著者
淡川 孝義
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1125-1129, 2022 (Released:2022-12-01)
参考文献数
14

NADは生体内での酸化反応の補酵素として広く用いられている。それ以外に、sirtuinなど重要な生理作用に関わるタンパク質の基質として受け入れられ、多様な生理学的機能を担う。近年、我々は、NADが医薬品活性天然物生合成反応の基質となることを明らかにし、その新たな役割を示すことに成功した。本稿では、その生合成研究の内容と意義、生物活性、生理活性化合物合成への応用の可能性など、今後の展望について記述する。
著者
進藤 直哉 王子田 彰夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.939-943, 2019 (Released:2019-10-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

標的タンパク質と特異的に反応して、その機能を阻害するコバレントドラッグ(共有結合性医薬品)は、強力で持続する薬効を発揮できる。非特異反応を起こさない安全なコバレントドラッグを生み出すためには、標的タンパク質と特異的かつ効率的に共有結合を形成するための反応化学が重要である。近年、標的タンパク質特異性の高いコバレントドラッグであるtargeted covalent inhibitor (TCI )の創出に向けた反応基(warhead)の開拓が世界中で取り組まれている。
著者
中澤 洋介
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1051-1055, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
21

白内障が発症すると外科的に混濁水晶体を摘出し、人口眼内レンズを挿入する水晶体再建術が行われ、その満足度は非常に高い。一方で手術が受けられない国や地域がいまだに多く存在し、予防薬の探索が求められる。筆者らは日常食生活から白内障発症予防をすることを目的とし検討してきた結果、コーヒー愛飲によって白内障発症が有意に抑制されることを報告してきた。またみかん果皮に多く含まれるヘスペリジンに白内障予防効果や老眼予防効果を持つことを明らかにした。
著者
中原 拓
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1070-1071, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
12

メタジェンセラピューティクスは、腸内細菌を活用した医療の社会実装と創薬を目指すバイオベンチャーである。順天堂大学で8年間積み重ねられた腸内細菌叢移植療法(FMT)を基盤として、潰瘍性大腸炎などを対象とした創薬を進める。FMT臨床研究を起点として、創薬シーズと有効性エビデンスを短期間で獲得し、最先端の微生物学・バイオインフォマティクスを活用したリバーストランスレーショナル創薬を推進する。
著者
辰巳 圭太
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.554-555, 2020 (Released:2020-06-01)
参考文献数
4

ニュベクオ錠は、極性基を有するピラゾール環など、従来とは異なる特徴的な化学構造を有する非ステロイド性抗アンドロゲン剤である。また、非臨床薬物動態試験ではマウスにおいて脳内への移行性が低いことが示されている。本剤は、ハイリスクの非転移性去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験において有効性と安全性が示された。我が国では、2020年1月に「遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺癌」の効能・効果にて承認を取得し、2020年4月に薬価収載された。
著者
髙羽 里佳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.979, 2022 (Released:2022-10-01)
参考文献数
5

最近の報告から,マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分であるシロシビンを治療抵抗性うつ病患者に投与したところ,2回の投与で,投与1週間後に患者の抑うつ症状が減少し,この作用は6か月間持続したことから,シロシビンが即効かつ持続的な抗うつ作用を有することが明らかとなった.その結果は,その後の臨床研究からも支持され,アメリカ食品医薬品局は,シロシビンがうつ病の画期的治療薬に成り得ると報告した.シロシビンをはじめとしたセロトニン作動性の幻覚薬が,うつ病のみならずアルコール依存症,不安障害,心的外傷後ストレス障害などに治療効果を示すとして,徐々に注目されはじめている.しかしながら,これらの薬物は,大脳皮質のセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2AR)を刺激することにより,幻覚作用も誘発してしまうことがわかっている ため,治療薬としての応用には課題がある.本稿では,Gタンパク質共役型受容体の結晶構造を活用したリガンド探索により,マウスにおいて幻覚作用を示さずに,抗うつ様作用を示すリガンドの合成に成功したことを報告したCaoらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Carhart-Harris R. L. et al., Lancet Psychiatry, 3, 619-627(2016).2) U. S. FOOD & DRUG. Breakthrough therapy, 2019年1月4日.3) Michaiel A. M. et al., Cell Rep., 26, 3475-3483(2019).4) Cao D. et al., Science, 375, 403-411(2022).5) Thomas E. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 94, 14115-14119(1997).
著者
中村 庸輝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.1077, 2019 (Released:2019-11-01)
参考文献数
5

シグマ-1 受容体(Sig-1R)は,一回膜貫通型受容体であり,主に小胞体膜に発現しているタンパク質である.その細胞内での役割は,他のタンパク質の構造を安定化させるタンパク質(シャペロンタンパク質),またはイノシトール三リン酸(IP3)受容体などのタンパク質と物理的に会合し機能を調節する因子として働く.Sig-1Rは,慢性疼痛,筋萎縮性側索硬化症(ALS),精神疾患,認知機能障害など様々な末梢および中枢神経疾患の病態に深く関わっている可能性が報告されている一方で,その詳細には不明な点が多く残っている.内因性リガンドとしては,神経ステロイドであるプレグネノロン,プロゲステロンや,トリプトファンの代謝産物であるN, N-ジメチルトリプタミンが既に報告されているが,最近,Brailoiuらのグループによって新たなSig-1Rの内因性リガンドとしてコリンが同定されたので,本稿で紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Schmidt H. R. et al., Nature, 532, 527-530(2016).2) Hayashi T., Su T. P., Cell, 131, 596-610(2007).3) Su T. P. et al., Science, 240, 219-221(1988).4) Fontanilla D. et al., Science, 323, 934-937(2009).5) Brailoiu E. et al., Cell Reports, 26, 330-337(2019).
著者
鴨志田 剛
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.1052, 2021 (Released:2021-11-01)
参考文献数
4

生命とは何か? 生命の起源はどこか? 地球外に生命は存在するのか? これらの疑問は我々人類が長年持ち続け,未だ答えにたどり着けていない最大級の謎である.生命の起源に関しては,大きく分けて①神様が作ったという考え,②地球上で長い年月をかけて単純な物質が複雑に変化し誕生したという考え,③地球外からやってきたという考えの3つがある.①の考え方も素敵だが,科学的には②や③の説について深く議論されてきた.本稿では人類が生命の起源を探る際に考慮すべき点について最新の知見を基に述べたい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Kawaguchi Y. et al., Front. Microbiol., 11, 2050(2020).2) Cortesão M. et al., Front. Microbiol., 12, 601713(2021).3) Sielaff A. C. et al., Microbiome, 7, 50(2019).4) Bijlani S. et al., Front. Microbiol., 12, 639396(2021).
著者
高須 清誠 有地 法人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.731-735, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
24

環内にトランス二重結合や三重結合を含む中員環化合物は、大きな分子ひずみをもち特徴的な反応性を示す。特にある種の官能基をもつ化合物と特異的かつ効率的に反応をするため、生体分子の化学修飾や機能性分子創製におけるクリック反応として利用される。本稿では、分子ひずみを利用した中員環化合物の反応性および、その合成法について、最新の知見を含めて紹介する。
著者
西田 晴行
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.539-543, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
25

酸関連疾患に対する治療薬の歴史と振り返ると、より強く、より長く胃内のpHを制御できる薬剤を求めて研究開発が行われてきた。我々は「最強の酸分泌抑制薬」と言われるプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor: PPI)の課題を克服する「究極の酸分泌抑制薬」を目指して創薬研究を続け、強い胃酸分泌抑制効果と長い作用持続を有するボノプラザンを見出した。ボノプラザンは、酸に安定で水溶性に優れ、また、PPI(ランソプラゾール)の課題とされた作用発現の遅さ、効果の個人差および食事の影響などの改善が期待できる作用特性を示した。日本発の次世代医薬品として大きな貢献が期待される。