著者
泉田 大宗 森 彰 二木 厚吉
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.4_199-4_218, 2012-10-25 (Released:2012-11-25)

本稿では動的解析と静的解析を組み合わせたマルウェアの振る舞い解析手法について述べる.静的解析部ではバイナリコードを低レベルの記号式で解釈した上で静的単一代入形式に変換し,後方解析を行うことで間接ジャンプの行き先を可能な限り解決している.静的解析では解析しきれない制御フローに関しては動的解析によって補遺する.従来のバイナリコード解析手法ではC言語などの高級言語からコンパイルされたバイナリのみを対象としていたが,本手法ではマルウェアのようにそのような前提条件を満たさないバイナリも解析可能である.また,動的解析部としてハイパーバイザ機構を使った仮想環境を用いる試みについても述べる.
著者
片山 卓也
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.4_32-4_39, 2012-10-25 (Released:2012-12-25)

長年にわたるソフトウェア進化の研究や実務経験にもかかわらず,ソフトウェアを適切に進化させることは容易ではなく,多くのシステムが進化作業の直後に障害を起こしている.この原因がどこにあるかをソフトウェア進化の基本に立ち戻って考え,なぜ進化は困難であるのか,それを克服するための技術課題はなにかを考えた.システムの開発に使われたプロセスの再実行という考えが,進化を考える上で基本的であることに着目し,プロセス主導進化の概念を提案し,これに基づいて進化のあり方や技術チャレンジについて述べた.
著者
岩間 太 立石 孝彰
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.2_114-2_127, 2015-04-24 (Released:2015-06-30)

単体テスト時に利用する入力テストデータをCOBOLソースコードから生成するためのCOBOL記号実行器を構築した. この記号実行器の特徴はbit-vector logicに基づいてメモリ内バイトデータの記号値を扱うという点でありこれにより,バイトデータを直接操作するコードのテストデータ生成が可能になる.このような記号実行器によるテストデータ生成ツールはデータ表現の違いなどによる不具合が生じることの多いマイグレーションプロジェクト等において有用なものとなる.
著者
田村 直之 丹生 智也 番原 睦則
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.4_183-4_196, 2010-10-26 (Released:2010-12-26)

本論文では,SAT変換に基づく制約ソルバーであるSugarの概要とその性能評価結果について述べる.Sugarは,制約充足問題(CSP),制約最適化問題(COP)および最大制約充足問題(Max-CSP)を,命題論理の充足可能性判定問題(SAT問題) に変換し,MiniSat等の高速なSATソルバーを用いて求解を行うシステムである.SAT変換には,order encodingと名付けた新しい方法を用いており,従来広く用いられているdirect encodingやsupport encodingよりも,多くの問題に対して高速な求解が可能である.本論文では,order encodingの説明を含めたSugarの概要について述べた後,2008年に開催された第3回国際CSPソルバー競技会およびMax-CSPソルバー競技会での結果を基にSugarの性能評価結果を報告する.なお,Sugarは同競技会の10部門のうち4部門で第1位となった.
著者
原田 恵雨 鈴木 育男 山本 雅人 古川 正志
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1_127-1_134, 2011-01-25 (Released:2011-02-18)

本論文では,二部グラフのコミュニティ対応関係を考慮したコミュニティ分割を定量的に評価する指標である二部モジュラリティを提案し,すべてのコミュニティ分割のパターンに対する二部モジュラリティの分布を調査することにより,その妥当性を示す.さらに,提案した二部モジュラリティを用いたコミュニティ分割手法を提案し,人工的に生成した二部グラフに対し適用することで,その有効性を示す.
著者
丸山 裕太郎 竹川 佳成 寺田 努 塚本 昌彦
出版者
Japan Society for Software Science and Technology
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.193-201, 2011

人は音楽を奏でるために古くからさまざまな楽器を開発してきた.西洋楽器を例に挙げると,バイオリンとチェロのように共通する形状・構造・奏法をもち,音域の異なる楽器がある.また,2段の鍵盤をもつ電子オルガンと1段の鍵盤しかもたないピアノのようにミクロの構造は同じでも組み合わせ方が異なる楽器も存在する.一方,電気・電子技術の発展に伴い,アコースティック楽器と同様の見た目や演奏方法をもち,電子的に音を生成する電子楽器が多数開発されてきた.しかし,従来の電子楽器は既存楽器の形状をそのまま模写することが主な目的であった.本研究では,楽器を発音や音程決定などの機能要素(ユニット)の集合であると捉え,それらのユニットを自由に組み合わせることで,音域や演奏スタイルの変化に柔軟に対応できるユニット楽器の開発を目指す.ユニットを組み合わせて楽器を再構築することで,楽器の音域増減などのカスタマイズや,既存楽器の特徴を組み合わせた新たな楽器の創造が行える.ユニットの設定は,本研究で提案するスクリプト言語によって柔軟に記述できる.また,本研究ではユニット楽器のプロトタイプを実装し,さまざまなイベントステージで実運用を行った.
著者
井出 陽子 向井 国昭
出版者
Japan Society for Software Science and Technology
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.108-113, 2011

高階述語の呼び出しなどに便利な無名述語(λ項の拡張)の構文および意味を標準のProlog意味論に基づいて定義し,SWI-Prologの上に実装した.無名述語の呼び出しに標準の単一化がそのまま使えるほか,パラメータを持つ無名述語も扱える.無名述語をコンパイル時に通常の述語として展開するので,通常の述語呼び出しと実行効率は同じである.実行時に動的に生成された無名述語に対しては専用のインタプリタで対応する.使用実験の結果,無名述語の利便性や記述力の高さ,安定性が確認できたので,標準環境として使えるように無名述語機能をパッケージ化した.
著者
日高 宗一郎 Jean BÉZIVIN 胡 振江 Frédéric JOUAULT
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.2_63-2_78, 2015-04-24 (Released:2015-06-30)

モデル駆動工学では,メタモデルはモデルに対する型システムのようなものを提供し,モデルによるシステムの表現を正確に,定型的かつ強力に支援する.メタモデルは更にメタメタモデルで型付けられ,メタモデルで型付けられるモデルとあわせた三階層構造をなすことは前稿で概説した.本稿では,この構造の形式的な定義を与えるだけでなく,これらがすべて抽象モデルとして統一的に扱えることを示す.メタモデルは上記の重要な役割を果たすものの,モデルについて推論したり,より汎用的に処理を適用するには十分ではない.そこでもう1つ必要な概念がモデル変換である.モデル駆動工学では,モデル自体を直接更新するよりは,変換によって次々と新しいモデルを生成していく方法が推奨される.この構成的アプローチは,異なるツールの間の相互運用性を高める等の利点をもたらす.更に,モデル駆動工学では変換自体もモデルで表現され,上記の統一的扱いに組み込まれる.本稿では,モデル駆動工学の真骨頂とも言えるこのような統一的扱いと,このような構成的アプローチによるいくつかのモデル管理手法についても解説する.
著者
古瀬 淳
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.2_90-2_94, 2005-04-26 (Released:2008-09-09)

Extensional polymorphismは関数型言語ML上での非パラメトリック多相性を実現するための枠組の一つであり,generic valueという,純粋なパラメトリック多相性の下では不可能な機能を提供する.我々は型ディスパッチと型パターンマッチを利用したgeneric valueの既存のコンパイルにおける意味論と効率の問題を指摘し,新たに「フロー」と呼ばれる,型付け情報を整数グラフに変換した物をディスパッチする変換方法を提案する.フローを使うことで,より自然な意味論に沿った変換が可能になり,多重定義値の呼び出しの効率も改善される.
著者
浅井 大史 江崎 浩
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.2_95-2_108, 2012-04-25 (Released:2012-05-20)

インターネットにおける自律システム(AS: Autonomous System)間の接続関係は,相互接続における経済関係および経路交換ポリシーから大きくトランジットおよびピアリングの2つに分類される.本論文ではASの全域部分グラフ(一部のAS間リンクを含まない部分グラフ)からAS規模を定量化し,このAS規模に基づいたAS間接続関係の推定手法を提案する.本論文の貢献は次の2点である.1) 従来の推定手法と比較して,少数のトポロジー計測点でのAS間接続関係,特にピアリングの推定精度を向上した.2) 本手法ではASの全域部分グラフから定量化したAS規模を用いることで,従来の経路解析に基づく手法では推定できなかった推定に用いた経路情報に含まれないAS間リンクに対してもAS間接続関係を推定可能にした.
著者
伊達 浩典 石尾 隆 松下 誠 井上 克郎
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_220-1_226, 2015-01-26 (Released:2015-02-11)

A coding pattern is a sequence of method calls and control structures, which appears repeatedly in source code. In this paper, we have extracted coding patterns of each version of ten Java programs, and then explored the number of versions in which the coding patterns appear. This paper reports the characteristics of coding patterns over versions. While learning from coding patterns is expected to help developers to perform appropriate modifications and enhancements for the software, many coding patterns are unstable as similar to the result of clone genealogy research.
著者
大森 隆行 桑原 寛明 丸山 勝久
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_120-1_135, 2015-01-26 (Released:2015-02-11)

Although code completion is inevitable for effective code editing on integrated development environments, existing code completion tools can be improved. A previous study noted that developers sometimes perform ineffective repetitions of the same code completion operations. Hence, this paper introduces a statement, “A more recently inserted code completion candidate should be given a higher rank among previously inserted items in the candidate list.” To confirm this statement, this paper examines the following three points. First, an experiment using operation histories is presented to reconfirm that developers more frequently repeat recent code completion operations. Second, a tool called RCC Candidate Sorter is presented. It alters the sorting algorithm of the default Eclipse code completion tool to prioritize candidates inserted by recent code completion. Finally, an experiment is conducted to evaluate the performance of the tool. The experimental result shows that it outperforms an existing method.
著者
山下 泰央 高橋 大志 寺野 隆雄
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.4_33-4_40, 2008-10-28 (Released:2008-12-31)

近年,金融技術の高度化,金融市場の重要性の高まりなどを背景とし,金融教育の重要性が認識されつつある.本研究では,ビジネスゲーム手法により,金融資産への投資の学習に焦点をあてた分析を実施した.分析の結果,(1)実験を通じ参加者は過剰なリスクを取らなくなること,(2)当手法がリスク管理の重要性の理解を促進させることなど,興味深い現象を見出すことができた.これらの結果は,当手法の金融教育への応用の有効性を示すものである.
著者
小形 真平 早川 弘基 海谷 治彦 海尻 賢二
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_147-1_160, 2015-01-26 (Released:2015-02-11)

e-commerceサイト等のWebシステムにおいて,ユーザは一般にミスや心変わりから値を頻繁に再入力するため,目的を達成するまで入力値を一時保存する入力保存機能は役立つ.しかし,本機能は上流工程で決定される入力値の作成/更新タイミング等に依存するが,本機能の分析・設計を支援する方法はない.本論文は,入力保存機能を含めた画面遷移モデルを表せるようにUML記法を拡張し,画面遷移とシナリオを表す方法とユーザの入力する値の量を見積るユーザビリティ評価方法を提案する.そして,提案方法の有効性を示すため,手動ではユーザの入力負担を定量的に算出し,どの程度改善できそうかを示すことが困難であることと,提案方法で見積った値の高さとユーザが感じる負担の大きさは順序的に関係があることを実験にて実証し,提案方法による開発者の負担が従来方法(手動プロトタイピング)と比べて低いことを実験結果に基づいた考察により示した.
著者
髙野 諒 山崎 大地 市川 嘉裕 服部 聖彦 髙玉 圭樹
出版者
Japan Society for Software Science and Technology
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_187-3_199, 2014

本論文では,災害環境のような時間経過により変化する動的環境において,各エージェントが各自の局所的視野による情報と近隣のエージェントとの通信による情報のみにより協調するためのアルゴリズムとして,Artificial Bee Colonyアルゴリズムに動的環境のための改良を施したMultiagent-based Artificial Bee Colony (M-ABC)アルゴリズムを提案する.また,災害環境におけるレスキューエージェント間協調アルゴリズムにM-ABCアルゴリズムを展開し,その有効性をシミュレーション実験により検証する.検証にはロボカップレスキューシミュレーションシステムによりレスキューエージェントの被害者の探索と救助をシミュレーションし,次の知見を得た:(1)M-ABCアルゴリズムは,基本的な従来手法であるfull search methodよりも迅速に被害者を救出が可能であること.具体的には,提案したM-ABCアルゴリズムの1つであるM-ABC distanceが高い救助性能を発揮すること; (2)M-ABC distanceが被害者が移動する動的環境においても高い救助性能を維持すること;(3)M-ABC distanceはロボカップレスキューシミュレーションリーグの2012年度の優勝手法であるRi-one手法では被害者を完全に救助することができなかった動的環境において,全ての被害者を救助可能であることを示した.
著者
平原 悠喜 鳥海 不二夫 菅原 俊治
出版者
Japan Society for Software Science and Technology
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_211-3_221, 2014

本研究では,公共財ゲームにおける進化ゲームのモデルを用いて,ソーシャルメディアが協調支配的となる状況を調べる.それにより,ソーシャルメディアが流行するメカニズムを明らかにする.協調支配的な状況とは,記事の投稿およびコメント等によるリアクションをする方がしないより得となる場合である.つまり,それは流行している状況と言える.現在流行しているソーシャルメディアが今後も流行し続けるのか,または新しいソーシャルメディアが流行し始めるのかを予想することは難しい.一般にソーシャルメディアが公共財の性質を持つことに注目し,協調支配的な状況を調べた先行研究はあるが,そこではネットワーク構造を完全グラフと仮定している.我々は,完全グラフと比べて現実のネットワークに近いと言われるWSモデルとBAモデルの2つを用いて,シミュレーション実験を行う.実験より,ネットワーク構造の種類によって,ソーシャルメディアの流行のメカニズムに違いが出ることを明らかにした.WSモデルを適用した場合,結果は完全グラフとほぼ同様になった.一方,BAモデルを適用した場合,結果は完全グラフとは異なるものになった.BAモデルのネットワーク構造はソーシャルメディアを流行しやすくする.