- 著者
-
田浦 健次朗
- 出版者
- 日本ソフトウェア科学会
- 雑誌
- コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.4, pp.4_144-4_171, 2010-10-26 (Released:2010-12-26)
GXPは,分散環境におけるシステム管理から並列処理までを,極力小さな導入コストで,多様な環境で行えるようにすることを目指した並列シェルである.2003年末からプロトタイプの開発が開始され,2度のスクラップを経て現在第3版が公開されている.いわゆる並列シェルの機能—同じコマンドラインを多数ホスト上で実行する—を基本としているが,既存の並列シェルと比べ,速度(応答時間), スケーラビリティに優れている.また,「分散環境での並列処理を支援する」という目標に沿って,従来の並列シェルにはない設計指針や機能が多数盛り込まれている.例えば(1) ファイアウォールやNATの存在する分散環境で柔軟に動作する,(2) SSH, Sun Grid Engine, TORQUEなど多様なアクセス方法のホストが混在した環境で動作する,(3) 1ホストにインストールすれば残りのホストにインストールする必要がない,(4) 多数のホスト上で環境変数やカレントディレクトリを設定したり,柔軟に実行ホストを選択したりしながら対話的に処理を進めて行くことができる,などである.さらに,makeを用いたワークフロー(依存関係のある仕事の集合)の記述とその分散並列処理系を組み込んでおり,makefileを記述するだけで,粗粒度タスクの集合を並列実行することができる.これらにより,システム管理の支援を主な対象とした従来の並列シェルと比べ,適用可能範囲が大きく拡大しており,総じて,分散環境を用いて様々なレベルの仕事を行うための,心地よい「環境」として用いることができるソフトウェアになっている.