著者
岩見 真吾 キム カンスウ
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1119_3, 2020 (Released:2020-12-01)

数理モデルでは,個体の初期状態ならびに様々な個体変数の影響(パラメータ)を考慮して,個体集団の変化を表せる.数理モデルのシミュレーションでは,これら変数が時間経過に伴って変化する様を可視化できる.なお,変数の変化が直前の状態によって完全に決定されるような場合を「決定論的シミュレーション」と呼び,確率的に決定される場合を「確率論的シミュレーション」と呼ぶ.決定論的シミュレーションでは,初期値とパラメータが決まれば,変数の変化は常に同じとなる.
著者
金澤 勝則
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1184, 2015

黄色ブドウ球菌(<i>Staphylococcus aureus</i>,以下SA)は,市中感染および院内感染の原因菌として,人類が歴史的に最も長く戦ってきた病原細菌の1つである.古くは1940年代にペニシリンの発見により画期的な治療手段を手にするも,早々にペニシリン耐性菌が出現し,その後もメチシリンをはじめとする新たな抗菌薬の開発とSA側の耐性獲得が交互に繰り返されてきた.感染症の克服において目指すべきゴールは,その予防法の確立である.メチシリン耐性株(MRSA)を含めたSAに関しても,長年多くの企業や研究組織により,予防ワクチンの研究,開発が試みられてきたが,いまだその実用化には至っていない.本稿では,SAワクチンの候補の1つであるNDV-3ワクチン(NovaDigm Therapeutics社)のMRSA皮膚・皮膚組織感染の予防効果および重症化防止効果ならびにその作用機序に関するYeamanらの研究論文を紹介する.<br>なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.<br>1) Jansen K. U. <i>et al</i>., <i>Vaccine</i>, 31, 2723-2730 (2013).<br>2) Schmidt C. S. <i>et al</i>., <i>Vaccine</i>, 30, 7594-7600 (2012).<br>3) Yeaman M. R. <i>et al</i>., <i>Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A</i>., 111, E5555-5563 (2014).<br>4) Yeaman M. R. <i>et al</i>., <i>Front. Immunol</i>., 5, doi : 10.3389/fimmu.2014.00463 (2014).<br>5) Lin L. <i>et al</i>., <i>PLoS. Pathog</i>., 5, doi : 10.1371/journal.ppat.1000703 (2009).
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.102-103, 2018

ミニ特集:ゲノム編集360度<br>ミニ特集にあたって:科学者でなくとも,世界中でゲノム編集がホットなことは知っているに違いない.何しろ,今までの成功確率の低かった遺伝子操作から格段に進化し,タイプライターで遺伝子配列を打ち生むように簡単になったと言われている.米国では2人のグループが特許争いを繰り広げている.かたや,映画ジュラシックパークに感動したフェン・ジャン,かたや,モデル張りの美人コンビのジェニファー・ダウドナとエマニュエル・シャルパンティエ.また,世界に負けまいとする日本の科学者の奮闘も見逃せない.ゲノム編集を活用した細胞,食物,動物の作製にとどまらず,治療への可能性も見え始めた.一方で社会的な影響は考える必要がある.本特集号では,ゲノム編集を360度楽しみ,考えていただきたい.<br>表紙の説明:『薬種抄』の人参図 人参は『神農本草経』の上品収載薬で,古来,霊薬として貴ばれた.表紙の図は,『薬種抄』の冒頭に掲載された人参の図と解説の一部.掲示品は平安時代の成蓮房兼意が撰し,保元元年(1156)に書写され,京都の醍醐寺遍智院に伝来したもの.人参の部分は中国宋代の『重広補注神農本草幷図』(1092)からの引用とされ,同書は既に失われたため,『薬種抄』の図は現存最古の人参図として貴重である.武田科学振興財団杏雨書屋所蔵.重要文化財.
著者
岡村 麻子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.234-239, 2020

女性のライフステージは、小児期・思春期・成熟期・更年期・老年期に区分される。いずれの領域、ライフステージにおいても漢方治療は単独でも西洋医学との併用でも役に立ち、なくれはならない治療法である。新しい命を生み出す本能を備えているのが女性であるが、その底力を支える治療方法であり、少子高齢化対策の一助となり得る。漢方治療の恩恵を得て一人でも多くの女性が笑顔で元気に世の中を明るく照らす存在になってほしい。
著者
渥美 聡孝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.70, 2018

近年,九州では大型肉食恐竜の歯の化石が発見され,恐竜研究の地として注目を集めている.古代生物の化石は生物史や系統学,分類学など古生物学的に重要な意義を持つものである.化石の中には竜骨という名で生薬として用いられるものもあるが,恐竜に由来するものではない.第17改正日本薬局方では,竜骨は「大型ほ乳動物の化石化した骨で主として炭酸カルシウムからなる」と規定されており,漢方薬原料として用いられている.しかし近年は中国政府が竜骨の採掘を制限するなど,資源枯渇に対する危機感が露わになっている.したがって,持続的利用のために竜骨代替品などの検討が行われているが,原動物が不明瞭なため対策が困難な状態にある.竜骨は東大寺正倉院にも収蔵されており,奈良時代の生薬が今も残っている.この竜骨は過去の調査でシカ科動物の化石であるとされているが,現在の市販品について分類学的に原動物の調査をした報告はない.今回,日本と中国の市場品竜骨について検討した報告がなされたので紹介する.<br>なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.<br>1) Oguri K. <i>et</i> <i>al</i>., <i>J</i>. <i>Nat</i>. <i>Med</i>., <b>71</b>, 463-471(2017).<br>2) Oguri K. <i>et</i> <i>al</i>., <i>J</i>. <i>Nat</i>. <i>Med</i>., <b>70</b>, 483-491(2016).
著者
津田 宏治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.993-997, 2014

私の製薬業界に関する知識は非常に限られたものであるが,日本の製薬業界の競争力は必ずしも高くないように見える.特に,医薬関係で膨大な貿易赤字を計上している点からもその傾向はうかがえる.一般に日本企業は,欧米企業に比べて情報解析力,特に独自のアルゴリズムを開発する能力に劣り,このことは競争力低下の一因となっているのではないだろうか.ビッグデータという言葉に代表されるように,薬学・分子生物学を巡るデータの量は急激な増加を続け,計算機とアルゴリズムなしには,到底対処できない.データ解析力を高めなければ,世界にごしていくことはできないのではという危機感が最近ようやく高まってきたようである.しかし私の意見では,そのような軽い危機感では全く不十分であり,データ解析力が国力を大きく左右する時代がきたのではないかと考えている.<br>2006年,マイクロソフトのJim Grayは,著書の中でデータ中心科学という概念を提唱した.これは,経験科学,理論科学,計算科学に次ぐ,第四の科学的パラダイムである.単純化して言うと,これまでの科学では経験や知識に基づいて仮説を想起し,その仮説を極めて限られた量のデータを生み出す実験によって検証する形で,発見が行われてきた.それに対し,21世紀の科学であるデータ中心科学では,仮説を決める前に網羅的に大量のデータを取得する.そのデータを解析アルゴリズムにかけた結果を見て仮説を生成し,従来のように検証実験を行うという流れになる.言うまでもなく,大きな違いは解析アルゴリズムが科学的発見のフローの中に組み込まれている点であり,その優劣が最終的な発見の量と質を決定する.このような方法論の変化は,生物学・薬学のみで起こっているわけではない(図1).化学・物理学・マクロ経済学・スマートグリッド・環境エネルギーなど,あらゆる分野から膨大なデータが生み出され,それを解析できる人材が求められている.
著者
我妻 弘基
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.771, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
3

DNAエンコードライブラリー(DNA-encoded library: DEL)を用いたスクリーニングは,有用なドラッグディスカバリーの手法である.DELは,化合物とDNAを結合させ,化合物情報をDNA配列に対応させた数兆規模の化合物ライブラリーである.固定化された標的タンパク質に対して,DELの化合物をアッセイしたのちに洗い流すことで,標的タンパク質と相互作用した化合物を選抜する.これらの化合物からDNAを切り出し,その配列を読み込むことで化学構造を同定する.DNAはPCRで増幅させることができるため,ごく少量の化合物でも評価できるのが大きなメリットである.一方,大規模なDELを構築するためには,水中において,DNAに含まれるアルコールやアミンの存在下,低濃度(1mM)の化合物を用いる条件でも進行する反応を選択する必要がある.そのため,使用できる基質や反応条件が限られており,DELの多様性が増加しにくいという課題を抱えており,この課題を解決するための反応条件の開発が求められている.金属触媒を用いたカップリング反応はDEL構築に有用であるが,sp2炭素のカップリングにとどまっている.Yuらは,多様なDELの構築に有効なsp3炭素のC-H結合活性化反応を報告したので,本編で紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Neri D. et al., Drug Discovery Today, 21, 1828-1834(2016).2) Yu J. -Q. et al.,Chem. Sci., 11, 12282-12288(2020).3) Yu J. -Q. et al., Chem. Rev., 117, 8754-8786(2017).
著者
關 光 Soo Yeon Chung 村中 俊哉
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.710-714, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
16

グリチルリチンは生薬「甘草」に含まれる主な有効成分であり,抗炎症,肝庇護作用など多様な薬理作用を持つトリテルペノイド配糖体である.グリチルリチンはまた,砂糖の150倍以上の甘さを持つことから天然甘味料としても使用される.筆者らは最近,グリチルリチン生合成経路において唯一未同定となっていた糖転移酵素を同定し,本遺伝子を導入した組換え酵母細胞内でグリチルリチン生合成経路を再構築することに成功した.
著者
荒田 洋治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.884_1, 2015 (Released:2018-08-26)

産褥熱は,現在,特に若い年齢層にはあまり通じない表現のようである.ちなみに,広辞苑第六版では,「産褥期に産道の創傷から連鎖球菌などが侵入して起こる発熱性の疾病」と説明されている.
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.818-819, 2016

特集にあたって:近年,様々な分野で「大麻・カンナビノイド」が注目を浴びつつある.大麻はもちろん大麻取締法で規制される依存性薬物であるが,医療用大麻は日本以外では鎮痛や食欲増進,吐き気の緩和などを目的に使われているのも事実である.そこで本特集号では大麻草や内因性カンナビノイドシステムの現況をより深く知り,米国での医療用大麻使用や社会問題化した危険ドラッグの実情に迫るとともに,創薬標的としてカンナビノイドCB<sub>1</sub>,CB<sub>2</sub>受容体に焦点を当て,化学系・生物系・医療系など多分野の先生方にご執筆いただき,分野横断的な特集とした.<br>表紙の説明:近年,大麻草(右下)に注目(一筋の光り)が集まりつつある.医療用大麻は世界では欠かせない医薬品になりつつあり,大麻の主要成分であるΔ<sup>9</sup>-THC(左手上の化合物)が特異的に作用するカンナビノイドCB<sub>1</sub>,CB<sub>2</sub>受容体(イラスト)は新たな創薬標的として研究が進むが,カンナビノイド受容体は危険ドラッグ(右手)の作用点でもあり,影の部分があることも否めない.
著者
甲斐 広文 近藤 龍也 荒木 栄一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1033-1037, 2015

生体には,外界から曝露される様々な化学的あるいは物理的刺激を感知し,あらゆる環境に適応できるシステムが備わっている.このシステムを最大限に利用した人類の英知の結晶の1つが医薬品(chemical medicine)である.一方,物理的な刺激を応用した医療機器(あるいは医療手段:physical medicine)も臨床の現場で活用されているが,chemical medicineに比較し,その作用メカニズムが分子レベルで解析されているとは極めて言いがたい.ゆえに,著者らはphysical medicineを科学的に評価・検証し,刺激条件を最適化していくことにより,安全かつ効果的な疾患治療法が確立できるのではないかと考えた.<br>本稿は,著者らが創薬研究者のスタンスで,新たな医療機器の開発にチャレンジした約10年間の研究成果を総説としてまとめたものであり,その中でも,特に新しい生体応答刺激(特定条件の微弱パルス電流)について,さらに,その特定の刺激を温熱と併用するという新たな疾患予防および治療法について,基礎・臨床試験の結果をもとに紹介する.