著者
袴塚 高志
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.99-103, 2021 (Released:2021-02-01)

日本の生薬・漢方製剤の安全性,有効性及び品質は,公定書(日本薬局方及び局外生規[日本薬局方外生薬規格])を基礎として,GMP(Good Manufacturing Practice),GQP(Good Quality Practice),GVP(Good Vigilance Practice),GACP(Good Agricultural and Collection Practice)などにより多面的に確保され,各事業者が実施するべき個別の要件は製造販売承認書に規定されている.本稿では,現代日本の薬事制度において承認を受けた天然物医薬品としての生薬に限定して,その品質確保に資する取り組みについて主に制度の面から解説する.
著者
福島 若葉
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.1029-1033, 2019

インフルエンザワクチンは, 国際的にも長く使用されてきたワクチンの1つであるが, その有効性について批判の絶えないワクチンでもある. 一方, そもそもワクチンの効果はどのように評価すべきか, 「ワクチン有効率」の数値が何を意味しているかについて, 正確に答えられない方も多いのではないだろうか. 本稿では, インフルエンザワクチンを例に, ワクチン有効性の概念について解説するとともに, 今後のワクチン開発の展望について述べる.
著者
周東 智
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.340_1, 2019

学生達のやる気は、研究室も変えるし彼らの将来も左右する。自分が「言われたことはしたくない」ので、学生にも「これをやれ、こうしろ」とは言いたくない。そんな訳で、自ら立ち上げた研究室は「良くても悪くても、日本で一番自由な有機化学の研究室」との評である。多くの志士を見出した"そうせい侯"毛利敬親よろしく、学生の提案に肯くばかりの"そうしな教授"が理想だが、中々そうもいかない。
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.978-979, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

今年もまた,秋の風が感じられる季節がやってきた.冬生まれの筆者は夏の暑さが何よりも苦手であり,暑さから逃れられる秋から冬にかけては大好きな季節でもある.しかし,あの暑苦しい夏が大好きという方も大勢いらっしゃるようで,夏をテーマにした音楽や,夏を取り上げた文学の名作も数多い.我が国では,清少納言の枕草子に有名な「夏は夜.月のころはさらなり.やみもなほ,蛍の多く飛びちがひたる.また,ただ一つ二つなど,ほのかにうち光りて行くもをかし.雨など降るもをかし.」のくだりがあるし,英国では,もちろんウィリアム・シェークスピアのそのものずばり「真夏の夜の夢」がある.全5幕からなり,アテネ近郊の森に足を踏み入れた貴族や職人,森に住む妖精たちが登場する.人間の男女は結婚に関する問題を抱えており,妖精の王と女王は養子を巡りけんかをしている.しかし,妖精の王の画策や妖精の一人であるパックの活躍によって最終的には円満な結末を迎えるというよく知られた戯曲である.実在について賛否の議論もあるシェークスピアだが,写楽と同じように,別人説もかまびすしい.有名なところでは,フランシス・ベーコン同一人説などがある.数百年前の人物についてそんなことを調べるなど至難の業であると思っていると,その人の書いた文章の書き癖から統計学を使って同一人であるかどうかを調べてみようという興味深い研究手法があるのだ.これを「計量文献学」と呼ぶ.
著者
櫻井 文教 水口 裕之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1099-1103, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
13

B型肝炎ウイルス(HBV)の感染を原因とするB型肝炎は、最終的に肝硬変、肝癌へと進行することから、革新的治療薬の開発が求められている。しかし現在、HBVが感染可能な培養細胞はわずかであり、新規治療薬の開発ならびにHBV感染機構の解明に向けては、利便性の高いin vitro感染評価系の開発が急務である。一方でヒトiPS細胞由来肝細胞は、肝細胞に感染する病原体の感染評価系として適した特性を有している。本稿では、ヒトiPS細胞由来肝細胞のHBV感染評価系としての有用性について紹介する。
著者
吉見 陽 野田 幸裕
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.855-859, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
6

統合失調症,うつ病や双極性障害を代表とする精神疾患の診断や薬効・副作用評価は,客観的な指標が確立していないため,医療面接により精神症状の種類や程度,臨床経過を把握することで症候学的に判断される.適切な精神科薬物療法を実施する上で,向精神薬の薬理学的特性に精通することに加え,近年ではバイタルサインや医療データ,フィジカルアセスメントによる全身状態の把握も重要視されるようになってきた.本稿では,精神疾患の薬物療法におけるバイタルサインや医療データ,フィジカルアセスメントの有用性について概説する.
著者
鹿角 契
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1150_4, 2018

顧みられない熱帯病(Neglected tropical diseases: NTDs)はWHO(世界保健機関)が「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」と定義している疾患群のことを指す.デング熱,狂犬病,トラコーマ,ブルーリ潰瘍,トレポネーマ感染症,ハンセン病,シャーガス病,アフリカ睡眠病,リーシュマニア症,嚢虫症,メジナ虫症,包虫症,食物媒介吸虫類感染症,リンパ系フィラリア症,河川盲目症,住血吸虫症,土壌伝播寄生虫症,マイセトーマ,有毒ヘビ咬傷が含まれる.
著者
荒田 洋治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.556_1, 2016

薬学と関りをもった50年の間,筆者が経験した事柄を,様々な観点から捉え,日本薬学会会員に向けて綴った短いエッセイ集です。
著者
平田 純生
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.863-867, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
8

実際の例を示して,それに基づき本稿の重要性についての解説を進めたい.腎機能の評価ミスにより投与設計を誤ったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant staphylococcus aureus:MRSA)感染症症例有料老人ホームに長期入居の男性(年齢90歳,体重37.7kg,身長150cm)が体調不良を訴え入院.入院時検査値は血清クレアチニン(Cr)0.34mg/dL,血中尿素窒素(BUN)5.1mg/dL,血清アルブミン1.7g/dLで,MRSA敗血症と診断され,尿中排泄率90%のバンコマイシンの投与設計を行った.日本人向け糸球体ろ過量(GFR)推算式では正常値は100mL/min/1.73m2であるが本症例では推算GFR(eGFR):mL/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×Age-0.287=173.6mL/min/1.73m2のような高値が算出された.しかし上記eGFRの値の単位はmL/min/1.73m2であり,体表面積補正をしていないことから,薬物投与設計に用いるべきではない.そのためDu Boisの式を用いて体表面積を算出すると体表面積(BSA:m2)=体重(kg)0.425×身長(cm)0.725×0.007184=1.27m2となり,173.6mL/min/1.73m2を1.27m2で補正を外すと127.4mL/minと算出された.この腎機能を用いて解析ソフトで計算すると定常状態の血清バンコマイシン濃度の最低血中濃度(トラフ値:次回投与前濃度)は15μg/mになるはずであったが,実測値は28μg/mLと高値になり,バンコマイシンによる腎障害により,血清Cr値が7.6mg/dLに上昇し透析導入が必要になった.実はこの症例は腎機能の見積もりを誤ったために薬剤性腎障害を来したと考えられる.腎排泄性薬物の投与設計には薬物の尿中排泄率と患者の腎機能が必要であるため腎機能の正確な把握は,中毒性副作用を減らすためにも,薬物投与設計上の基本と言える.上記症例のような誤りを起こさないためにも,腎機能を正しく把握するコツと理論について以下に記載する.
著者
見坂 武彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.64, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
4

種々の動物を宿主として自然界に広く分布するA型インフルエンザウイルスは,赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の亜型によって分類される.通常,宿主動物に固有の亜型があるが,水きん類ではその全てが存在する.トリインフルエンザウイルス(AIVs)は,変異により他の動物にも感染することがあり,その際,ゲノムとして保有する8つの分節RNAの一部が異種動物ウイルスのものと交雑し,抗原性が変化する.このため,AIVsは新型インフルエンザの出現に深く関与してきた.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Olsen B. et al., Science, 312, 384-388 (2006).2) Miller G. D. et al., Antarct. Sci., 20, 455-461 (2008).3) Hurt A. C. et al., mBio, 5, e01098-14 (2014).4) Webster R. G. et al., Microbiol. Rev., 56, 152-179 (1992).
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.800-801, 2014

暑さ真っ盛りである.突然のゲリラ豪雨や竜巻の発生など,10年前には考えられなかったような気候になっている.こんなに暑いと体調を崩したり,亡くなったりする方も多かろう.<br>日本では死亡理由の第1位はがんである.報道でも日本人の2人に1人はがんになるということを見聞きされることであろう.実際にがんセンターの発表でも,生涯で何らかのがんに罹患する確率は,男性で58%,女性で43%とそれぞれ確かに2人に1人の割合である.さらに男性の4人に1人,女性の6人に1人ががんで死亡している.<br>しかし,自分の身の回りで2人に1人という高い割合でがんを患っている人がいるだろうか? 確かに死亡理由でみると2人に1人ががんで亡くなっている.しかし,がんの罹患率をみると完全に年齢に依存しているのである.男女とも50歳代から徐々に罹患が増え始め,60歳代から急増する.同じくがんセンターの公表資料に「現在年齢別がん罹患リスク」がある.例えば,30歳の男性が10年後にがんに罹患する確率はわずか0.5%,20年後に罹患する確率は2%しかないのである.50歳の男性でも10年後にがんに罹患する確率は6%,20年後に罹患する確率は18%なのである.つまり,必要以上にがんに罹ることを怖れることはないというのが今回のお話のオチである.だからといって勝手気ままな生活をして,あえて罹患リスクを高める必要はないわけで,運動や食生活に気を付けてがんに罹りにくくすることが肝要である.<br>しかし,不幸にもがんに罹ってしまった場合,やはり不安に駆られてしまうのが人情であろう.著者は,幸いにも入院するような大病に罹ったことはないが,人一倍臆病なのでそういう状態で入院した場合,看護師さんはきっと天使のように見えることであろう.<br>「クリミアの天使」と呼ばれたフローレンス・ナイチンゲールのことは,皆さんよくご承知のことと思う.しかし,彼女が看護師としての業務に就いたのは,90年の生涯のうち,わずか2年でしかないということをご存じだろうか.
著者
今井 由美子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.295-299, 2014 (Released:2016-06-01)
参考文献数
16

インフルエンザウイルスは,弱毒型の季節性インフルエンザウイルスであっても,高齢者,乳幼児,妊婦,あるいは糖尿病,喘息,免疫不全などの合併症のあるヒトが感染すると,重症化して死に至ることがある.一方,強毒型のH5N1鳥インフルエンザウイルスはヒトに感染すると高率に呼吸不全や多臓器不全などの致死的病態を引き起こす.さらに昨年,中国でH7N9鳥インフルエンザウイルスのヒトでの感染が見つかった.WHOによると,2013年8月12日時点で135例の感染者が報告され,うち44例が死亡したと報告している.いったんインフルエンザがヒトにおいて重症化すると,オセルタミビルなどの抗インフルエンザ薬はもはや無効となり,集中治療室(ICU)において人工呼吸をはじめとした救命治療が必要となるが,今までのところ重症化したインフルエンザに対して有効な治療法はない.現在,抗インフルエンザ薬として使用されているのは,ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル,ザナミビル等)であるが,これはウイルスタンパク質を標的としているので,最近は耐性を持つウイルスが出現している.またノイラミニダーゼ阻害薬は,感染から48時間以内に投与すると効果があるものの,それを過ぎて投与した場合には,効果がないことが報告されている.一方,現状のワクチンは流行する可能性のある亜型ウイルスを予測して個々に生産する方式である.すべての亜型ウイルスを幅広く防御することを目的としたユニバーサルワクチンの開発が進められているが,これはいまだ実用化には至っていない.ところで,ウイルスは宿主の細胞内小器官を利用して増殖する.ウイルスが侵入した宿主細胞ではウイルスとの相互作用から様々なシグナル伝達系が動き出し,ウイルス・宿主の相互作用が感染症の病態形成の鍵を握る.そこで,従来のウイルスタンパク質を標的とした抗インフルエンザ薬に加えて,ウイルス・宿主の相互作用の観点から宿主を標的にした新しい抗インフルエンザ薬の開発が必要であると考えられる.近年,インフルエンザウイルスと宿主の相互作用に関して,プロテオーム,トランスクリプトーム,あるいはRNA干渉(RNAi)法を用いたデイスラプトーム等のゲノムワイドな解析が行われている.しかしながら,DNA,RNA,タンパク質,その先で機能する生体内化合物,特に脂溶性化合物に関しては,ウイルス感染症における動態,ウイルスの増殖における役割は不明である.今回筆者は,脂肪酸代謝物のライブラリーを用いたスクリーニングと質量分析法による脂肪酸代謝物のリピドミクス解析を通して,多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acids:PUFA)由来の代謝物プロテクチンD1(Protectin D1:PD1)がインフルエンザウイルスの増殖を抑えることを見いだした.PD1は,これまで抗炎症作用を有する脂肪酸代謝物として知られていた.今回筆者は,PD1が従来の抗インフルエンザ薬とメカニズムを異にし,ウイルスRNAの核外輸送を抑制することによって作用することを見つけた.
著者
F. W. FOONG
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.1009-1011, 2014 (Released:2016-09-30)
参考文献数
1
被引用文献数
1

前回は科学的思考および概念を表現するために,Qualitative,Quantitative,Specific,Objectiveが重要であることを概説した.そこで今回より2回にわたり,科学英語を「書く」際に必要とされる文法の基本を習得することの重要性に焦点を当てて解説する.