著者
南郷 拓嗣
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.871, 2020 (Released:2020-09-01)
参考文献数
3

自閉症スペクトラム(autism spectrum disorder: ASD)は,社会的相互交渉およびコミュニケーションの障害(社会性行動障害)を主症状とする疾患である.これまで,ASDの子どもの行動障害が発熱によって一時的に改善することが報告されているが,そのメカニズムについては不明なままであった.本稿では,発熱による社会性行動障害の改善にinterleukin(IL)-17aが重要な役割を果たすことを明らかにしたReedらの報告について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Grzadzinski R. et al., Autism Res., 11, 175-184(2018).2) Reed M. D. et al., Nature, 577, 249-253(2020).3) Yim Y. S. et al., Nature, 549, 482-487(2017).
著者
髙崎 智彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.366-370, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
15

日本脳炎(日脳)は、アジア地域における最も重要なウイルス性脳炎で、日脳ワクチンは、1954年に中山株を用いたマウス脳由来不活化ワクチンとして日本で開発され、その製造技術はアジア諸国に供与された。細胞培養不活化ワクチンが2009年に製造承認され、市場に供給された。世界的には不活化ワクチンだけでなく、中国で開発された弱毒生ワクチンも使用されている。日脳患者が減少した要因は、冷房等による生活環境の変化や養豚場が居住地から離れたことも挙げられるが、ワクチン接種による予防措置の貢献は大きい。東アジア、東南アジアでは遺伝子I型が流行しているが、近年V型株がしばしば検出されている。
著者
北野 拓真
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.548, 2021 (Released:2021-06-01)
参考文献数
4

がんは日本人の死因の第一位を占め,薬物治療の研究が今最も盛んに進められている疾患の1つである.抗PD-1抗体である免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint blockers: ICB)の開発によりがん治療に大きな変革がもたらされた一方で,これらを用いてもなお半数以上の患者では治療が十分に奏効していない.肥満は様々な疾患のリスクを上昇させることが知られており,生体防御反応に関しても易感染性やワクチン効果の低下をはじめとして免疫応答の低下を引き起こすことから,ICBの治療効果不良の原因の1つとして関与が取り沙汰されている.しかし,Body Mass Index(BMI)と治療の奏効との関連については議論が分かれており,肥満だけでなく生活習慣や飲食物による病態への関与が疑われている.本稿では,マウスにおいて食餌由来のフルクトースによりメラノーマがICBによる治療への抵抗性を獲得することを明らかにしたKuehmらの報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Larkin J. et al., N. Engl. J. Med., 381, 1535-1546(2019).2) Kanneganti T. D. et al., Nat. Immunol., 13, 707-712(2012).3) Kuehm L. M. et al., Cancer Immunol. Res., 9, 227-238(2021).4) Alaoui-Jamali M. A. et al., Cancer Res., 69, 8017-8024(2009).
著者
久保 允人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.526-530, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
18

気管支喘息や花粉症などのⅠ型アレルギーは,B細胞から産生される免疫グロブリンE(immunoglobulin E:IgE)によって引き起こされ,IgEは肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球が持つ受容体に結合することで,アレルゲン特異的にアレルギー反応を誘導することが知られている.このIgEの産生は,T細胞から産生される2型サイトカインを必要とすることから,アレルギーはT細胞を必要とする免疫反応と考えられてきた.近年は,T細胞やIgEを介したマスト細胞の反応系が存在しなくてもアレルギーが起こり得ることが知られるようになって,好塩基球や自然リンパ球による免疫反応系の存在が明らかになり,これら自然免疫系の細胞に注目が集まっている(図1).そこで本稿では,好酸球性食道炎と喘息などのアレルギー性炎症を制御する自然免疫系の細胞について紹介する.
著者
荒木 康弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.842-846, 2021 (Released:2021-09-01)
参考文献数
10

我が国において承認された新型コロナウイルスワクチン、「コミナティ筋注」(製造販売業者はファイザー)、「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」(武田薬品工業)及び「バキスゼブリア筋注」(アストラゼネカ)の使用方法、有効性・安全性について整理し、各剤の理解増進に資する。
著者
伊藤 肇
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1128-1132, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
8

光学活性化合物の合成は,医薬分野で特に重要である.光学活性化合物の分子構造には不斉(キラリティー)があり,鏡面に映ったもの同士のように,一対の鏡像異性体(エナンチオマー)が存在する.キラリティを持つ化合物の2つのエナンチオマーが等量混合したものがラセミ体,片方のみからなるものが純粋な光学活性化合物である.2つのエナンチオマー同士は,その性質の多くが同一である.融点,沸点に加えて,通常のカラムクロマトグラフィーによる分離特性も同じである.また,分子の熱力学的な生成エネルギーが同一であるため,通常の手法で合成した場合には,2つのエナンチオマーの完全な等量混合物,すなわちラセミ体が得られるのが普通である.ラセミ体に含まれる2つのエナンチオマーは,通常の分離条件(蒸留や普通の再結晶,カラムクロマトグラフィーなど)で分離できないため,片方のエナンチオマーのみを入手することは簡単ではない.しかし一方でキラルな構造を持つ化合物が,生体物質(タンパク質や核酸など)に出会った時,2つのエナンチオマーは異なる挙動を示す.これは生体がキラルな構造体から構成されているからであるが,このことはしばしば深刻な問題を引き起こす.例えば有名なサリドマイドのケースでは,サリドマイドのR体は催眠鎮静作用を持つが,そのエナンチオマーであるS体は強力な催奇性を持つ.キラリティを持つ医薬品の場合,どちらか片方のエナンチオマーをうまく合成することがしばしば必要であることは広く認識されている.創薬の現場では,特にコストの問題から,最終的な構造にできるだけキラリティが組み込まれないように工夫するというが,いつも避けられるとは限らない.したがって光学活性化合物を効率よく合成することは,常に必要とされている重要なテーマである.近年では,極めて多くの種類の不斉合成反応について研究が積み重ねられている.本稿では,私達が数年前に出会った,非常に珍しい不斉合成反応「直接エナンチオ収束反応」について述べたい.
著者
尾崎 葵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.700, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
4

ウメ(Prunus mume)の果実は昔から体に良い食材としてアジア諸国で利用されており,有益な生理活性が数多く知られている.例えば,ジャムや梅肉エキスなどに含まれるムメフラールは,梅を加熱した際に糖とクエン酸が反応して生じる物質であり,血小板凝集抑制作用により血流を改善することから,脳梗塞や心筋梗塞など心血管疾患への予防効果が期待されている.また,梅エキスに含まれるオレアノール酸などのトリテルぺノイドが抗酸化作用や抗炎症作用を持つことも報告されている.本稿では,喫煙によるDNA損傷の修復が期待される梅エキスの新規有用物質の単離とその作用機序解析を行ったAndrewらの研究成果について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) 忠田吉弘ほか,ヘモレオロジー研究会誌,1, 65-68(1998).2) Kawahara K. et al., Int. J. Mol. Med., 23, 615-620(2009).3) Andrew J. et al., Sci. Rep., 8, 11504(2018).4) Hwang J. et al., Korean J. Food Sci. Technol., 36, 329-332(2004).
著者
田中 敏郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.408-413, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ヒト化抗interleukin-6(IL-6)受容体抗体トシリズマブ(商品名:アクテムラ)は,我が国初の抗体医薬として,2005年にキャッスルマン病の治療薬として認可され,2008年には関節リウマチ,全身型および多関節型の若年性特発性関節炎に対しても保険収載された.これらの疾患に対するトシリズマブの効果は劇的であり,新たな治療の時代を迎えたと言われる.IL-6は多彩な作用を有し,様々な疾患の発症や進展に関与するサイトカインである.そのためトシリズマブは,上記以外の疾患に対しても画期的な治療薬となる可能性があり,世界中で適応拡大に向けた臨床試験が進められている.また,新たなIL-6阻害剤も開発中にある.本稿では,その可能性について紹介したい.
著者
淨住 大慈 伊川 正人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.18-23, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
20

「受精」という言葉は今日においても私たちに生命の神秘やロマンを感じさせてくれる.しかしそれは,不妊のような私たちの人生に直結する問題も,科学的にはまだ十分な解明に至っていないということの裏返しかもしれない.本稿では,哺乳類の精子がどのようにして受精の能力を獲得し,何が原因となって不妊となるのか,ゲノム編集技術によって近年各段に進展しつつある個体レベルでの研究をベースに,筆者らによる最新の知見も交えながら解説したい.
著者
藤井 拓人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.355, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
4

ヒトは,甘味,苦味,酸味,塩味,うま味の5種類の味を,舌の味蕾に存在する味覚受容体で感じとる.甘味,うま味および苦味の受容体は,Gタンパク質共役型受容体である.興味深いことに,甘味やうま味の受容体(TAS1Rs)はそれぞれ1種類しか同定されていないが,苦味受容体(TAS2Rs)は,少なくとも25種類が見つかっている.これは,ヒトが様々な有害物質に即座に対応するために,苦味を単なる味ではなく,「危険」シグナルとして検知するためと考えられる.近年,味覚受容体が口腔以外の様々な組織において発現し,味覚受容以外の機能を担っていることが報告されている.苦味受容体も,気道,胃,大腸,心臓などで発現が確認されている.胃においては1940年代に,コーヒーや紅茶に含まれる苦味物質であるカフェインを胃内投与することで,胃酸分泌が促進することが報告された.また,苦味物質が胃の内分泌細胞のグレリン産生を促進することも報告されている.しかし,苦味物質による酸分泌調節の詳細な分子メカニズムは不明であった.本稿では,カフェインによる胃酸分泌調節機序を詳細に検討した論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Avau B., Depoortere I., Acta Physiol., 216, 407-420(2016).2) Roth J. A., Ivy A. C., Am. J. Physiol., 141, 454-461(1944).3) Janssen S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 108, 2094-2099(2011).4) Liszt K. I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 114, E6260-E6269(2017).
著者
前澤 佳代子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.676_1, 2023 (Released:2023-07-01)

日本では依存性が危惧される成分配合のOTC医薬品が多く販売されており、製造販売承認基準の再検討の必要性等も議論されている。OTC医薬品の乱用問題は以前からずっと続いている。2019年の調査研究でもOTC医薬品の薬物依存は他の依存性物資より高いと報告されており、OTC医薬品の知識に中毒学の観点も踏まえ、薬剤師が地域のなかでより専門的な役割を果たしていくことが望まれる。
著者
中國 正祥
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.142-146, 2022 (Released:2022-02-01)
参考文献数
6

遺伝子治療は難治性疾患の治療法として世界各国で臨床開発が進んでおり,我が国でも脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療用製品や血液腫瘍に対するキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法などが臨床応用されている.遺伝子治療の臨床開発が進む一方で,遺伝子治療特有の安全性評価,法規制の遵守や製品管理など,従来の薬物療法とは異なる対応が医療側に求められており,治療実施には円滑な多職種連携の体制構築が必要となる.本稿では遺伝子治療の概要を示し,当センターの事例をもとに治療実施に向けた医療側の対応について概説する.
著者
寺田 浩人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.777, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
2

2000年に合意された医薬品規制調和国際会議のICH-E11ガイドラインでは,「小児への使用が想定される医薬品については,小児集団における使用経験の情報の集積を図ることが急務であり,成人適応の開発と並行して小児適応の開発を行うことが重要である.」と記述されている.しかしながら,現在流通している医薬品のうち小児に対する用法・用量および安全性が確立されている医薬品は限られている.このことは,小児製剤開発が臨床試験だけではなく,小児に対する添加剤の安全性にも特段の配慮を必要とすることが一因であり,これらを考慮した製剤設計を行うことが課題である.ミニタブレットは,小児製剤で重要な用量調整を錠数で管理でき,用量調整に天秤等が必要な顆粒剤と比較して利便性が高いと考えられる.また,その小ささから通常の錠剤と比較して服用性の面でも有用である.本稿では,Freerksらの安全性に配慮した小児用ミニタブレットの製剤設計に関する研究報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) 「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて」,PMDAホームページ.2) Freerks L. et al., Eur. J. Pharm. Biopharm., 156, 11-19(2020).
著者
藤原 亮一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.144-145, 2023 (Released:2023-02-01)
参考文献数
2

日本の薬学教育は、特に6年制になってからはアメリカのそれと似たものであると認識していた。しかし、2019年に異動しアメリカの薬学教育に直接携わるようになってからと言うもの、筆者は日米間での薬学教育の違いを目の当たりにする日々が続いている。そこで本コラムでは、アメリカ薬学部にて教鞭をとる立場から、アメリカの薬学教育、日本での薬学教育との違い、またそれぞれの特色について筆者が感じ取ったことをシリーズで伝える。今回はアメリカの薬学教育におけるDiversity, Equity, and Inclusion (DEI) への取り組みについて紹介する。