらに有用になると考えられる.野球肘の肘MCLは急性期で弾性が上昇し,亜急性期〜慢性期になると低下していた.裂離骨片があると著明に肘MCLの弾性は低下していた.
著者
埜崎 都代子 宮崎 友晃 中館 俊夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.413-420, 2014-08

作業療法の受療者に適切な作業選択をするための基礎的情報を得るために、臨床でよく用いられる「ぬり絵(以下PA)」作業が対象者に与える生理的・心理的作用について、ストレス課題と想定される「内田クレペリン精神検査(連続加算課題、以下CA)」との比較において検討した。女性24名(平均21歳)を対象にPAとCAという2つの課題を実施した。前安静20分、作業前半15分、休憩5分、作業後半15分、後安静20分、計75分間、同一時間帯、場所にて1課題ずつ2日間、実施した。実験中、5分毎の唾液αアミラーゼ(以下SAmy)、毎秒、心拍と脳血流量(酸素化ヘモグロビン濃度:oxy-HB)を継時的に測定した。また日本版POMS(Profile of Mood States)を用いて作業前後の気分を測定した。測定値平均の経時的変化と課題間の変化を分散分析法で、安静時と作業時の平均値を対応のあるt検定で、POMSはWilcoxonの符号付き順位和検定で差を検定した。有意水準は5%とした。その結果、心拍・脳血流量は作業中の変化はCAが大きいが、PAとCAに有意差はなく、両課題とも安静時より作業中は高値を示す類似した変化だった。一方、SAmyはPAとCAで異なる経時的変化を示し、両課題間には有意差が見られた。CAは安静時に対して作業中が有意に高値を示したが、PAは有意差がなく作業中低値の傾向もみられた。POMSによる気分の変化ではPAは「緊張・不安」「怒り・敵意」「活気」「抑うつ・落ち込み」「混乱」に有意な低下がみられた。CAは「緊張・不安」が高値となる傾向が示され、「活気」「混乱」のみ有意な低下を示した。以上から、自発的なPA作業が、CAにおける半強制的な計算作業と同程度の酸素要求量を持つ脳活動であるにもかかわらず、PA作業は心理的ストレスが認められない課題であることが示唆された。(著者抄録)
著者
中山 真由子 槇 宏太郎 久保田 雅人
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.467-475, 2014 (Released:2014-12-23)
参考文献数
11

骨格性上顎前突症に対して,外科的矯正治療とインプラント治療により咬合機能と美的調和の両者で満足し得る結果が得られたので,その概要を報告する.症例は22歳男性でガミースマイルを伴う骨格性上顎前突症および過蓋咬合,左側鋏状咬合による下顎右側偏位,下顎両側第二小臼歯の先天性欠如を認めた.そこで,関連する複数科の合同症例検討により外科的矯正治療を適応とし,上顎前方歯槽骨切り術による上顎前歯部の後上方への移動と下顎両側第二小臼歯の先天性欠如部にはインプラント補綴処置にて咬合の再構築を行った.この結果,ガミースマイルおよび過蓋咬合が改善され患者の美的な満足と共に長期的に治療後も安定した咬合状態が獲得できた.以上のことから,顎変形症に対しては,関連する複数の専門診察科によるチームアプローチが重要であると考えられた.
著者
谷岡 大輔 清水 克悦 水谷 徹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.104-109, 2019 (Released:2019-08-10)
参考文献数
30

原発性アルドステロン症は,良性な高血圧症と認識されていたが,最近の研究から生命に危機を及ぼす危険な高血圧症であることがわかってきた.今回,われわれは血圧コントロールが良好であったにも関わらず,原発性アルドステロン症が一つの要因と考えられた脳被殻出血の一例を経験した.症例報告により原発性アルドステロン症を加療することの重要性について報告する.63歳女性が失語症,ミギ片麻痺を呈して来院した.既往歴として高血圧症を指摘され,良好にコントロールされていたが脳出血を発症した.脳出血の加療後にヒダリ副腎病変による原発性アルドステロン症と診断された.副腎鏡視下切除術により降圧剤が不要となった.単に血圧を正常化させることが,原発性アルドステロン症を有する患者を治療する唯一の目標ではなく,高血圧,低カリウム血症および心血管イベント・脳血管イベントによる罹患率および死亡率を減少させることに主眼をおくべきである.原発性アルドステロン症に対する診断的アプローチは単純であり,治療により脳血管疾患,心血管疾患を予防することは重要と考えられた.
著者
佐藤 千佳 辻 まゆみ 木村 謙吾 小口 勝司 中西 孝子 舟橋 久幸 齋藤 雄太 植田 俊彦 小出 良平
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.450-457, 2015 (Released:2016-01-23)
参考文献数
30

生直後から12日齢まで80%酸素にて飼育した未熟児網膜症モデルラットと以前,報告された高酸素負荷による酸化ストレス誘発性脳障害モデルと比較し,未熟児網膜症モデルの酸化ストレス誘発性脳障害モデルとしての有効性について検討した.出生直後より12日齢まで80%高酸素負荷ラット(P12)およびその後大気中に移動し24時間飼育したラット(P13)は,脳(海馬)を摘出した.海馬の凍結切片を作製し,DNA酸化損傷マーカーである8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)を免疫染色し,局在を確認した.また,ホモジェネートを作製し,酸化ストレスマーカーであるreactive oxygen species(ROS),脂質過酸化物(malondialdehyde: MDA),酸化型グルタチオン(GSSG)量を,RT-PCR法によりO2-を酸素と過酸化水素へ不均化する酸化還元酵素Cu/Znsuperoxidedismutase(SOD)mRNAを測定し,記憶や学習に関わる海馬への酸化ストレスを確認した.さらに,ROSを積極的に産生する酵素type 4 nicotinamide adenine dinucleotide phosphate(NADPH)oxidase(Nox4)mRNAを測定し,Nox4の役割について考察した.8-OHdGはコントロール群に比べて,高酸素負荷終了直後(P12)増加していた.特に,CA1,CA3,歯状回(DG)では8-OHdG陽性細胞数の増加は顕著だった.P12海馬内ROS,Cu/Zn SOD mRNA,GSSG,MDA量は高酸素負荷群でコントロール群に比べ有意に増加しており,P13でも同様の結果を示した.P12での海馬内酸化ストレスの結果はこれまでの報告と一致していた.海馬Nox4 mRNAはコントロールに比べP13の酸素負荷群で2.7倍となり,相対的低酸素状態(脳虚血)から低酸素状態への適応(再灌流)による神経変性を増悪する可能性が示唆された.ラット脳,網膜などの神経組織が成熟する生後12日(P12)まで高酸素投与を継続する未熟児網膜症モデルは本研究により初めて酸化ストレス誘発性脳障害モデルとしても応用可能であることが示された.
著者
佐口 健一 田中 佐知子 小林 文 中村 明弘
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.75-80, 2019-02

近年,教育現場における学習成果の評価方法として,パフォーマンス評価が求められており,その評価方法の一つとしてポートフォリオ評価が挙げられる.ポートフォリオには学生が学修カリキュラムを通した振り返りとして,成長した点や反省点などが記述されている振り返りシートが含まれる.そこで本研究ではテキストマイニングの手法を用いて振り返りシートの記述内容の分析を試みた.2018年度の2〜4年次の学生582名の内,本研究に参加の同意が得られた557名を対象とし,各学生が2年次3月初めのオリエンテーションの際に提出した1年次振り返りシートを解析した.調査項目は,1年次を振り返り,自分の「成長した点」と 「反省点」についての自由記載とした.解析の結果,「成長した点」として最も多かったカテゴリは「寮生活」で,次いで「友達」,「コミュニケーション」であった.これらの抽出されたカテゴリから,本学の特徴である初年次全寮制教育において学生はコミュニケーション能力が高まったと感じていることが明らかとなった.また,「反省点」として最も多かったカテゴリは「勉強」で,次いで「テスト」,「予習復習」であり,集中して勉強できなかったことや,勉強開始がテスト直前になってしまったことなどを挙げている.これらの結果から,テキストマイニングの手法を用いてポートフォリオの振り返りシートの記載内容を解析することにより,学生が初年次全寮制教育プログラムで学んだと感じている内容を,教員が根拠をもって認識できることが明らかとなった.
著者
佐口 健一 田中 佐知子 小林 文 中村 明弘
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.75-80, 2019 (Released:2019-08-10)
参考文献数
4

近年,教育現場における学習成果の評価方法として,パフォーマンス評価が求められており,その評価方法の一つとしてポートフォリオ評価が挙げられる.ポートフォリオには学生が学修カリキュラムを通した振り返りとして,成長した点や反省点などが記述されている振り返りシートが含まれる.そこで本研究ではテキストマイニングの手法を用いて振り返りシートの記述内容の分析を試みた.2018年度の2〜4年次の学生582名の内,本研究に参加の同意が得られた557名を対象とし,各学生が2年次3月初めのオリエンテーションの際に提出した1年次振り返りシートを解析した.調査項目は,1年次を振り返り,自分の「成長した点」と 「反省点」についての自由記載とした.解析の結果,「成長した点」として最も多かったカテゴリは「寮生活」で,次いで「友達」,「コミュニケーション」であった.これらの抽出されたカテゴリから,本学の特徴である初年次全寮制教育において学生はコミュニケーション能力が高まったと感じていることが明らかとなった.また,「反省点」として最も多かったカテゴリは「勉強」で,次いで「テスト」,「予習復習」であり,集中して勉強できなかったことや,勉強開始がテスト直前になってしまったことなどを挙げている.これらの結果から,テキストマイニングの手法を用いてポートフォリオの振り返りシートの記載内容を解析することにより,学生が初年次全寮制教育プログラムで学んだと感じている内容を,教員が根拠をもって認識できることが明らかとなった.
著者
鈴木 慎太郎 本間 哲也 眞鍋 亮 木村 友之 桑原 直太 田中 明彦 相良 博典 柳川 容子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 = Journal of the Showa University Society (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.282-288, 2018-06

症例は38歳男性.自家製のお好み焼きを食べている最中から喉頭違和感,呼吸困難,眼球結膜の充血などを訴え救急搬送された.アナフィラキシーの診断で加療し,後日当科へ精査目的で来院した.患者には著しいダニ・ハウスダストによるアレルギー性鼻炎の既往があった.お好み焼きの具材に対する抗原特異性IgEによるアレルギー検査とプリックテストを行ったが全て陰性だった.問診上,開封後密封せずに常温で6か月以上経過した市販のお好み焼き粉を用いて調理したことが判明し,お好み焼き粉に混入したダニによるアナフィラキシーを強く疑った.お好み焼き粉を鏡検した結果,多数のコナヒョウヒダニが検出され,さらに,Dani Scan?(生活環境中のダニアレルゲン検出を目的とする簡易型検査キット)を用いた検査においても強陽性を示した.近年,お好み焼きやパンケーキ等の小麦粉製品に混入したダニを経口摂取して生じるアナフィラキシーの報告が急増している.診断のためには,調理に用いた小麦粉製品の保管状況の聞き取りと,感作が成立した同種のダニを発症前に摂取した調理材料中に証明することが求められる.今回,使用したDani Scan?は,一般家庭においても食品中のダニ汚染を検知する簡便なキットであり,本病態の診断や発症の予防に一定の効果が期待できるものと推察した.

1 0 0 0 OA 中枢神経

著者
浮洲 龍太郎
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.230-239, 2014 (Released:2014-11-21)
参考文献数
31
著者
黒田 佑介 堀内 一哉 笠原 慶太 酒井 翔吾 諸星 晴菜 蘒原 洋輔 藤崎 恭子 石井 源 松倉 聡 門倉 光隆
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.508-513, 2018-10-20 (Released:2018-03-13)
参考文献数
20

われわれは細菌性肺炎を契機とした慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease:COPD)増悪期の患者に対するステロイド治療について後方視的に検討した.当院で入院加療を行ったCOPD増悪患者についてステロイド投与群と非投与群を比較検討した.結果は入院期間がステロイド投与群で短い結果であり,感染症の再燃や高血糖などの副作用に差を認めなかった.細菌性肺炎を契機としたCOPD増悪期に対しても全身性ステロイドの投与が有効である可能性が示唆された.
著者
武冨 麻恵 信太 賢治 大嶽 浩司 泉山 舞 山元 俊憲 蜂須 貢 増田 豊 亀井 大輔
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.514-519, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
14

神経因性疼痛の治療にSSRIが有効であるという報告がある.加えて近年新しく臨床使用されているノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant:NaSSA)であるミルタザピンは三環系抗うつ薬やSSRIと異なる機序により脳内でノルアドレナリンとセロトニン神経を活性化する抗うつ薬である.本研究の目的は帯状疱疹関連痛(zoster-associated pain:ZAP)に対するミルタザピンの除痛効果を明らかにすることである.2010年〜2013年にZAPによるアロデニアを発症している患者を前向きに調査した.SSRIであるフルボキサミンを50mg/日で一週間内服し,その後NaSSAのミルタザピンを15mg/日で一週間内服し効果を確認した.評価項目は視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS),嘔気,眠気の発生率とした.エントリー症例12例(男性8例.女性4例)の平均年齢は70歳(58〜79歳)であり,うちミルタザピンを7日間服用できたのは8例であった.ミルタザピンを内服中に中止となった3例はいずれも眠気とふらつきとが主な理由であり,7日間服用できた症例の中でも1例,眠気のため半量しか服用できなかった症例があった.ミルタザピン服用の8例中4例でVASは減少し,嘔気が問題となった症例はなかった.抗うつ薬にはさまざまな種類があり,どの薬を選択するかは難しいが,ミルタザピンは眠気の副作用があるもののフルボキサミン無効例にも効果があった.
著者
江戸 由佳子 髙木 睦子 太田 千春 川嶋 昌美 浅野 和仁
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.325-330, 2017

妊婦では,妊娠の継続や胎児の発育のために非妊婦と比較し,著明な物質代謝の変動やホルモンバランスの変化が観察される.また,分娩に際しては断続的な強い痛みが認められる.これら妊娠・出産に伴う一連の反応によって母体は酸化ストレス反応に曝されていることが推察されるものの,妊娠と母体の酸化ストレス反応に関しては十分に検討されていない.そこで,本研究では非妊婦と正常な経過を辿っている妊婦から尿を採取し,尿中に含まれる酸化ストレスマーカーの検出を試み,その結果から妊娠と酸化ストレスの変動について検討した.対象とした酸化ストレスマーカーは脂質過酸化物であるイソプラスタン,ヘキサノイルリジン,ビリルビンの過酸化物であるバイオピリンならびにDNAの酸化障害産物である8-OHdGであった.対象妊婦を妊娠初期,妊娠中期,妊娠後期そして産後1か月に区分し,上記酸化ストレスマーカーを測定したところ,すべてのマーカーの尿中含有量が非妊婦,妊娠初期ならびに中期と比較し妊娠後期においてのみ統計学的に有意に増加した.また,これら酸化ストレスマーカーは産後1か月で非妊婦のそれらと同濃度にまで減少した.胚胞が子宮に着床すると胎盤が形成され,徐々に発育,妊娠後期ではその機能や胎盤構成細胞の活性化が最大となる.胎盤そのものの機能や構成細胞の活性化は大量の活性酸素を産生するとされていると考えられていることから,妊娠後期の母体では非常に強い酸化ストレス反応が惹起された可能性が推察された.
著者
藤井 三晴 栗原 祐史 代田 達夫 八十 篤聡 武井 良子 高橋 浩二
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.567-572, 2015 (Released:2016-03-09)
参考文献数
7

今回,われわれは構音障害を主訴に来院した,巨大な口蓋隆起と両側性の下顎隆起の症例を治療する機会を得たので報告する.症例は60歳男性である.口蓋および下顎舌側臼歯部の骨隆起を放置していたところ徐々に増大し,構音障害を生じたため,当科を受診した.初診時,口蓋正中部に約27×20×14mm,上顎右側臼歯部に約16×11×13mmの骨様硬の膨隆を認め,下顎右側前歯部舌側から臼歯部にかけて約6×7×8mm,下顎左側前歯部から臼歯部にかけて約20×14×13mmの骨様硬の膨隆を認めた.全身麻酔下で,口蓋隆起および下顎隆起除去術を施行した.術前と術後で構音障害について,発語明瞭度検査,文章了解度検査,会話明瞭度検査により評価したところ,術後に改善が確認された.また,患者本人も術後に構音障害の改善を自覚し,満足感を得ていた.なお,創部の治癒経過も良好であった.
著者
吉澤 徹 山田 浩樹 堀内 健太郎 中原 正雄 谷 将之 高山 悠子 岩波 明 加藤 進昌 蜂須 貢 山元 俊憲 三村 將 中野 泰子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.459-468, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
23

非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬に比べ錐体外路系の副作用などが少なく,また陰性症状にも効果を示すため,統合失調症治療薬の第一選択薬として用いられている.しかし,これら非定型抗精神病薬の副作用として,体重増加や耐糖能異常などが生じることが問題となっている.われわれは抗糖尿病作用,抗動脈硬化作用,抗炎症作用などを示し,脂質代謝異常により減少する高分子量アディポネクチン (HMWアディポネクチン) や増加するとインスリン抵抗性を助長するレチノール結合蛋白4 (RBP4) を指標として非定型抗精神病薬であるオランザピンとブロナンセリンの影響を統合失調症患者において観察した.薬物は通常臨床で使用されている用法・用量に従って投与され,向精神病薬同士の併用は避けた.その結果オランザピンはブロナンセリンに比べ総コレステロールおよびLDLコレステロールに対し有意な増加傾向を示し,HDLコレステロールは有意に増加させた.また,HMWアディポネクチンとRBP4に対してオランザピンは鏡面対称的な経時変化を示した.すなわち,オランザピン投与初期にHMWアディポネクチンは減少し,RBP4は増加した.ブロナンセリンはこれらに対し大きな影響は示さなかった.体重およびBMIに対してはオランザピンは14週以後大きく増加させたが,ブロナンセリンの体重増加はわずかであったが,両薬物間ではその変化は有意な差ではなかった.インスリンの分泌を反映する尿中C-ペプチド濃度に対してはオランザピンはこれを大きく低下し,ブロナンセリンはわずかな平均値の低下であり,有意な差はなかった.血中グルコースおよびヘモグロビンA1c (HbA1c) やグリコアルブミンは両薬剤において有意な影響は認められなかった.このようにオランザピンはコレステロール値や体重,BMIなどを増加させ,さらにインスリンの分泌を抑制し耐糖能異常を示す兆候が認められたが,ブロナンセリンはこれらに大きな影響を与えないことが示された.