著者
坂上 隆彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.428-429, 2016 (Released:2016-05-01)

樋屋奇応丸は主にジャコウ、ユウタン、ジンコウ、ニンジンを含む小児五疳薬であり、「夜なき、かんむし」の薬として広く知られている。最小で直径約1.3mm、金箔・銀箔コーティングが特徴の丸剤は、1622年に初代樋屋坂上忠兵衛が創業して以来約400年にわたり製造・販売が続いている。江戸時代には大人の薬として庶民に普及していたが、現在は乳幼児にも服用できる薬として親しまれている。
著者
大谷 直子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1101_1, 2017 (Released:2017-11-01)

細胞老化した細胞からは,様々な分泌タンパク質(炎症性サイトカイン,ケモカイン,細胞外マトリクス分解酵素などのプロテアーゼ類,増殖因子など)が産生されることが明らかになり,その現象は「細胞老化随伴分泌現象(senescence-associated secretory phenotype, SASP)」と呼ばれる.SASP因子はパラクライン的に自己以外の細胞に作用し,周囲の細胞の細胞老化を誘導したり,場合によっては増殖させたり,また免疫細胞を遊走させ,老化細胞のクリアランスに働くことが知られている.オートクライン的に働き,自己の細胞老化をより強化することも示されている.重要な生理作用として,組織の損傷治癒の際に一時的にSASPが誘導されることが示された.
著者
川口 高徳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.346, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
4

糖尿病患者では,合併症として胃腸の蠕動運動障害に伴う胃不全麻痺,下痢および便秘などの消化器症状が多く見られる.糖尿病性の下痢は約22%の患者に見られ,時に重篤かつ難治性であるため臨床的に注目度が高い.従来,糖尿病性下痢の治療には,ロペラミドやタンニン酸アルブミンなどの止痢剤が用いられてきたが奏効しないことも多く,新たな治療法の開発が望まれている.この原因として,糖尿病モデルラットを用いた解析では,回腸および結腸の腸管粘膜からの水分や電解質の吸収が低下していることが報告されているが,糖尿病性下痢と特定のイオントランスポーターやチャネルとの間の因果関係についてはいまだ明らかとなっていない.これまでに,solute carrier(SLC)トランスポーターに属するNa+/H+交換輸送体NHE3などのイオントランスポーターが消化管での電解質バランスの維持に関わっており,NHE3欠損マウスでは重篤な下痢が生じることが報告されている.近年,このようなトランスポーターが足場タンパク質の1つであるNHE regulatory factor(NHERF),IP3受容体結合タンパク質 IRBIT,アクチン結合タンパク質ezrinと分子複合体を形成することが,頂端膜上でのトランスポーターの発現制御や基質輸送において重要であることが明らかとなりつつある.本稿では,膵臓β細胞を選択的に破壊したストレプトゾトシン誘発性の1型糖尿病モデルマウスを用い,腸管上皮細胞の刷子縁膜におけるNHE3とその結合タンパク質の発現の低下,複合体形成の減少が糖尿病性下痢を引き起こすことを明らかにしたHeらの論文について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Chang E. B. et al., J. Clin. Invest., 75, 1666-1670 (1985).2) Schultheis P. J. et al., Nat. Genet., 19, 282-285 (1998).3) Donowitz M. et al., J. Exp. Biol., 212, 1638-1646 (2009).4) He P. et al., J. Clin. Invest., 125, 3519-3531 (2015).
著者
大神田 淳子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1101-1106, 2014 (Released:2016-09-30)
参考文献数
25

タンパク質間相互作用(protein-protein interactions:PPIs)を対象とした創薬が広く注目されている.従来,作用面が広く浅いPPIsに対する低分子創薬は著しく困難な問題と考えられてきた.しかし近年,PPIsの分子機構に関する理解が進み,阻害剤設計の手掛かりが見えてきた.また,PPI阻害剤の分子サイズにパラダイムシフトが起こり,PPIsは以前にも増してdruggableな標的として認識されつつある.同時に,PPIsを安定化する有機分子にも,新しい切り口の医薬品や化学生物学研究の分子ツールへの応用が期待されている.本稿では,こうした背景のもと発展したPPI創薬の動向について触れると共に,我々のPPI標的型合成分子の設計に関する研究を紹介したい.
著者
砂川 智子 藤田 次郎 中村 克徳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1116-1119, 2019

2018年3月、インフルエンザ新薬「ゾフルーザ<sup>&reg;</sup>」が発売された。最先端の薬を早く提供する目的で厚生労働省が設けた「先駆け審査指定制度」が適用され、申請から5か月での発売となった。ゾフルーザ<sup>&reg;</sup>の導入により、抗インフルエンザ薬の販売シェアが大きく変化し、また耐性ウイルスの出現が話題となった。新薬も加え、現在、我が国で使用可能な抗インフルエンザ薬の薬理学的特性について、症例の背景因子を考慮しつつ概説した。
著者
橋本 正史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.534-538, 2016

2015年4月からスタートした機能性表示食品の中で機能性成分としてルテインとゼアキサンチンがあるが、消費者の認知はまだそれほど高くない。表示例としては「ルテイン、ゼアキサンチンには眼の黄斑色素量を維持する働きがあり、コントラスト感度の改善やブルーライトなどの光刺激からの保護により、眼の調子を整えることが報告されています」というのがある。表示の科学的根拠は何か又安全性はどうかということについて紹介したい。
著者
中村 通子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.660-662, 2008-07-01 (Released:2018-08-26)
参考文献数
3

予防接種に対する市民の関心を,新聞に掲載された投書から考えた.関心は,2000年代前半から大きく高まっていることが分かった.その一方で,市民に届く情報は十分ではなく,関係学会の社会的責務は大きくなっている.市民が納得し,受け入れる予防接種にするためには,双方向型の情報提供の努力と,新しいワクチン開発,そして社会経済学的な見地を含めた合意作りに向けた議論が必要だ.
著者
濱田(佐々木) 幸恵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.883, 2016 (Released:2016-09-02)
参考文献数
5

記憶には,ものを覚えること(記銘),覚えていること(保持),覚えていることを想い出す(想起)という過程がある.記銘には,訓練によって何かを習得するという学習と内容的には同じであるが,感覚情報を知覚し,固定して,記憶痕跡とする過程が含まれる.最近では,記憶を情報処理的な観点から取り扱うことが行われており,記銘をコード化,保持を貯蔵,想起を探索と呼んでいる.これまでの研究では,それぞれの記憶過程で個別の神経回路単位が対応しているのか,また記憶を探索して想起するとき海馬以外の領域が関わるかについて実験的に明確になっていない.本稿では,Rajasethupathyらによって報告された,記憶想起に関わる前頭前皮質から海馬への投射経路の役割について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Rajasethupathy P. et al., Nature, 526, 653-659 (2015).2) Frankland P. W., Bontempi B., Nature Rev. Neurosci., 6, 119-130 (2005).3) Ressler K. J., Mayberg H. S., Nature Neurosci., 10, 1116-1124 (2007).4) Taylor S. F. et al., Biol. Psychiatry., 71, 136-145 (2012).5) Wilson S. J. et al., Nature Neurosci., 7, 211-214 (2004).
著者
飯尾 彩加
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.1159, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
3

麻薬性鎮痛薬は,多幸感や快楽に加え,使用中止による嫌悪感や退薬症候の回避のため,「心」と「体」が薬を止めたくても止められない状態にする.麻薬性鎮痛薬を使用し続けようとする強い欲求は,快楽や嫌悪感回避のいずれも脳内報酬系と呼ばれる神経回路により調節されており,側坐核と呼ばれる脳領域が重要であると指摘されている.これまでの研究から,側坐核への様々な神経系の入力が快楽や多幸感を調節していることは明らかになっているが,薬物の中断による嫌悪感や退薬症候を回避するための薬物への強い渇望における側坐核の役割については,あまり知られていなかった.Zhuらは,この麻薬性鎮痛薬の中止時に見られる嫌悪感や退薬症候が,快楽を作り出す脳領域と同じ領域で作り出されるが,異なる神経回路を利用して生み出されることを明らかにしたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Zhu Y. et al., Nature, 530, 219-222 (2016).2) Pascoli V. et al., Nature, 509, 459-464 (2014).3) Browning J. R. et al., Drug. Alcohol. Depend., 134, 387-390 (2014).
著者
山﨑 ゆきみ
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.710-711, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
1

私は薬学部を卒業後,海上保安庁に入庁し,今年で35年目になる.このうちの25年間,分析鑑定業務と呼ばれる仕事に携わってきた.今回,縁あって,このコラムに投稿する機会を頂いたので,入庁のいきさつを交え,海上保安庁での仕事を紹介したい.
著者
山口 貴弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.257, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
2

多剤耐性菌は世界中で急速に発生拡散しており,多剤耐性菌感染症による健康リスクは増大している.近年,多剤耐性菌感染症の治療に効果的であるとしてコリスチンが再注目されている.コリスチンは1950年に日本で発見された抗菌薬であり,主に家畜の飼料添加物として世界中で利用されている.ヒトに対しては,腎毒性や神経毒性等の副反応が強く,使用は限定されていた.しかし,多剤耐性菌感染症の最終選択薬として,日本でも2015年に一部の多剤耐性グラム陰性菌の感染症治療薬として適応が認められた.多剤耐性菌に対する「最後の切り札」として期待されているコリスチンであるが,2015年にプラスミド性コリスチン耐性遺伝子(mobilized colistin resistance gene)mcr-1を持つ大腸菌が初めて報告され,それ以降,各国で臨床検体,食肉等から数多く検出されている.また,mcr-1以外のプラスミド性コリスチン耐性遺伝子が次々に報告され,多剤耐性菌感染症の治療への影響が懸念されている.プラスミド性コリスチン耐性が拡散している原因は,コリスチン耐性遺伝子を持つプラスミドが,同種もしくは異種の細菌に水平伝達していくことや,可動性挿入配列IS(insertion sequence)のような転移因子(transposable genetic elements)による拡散が考えられる.今回はISの一種であり,コリスチン耐性拡散の要因とされているISApl1に関する研究について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Liu Y. et al., Lancet Infect. Dis., 16, 161-168(2016).2) Poirel L. et al., Antimicrob. Agents Chemother., 61, e00127-17(2017).
著者
倉内 祐樹
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.356, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
3

「寝る子は育つ」,「果報は寝て待て」,「早起きは三文の徳」などのことわざにもあるように,睡眠は私たちの生活に必要不可欠なイベントである.しかし,現代の24時間型生活スタイルや多忙に伴う睡眠サイクルの乱れは睡眠の質を低下させ,日本のみならず諸外国でも生活の質(Quality of life)を著しく低下させる原因となっている.睡眠不足は仕事能率の低下,うつ病や認知症,循環器系疾患のリスクを高めることが知られているが,睡眠不足の健康への影響は未だ不明な点が多い.本稿では,睡眠不足が疼痛感受性を亢進させることを実証したAlexandreらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Fossum I. N. et al., Behav. Sleep Med., 12, 343-357(2014).2) Luyster F. S. et al., Sleep, 35, 727-734(2012).3) Alexandre C. et al., Nat. Med., 23, 768-774(2017).