著者
藤原 勝夫 池上 晴夫 岡田 守彦 小山 吉明
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.385-399, 1982 (Released:2008-02-26)
参考文献数
27
被引用文献数
21 19

重心計上にて種々の立位姿勢を保持させ,立位姿勢の安定性の加齢に伴う変化について調べるとともに,下肢筋力(底屈力,背屈力,母指屈曲力)を測定し,立位姿勢の安定性と下肢筋力との関係について検討した。その結果,安楽立位および前傾姿勢の安定性は60歳代以上において低下するのに対し,後傾姿勢の安定性は30歳代で低下しはじめることが明らかとなった。それぞれの姿勢に関与する筋力の加齢に伴う変化の様相は安定性の変化と類似していた。また筋力と安定性との相関からみて,前傾•後傾のような比較的大きな筋力を必要とする姿勢では,安定性の規定要因として筋力の重要性が増大すると考えられた。
著者
山田 博之 川本 敬一 酒井 琢朗 片山 一道
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.435-448, 1988
被引用文献数
3

クック諸島住民について歯の大きさを計測し,その結果をクック諸島内ならびに周辺諸地域の集団の間で比較検討した。資料として,クック諸島のラロトンガ,マンガイア,プカプカで採取した4歳から20歳までの男女397名の全顎石膏模型の中から,男性146個体のものを選んで用いた.計測は,上下顎の中切歯から第2大臼歯までの歯冠近遠心径&bull;頬舌径について1/20mm副尺付ノギスで行った。資料は両親あるいは祖父母の出生した島にしたがい次の6群に分類した.プカプカ群,N-S群(北島グループと南島グループの混血),ラロトソガ群,マンガイア群,S群(南島グループのうちラロトンガとマンガイアを除いたもの),混血群(ヨーロッパ人との混血)である。また周辺地域との比較では,クック諸島民をプカプカ群,混血群,南クック群(上記6群のうちプカプカ群と混血群を除いたもの)に分けて行った.集団比較にはマハラノビス距離を用い,これにもとついてクラスター分析,正準座標分析を行った.<br>その結果,クック諸島の中では,プカプカと南島グループの間で歯の大きさに有意差が存在し,とくにプカプカとマソガイアの間では28項目中8項目に有意差がみられた.しかし,南島グループの中では歯の大ぎさにほとんど差違は認められなかった.混血群もプカプカとの間に4項目で有意差が認められたが,南島グループとはあまり差を示さなかった.周辺地域との比較では,クック諸島とポリネシアン&bull;アウトライアーのタウマコは1つのサブクラスターを形成し,ハワイージヤワのサブクラスターと比較的近い関係を示した.一方,ニューギニアとブーゲソビルのメラネシアグループは異なった1つのクラスターを形成した.このメラネシアグルーフ.のクラスターには中央オーストラリアの原住民も含まれた(図4,5).<br>今回の結果では,歯の大きさに関してオセアニア地域では大きく分けて2つのクラスターが存在することが示された.一方はジヤワを含をポリネシア地域の集団からなり,他方はメラネシア地域のものであった.ここにみられた"dichotomy"はオセアニア地域での生体ならびに歯冠の形態特徴の結果とよく一致した.
著者
安部 国雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.25-37, 1983

スリランカのシンハリーズ(3地域),タミール(2地域),ベッダ(2地域)とキンナラ族の計測値8項目とその示数4項目を比較して,シンハリーズ•タミール•ベッダの形質の人種的特徴を示すとともに,同一人種内での形質の変異についても検討して次の結果をえた。<br>i)高地高湿地帯のシンハリーズ,セイロン=タミール,森林ベッダの3群が最もよく人種的な特徴を示す。<br>ii)低地乾燥地帯のシンハリーズとインディアン=タミールは農村ベッダの形質に近似する。<br>iii)高地高湿と低地高湿地帯のシンハリーズの形質は互によく類似する。<br>iv)スリランカのドラビダ語族(セイロン=タミールとインディアン=タミール)の形質の間には人種的な差異が認あられる。セイロン=タミールの形質は南インドのニルギリスのトーダ族(インド•アフガン人種)に,インディアン=タミールはマドラスのタミール(メラノ•インド人種)の形質に類似する.
著者
塩野 幸一 伊藤 学而 犬塚 勝昭 埴原 和郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.259-268, 1982-07-15 (Released:2008-02-26)
参考文献数
9
被引用文献数
5 3

多くの歯科疾患に共通する病因として,歯と顎骨の大きさの不調和(discrepancy)の問題があることが INOUE(1980)によって指摘されている。この discrepancy の頻度は,HANIHARAetal.(1980)によれば,後期縄文時代人では8.9%こ過ぎなかったが,中世時代人で32.0%と増加し,現代人にいたっては63.1%の高率を示すという。ITO(1980)は日本人古人骨を対象として個体における discrepancy の大きさを計測し,その平均値が後期縄文時代人では+7.7mm であったものが,現代人においては-2.6mm となっていることを示し,また(+)側から(-)側へうつった時期は鎌倉時代以前であるとしている。Discrepancy はヒトの咬合の小進化の表現と考えられ,具体的には顎骨の退化が歯のそれよりも先行することによると考えられている。そのため顎顔面形態の変化の経過を明らかにすることが,discrepancy の成立と増大の過程を知るためには特に重要である。このような観点から KAMEGAI(1980)は,中世時代人の顎顔面形態の計測を行い,この時代の上下顎骨が現代人におけるよりも大きかったことを報告している。本研究は,discrepancy の増大してきた過程を知るために,顎顔面の時代的な推移を調査したものの一部であって,とくに後期縄文時代に関するものである。資料は,東京大学総合研究資料館所蔵の後期縄文時代人頭骨327体のうち,比較的保存状態がよく,生前の咬合状態の再現が可能な16体を使用した。これを歯科矯正学領域で用いられている側貌頭部X線規格写真計測法により分析し,KAMEGAI etal.(1980)による鎌倉および室町時代人と,SEINo et al.(1980)による現代人についての結果と比較した。顔面頭蓋の大きさ,上顎骨の前後径,上下顎骨の前後的位置には後期縄文時代人と現代人との間にほとんど差がなかった。しかし,顎骨骨体部の変化が著しくないにもかかわらず,現代人においては歯槽基底部の長径の短縮が認められた。後期縄文時代人の下顎骨は現代人に比較すると非常によく発達していて,とくに下顎枝,下顎体は現代人より大きく,また顎角も現代人より小さかった。このことは,後期縄文時代では咀嚼筋の機能が大であったことを示唆するものと考えられ,逆に,現代人における下顎骨の縮小は,食生態の変化に伴う咀嚼機能の低下によるものと思われる。上下顎前歯については後期縄文時代人では鎌倉時代人や現代人と比べて著しく直立しており,一方,現代人では著明な唇側傾斜が認められた。このことは上下顎歯槽基底部の前後的な縮小と関連するものと思われる。結論的には後期縄文時代の,まだあまり退化の進んでいない顎顔面形態は,頻度8.9%,平均値+7.7mm という discrepancy の小さかったことを表す値とよく一致するものと思われる。
著者
石川 元助
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.116-127, 1958-03-30 (Released:2008-02-26)
参考文献数
29

It has been said that the arrow poison (ayyop in Ainu language) used by Ainus in Hokkaido (Yeso) is prepared from the root of Aconite. However, no studies have been made on the chemical components of the arrow poison itself, especially from the point of Ethno-Botany.The author obtained some samples from a dozen or so of poison arrows stored in Anthropological Institute, Faculty of Science, University of Tokyo, and submitted the substances assumed to be arrow poison to chemical analysis. These samples were obtained from three poisoned arrow heads, two attached to two poisoned arrows (Sample Nos. F-259 and F-263), one from an arrow case (Sample No. F-407. Called pus-ni in Ainu language and probably collected in the Iburi area). The dark brown substance, assumed to be arrow poison, was obtained in an amount of 3, 1.5, and 260mg. respectively, from which poisonous principles were extracted and were identified as alkaloid by color and precipitation reactions.Further examination of their ultraviolet absorption spectra indicated that the alkaloid extracted from the arrow poison was a mixture of alkaloids of benzoic or anisic acid esters. Since alkaloids of this type are characteristic of aconite alkaloids, there seems to be a great possibility that the alkaloid extracted from the arrow poison originated in aconite.Animal experiments on toxicity could not be made due to the small amount of the samples available.
著者
服部 恒明
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.141-148, 1991 (Released:2008-02-26)
参考文献数
36
被引用文献数
14 15

体構成を表す指標として様々な身体充実指数が提案されている.その中で体重/身長2指数は簡明でかつ栄養状態や肥満の程度を評価するうえで有効であり広く用いられている.しかし,体重を構成している除脂肪組織と脂肪組織の密度は顕著に異なるために体重/身長2指数の増加はかならずしも肥満度の増大(脂肪の増加)を意味しないという問題がある.本研究ではこれらの問題を解決し,除脂肪組織と脂肪組織の量を身体のサイズとは独立に評価するため,除脂肪組織量指数(除脂肪組織量/身長2),脂肪組織量指数(体脂肪/身長2)が求められた.さらにこれらの値を2次平面グラフ上の点に示し,体構成を評価するボディコンポジション•チャートシステムの導入が試みられた.このチャートシステムによって個人の体構成を多脂肪多筋型,少脂肪多筋型,多脂肪少筋型,少脂肪少筋型に分類して容易に評価することができる.この方法は個人の体組成の動態を評価する時にも有益である.
著者
五十嵐 由里子
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.100, no.3, pp.321-329, 1992 (Released:2008-02-26)
参考文献数
29

腸骨の耳状面前下部に認あられる「妊娠痕」の出現状況を,いくっかの縄文遺跡の間で比較した。北海道では,観察した全ての女性人骨が妊娠痕を持ち,同時に,強い妊娠痕を持っ個体の割合が他のどの遺跡集団(三貫地,吉胡,伊川津,津雲)より高く,したがって,平均妊娠回数が他より高かったと考えられる。各遺跡集団の生存曲線の分析から,北海道では,早年死亡率が他より著しく高く,したがって,他より多産である必要があったことがわかった。結論として,縄文時代には,北海道のように出産率と早年死亡率がともに高い地域集団と,三貫地,吉胡,伊川津,津雲のように,両者とも低い地域集団があったことがわかった。

1 0 0 0 OA 日本人の体力

著者
沢田 芳男
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.181-207, 1977 (Released:2008-02-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

I. The physique of the Japanese since the Meiji Period of 1900
著者
井上 直彦 高橋 美彦 坂下 玲子 呉 明里 野崎 中成 陳 李文 亀谷 哲也 塩野 幸一
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.1-29, 1992 (Released:2008-02-26)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

中華民国(台湾)中央研究院において,中国河南省安陽県殷墟の犠牲坑から出土した398体の頭骨標本の調査を行う機会を得た.侯家荘西北高における,1928年から1937年まで通算15回の発掘による標本の数は,1,000体におよぶものであったというが,当時の中央研究院が戦乱を避けて移動する間に,現在の数にまで減少したという.甲骨文字の解読による史実と,同時に出土した遺物との対照によれば,1,400~1,100BC頃,すなわち殷商時代の後半と推定されている.この標本群は,歴史的な裏付けのある資料としては恐らく最古のものであり,しかも,標本数も大きい点で,古い時代の形質と文化との関わりを知るための資料としてきわめて貴重なものと考えられる.この資料についての過去の研究の中でとくに関心がもたれた重要な課題は,殷商王朝の創建者はどのような人種であったのかという点であるという(楊,1985b).すなわち,本来の中国人というべきものがすでに存在していたのか,東夷あるいは西戎であったのか,また,単一民族であったのか,あるいは楊が指摘したように数種の異民族を包括して統治していたものかなどである(Fig.1~Fig.3).もし,複数民族の存在が事実であるならば,それは,同一の時間,同一の空間に異民族が共存していたという比較的まれな例であるということができる.本研究は,長年にわたる人種論争にあえて参加する立場はとらず,各群が,群として認められるに足りる形態学的な根拠をもっかどうかを検討し,さらに文化の影響としての歯科疾患が,同じ生活圏に存在したと考えられる異なる民族群においてどのように分布するかを知り,著者らがすでに指摘した形質と文化との独立性をさらに確かめることを目的とした.
著者
岩本 光雄
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.191-202, 1975

渦状紋にその渦状隆線の渦巻き(巻き開く)方向によって3亜型(Wr,Wo,Wu)を区別し,これら3亜型の出現様相を日本人の場合を主とする若干の標本によって検討した。左右手間の側差がいちじるしく,そのため左右対称指間で同亜型が組合う傾向は必ずしも明らかではない。一卵性双生児の対応指間ではその傾向が明らかに認められる。利手との関係は明らかでない。最後に人種差の可能性に関して言及した。
著者
永田 久紀
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.1-10, 1978 (Released:2008-02-26)
参考文献数
44

体温調節の面からみると,ヒトはもともと寒い地域では生存できない生物である。今日人類が地球上のあらゆる地域で生存し繁栄しているのは,人類が衣服,住居,暖冷房などによって気候を人工的に調節する方法を考案したからにほかならない。この一事をみても衣服がヒトの体温調節の補助手段として非常に重要なものであることがわかるが,衣服の体温調節に果す役割が科学的に解明されはじめたのはそんなに古い時代のことではない。勿論,19世紀にMaxvon Pettenkoferが近代衛生学を確立した時点ですでに衣服の重要性は認識され,次いでMax Rubnerによって衣服の研究が行われたが,本格的に衣服の衛生学的,体温生理学的研究が始められたのは,わが国では昭和のはじめ頃,世界的には(主に米国で)第2次世界大戦のはじまる少し前の頃であった。その後研究は急速に進展し,衣服の体温調節に果す役割についていろいろな重要な事実があきらかにされたが,最近十数年は研究の進展にやや頭打ちの傾向が認められる。しかし勿論,衣服の体温調節に果す役割についてすべてが解明されたわけではない。いくつかの重要な問題がほとんど解明されないままになっている。この小文では,著者の乏しい知識の範囲内に限定されるが,衣服による気候調節,あるいは衣服の体温生理学的研究に関する従来の研究の経過をふりかえるとともに,今後いかなる研究が必要であるかを考えてみたい。
著者
山極 寿一
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.483-497, 1979 (Released:2008-02-26)
参考文献数
14
被引用文献数
8 9

ニホンザルの生体の外形特徴が,地域変異を示す有効な指標となりうるかどうかを検討するために,年令差,性差,側差,あるいは特徴間,母子間の関係等の各特徴のもつ属性を分析し,次の結果を得た。1)ニホンザルの外形特徴は,成長の初期段階に多様になり,各特徴の出現年令には著しい性差がある。また,加令に伴なう出現頻度の変化から,集団比較に用いられる資料の年令層を定めた。2)年令変化の大きい特徴は,すべて大きな性差を示した。3)左右聞,前後肢間には,白化爪以外のすべての特徴に有意な相関が認められた。4)特徴間の有意な相関は,オスでは11特徴の9組み合わせに,メスでは16特徴の10組み合わせに,認められた。5)有意な母子相関は20特徴中13特徴に認められ,性差のない特徴には母子相関の高い特徴が多い。6)ニホンザル亜種間の比較の結果,多くの特徴に有意な出現頻度差を認めた。各特徴の年令差,性差,他の特徴との相関等を考慮して資料を選択し,集団比較に用いれば,ニホンザルの地域差の検討にきわめて有効な手段であることを明らかにした。