著者
宝月 岱造
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.57-63, 2010-10-01 (Released:2017-05-31)
被引用文献数
1

森林では多くの樹木に外生菌根菌が共生しており,宿主樹木の養分吸収能力を高め成長を促進している。樹木によっては,外生菌根菌との共生は生存や成長に不可欠なものと言ってよい。しかし,樹木と外生菌根菌の共生は地下で起こっていることもあり,それが実際の森林でどのように構築・維持されているのか,またその機能がどう発揮されているのか,詳細はよく分かっていなかった。しかし,近年分子生物学やその他の分野の研究技術が飛躍的に進歩するのに歩調を合わせ,外生菌根共生が実際の森林の地下部でどのように始まり拡大し機能しているのかが,少しずつ明らかになってきた。森林林床下では,複数の菌根を繋ぐ外生菌根菌ネットワーク(EMネットワーク)が形成されている。様々な菌種のEMネットワークがパッチ状に割拠しており,しかもそれらは比較的不安定でダイナミックに変動することが,DNA解析を用いた研究によって明らかにされている。これらのEMネットワークは,宿主樹木の養分吸収を助けその成長を促進することを通して,様々な生態機能を発揮している。これまでに,EMネットワークの生態機能に関する仮説がいくつか提案されており,「EMネットワークは,その上に芽生えた実生の菌根共生を促進することにより,実生の定着や成長を助ける」という仮説「異なる樹木が,両者を繋ぐEMネットワークを通じて光合成産物を受け渡し,互いに助け合っている」という仮説が,現在注目を集めている。残されたEMネットワークに関する研究課題の一つは,EMネットワーク間の相互作用である。最後に,EMネットワーク問での菌糸融合により,物質移動の機能単位が拡大することを示す最新の実験結果を紹介する。
著者
南澤 究
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.121-127, 2000
参考文献数
21
被引用文献数
3

土壌細菌は地球レベルの物質循環や植物生育の上で大変重要な役割を果たしており,地球生態系の恒常性の維持に貢献している。本稿では,土着ダイズ根粒菌のDNAフィンガープリントを用いて,遺伝的多様性・風土性・ゲノムがシャッフルされたHRS株の遺伝生態研究について紹介を行った。土着ダイズ根粒菌も含めた土壌中の細菌の生活について細菌遺伝学やゲノム研究の最近の知見を踏まえて,(1)ゲノムの複製系と転写系の衝突,(2)オペロンの乱雑度と挿入配列,(3)非増殖条件による変異の誘発などについて考察を行った。今後,土壌微生物の分野でもゲノム研究,遺伝学分野,環境科学分野と連携し,総合性をもった研究が必要ではないだろうか。
著者
矢部 修平 吉田 直人 進藤 斉 角田 潔和 葉坂 勝 小泉 武夫
出版者
土壌微生物研究会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.109-115, 2006
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究では,衛生的なコンポストを生産するには発酵初期の急激な品温上昇が重要であると考え,良好に発酵が立ち上がる高温コンポスターのミクロフローラを把握することを目的とした。発酵初期の温度上昇に伴うミクロフローラの変化を経時的に解析した結果,深層から品温上昇が始まり,生菌数がほぼ一定であったにも関らず,44〜52℃(0〜4時間後)および72〜80℃(6〜20時間後)にかけてフローラが大きく変動した。この期間に原料由来の腸内細菌や大腸菌群は淘汰された。72℃から80℃(6〜20時間後)にかけての優占菌の変動を16S rDNAライブラリー法を用いて解析した結果,Bacillus属からGeobacillus属へ遷移することが明らかとなった。さらに発酵2日後には,表層から深層まで80℃以上に達し,表層と深層ではGeobacillus属,中層ではThermus属が優占した。このように,深度別に特徴的なフローラが形成された。このことから,200cmと深く堆積することにより好熱菌の多様性を高めていると推察した。
著者
佐藤 嘉則 成澤 才彦 西澤 智康 小松崎 将一 太田 寛行
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.49-54, 2011-04-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
22
被引用文献数
2

近年,糸状菌の細胞内部に内生する細菌の検出例が報告されている。例えば,Rhizopus属菌の菌糸内部に分布する内生細菌は,これまでRhizopus属菌が生成すると考えられていたリゾキシンを生成することが明らかとなった。このような背景から今後,糸状菌を扱う研究全般において内生細菌の検出が重要な試験項目のひとつになると考えられる。本稿では,糸状菌細胞内生細菌の検出方法として,グラム陰性細菌の細胞壁成分のひとつであるエンドトキシンの定量による内生細菌の検出法,細菌16S rRNA遺伝子を標的としたPCR法による内生細菌の検出,蛍光顕微鏡および透過電子顕微鏡を用いて,菌糸内に分布する内生細菌を直接観察する方法について,筆者らの手法を中心に既往研究を加えて解説した。本稿で紹介した検出方法は透過電子顕微鏡観察を除いて,比較的簡易であることから,糸状菌の細胞内生細菌の分布調査に広く活用されることが期待される。糸状菌細胞内生細菌および共生体(共存体)の土壌における生態学的役割については今後の研究課題である。
著者
土崎 常男
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.7-11, 1993-10-01 (Released:2017-05-31)
被引用文献数
1

ウイルスは生きた細胞でのみしか増殖できないので,土壌中では植物の根,土壌微生物,土壌小動物等の中に存在している。tobacco mosaic virus等のTobamovirusは極めて安定なウイルスであるため,根から放出されたウイルスは,土壌中でもしばらくの間生存し,新たな宿主植物が植えられると機械的に根に感染を起こす。軟腐病菌等の土壌中の植物病原細菌にはバクテリオファージが感染しているが,これを細菌病の防除に使用する試みは成功しておらず,現在はファージを利用した細菌の分類,同定,検出,定量等の手段として用いられている。コムギ立枯病菌等の土壌中にある植物病原菌には,時に菌類ウイルスが感染している。菌類ウイルスの宿主である菌に対する影響,自然界での伝搬方法は殆ど明らかにされていない。コムギ立枯病菌のウイルスを例にとると,血清学的性状の異なる4群のウイルスが検出されており,しばしば同一細胞に複数のウイルスが感染することが明らかにされている。土壌伝染性植物ウイルスの媒介者として,土壌棲息菌が数種類認められているが,菌とウイルスの関係には2種類あり,1)休眠胞子中にウイルスが存在しそれより発芽した遊走子でウイルスの伝染が起こる場合,2)休眠胞子中にウイルスはなく,遊走子の表面にウイルスが吸着されてウイルスの伝染が起こる場合とがある。土壌に棲息する植物寄生性線虫の中のニセハリセンチュウ目により媒介されるウイルスとして約30種類が知られている。ウイルスを獲得した線虫は数ヵ月以上体内にウイルスを保持するが体内で増殖はしない。体内の食道等にウイルスが吸着されるが,その表面構造とウイルスの外被蛋白質との間の特異的な親和性等により,媒介の有無が決められる。
著者
新島 溪子
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.15-18, 1981

1976年秋に国鉄小海線沿線をはじめとして中部山岳地帯でキシャヤスデJaponaria laminata(ATTEMS)が大発生した。キシャヤスデは日本固有種で,関東および中部地方に分布が限られ,約60年前から大発生による列車妨害の記録が残されている。秋に大発生したキシャヤスデはすべて成体で,その年の冬は10〜30cmの深さの土壌中で越冬し,翌年6月頃に交尾,産卵して一生を終える。卵は約1ケ月でふ化し,翌年から年1回つつ脱皮し,7年目に成体となる。幼虫はすべて地中で生活し,成体となった直後に群れをなして地表面をはいまわる。すなわち,気象条件や環境条件の激変がない限り,大発生の年から数えて8年目に再び大発生する可能姓が高い。このような観点から過去の記録を整理してみると,小海線浴線では8年周期でキシャヤスデが大発生していることがあきらかとなった。
著者
Katsuhiro Kojima Tadashi Yokoyama Naoko Ohkama-Ohtsu Suwat Saengkerdsub Manabu Itakura Hisayuki Mitsui Kiwamu Minamisawa Yasuhiro Arima
出版者
Japanese Society of Soil Microbiology
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.12-21, 2012-04-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
35

Tetronic acid is a candidate for an inducer of nodulation (nod) gene expression in Mesorhizobium loti. However, there is no evidence that tetronic acid is secreted from Lotus species, the host plants of M. loti. This suggests that Lotus plants may produce other genuine nod gene inducers that differ from tetronic acid. In this study, M. loti cells harboring a nodA-lacZ fusion were enclosed in dialysis tubing and immersed in L. corniculatus culture solution. Significant β-galactosidase activities were detected in the M. loti cells, indicating that nod gene inducers were present in the seed and root exudates. β-galactosidase activities in M. loti cells were also determined after cells were exposed to seed and root exudates or tetronic acid in vitro. Seed and root exudates induced greater β-galactosidase activity in M. loti cells in 1 mM CaSO_4 solution than in YEM medium. In contrast, tetronic acid induced greater β-galactosidase activity in M. loti cells in YEM medium than in 1 mM CaSO_4 solution. Further, β-galactosidase activities induced by seed and root exudates and tetronic acid tended to decrease as the pH of the medium became neutral. In an LC-MS analysis, we could not detect tetronic acid in the concentrated seed and root exudates. These findings indicate that Lotus plants release genuine nod gene inducers for M. loti that differ from tetronic acid. Finally, seed exudates of L. corniculatus were fractionated according to molecular size and polarity, and it was clarified that a putative nod gene inducer in the seed exudates was a low molecular weight and high polarity substance.
著者
奈良 吉主 加藤 孝太郎 河原崎 秀志 田渕 浩康 後藤 正夫 寺岡 徹 有江 力 木嶋 利男
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.33-41, 2008-04-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
35
被引用文献数
1

様々な植物を利用して,土壌から分離した植物内生細菌をトマトに接種し,青枯病発病抑制効果と生育促進効果を指標に選抜を行った。その結果選抜された3株のうち,イチゴを用いて捕捉したKSR01を種子処理した場合に,トマトの生育促進効果と青枯病発病抑制効果を併せ示すことを見出した。KSR01は青枯病菌に対する抗菌物質を産生しなかったので,青枯病発病抑制効果は,抵抗性誘導によることが示唆された。KSR01は種子処理した場合にトマト茎部から再分離されるため,組織に内生的に定着することが確認された。菌体脂肪酸組成,16S rRNA塩基配列の解析および細菌学的性質の調査から,KSR01をHerbaspiyillum huttiensisであると同定した。
著者
田中 文夫
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.33-39, 1996
参考文献数
24
被引用文献数
1

ジャガイモそうか病は北海道内全域で発生が見られるが,特に網走・釧路・根室地方の澱粉原料栽培地域での被害が顕著である。道内に分布する病原菌はStreptomyces scabies, S. scabies subsp. achromogenesと新種のS. turgidiscabiesならびに未同定のStreptomyces sp.の4種類と同定された。これら4種の病原菌の地理的分布には明かな偏りがあり,前2者は道央,道南地方に,後2者は道東地方に局在する。病原菌の識別の方法として,特異抗体の利用によるELISA法,種特異的プライマーの利用によるPCR法の利用の可能性が示された。さらに,種特異性を有する寄生性アクチノファージの利用も検討中である。今後,これらの応用による,土壌中の病原菌の定量法の開発が望まれる。土壌環境制御による本病の防除の試みの一例として,土壌水分環境の制御および土壌酸度調整の効果を検討した。土壌水分に関しては,レインガン,リールマシンなどの圃場潅水装置による防除効果が今後,期待される。土壌酸度調整による防除では,フェロサンド(硫酸第1鉄),硫酸アルミニウム,各種高蛋白質資材の効果は高いが,今後は局所施用(作条施用)による,低コストで効率的な防除方法の開発が必要である。これらの資材の第一次的な作用機作は土壌pHの降下によるものと考えられるが,その作用性ならびに実用性についてはさらに検討を要する課題である。難防除土壌病害とされる本病の防除法として,抵抗性品種の利用は不可欠である。しかし,将来的な優占菌種の変動などを考慮すると,抵抗性品種の利用と土壌環境制御および生物的防除などを組み合わせた総合的な防除体系を確立する必要がある。
著者
野口 勝憲
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.51-67, 1997-03-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
61

微生物資材の現状を把握するために研究の状況を整理した結果,病害防除についての研究が最も多くされており,次に脱臭・堆肥化・有機物分解が多く,特に畜産廃棄物関連の研究が多くなされており,環境問題への関心が高いのがわかる。拮抗菌については,使用菌の種類から使用法などについてまとめた。最近の特許を調査した結果,病害防除が圧倒的に多く,次いで害虫防除,生育促進,養水分吸収促進,有機物分解促進,土壌改良,除草,その他であった。次に微生物資材開発メーカー側の今後の課題として有効菌の選抜と同定, 追跡法の確立,使用菌の定着・活動条件の解明,効果維持・保存性を高めた資材化が必要であり,試験・研究機関・行政の課題として,微生物資材の基準作りとその評価法の確立,法の整備などの必要性を述べた。
著者
高木 滋樹 北村 章 丸本 卓哉 石田 大作 田中 秀平
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.51-58, 1996-03-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
9
被引用文献数
3

1)種々の土壌環境下で,拮抗放線菌を含む微生物資材Aの施用が,土壌微生物相に及ぼす影響を調査した。pH5.3, 7.0, 7.8のいずれの土壌条件下においても,資材A施用により放線菌密度は高く維持されること,土壌水分量が極端に低く(20% MWHC)ない限り施用資材A中の拮抗放線菌は土壌に定着し活動すること,40℃の温度条件下で資材Aを施用した土壌において,F. oxysporumの密度は著しく低下するが,放線菌密度は影響を受けないことが確認された。また,資材Aの施用量が多いほど土壌中の放線菌密度が高くなることも明らかになった。2)資材Aの施用法とダイコン萎黄病に対する抑制効果の関係について検討した。資材Aの施用量が多いほど病害抑制効果は高くなった。また,土壌がF. oxysporumの汚染を受ける少なくとも1週間前までに資材Aを施用すると本病に対する高い抑制効果が得られること,あらかじめ土壌消毒を行った場合は土壌に速やかに資材Aを施用するとF. oxysporumの感染を遅延させ本病の防除に効果的であることが明らかとなった。3)資材Aとカニガラはともに連用によりダイコン萎黄病に対する抑制効果が高くなった。カニガラの効果は連用により徐々に高まったが,資材Aは1作目から直ちに高い効果を示し,少なくとも2作目まではカニガラよりも優れていた。4)以上の結果から,資材Aはダイコン萎黄病に対して多様な土壌環境下で抑制効果が期待できること,および施用法の工夫によってより高い効果が得られる可能性のあることが示された。
著者
篠原 信
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.22-33, 2018

土壌はありふれた存在ながら、人工製造できない媒体だった。土壌機能(有機物を分解し無機養分を供給する機能)を人工的に再現できなかったためだ。土壌機能を再現するにはアンモニア化成、硝酸化成の2段階の微生物作用を再現する必要があるが、硝酸化成を担う微生物(硝化菌)が有機物の曝露で容易に不活性化するからだ。もし硝酸化成に成功しても、有機物と硝酸の同時併存で脱窒が活性化するため、重要な無機養分である硝酸が失われ、土壌機能を再現することが困難だった。並行複式無機化反応はこれを可能にした微生物培養技術だ。この手法で培養した微生物群を人工媒体に固定化すると、土壌機能をその媒体に付与することが可能となる。さらに最近になって、わずか3菌株(従属栄養細菌、アンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌)だけで土壌機能の基本であるアンモニア化成、硝酸化成を再現することに成功した。これにより、土壌の物理性・化学性・生物性のいずれについてもデザイン可能な技術が出そろった。本稿では、「デザイナー・ソイル」の可能性について紹介する。
著者
澤田 宏之
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-_63-64_, 2003-04-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
104
被引用文献数
1

マメ科植物の根粒菌(共生窒素固定菌)を含むことが確認されている菌種は現時点(2003年2月)で12属44種(新種に相当すると考えられる4つの分離菌も含めた)に及ぶ。これらは,16SrDNA系統樹において根粒菌として1か所にまとまることはなく,AlphaproteobacteriaからBetaproteobacteriaにかけて分布する以下の9つの単系統群(1〜9)に分散すること,根粒菌以外の菌種(以下の括弧内に示した)と混在しながらそれぞれの単系統群を構成していることが認められた。単系統群1:根粒菌としてはRhizobiumおよびAllorhizobium属細菌が含まれている(非根粒菌であるAgrobacteriumおよびBlastobacter属細菌も単系統群1の構成メンバーとして混在している),2:SinorhizobiumおよびEnsifey属細菌(分類上の所属が不明とされている非根粒菌も混在),3:Mesorhizobium属細菌(非根粒菌であるAminobacterおよびPseudaminobacter属細菌も混在),4:Bradyrhizobium属細菌およびBlastobacter denitrificans(非根粒菌であるAgromonas, Nitrobactey, AfipiaおよびRhodopseudomonas属細菌も混在),5:"Methylobacterium nodulans"(非根粒菌のMethylobacterium属細菌も混在),6:Azorhizobium属細菌(非根粒菌であるXanthobacterおよびAquabacter細菌も混在),7:"Devosia neptuniae"(所属不明とされる非根粒菌も混在),8:Burkholderia属細菌(非根粒菌のBurkholderia細菌も混在),9:Ralstonia taiwanensis(非根粒菌のRalstonia属細菌も混在)。このうち,単系統群5,8および9については,いずれも単系統性が高く,多相分類学的な特徴付けも十分になされていることから,「根粒菌と非根粒菌が混在している状態の単系統群が,全体として1つの属にまとめられている」という現行の分類体系は今後とも存続していくものと思われる。それ以外の6つの単系統群に関しては,A)人為分類に基づく現行の分類体系を今後もそのまま存続させていく;B)分子系統解析の結果を重視し,単系統群全体を1つの属としてまとめる;C)単系統群の中に認められるより小さな系統ごとに属として独立させる,という3つの選択肢のうちのBあるいはCを有力候補としながら,属レベルの分類体系(定義と範囲)に関する研究・議論がこれから活発に進められていくであろう。
著者
山谷 紘子 横山 正 有馬 泰紘
出版者
土壌微生物研究会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.6-14, 2014

土壌微生物である根粒菌は主にマメ科植物根に形成される根粒という器官に共生し,生物的窒素固定を行う。宿主植物に形成される根粒の数は厳密に制御されていることが知られており,近年の遺伝学的および生理学的研究により根粒形成制御機構が解明されつつある。現在,根粒形成制御機構は,2つに大別して考えられている。根部のみで完結する局所的な機構と,根部だけでなく地上部も関係する全身的な機構である。局所的な制御機構には,エチレンなどの植物ホルモンやスモールペプチドが関与していることが示唆されている。また根部-地上部-根部という遠距離シグナルが関与する全身的な制御機構は、先行して形成された根粒が後続の根粒形成を抑制するという負のフィードバック機構であることが示されており,根部から地上部へのシグナル物質はアラビノース糖鎖が付加されたオリゴペプチド(CLE-RS2グリコペプチド)であることが明らかになっている。また地上部から根部への根粒形成抑制シグナル物質についても,植物ホルモンの関与などを含めて研究が進められている。本稿では根粒菌感染や根粒原基形成が引き起こす宿主植物の根粒形成制御機構について,最近の進捗を解説する。
著者
須田 亙 宍戸 雅宏
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.93-99, 2009-10-01
被引用文献数
1

葉に代表される植物体地上部の表面である葉圏には,多種多様な細菌が存在し,植物の健康維持や生態系における物質循環において重要な役割を担っていると考えられる。葉圏細菌に関する研究は,特定の機能を持つ菌を分離・培養し,それらの性質を調べる手法で行われてきた。これまで,細菌群集全体の構造や動態に関する研究は他の環境(根圏や水圏等)と比較すると著しく少なかったが,2001年以降,葉圏においても非培養法による細菌群集全体の構造解析が行われるようになり,知見が蓄積されつつある。本稿では,葉圏細菌群の生存戦略,および注目すべき機能について概説し,さらに,非培養法による細菌群集の解析によって明らかになってきた知見および今後の展望について論考した。