著者
深澤 俊貴 田中 佐智子 川上 浩司
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.777-781, 2022 (Released:2022-08-01)
参考文献数
13

医療データベース(DB)を用いた観察研究の発展には、目を見張るものがある。情報技術革新に支えられた大規模DBの構築と柔軟かつ高度な疫学手法の掛け合わせは、リアルワールドにおける医薬品の使用実態調査、および有効性や安全性の評価をタイムリーに実現させている。本稿では、診療報酬請求情報(レセプト)DB、Diagnosis Procedure Combination(DPC)DB、電子カルテDBを中心に解説するとともに、それらを用いた観察研究を紹介する。
著者
坂崎 文俊
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.259, 2020 (Released:2020-03-01)
参考文献数
3

健康食品市場は拡大の一途である.日本の公的な健康食品制度に機能性表示食品が加わり,機能性表示食品は特定保健用食品に比べて届出のハードルが低いため,実にたくさんの届出が行われている.昭和46年(1971年)厚生省薬務局長通知(通称「ヨンロク通知」)により毒性の強いアルカロイドを健康食品の関与成分にできないこともあり,機能性表示食品の関与成分にはポリフェノール類が多い.ポリフェノール類は,酸化ストレスに対して防御機能を有すると考えられる.酸化ストレスは体の様々な部分で悪影響を及ぼすため,抗酸化物質の利用は多様な健康効果があると期待される.最近,心血管障害および高血圧に対するポリフェノール類の作用について,ヒトを対象とした疫学研究のシステマティック・レビューが報告された.食物摂取頻度調査票とアメリカ合衆国農務省の作成する栄養成分データベースから食品成分の摂取量を計算した前向きコホート研究6報を総合した結果,ポリフェノール類の分類の中でもアントシアニン類の効果が統計的に有意のようである.ここで紹介する論文は,2型糖尿病モデルマウスに,アントシアニンを豊富に含有するタルトチェリーの抽出物を投与した結果,炎症性アディポサイトカインの産生を抑制したとの報告である.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Del Bo’ C. et al., Nutrients, 11,1355(2019).2) Godos J. et al., Antioxidants, 8,152(2019).3) Nemes A. et al., Nutrients, 11,1966(2019).
著者
牧野 健一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1166, 2018 (Released:2018-12-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

「ひらめき」は,突然かつ瞬間的になされる学習であり,心理学においては洞察学習と呼ばれる学習機構である.らに,洞察学習の特徴として,学習の成立に伴った快と驚きの情動反応,すなわち「アハ体験」(Aha! moment)が生じることが知られている.近年では,洞察学習時における脳活動に関して,主にヒトfMRIを用いた研究が行われている.現在までに,洞察学習に付随した前帯状皮質や海馬などの脳領域の活動上昇が報告されている.しかしながら,洞察学習時における脳活動は,特に皮質下領域の活動性に関しては,未だ十分に明らかとなってはいない.本稿では,7Teslaの超高磁場fMRI(7 T fMRI)を用いることで,アハ体験と相関したドパミン神経系の活動を捉えることに成功した知見を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Köhler W., “The mentality of apes”, Routledge & Kegan Paul, London(1925).2) Topolinski S., Reber R., Curr. Dir. Psychol. Sci., 19, 402-405(2010).3) Luo J., Niki K., Hippocampus, 13, 316-323(2003).4) Aziz-Zadeh L. et al., Hum. Brain Mapp., 30, 908-916(2009).5) Tik M. et al., Hum. Brain Mapp., in press.
著者
高倉 栄男
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.67, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
2

細胞の膜の張力はその生理活動において厳密に制御されている.そのため,張力が正常に働かない場合には様々な機能異常をきたし,例えばエンドサイトーシスの阻害や細胞分裂の遅れが生じる.よって生細胞において膜の張力を測定できれば,生命現象を理解する上で重要な知見が得られると考えられる.現在のところ,光ピンセットによる張力測定が行われているが,測定値の取得が複雑なこと,測定そのものが張力に影響を与えてしまうことが欠点として挙げられる.また,原理的に細胞内小器官の張力測定は行えないため,この問題の克服には小分子プローブによる張力測定法が必要とされていた.本稿では,生体膜の張力を蛍光寿命にてモニターできる蛍光プローブを用いて,細胞内小器官の膜の張力イメージングを行った研究について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Colom A. et al., Nat. Chem., 10, 1118-1125(2018).2) Goujon A. et al., J. Am. Chem. Soc., 141, 3380-3384(2019).
著者
酒井 康行
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.395-399, 2019 (Released:2019-05-01)
参考文献数
9

新たなインビトロ細胞培養系としてマイクロフィジオロジカルシステムの研究開発が盛んに行われてきており,今や多様な形式が出揃った状況にある.今後,それらを学術面でも産業面でも広く利用していくための一助となることを期待して,中長期の人体影響評価の中での位置づけやインビトロ細胞培養系の生理学性向上における意義等をまとめ,今後の課題を明らかとしたい.
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.96-97, 2020 (Released:2020-02-01)

ミニ特集:患者に寄り添った医療を考えるミニ特集にあたって:近年,薬剤師はあらゆる専門性を身に着け,医療チームの一員として活躍する姿が見られる.病棟や在宅などで患者と接していく中で,ある時ふと自分(薬剤師)の限界を感じた人もいるだろう.「私に何ができるだろう」と悩んだ時,「その患者にとって何が必要なのか」を考えられる薬剤師であってほしいと願っている.このミニ特集では患者に寄り添う医療の実際や,患者の声を聴くスキルについて紹介していただいた.患者に寄り添った医療の在り方と薬剤師の果たすべき役割を考える機会となれば幸いである.表紙の説明:大河ドラマ「麒麟がくる」が始まった.本能寺の変の主役,明智光秀が主人公だが,波乱万丈の生涯を送った光秀にふさわしい始まりだ.その光秀の家紋が桔梗紋である.光秀に大きな影響を与えた斉藤道三,一癖も二癖もありそうな足利義昭,人物として完成後に出会った織田信長,それらの人物と光秀の関係が,大河ドラマでどう描かれるか興味深い.また,意外な著名人も実は桔梗紋を使っていた.電子付録では,キキョウの花と共に桔梗紋の著名人を詳しく紹介したい.
著者
花香 淳一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.702-704, 2022 (Released:2022-07-01)
参考文献数
8

がん化学療法中の患者は,強い有害事象のため,深刻な身体的および精神的不安を抱えやすいと言える。患者自身の治療意欲や生活の質維持のために,薬剤師が,医師や看護師と協働して,その専門性を活かした患者への情報提供を継続し,医師に種々の提案をすることは重要な意味を持つ。今回,小山記念病院の活動を例示しつつ,病院薬剤師の外来化学療法患者への介入状況等を処方提案の有用性を交えて紹介する。
著者
池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.464-465, 2017 (Released:2017-05-01)

秋田県横手市の増田町に,中七日町通りという商店街がある.成瀬川と皆瀬川が合流するところに位置し,江戸期以前から商業地として栄えた.東北経済の中心地といってもいいほどの賑わいを見せた頃もあったようであるが,いまでは落ち着いた町並みである.昔の面影を残す多数の商家が,往時の繁栄を静かに物語っている.
著者
荒田 洋治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.866_1, 2016 (Released:2016-09-02)

薬学と関りをもった50年の間,筆者が経験した事柄を,様々な観点から捉え,日本薬学会会員に向けて綴った短いエッセイ集です。
著者
倉田 なおみ
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.536-537, 2021 (Released:2021-06-01)

1976年昭和大学薬学部卒業後、同大学病院に就職、1996年同大学藤が丘リハビリテーション病院に異動、2006年同大学薬学部教員になった。1986年結婚、2016年高速道路で自損事故により危うく天国(地獄?)へ。振り返えると西暦末尾6の年が転換期であった。30年間の臨床薬剤師の後、16年間教員として教育・研究に携わり、現在も客員教授として研究を続ける日々が続いている。忘れてかけている過去を思い出し、思いつくまま最終講義として綴ってみたい。
著者
大野 博司
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1059-1063, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
10

われわれ動物の体内外の境界をなす皮膚や粘膜面には膨大な数の細菌群が常在しており、これらを常在細菌叢(commensal microbiota)と総称する。メタゲノム解析を中心とする最近の研究から、常在細菌叢、特に腸内細菌叢は宿主の生理・病理に多大な影響を与え、消化器疾患のみならず、免疫・アレルギー、メタボリック症候群、さらには脳神経疾患など、多種多様な疾患の要因となることが明らかにされつつある。
著者
塚本 紳一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.356, 2014 (Released:2016-06-01)

アステラス製薬の「β3アドレナリン受容体作動薬 ミラベグロンの創製」に対して,平成26年度日本薬学会創薬科学賞が授与された.本業績は,多数の創薬研究者ならびに開発研究者による長年の創意工夫と粘り強い研究の成果である.今回,代表して受賞された丸山龍也,恩田健一,高須俊行,佐藤修一,鵜飼政志の諸氏をはじめ,本プロジェクトに参画された関係者各位に心より祝意を表したい.