著者
嶋田 豊
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.198-202, 2020 (Released:2020-03-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

従来から知られていた過剰服用による漢方薬の副作用に、甘草の偽アルドステロン症、麻黄の交感神経刺激作用、附子の神経麻痺作用、大黄の下痢などがある。一方、ここ三十年ほどの間に明らかになったものとして、免疫・アレルギー反応による間質性肺炎、肝機能障害、アレルギー性膀胱炎があり、特に黄芩との関連が指摘されている。さらに、山梔子の長期服用により腸間膜静脈硬化症が生ずることも知られてきており注意が必要である。
著者
川畑 伊知郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.945, 2021 (Released:2021-10-01)
参考文献数
3

近年,超高齢社会の到来によるパーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者の増加が社会問題となっており,その発症メカニズムの研究も進んでいる.PDに見られる進行性の神経変性は,線維型αシヌクレインの脳内伝播に関連していると考えられている.αシヌクレインはシナプスの機能制御や神経の可塑性に関与すると推定されているが,凝集により神経毒性を発揮する.そのため,細胞外のαシヌクレインを除去することは,その伝播や凝集を抑制するための有力な方法となる可能性がある.本トピックスでは,最近報告されたアストロサイトによるαシヌクレインの新たな細胞内取込み制御と,その伝播との関連について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Filippini A. et al., Glia, 69, 681-696(2021).2) Lindstrom V. et al., Mol. Cell Neurosci., 82, 143-156(2017).3) Kawahata I. et al., Biomed., 9, 49-62(2021).
著者
山本 明子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.949_1, 2014

この原稿の締め切りの1週間前にいわゆる会社の女子会があり,そこで「山本さんの目標とする人とかロールモデルってどなたでしたか?」と質問され,答えに窮した.私自身これまであまり意識したことがなかったからだ.ロールモデルは,社員が将来目指したいと思う模範となる存在で,そのスキルや具体的な行動を学んだり模倣をしたりする対象となる人材のこと.ロールモデルの必要性は,女性活用推進のアクション・プランなどで指摘されていて,企業におけるロールモデルの育成など,普及のための様々な取り組みが行われている.ロールモデルは一人とは限らなくて,社内にいなければ社外でもいいし,同性でなくてもよいそうだ.
著者
木村 真梨
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.699-701, 2017

近年鍼灸の臨床効果が世界各国で科学的に解明されようとしている。うつに対する鍼灸治療の効果としては筋緊張の緩和、免疫の活性化、前頭葉の活動や自律神経の調整、オキシトシンの分泌を促し、セロトニンの分泌を増加させる等、不安やストレス軽減にも寄与することが明らかになってきた。本稿では、最近の鍼灸の基礎・臨床研究の現状を紹介するとともにうつに有効なツボや東洋医学の理論について概説する。
著者
荒田 洋治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.258_1, 2017

薬学と関りをもった50年の間,筆者が経験した事柄を,様々な観点から捉え,日本薬学会会員に向けて綴った短いエッセイ集です。
著者
伊藤 翔子 高橋 正倫 石川 大
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1077-1081, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1

近年の腸内細菌分析法の発展により,腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)と様々な疾患との関連が明らかになってきた.潰瘍性大腸炎(UC)もdysbiosisの関与が疑われる疾患の一つであり,dysbiosisを是正する手段として便移植(FMT)に注目が集まっている.しかし,UCに対するFMTの有効性は未だ確立されていない.本稿ではUCに対するFMT,特に抗菌薬療法(AFM療法)をFMTの前治療として併用する抗菌薬併用便移植療法(A-FMT)について概説する.
著者
竹之内 康広
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.714, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
4

糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症の1つであり,成人における失明原因の上位を占める.その発症経過は,まず自覚症状のないまま網膜の浮腫・出血および虚血を起こす非増殖網膜症の段階を経る.その後,損傷により生じた新生血管が破綻して増殖膜が生じ,網膜を牽引することで網膜剥離をきたす増殖網膜症という深刻な状態に陥る.網膜の血管内皮細胞は周皮細胞により被覆され,血管壁を形成している.糖尿病による非増殖網膜症時には,周皮細胞の減少や無細胞毛細血管の増加が認められ,血管破綻の原因となる.併せて血管透過性の亢進も認められ,血管外漏出に関与すると考えられている.n-3系多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)は網膜の主要な構成成分であり,摂取による組織レベルでの上昇は網膜傷害後の血管再生を増加させるなど目に良い効果が報告されている.体内に摂取されたDHAは,中間体であるエポキシドコサペンタエン酸を経て,可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)によりジヒドロキシドコサペンタエン酸(DHDP)へと代謝される.本稿では,sEHの過剰発現に伴う19, 20-DHDPの産生増加が糖尿病網膜症の悪化に関与することを示したHuらの研究について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Antonetti DA. et al., N. Engl. J. Med., 366, 1227-1239(2012).2) Malamas A. et al., Int. J. Ophthalmol. 10, 300-305(2017).3) Spector AA., Kim HY., Biochim. Biophys. Acta, 1851, 356-365(2015).4) Hu J. et al., Nature, 552, 248-252(2017).
著者
荒田 洋治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.260_1, 2016

薬学と関りをもった50年の間,筆者が経験した事柄を,様々な観点から捉え,日本薬学会会員に向けて綴った短いエッセイ集です。

1 0 0 0 OA 薬の名前

著者
高取 吉太郎 男全 精一 山本 平
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.113-118, 1979-02-01 (Released:2018-08-26)

名は体を表すというが, 薬の名前にしたところで, 化学名や症状の特徴をうまくとらえた名前は覚えやすく親しみやすい.それでいて時代を画した薬の名前は何やら威厳が備っているものだ.薬の名前は患者に希望を与えるものでありたいし, 処方する医師, 調剤する薬剤師には, どんなに繁忙な時にも間違いを起すことのない明瞭で信頼性の高いものであって欲しい.そして日本で生れた薬の名前も世界に通用するものであって欲しい.
著者
大野 忠夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1, 2017

2016年7月1日,筆者は知り合いの医師から「オプジーボは,処方医師に専門医資格を求められるなど,未だ使用にハードルが高い薬であるため,自由診療であっても,あるいは自由診療だからこそ,今回の適用外使用は見合わせよう,ということになりました.」というメールを受け取った.直前の6月4日にシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)では(ASCOの間はがんにかかるな,という冗談があるほど,全米のがん治療医が参加する主要学会),オプジーボのような抗体医薬によるがん免疫療法は,もはや臨床現場でも選択肢の1つとして当たり前の治療法になっており,既に話題のピークを過ぎていた.本抗体の劇的な効果がもともとは国内(京都大学)で発見されたにもかかわらず,がん治療の臨床現場レベルになると,我が国は遅れをとってしまっている.既に,「抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)がPD-L1高発現の進行性非小細胞肺がん患者に対するファーストライン治療として,無増悪生存期間および全生存期間において化学療法に対する優越性を示す」(2016年6月28日,https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/release/16/06/28/02114/)という現実が目の前に来ているのだが・・・.<br>日本でもまもなく,「ファーストラインでがん免疫療法を行う」という意味を,医師は患者に説明しなければならなくなるであろう.しかし周知のように,がん免疫療法は手術・放射線・抗がん剤に継ぐ第4の治療法と期待されながら,実際には大学病院も含めて国内のごく普通の臨床現場では,未だに「まだ分からない治療法」なのである.<br>すなわち,国内で承認済みの免疫チェックポイント阻害剤にとどまらず,身体に広く影響が及ぶがん免疫療法の真の意義については,我が国ではごく一部の専門医を除けば,臨床現場におけるほとんどのがん治療医がまだ理解していないのである.まして,医師の処方せんをチェックする薬剤師ではどうかと言えば,(少なくとも本稿執筆時点では)全員素人だと言われても仕方がない状況なのではないか.<br>がん化学療法とがん免疫療法の関係で言えば,「まず抗がん剤治療ありき」から,「最初からがん免疫療法を実施する(これまでの抗がん剤治療に先んじて)」へ,優先順位が逆転するという,いまや常識のコペルニクス的大転換の時代に入っているのである.また,我が国では高齢化に伴ってがん患者は増える一方であり,既に年間37万人ものがん死者がいる.だからこそ,猛烈なスピードで進化しつつあるがん治療法(特にがん免疫療法)について,ファルマシアの読者にはぜひ勉強してもらいたいと願っている.<br>少しでも勉強すれば,誰でもがん治療の臨床現場で最先端の知識を身につけられるのである.時代に置いてけぼりにされるより,はるかに面白いのではなかろうか.
著者
徳永 恵津子 柴田 哲男
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.330-334, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
22

サリドマイドの催奇形性はS型の光学異性体に起因し, R型サリドマイドは催奇形性を持たない.しかし,R型のサリドマイドであっても,生体内でS型とR型の等量混合物(ラセミ体)に変化してしまうことから,サリドマイドは現在もラセミ体で流通している.では,ラセミ化するにもかかわらず,なぜ,R型サリドマイドには催奇形性が見られなかったのか.一筋縄ではいかない光学異性体の挙動に迫る.
著者
岩見 真吾 キム カンスウ
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1119_3, 2020 (Released:2020-12-01)

数理モデルでは,個体の初期状態ならびに様々な個体変数の影響(パラメータ)を考慮して,個体集団の変化を表せる.数理モデルのシミュレーションでは,これら変数が時間経過に伴って変化する様を可視化できる.なお,変数の変化が直前の状態によって完全に決定されるような場合を「決定論的シミュレーション」と呼び,確率的に決定される場合を「確率論的シミュレーション」と呼ぶ.決定論的シミュレーションでは,初期値とパラメータが決まれば,変数の変化は常に同じとなる.
著者
金澤 勝則
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1184, 2015

黄色ブドウ球菌(<i>Staphylococcus aureus</i>,以下SA)は,市中感染および院内感染の原因菌として,人類が歴史的に最も長く戦ってきた病原細菌の1つである.古くは1940年代にペニシリンの発見により画期的な治療手段を手にするも,早々にペニシリン耐性菌が出現し,その後もメチシリンをはじめとする新たな抗菌薬の開発とSA側の耐性獲得が交互に繰り返されてきた.感染症の克服において目指すべきゴールは,その予防法の確立である.メチシリン耐性株(MRSA)を含めたSAに関しても,長年多くの企業や研究組織により,予防ワクチンの研究,開発が試みられてきたが,いまだその実用化には至っていない.本稿では,SAワクチンの候補の1つであるNDV-3ワクチン(NovaDigm Therapeutics社)のMRSA皮膚・皮膚組織感染の予防効果および重症化防止効果ならびにその作用機序に関するYeamanらの研究論文を紹介する.<br>なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.<br>1) Jansen K. U. <i>et al</i>., <i>Vaccine</i>, 31, 2723-2730 (2013).<br>2) Schmidt C. S. <i>et al</i>., <i>Vaccine</i>, 30, 7594-7600 (2012).<br>3) Yeaman M. R. <i>et al</i>., <i>Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A</i>., 111, E5555-5563 (2014).<br>4) Yeaman M. R. <i>et al</i>., <i>Front. Immunol</i>., 5, doi : 10.3389/fimmu.2014.00463 (2014).<br>5) Lin L. <i>et al</i>., <i>PLoS. Pathog</i>., 5, doi : 10.1371/journal.ppat.1000703 (2009).