著者
小嶌 隆史 池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.387-391, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
12

近年の医薬品開発においては,様々な機能を持った製剤が展開されている.経口製剤だけを取り上げても,腸溶性製剤,可溶化製剤,持続吸収型徐放製剤,舌下錠,口腔内崩壊錠等,多種存在する.一方,治験初期では,原薬を出品後,治験サイトで溶解,懸濁あるいはカプセル充填して投薬されるなど,簡易な製剤で開発される場合もある.いずれの製剤においても,多くの場合,使用される原薬形態は結晶性の粉末である.結晶は非晶質と比較して物理的・化学的に安定であり,原薬および製剤の品質保持において優位であるだけでなく,製造における堅牢性確保の点からもメリットは多い.これに対し,溶解性の改善などを目的とした非晶質製剤として開発する場合には,品質や製造性の担保のための工夫がなされている.すなわち,高品質な医薬品を安定的に患者さんに届けることを使命とする製薬企業において,医薬品開発を俯瞰的に捉えた開発形態の選定は重要な項目である.過去には,不十分な開発形態の選定が原因による特許訴訟や製造中止の事例が報告されている.企業経営の問題にとどまらず,患者さんや広く社会に及ぼす影響も大きいことから,製薬企業には適切な開発形態の選定が求められている.本稿では,医薬品開発における開発形態選定の現状に加え,物性・原薬製造工程・製剤化工程研究を交えた新たな展開について紹介する.
著者
伊藤 亮一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.450-454, 2017 (Released:2017-05-01)
参考文献数
3

製剤の品質規格に関しては、通常の規格及び試験方法は、ICHQ6Aに基づき、またRTRTは、ICHQ8(R2)において、規定される。有効期間の設定に関しては、ICHQ1Eで規定されている統計学的手法に基づき、「長期保存試験結果から外挿する場合」及び「共分散分析を用いた場合」の設定方法に関して、解説した。また規格及び試験方法・有効期間の変更に関しては、類縁物質のHPLC法(アイソクラティク法)からHPLC法(グラジエント法)へ変更される場合の要求条件及び有効期間の24箇月から36箇月への変更事例を解説した。
著者
村瀬 辰史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.420-424, 2017 (Released:2017-05-01)
参考文献数
6

医薬品は健康維持に重要な役割を果たす一方で,その品質不良は生命に悪影響を及ぼす可能性がある.そのため,医薬品・原薬の品質管理では,試験による品質の確認だけでなく,深い理解を伴った頑健な製造工程によって,高品質の製品を間違いなく製造すること,すなわち「品質を製造工程で造り込む」Quality by Design(QbD)が重要視されている.本稿では,工程の頑健性を示す方法論の1つとして統計手法に着目し,その活用に向けた環境作りと,当社開発プロジェクトでの実践例について紹介する.
著者
山口 卓朗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1081, 2018 (Released:2018-11-01)
参考文献数
3

X線結晶構造解析法は,最も有力な分子構造解析法の1つであるが,解析対象化合物の結晶化が必須であるという大きな制約がある.この制約を解消する画期的な材料として登場したのが,結晶スポンジ(crystalline sponge: CS)である.CSは多孔性錯体結晶であり,孔の内部に他の化合物を取り込むことができる.解析対象化合物の溶液にCSを浸すと,溶液から取り込まれた化合物が孔の内部で単結晶のように規則正しく整列する仕組みになっており,そのままX線結晶構造解析に用いることができる.CSを用いた構造解析法は結晶化が困難な化合物や液状化合物にも適用できることから,天然物化学や合成化学の研究を迅速化すると考えられている.しかしながら,CS法にも1つ問題がある.それは,CSに取り込まれにくい化合物,いわゆる親和性が低い化合物には,取り込みを促す条件検討が必要となるため,親和性が高い化合物と比較して測定までに長時間を要することである.そこでWadaらは,効率的にCS法を用いるために,多数の化合物の中から親和性の高い化合物を選別する新規ワークフローを開発したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Inokuma Y. et al., Nature, 495, 461-466(2013).2) Wada N. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 57, 3671-3675(2018).3) Kersten R. D. et al., J. Am. Chem. Soc., 139, 16838-16844(2017).
著者
壬生 百香
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1104-1105, 2017 (Released:2017-11-01)

私は、平成15年3月に岐阜薬科大学薬学部を卒業したあと、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科修士課程、三重県庁勤務、早稲田大学ロースクール等を経て、平成25年に弁護士としてのキャリアを開始した。これまでの取扱分野は、医薬分野、知的財産権、企業法務から一般民事、家事事件まで多岐にわたる。本稿では、いくつかの弁護士の業務について話すことで、弁護士の仕事を読者の皆さんに紹介したい。
著者
堀 久男
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.54-58, 2014 (Released:2016-02-01)
参考文献数
25

有機フッ素化合物は耐熱性,耐薬品性,界面活性等の優れた性質を持つ.このため様々なところで使われているが,近年になって環境残留性や生体蓄積性,さらには廃棄物の分解処理が困難といった負の側面が顕在化しつつある.環境中で検出されているのは主に界面活性剤として用いられてきたペルフルオロアルキルスルホン酸類(PFAS類,CnF2n+1SO3H)やペルフルオロカルボン酸類(PFCA類,CnF2n+1COOH),およびそれらの誘導体である.中でもペルフルオロオクタンスルホン酸(C8F17SO3H,PFOS)やペルフルオロオクタン酸(C7F15COOH,PFOA)といった化合物は生体蓄積性が高いため,使用や排出に関する規制(自主規制も含む)が世界的に進行している.このような有機フッ素化合物の環境リスクの低減のためには,有害性の度合いに応じて排水や廃棄物の無害化を行う必要があるが,炭素・フッ素結合は炭素が形成する共有結合では最強なため容易に分解しない.焼却は可能であるものの,高温が必要であるだけでなく,生成するフッ化水素ガスが焼却炉材を損傷する問題がある.これらの物質をフッ化物イオン(F-)まで分解できれば,既存の処理技術により環境無害なフッ化カルシウムに変換できる.フッ化カルシウムの鉱物は蛍石で,硫酸処理によりフッ素ポリマーを含むすべての有機フッ素化合物の原料であるフッ化水素酸になるため,フッ素資源の循環利用にも寄与できる(図1).これまでにも電子線照射やプラズマ等の高エネルギー的な手法を使えば,フッ素ポリマーでさえ分解できることは知られていた.しかしその場合,毒性が非常に高いペルフルオロイソブチレン(CF3C(CF3)CF2,PFIB)や温暖化係数が二酸化炭素の数千倍のテトラフルオロメタン(CF4)等の有害ガスの発生が懸念されている.以上の背景から,我々はPFCA類やPFAS類,さらにはそれらの誘導体について種々の比較的穏和な反応手法を開発し,F-までの完全分解,すなわち無機化を達成してきた.本稿ではそれらについて,他の研究者の報告例も交えて報告したい.
著者
馬場 貴志
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.915, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
4

宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめ,アメリカ航空宇宙局(NASA),欧州宇宙機関(ESA)などの各国宇宙機関は,火星探査や月面居住の実現へ向けたロードマップを作成し,さまざまな面からの研究・開発を進めている.ヒトが宇宙で健全に生活するためには,安全性をはじめとする様々な面からの検討が必要であり,微生物についても大きなトピックの1つとなっており,国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟においても微生物モニタリングが実施されている.宇宙などの微小重力下においては,細菌の病原性が上昇するといった報告もあり,もし宇宙において病原微生物が増殖した場合,重大な事態を引き起こす可能性があることから,微生物への影響に関する研究が行われている.一方で,宇宙飛行によってヒトの免疫機能が低下することも報告されており,これは日和見感染のリスクが上昇する可能性があることを示している.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Ichijo T. et al., Microbes Environ., 28, 264-268 (2013).2) Wilson J. W. et al., PNAS., 104, 16299-16304 (2007).3) Borchers A. T. et al., Nutrition, 18, 889-898 (2002).4) Crabbe A. et al., Plos one, 8, e80677 (2013).
著者
秋田 英万
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1059_1, 2016

グリベラ(Glybera<sup>&reg;</sup>:ユニキュア)は,2012年にEuropean Medicines Agency(EMA)より認可された,先進国初の遺伝子治療薬である.アデノ随伴ウイルス(adeno associate virus:AAV)を用いた遺伝子導入技術を基盤としている.本薬は,リポ蛋白質リパーゼ欠損症(lipoprotein lipase deficiency:LPLD)を抱え,再発性急性膵炎を発症する患者を対象としている.極めて希少な遺伝性疾患が対象となっているものであり,多くの患者が恩恵をうけるものではないが,永年停滞してきた遺伝子治療の重要性を再認識させる歴史的な快挙である.
著者
星 和人 西澤 悟 髙戸 毅
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.109-113, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
7

再生医療という新たな治療方法が初めて新聞などで紹介されたのは1997年のことである.チャールズ・バカンティらの研究グループによるヒトの耳介を背中に埋め込んだマウスの写真は見る者に強烈なインパクトを与えるものだった.生体から採取した細胞から人工的に新たな組織を作製するというコンセプトの「再生医療」は当時,失った臓器を人工的に再生できる夢の技術として認知された.そして実際に臨床応用されるのは,近い将来のことだと受け取られていた.しかし,再生医療が実現するまでに超えなければならないハードルは予想以上に高く,2007年に国内における最初の再生医療製品「人工培養上皮ジェイス」が保険診療として認可されるまでに10年を要した.これをきっかけとして,新たな再生医療製品の認可が続くかと思われたが,現在までに国内登録された再生医療製品はジェイスのほか,2製品のみにとどまっている.再生医療を臨床応用するために検討しなければならない課題として,「細胞」「分化」「足場」の3つのキーワードがある.「細胞」は必要な質および量の細胞をどのように確保するかという課題である.例えば,肝臓サイズの再生組織を作製するためには数十~数千億オーダーの細胞が必要となる.しかし一般的に,人体から採取可能な細胞量は多くとも数百~数千万オーダーであるため,採取した細胞を培養して千倍以上に増殖させることが必要となるが,細胞の種類によって,また採取したドナーによって最適な培養条件は異なる.さらに一般的に細胞の分裂回数には上限があり,一定回数分裂するとそれ以上は増殖しない.そのため,この課題を解決することは容易ではない.細胞を生体外で人工的な方法で培養すると,分裂を重ねる度に細胞の持つ特性が喪失して未分化な状態に変化する「脱分化」と呼ばれる現象が生じる.脱分化した細胞を再生組織の細胞源に用いると,高品質の再生組織を作製することができない.そのため脱分化した細胞を再生組織の細胞源に用いる場合には,「再分化誘導」と呼ばれる方法で喪失した細胞特性を取り戻す必要がある.つまり「分化」は,脱分化を防ぐ培養法および再分化誘導法を開発するという課題である.「足場」は細胞の接着や増殖,分化を促して再生組織の形状や構造を保持するためのバイオマテリアルをどのように設計するかという課題である.足場素材の成分や構造,形状が再生組織の特性に大きな影響を持つことが知られている.再生医療を実現するためには,これらの3要素全てを極めて高いレベルで実現化する必要があり,再生医療が実現するまでに非常に多くの時間を要する一因となっている.