著者
若林 秀隆
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.256-259, 2020 (Released:2021-01-15)
参考文献数
5

狭義の腸管リハビリテーション (以下リハ) は,≒腸管機能改善と使用されることが多い. 一方, 広義の腸管リハは, 腸管不全障害のある方の生活機能やQOLを最大限高めることである. 広義の腸管リハには, リハ栄養の考え方が有用である. リハ栄養とは, 国際生活機能分類による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価, 診断, ゴール設定を行ったうえで, 生活機能やQOLを最大限高める「リハか, みた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である. 低栄養は, GLIM基準で診断する. サルコペニアは, Asian Working Group for Sarcopenia2019基準で診断する. 腸管不全患者では, 加齢, 低活動, 低栄養, 疾患とサルコペニアの原因をすべて認めることがある. 腸管不全患者では, 複数の原因による栄養素の摂取不足を認めることがある. リハとは, 機能訓練や機能改善だけでなく, 生活機能やQOLをできる限り高め, その人らしくいきいきとした生活ができるために行うすべての活動である. 狭義と広義, 両者の腸管リハがさらに発展することを期待したい.
著者
王堂 哲
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.81-84, 2020 (Released:2020-05-15)
参考文献数
15
被引用文献数
1

L‐カルニチンはエネルギー源としての長鎖脂肪酸をミトコンドリアマトリクス内に運搬するために必須の成分である. L‐カルニチンの経口摂取によって身体的運動能力に期待される影響については①継続摂取効果 : 筋中への貯留を高めることによるβ‐酸化の亢進, ②単回摂取効果 : 肝での脂肪のエネルギー化促進, ③運動後の筋肉痛緩和効果 : 局所的な毛細血管での虚血状態が低減され, 結果として筋トレ後に発生する活性酸素に起因した細胞損傷が抑制される作用, などの側面に大別することができる. また心筋はエネルギー源としての脂質への依存性が高く, 遊離脂肪酸によるミトコンドリア膜透過性遷移誘導に起因する機能不全リスクに晒されやすい. ここで十分量のL‐カルニチンが共存することによりミトコンドリア膜が保護され, アポトーシス抑制を通じたアスリートの安全性向上への寄与も示唆されている. 近年L‐カルニチンのスポーツへの利用では特定の運動における持久力など単純なパフォーマンスの増進というよりも, むしろより一般的な体調マネジメント, 総体的なトレーニング効率の向上といった側面に主眼がおかれつつあるといえる.
著者
伊藤 哲哉 中島 葉子
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.57-61, 2020 (Released:2020-05-15)
参考文献数
4

薬剤性L‐カルニチン欠乏症は医原性に生じる二次性L‐カルニチン欠乏症の一種である. 原因となる薬剤としては, 抗てんかん薬, 抗菌薬, 抗がん剤, 局所麻酔剤, イオンチャンネル阻害剤, AIDS治療剤, 安息香酸ナトリウムなどの報告があるが, 長期投与を必要とする抗てんかん薬や, カルニチン欠乏のリスクが高い乳幼児期に投与される薬剤には特に注意が必要である. バルプロ酸ナトリウムの副作用として肝障害や高アンモニア血症が知られているが, これらはカルニチン欠乏やカルニチン代謝の異常が大きく関与すると考えられており, L‐カルニチン投与を行うこともある. また, ピボキシル基含有抗菌薬では腸管からの吸収後に生じるピバリン酸がL‐カルニチンと結合して尿中へ排泄されるためL‐カルニチン欠乏を生じる. 副作用として, L‐カルニチン欠乏からくる低血糖, 意識障害, 痙攣などの重篤な症状が報告されているが, これらの副作用は長期投与ばかりでなく短期間の服用でも認める例があるため, 抗菌薬投与の必要性やその選択について十分吟味したうえで適正に使用することが重要である.
著者
若林 秀隆
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.43-49, 2016 (Released:2016-04-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1

リハビリテーション栄養とは,栄養状態も含めて国際生活機能分類で評価を行ったうえで,障害者や高齢者の機能,活動,参加を最大限発揮できるような栄養管理を行うことである.サルコペニアは,加齢のみが原因の原発性サルコペニアと,活動,栄養,疾患が原因の二次性サルコペニアに分類される.サルコペニアの治療はその原因によって異なり,リハビリテーション栄養の考え方が有用である.特に活動と栄養による医原性サルコペニアの予防が重要である. 老嚥とは健常高齢者における嚥下機能低下であり,嚥下のフレイルといえる.老嚥の原因の1 つが嚥下関連筋のサルコペニアである.サルコペニアの摂食嚥下障害とは,全身および嚥下に関連する筋肉の筋肉量減少と筋力低下による摂食嚥下障害である.特に誤嚥性肺炎後に認めやすい.サルコペニアの摂食嚥下障害への対応は全身のサルコペニアと同様で,特に早期リハビリテーションと早期経口摂取が大切である.
著者
池田 正明
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.319-326, 2015 (Released:2016-02-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1

地球は24 時間で自転し,その自転が24 時間周期の明暗サイクルを地表に作り出している.地球上の生物は進化の過程で,この24 時間周期の光環境の変動を生体内に取り入れ,概日リズムという自律的なリズムを獲得し,概日リズムの獲得に成功した生命体のみが地球上で生存に有利に働き,それが地球上の生物の現在の繁栄につながったと考えられる. ヒトにも概日リズムがあること,概日リズムの周期はおよそ25 時間であることが,1960 年代にアショッフ教授によって証明され,光環境を厳密にコントロールした実験によって現在ではその周期が24 時間10 分であることも明らかになっている.1990 年後半に,ヒトを始めとする哺乳類や,ショウジョウバエなどの昆虫,アカパンカビ,シロイヌナズナなどの植物,シアノバクテリアに至るまで,概日リズムの約24 時間周期を作り出す時計遺伝子が相次いで発見され,その機能が明らかになってきた.ヒトの主な時計遺伝子として,Clock, Bmal1, Per, Cry があり,全て転写に関わる因子である.これら遺伝子は,その遺伝子産物や発現調節部位からなる転写・翻訳機構の中に,ネガティブフィードバックループを形成し,転写を約24 時間周期で増減させており,この転写翻訳システムが約24 時間のリズム発振の本体に当ると考えられている.また,時計遺伝子は人体のほぼ全ての細胞に発現しリズムを刻んでおり,しかも臓器ごとに固有の頂点位相をもったリズムを示す.さらに時計遺伝子はリズムを刻むばかりでなく,生体内のさまざまな因子のリズム発現に直接あるいは間接的に関与しており,一日のプログラムタイマーのように,一日の中で,遺伝子のオン・オフを制御して,環境変化に合わせた生体活動を制御し,効率的な体内環境を作り出している.例えば,ヒトは昼間に活動するとともに食物を摂取し,夜間は睡眠をとっている.ヒトの睡眠・行動や摂食のリズムは一見人々の習慣のように見えるが,これは昼行性動物の典型的なリズムパターンであり,体内時計によって制御されている.昼間摂取した食物からの栄養分は,吸収されて肝臓に送られ,肝臓は,夜間になると栄養分を代謝し貯蔵するプログラムの活動性を高めている.この代謝開始指令のタイミングを決め,しかも代謝そのものを駆動させているのが時計遺伝子であることも明らかになってきている.本稿では,時計遺伝子の役割を中心に概日リズム研究,特に疾患との関連についての進歩にいて概説したい.
著者
内田 恒之 関根 隆一 松尾 憲一 木川 岳 梅本 岳宏 喜島 一博 原田 芳邦 若林 哲司 高橋 裕季 塩澤 敏光 小山 英之 柴田 栞里 田中 邦哉
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.42-47, 2020 (Released:2020-03-15)
参考文献数
31

背景: サルコペニアは胃癌をはじめ各種悪性腫瘍の短期・長期成績に関与するが, 骨格筋の質を表す脂肪化と術後感染性合併症 (IC) の関連性は明らかでない. 目的: 腹腔鏡下胃切除 (LG) を施行した胃癌症例における骨格筋脂肪化と術後ICとの関連を明らかにする. 方法: 2009年から2018年までのLG施行早期胃癌173例を対象とした. 周術期諸因子と術後ICの関連を後方視的に検討した. 骨格筋脂肪化は術前CT画像によるIntramuscular adipose tissue content (IMAC) で評価した. 結果: 術後ICは20例 (11.6%) に認めた. 多変量解析による術後ICの独立危険因子は男性 (P=0.003) , Prognostic nutritional index低値 (P=0.008) , IMAC高値 (P=0.020) であった. IMAC高値群は低値群に比較し高齢 (P=0.001) で高Body mass inedx (P=0.027) であり糖尿病並存例 (P=0.021) が多かった. 結語: 骨格筋脂肪化はLG後の術後IC発生の危険因子であった. 適切な術前栄養・運動療法の介入が術後IC制御に寄与する可能性がある.
著者
宮本 信宏
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.69-72, 2021-04-15 (Released:2022-05-15)
参考文献数
6

本邦では医療用漢方エキス製剤の普及から西洋医が漢方薬を処方する機会が増え, 西洋医学的エビデンスの蓄積が進んでいる. こうした背景から機能性消化管疾患診療ガイドラインにおいては六君子湯が一次治療に位置づけられ, 外科領域においても開腹術後の麻痺性イレウスに対して大建中湯, 慢性硬膜下血腫の再発予防には五苓散が使用されるのが一般化してきている.  われわれは呼吸器外科術後のさまざまな症状に五苓散を中心とした利水剤を用いた経験から, 漢方薬は西洋薬と相補的に作用すると考えている. 利水とは西洋医学の利尿剤のような強制利尿ではなく「水毒」と呼ばれる水の分布異常を調整すると考えられており, 浮腫では利尿作用,脱水では抗利尿作用を発揮するとされている. 周術期は水分バランスがダイナミックに変化する局面であり, 浮腫の漢方薬が効きやすい状態である. 五苓散は副作用を心配することなく飲みやすく飲ませやすい漢方薬であり, 五苓散を中心とした利水剤による周術期管理を提案する.
著者
名徳 倫明
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.103-110, 2017 (Released:2018-02-22)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
白井 邦博 小谷 穣治
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.30-34, 2023-02-15 (Released:2023-03-15)
参考文献数
39

重症患者では,侵襲による蛋白の異化亢進と同化抑制が引き起こされて,筋蛋白が急激に喪失する.この病態は,合併症や死亡率を増加させるだけでなく,救命できた患者でもQOL(quality of life)を低下させる原因となる.このため,崩壊した蛋白を補充して同化を促進する目的で,早期から最適な栄養投与量を設定する必要がある.最近は急性期の目標エネルギー量はunderfeedingが推奨されているが,蛋白投与量についてはいまだ議論されている.ただし,初回から高用量の蛋白投与は有害であり,最初の3日間は0.8g/kg/日未満として,その後は段階的に増量しながら,急性期から回復期までには少なくとも1.2~1.5g/kg/日の投与が必要となる.さらに,早期離床など積極的にリハビリテーションを栄養療法と組み合わせることで,蛋白同化を促進してQOLを向上させる可能性がある.
著者
渡邉 誠司
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.77-80, 2020 (Released:2020-05-15)
参考文献数
26

L‐カルニチンは, 長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に運び込むために必要な物質である. 体内での生合成はその25%程度しかない準必須の栄養素であり, 欠乏時, おもな貯蔵な場所である筋肉から動員される. 神経・筋疾患は, 一次性, 二次性の筋萎縮, 筋変性に伴い, その貯蔵場所を失い, 摂食・嚥下障害から, L‐カルニチンそのものの摂取が減少する. そして, 脂肪酸の主な利用場所である骨格筋, 心筋の症状が加わる. また, ミトコンドリア病, 全身性炎症などミトコンドリアの機能不全も, その神経・筋における欠乏症状に追い打ちをかける. 本稿では, カルニチンのホメオスタシスを保つ摂取量, 合成, 排泄に加え, 神経保護作用など神経・筋疾患に特有のこれらの病態について概説する.
著者
山内 健
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.123-130, 2019 (Released:2019-09-15)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Bioelectrical impedance analysis(以下BIA)は生体の導電体としての性質に基づいてその電気抵抗を測定することにより,簡便,低侵襲,短時間に体組成を推定することができる機器である.測定条件を揃えれば再現性は良好で,装置も移動可能かつ比較的低コストであるため,当初は医療機器としてよりも健康機器として広まった.8電極法によるsegmental BIAや多周波数を用いた技術の進歩により,近年では医療機関でもよく用いられるが,BIAの測定原理は大胆な仮定に基づいており,身体のhydrationの状態や四肢や体幹の体組成の分布の変化があれば,その推定値には大きな誤差を含むことになる.地域の検診などの集団レベルで肥満やサルコペニアを診断するには非常に有用なツールとなりうるが,医療機関での個々の患者の使用に際しては,その原理を十分に理解して体組成の数値を解釈する必要がある.
著者
宮田 剛
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.147-154, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
16
被引用文献数
1

ESSENSE とは,ESsential Strategy for Early Normalization after Surgery with patient's Excellent satisfaction の略であり,日本外科代謝栄養学会で展開する術後回復促進のためのプロジェクト名である.ERAS の普及が進む中で,日本の実情に合わせて,「手術の安全性を向上させつつ,患者満足を伴った術後回復促進対策のエッセンスはなにかを検討し,これらに関する科学的根拠に基づいた情報を提供すること」を使命と考えている.中心的理念を,1.生体侵襲反応の軽減,2.身体活動性の早期自立,3.栄養摂取の早期自立,4.周術期不安軽減と回復意欲の励起,の4 つとした.ERAS protocol で推奨された項目を再整理するとともに,他の論文も含めて整理して情報を提供し,具体策を学術集会で議論する.臨床現場ではこれらの情報を利用して自施設で取り組み,各職種が集まって協議,個々の達成指標を共有しながら作業分担することを期待する.ESSENSE が ERAS と違うのは,医療者の介入事項を規定するのではなく,患者状態の達成目標を明確化することである.
著者
西條 文人 武藤 満完 栗原 誠 山田 佳緒里 安倍 淑子 高橋 賢一 澤田 健太郎 徳村 弘実
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.107-113, 2014 (Released:2014-11-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

【背景と目的】末梢挿入型中心静脈カテーテルは,穿刺時に伴う致命的合併症およびカテーテル感染が少ないとされるが,血栓症閉塞,事故抜去,静脈炎などの留置後合併症を認める.一方,無縫合固定具はこれらカテーテル留置後の合併症を軽減できる報告がある.無縫合で固定可能なSorbaView® SHIELD によるカテーテル留置後の合併症について,本邦における検討報告はない.【対象と方法】2011 年1 月から2013 年3 月に留置されたPICC 症例421 例を対象とした.縫合固定した2011 年1 月から9 月の94 例(縫合群)とSorbaView® SHIELD で固定した2011 年10 月から2013 年3 月の327 例(Sorba群)をカテーテル留置後の合併症について比較検討した.【結果】カテーテル閉塞までの留置期間において,Sorba 群は有意に長かった.その他の合併症に関しては統計的有意差を認めなかった.【結語】SorbaView® SHIELD はカテーテル閉塞までの留置期間を延長させた.
著者
田部 大樹 宮島 功 塚田 暁
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.118-126, 2023-08-15 (Released:2023-09-15)
参考文献数
20

【背景】胃切除術後の体重減少は重要な課題であり栄養量の確保が必要であるが, 高齢患者が増加している. そこで75歳以上の胃切除術後患者において術後入院中の摂取エネルギー量と長期的な体重減少の関連を検討した. 【方法】胃がんに対して胃切除を行った88名を75歳未満と75歳以上の患者で比較した. その後75歳以上の46名を平均摂取エネルギー量が基礎代謝量の50%以上を確保群, 50%未満を不足群に分け, 術後6カ月の時点までの体重変化率を比較した. 【結果】確保群において, 術後3・6カ月の時点の体重変化率が抑えられ, 術後の補助化学療法を施行していた患者が少なかった. 重回帰分析を行ったところ, 術後3カ月の時点の体重変化は (Basal Energy Expenditure : BEE) に対する充足率, 術後6カ月の時点の体重減少は術後補助化学療法の有無がそれぞれの予測因子となった. 【結語】75歳以上の胃切除術後患者では基礎代謝量に対する術後入院中の摂取エネルギー量の充足率が術後3カ月の時点での体重変化を予測しうる.
著者
門脇 基二
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.41, 2017 (Released:2018-02-22)
参考文献数
3
被引用文献数
1

米は日本人の主食である。従って、そのおいしさについては誰もが専門家だが、なぜか健康への機能性についてはあまり好ましい話題に上ることが多くない。特に白米についてはそうだ。米はデンプン食品と言われ、食事中最大のエネルギー供給源であるが、実はタンパク質供給源としても重要な食品である。我が国における食品群別一日タンパク質摂取量では、米・米加工品は肉類、魚介類に次ぐ第3 位を占めていることは意外に知られていない。そこで私どもは、これまで全く解明のメスが入っていない米タンパク質の機能に注目してみた。研究開始当初は精製タンパク質が入手できず、基礎的知見も十分でなかったため、まず米タンパク質の消化性という基礎的・栄養的研究から始めた。その結果、米胚乳タンパク質のひとつである難消化性タンパク質プロラミンが、調製処理や炊飯処理によってその消化性が大きく低下することを初めて発見した1)。この成果は、従来米タンパク質の栄養上の低品質が植物タンパク質固有の性質に由来するとみなされていたのが、実は炊飯等の加工処理によって初めて生成するものであるという新しい理解へ導くに至った。 次に、米タンパク質の新規機能性の探索を広汎に推進した。米タンパク質の機能性に関する報告はそれまでほぼ皆無であったため、マイクロアレイによる網羅的解析を試みたが簡単ではなかった。そこで、先行研究が多く存在している大豆タンパク質を参考に、米胚乳タンパク質が大豆タンパク質と等価の血漿中性脂肪・コレステロール低下作用を有していることを明らかにした。次いで、糖尿病に対する米タンパク質摂取の効果について検討を行ったところ、消化管ホルモンであるインクレチンのひとつ、GLP-1 の分泌促進作用があることが示された2)。また、非肥満2 型糖尿病モデルGK ラットおよび肥満2 型糖尿病モデルZDF ラットの長期試験において、米タンパク質が糖尿病性腎症の進行を遅延させる機能を有していることを証明した3)。この成果はタンパク質摂取量の制限のみに注目している現在の慢性腎疾患の食事療法に一石を投じるものであり、今後は量の制限だけでなく、タンパク質の種類にも注目した治療法が広がることになるであろう。特にこの米タンパク質はリン、カリウムなどのミネラルが極めて少ないことから、透析患者への副作用のないタンパク質栄養剤として有効であることがヒト試験により証明された。 米はユネスコ無形文化遺産登録により評価された「和食」の中心に位置する食品であり、日本人の健康維持に大きく寄与している食品である。これまでその米、特に白米には明確な機能性が報告されてこなかったが、新たな発見を契機として、今後更なる機能性の発見につながっていくことが期待される。
著者
新井 隆男
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.121-126, 2017 (Released:2018-02-22)
参考文献数
17
被引用文献数
1