著者
高橋 郁文 松崎 太郎 黒木 裕士 細 正博
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.17-25, 2021 (Released:2021-11-04)
参考文献数
42

メカニカルストレス,特に荷重は関節軟骨の組織学的および機能的維持にとって必要不可欠とされる。しかしながら,臨床では様々な疾患の治療に付随して安静臥床が強いられ,下肢の荷重関節に対するメカニカルストレスが減少する。不動や不活動が骨格筋および骨に対して廃用性の組織学的変化を引き起こすことは広く知られている。同様に,関節軟骨においても非荷重環境が廃用性の組織学的変化を引き起こすことが基礎および臨床研究において報告され,2019 年には「関節軟骨の廃用性萎縮」として提唱された。この廃用性萎縮の主たる組織学的変化は菲薄化と基質染色性の低下であり,我々はラット後肢非荷重モデルを使用し,4 週間の非荷重環境が脛骨の関節軟骨に廃用性萎縮を引き起こすことを報告した。本稿では我々の研究グループが取り組んできた関節軟骨および変形性関節症に関する知見と現在進行中の研究経過について紹介させていただく。
著者
久保 大輔 髙木 武蔵 鈴木 智高 菅原 憲一
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2021-05, (Released:2022-06-21)
参考文献数
21

【目的】本研究の目的は,予測的姿勢調整を制御するために補足運動野が活動するタイミングを経頭蓋磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation:以下,TMS)を用いて検討することである。【方法】健常成人11 名は,ビープ音に反応して上肢を挙上する課題を行った。課題中,ビープ音から0 ms,30 ms,50 ms,70 ms 後のタイミングで補足運動野へTMS を付与し,三角筋と大腿二頭筋から筋電図を記録した。【結果】三角筋の筋活動開始のタイミングから前100 ms の時間帯にTMS が補足運動野へ付与された場合,TMS のない試行と比較して大腿二頭筋の筋活動開始のタイミングが有意に遅延した。【結論】立位での上肢挙上課題において,補足運動野が活動するタイミングは三角筋の筋活動開始から前100 ms の時間帯にあると推察された。
著者
中村 雅俊
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2023-S03, (Released:2023-07-26)
参考文献数
23

ここ20年,特にスポーツ選手がセルフケアとしてフォームローラーを行う場面を多く見る。しかし,その効果については十分明らかになっていなかった。そこで我々は若年者を対象に即時的および長期介入効果の検討,また実際の理学療法現場を想定して損傷筋(遅発性筋痛)に対する効果の検討を行った。その結果,通常のフォームローラー介入では関節可動域は増加する一方,筋硬度の指標である筋弾性率に有意な変化は認められなかった。しかし,振動療法を同時にできる振動付きフォームローラー介入では特に筋腹部分を刺激することで筋弾性率が減少する可能性を示すことができた。また損傷筋に対するフォームローラー介入においても疼痛や関節可動域の改善効果が認められる結果となった。以上より,今後,臨床現場でフォームローラー介入がストレッチングに変わって用いる有用性を示唆することができた。
著者
山越 聖子
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2022-R6, (Released:2022-09-29)
参考文献数
29

慢性腎臓病(以下,CKD)患者は,様々な合併症や廃用により身体活動量や運動耐容能が低下し,それらの低下が死亡リスクの増加と関連している。近年,CKD に対する運動療法が,身体機能や生命予後の改善のみならず,腎機能を改善することが報告されている。CKD モデルラットを用いた基礎研究において,運動による腎保護効果についての報告が散見される。しかしながら,その詳細な機序については明らかでない。我々はCKD のステージ進行に伴ってみられる腎間質線維化に着目し,運動による腎間質線維化抑制効果の機序について,腎コラーゲン代謝と腎レニン- アンジオテンシン系の関与を報告した。これらの結果から,CKD における運動は,腎間質線維化を予防し,腎不全の進行予防効果をもたらすことが期待される。
著者
中西 智也
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2023-S05, (Released:2023-09-16)
参考文献数
28

パラリンピック・アスリートは,喪失した心身機能を代償し,高いパフォーマンスを発揮するために,神経システムの可塑性を最大限に発揮していると考えられる。本稿では,脊髄損傷アスリートと下肢義足アスリートの脳構造・機能に関する研究結果を概観し,適応の背景にある神経機序について議論する。脊髄損傷アスリートでは,一次運動野の上肢支配領域が拡張し,また,一次運動野と上頭頂小葉間の機能的結合性が増強し,高い上肢運動機能を発揮する神経基盤となっている可能性が示された。また,下肢義足アスリートでは,断端部収縮時に同側一次運動野の脳活動が増強し,前部帯状回や背外側前頭前野といった意欲-運動ネットワークとの相関が見られた。これらの結果は,パラアスリートの脳再組織化には,障害由来性代償的変化と使用頻度依存性可塑的変化の両方の要因が関与しており,その相互作用が特異的な脳再組織化を誘発していると考えられる。
著者
大塚 健太 冷水 誠
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2023-04, (Released:2023-09-09)
参考文献数
25

【目的】健常若年者を対象とし,ステップ動作におけるステップ距離の予測可否およびステップ距離の違いが予測的姿勢制御(Anticipatory Postural Adjustments:以下,APA)反応に与える影響を検証することを目的とした。【方法】健常若年者20 名を対象に,身長に応じた3 つの距離でのステップ動作を事前に距離を教示する条件およびステップ直前に提示する条件にて実施し,各種条件におけるAPA 時間,下肢筋活動時間および筋電図間のコヒーレンスを算出し比較した。【結果】筋活動時間においては予測可否によってステップ側前脛骨筋・支持側ヒラメ筋,ステップ距離によってステップ側前脛骨筋・腓腹筋外側頭に有意差を認めたものの,APA 時間およびコヒーレンスにおける有意差は認められなかった。【結論】健常若年者においては,ステップ距離の予測可否およびステップ距離の違いがAPA 反応に及ぼす影響が少ない可能性が示唆された。
著者
岡 真一郎 新郷 怜 濱地 望 池田 拓郎 光武 翼
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-9, 2022 (Released:2022-10-17)
参考文献数
39

腰部への持続的圧迫刺激(以下,CPS)後の自律神経活動が腸音(以下,BS)の変化に与える影響を検討した。対象者は健康な若年成人男性10 名とした。BS は,左下腹部に聴診器をあて録音し,周波数解析により音圧を算出した。自律神経活動の評価は,心電図RR 間隔を用いて心拍変動解析を行った。循環動態は血圧を測定した。CPS は,T12 からL2 棘突起の3.5 cm 外側に50 mmHg で押圧を開始し,10 分間持続した。CPS 後10 分で313 Hz のBS の音圧が上昇した。CPS後5分のBS,LF/HF,DBP の変化がCPS 後10分のBS の上昇に影響していた(CMIN =1.214,p =0.750,GFI =0.941, RMSEA <0.001)。これらの結果は,CPS が心臓や末梢血管の副交感神経活動を修飾し,腸の蠕動運動を促進することを示唆している。
著者
岡 真一郎 新郷 怜 濱地 望 池田 拓郎 光武 翼
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2021-1, (Released:2022-02-04)
参考文献数
39

腰部への持続的圧迫刺激(以下,CPS)後の自律神経活動が腸音(以下,BS)の変化に与える影響を検討した。対象者は健康な若年成人男性10 名とした。BS は,左下腹部に聴診器をあて録音し,周波数解析により音圧を算出した。自律神経活動の評価は,心電図RR 間隔を用いて心拍変動解析を行った。循環動態は血圧を測定した。CPS は,T12 からL2 棘突起の3.5 cm 外側に50 mmHg で押圧を開始し,10 分間持続した。CPS 後10 分で313 Hz のBS の音圧が上昇した。CPS後5分のBS,LF/HF,DBP の変化がCPS 後10分のBS の上昇に影響していた(CMIN =1.214,p =0.750,GFI =0.941, RMSEA <0.001)。これらの結果は,CPS が心臓や末梢血管の副交感神経活動を修飾し,腸の蠕動運動を促進することを示唆している。
著者
林 哲弘 高崎 浩壽 末廣 健児 石濱 崇史 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
pp.JJPTF_2023-09, (Released:2023-12-13)
参考文献数
21

本研究は,運動観察時に提示される運動の筋収縮強度に対する主観的認識の違いが脊髄運動神経機能の興奮性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。対象者は健常成人22 名とし,F 波は右母指球上の筋群より導出した。測定の流れは,安静時のF 波を1 分間測定し,4 分間の休息後,運動観察時のF 波を1 分間測定した。観察課題は,母指の内転・外転運動(無負荷映像)と2 種類のセラバンドで母指に負荷を与える(低負荷映像・高負荷映像)とした。また,対象者の認識に基づいて,主観的高負荷,主観的低負荷,主観的無負荷に分類し,各条件間の振幅F/M 比相対値を比較した。振幅F/M 比相対値は,主観的無負荷・低負荷条件と比較し主観的高負荷条件で増加した(p <0.05)。結果より,運動観察において対象者に強い筋収縮が必要な運動であると認識させることで脊髄運動神経機能の興奮性は増加することが示唆された。
著者
井上 創太 太田 大樹 田口 徹
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.35-42, 2022 (Released:2022-10-17)
参考文献数
36

社会的敗北ストレス(以下,SDS)は痛覚過敏を惹起するが,その病態機構は未解明である。本研究では,SDS 誘発性疼痛の脊髄機構の解明を試みた。SDS 誘発性疼痛モデルは,Sprague-Dawley ラットに対し,体格の大きなLong-Evans ラットを直接および間接的に接触させて作製した。ホルマリンテストを用い,モデルラットの疼痛関連行動を調べた。また,ホルマリンによる痛み刺激後の脊髄ニューロンの興奮性を定量化するため,神経活性化マーカーであるc-Fos 陽性細胞のL3 ~L5 腰髄後角での分布と数を調べた。SDS モデルでは,ホルマリンテストの第Ⅱ相において疼痛関連行動が顕著に亢進し,侵害受容に重要な後角表層におけるc-Fos 陽性細胞数が増加した。これらの結果より,SDS 誘発性疼痛モデルラットでは痛み刺激に対する脊髄後角表層ニューロンの興奮性が増大し,これが疼痛関連行動の亢進にかかわると考えられた。
著者
時田 諒 佐藤 尚輝 谷尻 豊寿 戸田 創
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.10-17, 2022 (Released:2022-10-17)
参考文献数
15

3 次元相同モデルを用いて現代日本人における肩甲骨全体形状のバリエーションの抽出を試みた。全頂点の3 次元座標に対する主成分分析の結果,第1 から第5 主成分までで累積寄与率が約50% となった。第1 主成分は,肩甲骨体部の彎曲が強まるにつれて,関節窩や烏口突起の前方への傾きが強まる成分であった。第2 主成分は,肩甲骨体部が頭尾方向に長くなるにつれて,棘上窩に対する棘下窩の面積が大きくなる成分であった。第3 主成分は,肩峰の前傾に伴い棘上窩の幅が小さくなる成分であった。第4 主成分は,肩峰が外側に張り出すにつれて棘上窩の幅が大きくなる成分であった。第5 主成分は,肩甲棘から肩峰にかけての前傾に関する成分であった。肩甲骨には多くのバリエーションが存在し,全体形状を包括的に解析する重要性が示唆された。今後は同手法を用いることで,肩甲骨全体形状と肩関節疾患の関連性の解明などが期待できる。