出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.698-699, 2021 (Released:2021-08-01)

ミニ特集:植物バイオが切り拓く生合成研究ミニ特集にあたって:植物が生産する二次代謝(特化代謝)成分は,その生物活性から医薬品原料などに用いられる.これらの成分の生合成経路は,薬剤師国家試験でも出題されることからも分かるように薬学教育における学びの重要な1領域であるが,遺伝子工学をはじめとする植物バイオテクノロジーの発展により,本研究領域は飛躍的な進展を遂げている.近年では,オミクス解析などを用いることで遺伝子レベルやタンパク質レベルでの詳細な経路解明が進み,同定された生合成遺伝子の微生物への導入による物質生産や,逆にゲノム編集によって生合成遺伝子を破壊することによる毒性物質含量の低減など,様々な形での応用に発展している.本ミニ特集では,これら植物バイオによる生合成研究の最新の成果を,最前線で活躍されている先生方に紹介していただいた.表紙の説明:今月の表紙は,クズを題材にした「夏葛の絶えぬ使のよどめれば事しもあるごと思ひつるかも」である.これは,大伴家持の叔母にあたる大伴坂上郎女の作で,大伴宿禰駿河麿への相聞歌とされている.またまた男女の歌である.電子付録では,二人の思いを妄想しつつ,民間薬や食用としてのクズ,植物としてのクズの仲間,クズと同じく夏から初秋の草原で見られる花についても紹介したい.
著者
倉石 泰
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.803, 2020 (Released:2020-09-01)

20世紀後半はかゆみ研究の冬の時代であったが,21世紀に入りかゆみの基礎研究が急激に増加し,かゆみの末梢組織における発生機序と中枢神経系における調節・認知機構が明らかにされてきた.しかし,かゆみにはまだベールを掻き払わねばならない謎も多く残されている.本誌のかゆみ特集が多くの研究者をかゆみ研究にいざない,我が国の研究者がそう痒性疾患治療の進歩に貢献することを期待する.

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著者
高倉 喜信
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1058_1, 2016 (Released:2016-11-01)

腫瘍組織の毛細血管は,腫瘍の増殖に伴う血管新生により形成されるため分岐が多く血管壁も不完全であるために,透過性が亢進している.したがって,血中滞留性の高い高分子や微粒子はこれらの腫瘍組織において血管外へと漏出しやすい.さらに,腫瘍組織はリンパ系が未発達あるいは欠如しているため,漏出した物質がリンパ管を介して消失しにくく蓄積しやすい.この現象をEPR効果(enhanced permeability and retention effect)と呼び,抗がん剤のパッシブターゲティングの基本原理となっている.
著者
坂本 多穗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1084, 2018 (Released:2018-11-01)
参考文献数
2

閉経時における17βエストラジオール(E2)やプロゲステロンといった女性ホルモンの急激な減少は,更年期障害として多様な身体変化を引き起こす.その中に骨格筋や肝臓,脂肪組織といった糖代謝器官の機能低下が含まれる.骨格筋は全身のインスリン依存性グルコース吸収の大部分を引き受けており,その代謝機能の低下はインスリン感受性低下に直結する.一般的に,E2をはじめとする性ホルモンの効果は,核内受容体やGタンパク質共役型受容体を介した細胞内シグナル経路の活性化によると理解されている.ところが,最近Torresらは,E2がミトコンドリア内膜の物理化学的性質の変化を介して呼吸代謝に影響することを報告したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Mauvais-Jarvis F. et al., Endocr. Rev., 34, 309-338(2013).2) Torres M. J. et al., Cell Metab., 27, 167-179(2018).
著者
北岡 志保 古屋敷 智之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.702_1, 2017 (Released:2017-07-01)

げっ歯類を用いたうつ病モデルの1つである.このモデルでは,解析対象のマウスに最低2週間,毎日異なる軽度のストレスを負荷する.ストレスは予測できない順で動物に負荷することがこのモデルの特徴で,快感覚の消失,新奇環境における摂食までの時間の延長といった行動変化が誘導される.これらの行動変化は抗うつ薬の反復投与により改善される.
著者
柴田 重信
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.45-49, 1998-01-01 (Released:2018-08-26)
参考文献数
8
著者
豊田 優
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.814, 2018 (Released:2018-08-01)
参考文献数
5

食を通じた健康改善志向が高まりをみせる今日,メディアを通じて「ケトジェニックダイエット(ケトン食)」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないだろうか.一般にケトン食とは,摂取エネルギー(カロリー)の大半を脂肪でまかなう食事法のことで,高脂肪・低タンパク質・低炭水化物を特徴とする.糖質制限に伴い体内の主要なエネルギー源である糖質が枯渇すると,その代替源を得るべく脂肪が分解(代謝)されケトン体の合成が促進(Keto- genic)される.すなわち,β-酸化で生じたアセチルCoAをもとに肝臓で生合成されたケトン体(アセト酢酸やβ-ヒドロキシ酪酸)が血液中に放出され,脳を含む肝臓以外の臓器で新たなエネルギー源として使われるようになる.現代社会で脂肪はとかく悪者扱いされがちだが,ケトン食には,減量・抗肥満のための食生活支援ツールとしてのみならず,糖尿病に代表される幾つかのヒト疾患における食事療法としての効果が期待されており,その潜在的な健康増進作用が近年注目を集めている.今回,動物実験を通じて,ケトン食の継続的な摂取が寿命と脳機能や運動機能の維持に効果があることが示されたので紹介したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Augustin K. et al., Lancet Neurol., 17, 84-93(2018).2) Roberts M. N. et al., Cell Metab., 26, 539-546(2017).3) Johnson S. C. et al., Nature, 493, 338-345(2013).4) Newman J. C., Verdin E., Annu. Rev. Nutr., 37, 51-76(2017).5) Dehghan M. et al., Lancet, 390, 2050-2062(2017).
著者
小林 匡子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1134, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
3

腸管粘膜には食物などに対する免疫応答を抑制する機構(免疫寛容)が存在し,この機構に異常が生じると炎症性腸疾患や食物アレルギーなどが引き起こされる.末梢での免疫寛容に重要な役割を担うのが,Foxp3によって免疫寛容能を獲得した制御性T細胞(regulatory T cells: Treg)であり,Foxp3の変異により食物アレルギーを発症したマウスにTregを移植するとアレルギー反応が抑制されることが知られている.最近,中国において潰瘍性大腸炎の補助療法薬として認知されている白頭翁湯が,腸管粘膜に存在するTregを増加させて免疫寛容を促し,炎症性腸疾患を改善することが報告されたので紹介したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Miao Z. et al., Front. Pharmacol., 11, 531117(2021).2) Yamamoto T. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 516, 626-631(2019).3) Nagamatsu T. et al., Am. J. Reprod. Immunol., 80, e13021(2018).
著者
四柳 宏
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1071-1075, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
10

B型肝炎治療の最終目標は、治癒、すなわちウイルスの肝細胞からの排除にあるが、その達成はこれまでのインターフェロンや核酸アナログだけでは難しい。最近、新たな抗ウイルス薬や宿主免疫に作動する薬物が数多く開発され、それらの臨床試験が開始されており、今後の進歩が期待される。
著者
川上 亘作
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.402-406, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
23

経口製剤の溶解性問題を克服する製剤技術として、可溶化製剤、非晶質固体分散体、ナノ結晶製剤が代表的であるが、これら各々には一長一短がある。固体分散体は製造に特殊技術が必要となることに加え、物理的安定性に関する理解が十分とは言えない。しかし通常製剤と同様のカプセル化、錠剤化が可能であるため、患者視点においては製剤が大きくなりがちな可溶化製剤より利便性に優れることが多い。本稿では製剤化手段としての非晶質の特徴について解説する。
著者
三島 和夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.104-108, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
10

睡眠障害は臨床場面で最もよく遭遇する疾患の1つであり,なかでも不眠症はその代表格である.不眠症状の大部分は一過性で自然消退する.ただし1か月以上持続する慢性不眠症は難治性である. 慢性不眠症患者の70%では1年後も不眠が持続し,約半数では3~20年後も不眠が持続するといわれる.また慢性不眠症患者は,薬物療法などで一旦寛解してもその半数は再発する.必然的に睡眠薬は長期使用かつ高用量となりがちである.実際,国内で睡眠薬を長期服用する患者は増加しており,1日当たりの服用量も増加傾向にある.それだけに,中長期的な治療ビジョンを持ち,治療開始当初からリスク・ベネフィットバランス比を考慮しながら慎重に処方すべき薬剤である.特に,治療途中で薬効や副作用を適宜評価することなしに漫然と睡眠薬の長期処方をすることは,厳に戒められるべきである.