著者
篠島 直樹 前中 あおい 牧野 敬史 中村 英夫 黒田 順一郎 上田 郁美 松田 智子 岩崎田 鶴子 三島 裕子 猪原 淑子 山田 和慶 小林 修 斎藤 義樹 三原 洋祐 倉津 純一 矢野 茂敏 武笠 晃丈
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.235-242, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
14

【背景・目的】当院では難治性てんかんの患児に「ケトン食」を40年以上提供してきた.その経験に基づきIRB承認の下,悪性脳腫瘍患者を対象にケトン食の安全性,実行可能性,抗腫瘍効果について検討を行った. 【対象・方法】2012年11月から2018年10月までの悪性脳腫瘍患者14例(成人10例,小児4例).栄養組成はエネルギー30~40kcal/kg/日,たんぱく質1.0g/kg/日,ケトン比3:1のケトン食を後療法中ないし緩和ケア中に開始し,自宅のほか転院先でもケトン食が継続できるよう支援を行った. 【結果】ケトン食摂取期間の平均値は222.5日(5‐498日),空腹時血糖値および血中脂質値はケトン食摂取前後で著変なかった.有害事象は導入初期にgrade1の下痢が2例,脳脊髄放射線照射に起因するgrade 4の単球減少が1例でみられた他,特に重篤なものはなかった.後療法中に開始した10例中9例が中断(3例は病期進行,6例は食思不振など),緩和ケア中に開始した4例中3例は継続し,うち2例は経管投与でケトン食開始後1年以上生存した. 【考察】後療法中にケトン食を併用しても重篤な有害事象はなく安全と考えられた.長期間ケトン食を継続できれば生存期間の延長が期待できる可能性が示唆された.中断の主な理由として味の問題が大きく,抗腫瘍効果の評価には長期間継続可能な美味しいケトン食の開発が必要と考えられた.
著者
中村 文隆 藤井 正和 七里 圭子 西 智史 篠原 良仁 伊橋 卓文 横山 新一郎 武内 慎太郎 今村 清隆 渡邊 祐介 田本 英司 高田 実 加藤 健太郎 木ノ下 義宏 安保 義恭 成田 吉明 樫村 暢一
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.71-77, 2018 (Released:2018-08-23)
参考文献数
29

ERAS の手術侵襲軽減策は,多職種のスタッフによる介入が不可欠である.入院前の不安要素は患者個々に異なり,消化器外科では,術後の食事摂取,人工肛門に対する不安は多い.各医療スタッフの専門的立場の助言が治療意欲を向上させる.術後の腸管機能の回復促進対策としては,輸液量の適正化,胸部硬膜外鎮痛,早期経口摂取,早期離床などチームで取り込む事項が多い.早期離床では,プログラム内容や行動目標を定め施行することが望ましい.疼痛管理としては,急性痛サービスAPS を組織することが,安心な周術期環境を効率的に提供し,今後わが国でも普及することが望まれる.回復を実感する環境づくりは,重要であり,チームメンバーは,各専門的な知識や技術を生かし患者のセルフケアーを支援することで,早期回復の実感と不安の解消につながり,満足度の高い退院につながる.
著者
福島 亮治
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.199-203, 2015 (Released:2016-02-25)
参考文献数
21
被引用文献数
2

外科手術後や重症ICU患者における早期経腸栄養が,感染症をはじめとする合併症の低減や在院期間の短縮に有用であることは,1990年代より数多く報告され,現在では少なくともその理念に関しては,おおむねコンセンサスが得られていると考えられる.しかし,実際の臨床の場では,早期経腸栄養が必ずしも十分に履行できているとは限らない.実臨床における早期経腸栄養は,これまでチューブを使用した経管栄養が主体に行われており,このためには腸瘻の造設や,胃管の留置が必要で,このことが,その履行の妨げの一因となることは否めない.一方,昨今のfast track surgery,ERASプロトコールの普及や腹腔鏡手術が増加するにともない,外科手術後患者の早期経口栄養に対する関心が深まっている.本稿では,早期経腸栄養の有用性や外科手術後患者における早期経腸栄養施行の障害について概説するとともに,早期経口栄養について考察する.
著者
土師 誠二
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.285-290, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

外科侵襲は生体にさまざまな反応を引き起こすが,侵襲反応の解明と理解に基づく周術期管理の進歩は近年の外科治療の成績向上に大きく寄与してきた.外科侵襲は神経内分泌系,免疫系,栄養代謝系の反応を引き起こすが,術後感染性合併症発生例では術後の高サイトカイン血症,細胞性免疫能の低下,炎症反応亢進,高血糖がみられ,これらが術後合併症発生のリスク因子と考えられた.さらに,高齢者においても外科侵襲に対して高サイトカイン血症が生じ易く,神経内分泌反応の亢進もみられた.過剰な侵襲反応の制御が治療成績の向上に繋がると考えられるが,免疫栄養療法はこのような合併症対策として有用であった.今後,外科侵襲下の生体反応の詳細な機序が一層解明されることで,より再現性の高い有効な周術期管理法が開発されることが期待される.
著者
寺島 秀夫
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.315-326, 2019-12-15 (Released:2020-01-15)
参考文献数
57

重症病態下における厳密な血糖管理 (tight glycemic control : TGC) の最適解は, いまだ不明である. 2001年, LeuvenⅠstudyは, 強化インスリン療法 (intensive insulin therapy : IIT) の画期的な治療成績を提示したが, その後, 数々の追試においてIITの有効性が実証されることは一度もなかった. その要因は, IITの理論上の誤りではなく, LeuvenⅠstudyに内在した栄養管理の特異性 (overfeeding) とともに, プロトコル型血糖管理方法に起因する血糖値制御の不確実性であったと結論される. IITの是非を巡る論争は, 最終的にearly full feedingの有害性を剔抉するにいたり, 栄養療法ガイドライン変革の遠因ともなった. 栄養投与量の適正化がなされ, コンピュータ制御血糖管理が容易に実行可能となった現在, 最適なTGCの解明に向けて新たな幕開けを迎えた.
著者
松井 亮太 稲木 紀幸 能登 恵理 山本 大輔 伴登 宏行
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.131-139, 2018 (Released:2018-08-23)
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】周術期歩行数が臨床結果に及ぼす影響を検討した.【方法】対象は当院で大腸手術が行われた97 例とし,術後1 週間までに3,000 歩/ 日が未達成な場合を歩行不良と定義した.短期的アウトカムは術後入院期間,術後合併症,歩行不良にかかわる因子を,長期的アウトカムは術後半年までの筋肉量減少率を検討した.【結果】全97 例中,28 例(28.9%)が歩行不良だった.患者背景では歩行不良群で直腸切除が多く(P=0.084),貧血が有意に多かった(P=0.013).歩行不良群で入院期間が有意に長く(P<0.001),術後合併症が有意に多かった(P=0.003).歩行不良因子についてロジスティック回帰分析を行うと,術後合併症(OR:28.1,95% CI:1.88-419.6),術前歩数3,000 歩/ 日未満(OR:29.9,95% CI:2.28-394.5)で有意差を認めた.術後半年までの筋肉量減少率は有意差を認めなかった(P=0.468).【結語】歩行不良は入院期間を長期化させた.術前歩数3,000 歩/ 日未満,術後合併症は歩行不良にかかわり,リハの早期介入や単位数を増加すべき予測因子と考えられた.
著者
和田 基
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.37, 2019-02-15 (Released:2019-03-15)
参考文献数
7
著者
櫻井 洋一
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.277-282, 2015 (Released:2016-02-25)
参考文献数
3

欧米では医師以外の職種や基礎研究者が積極的に栄養関連の臨床研究の発表を行うなど代謝栄養学研究の層が厚いが,わが国では栄養関連の臨床医学に関わる職種の卒前・卒後教育が十分であるとはいえない. 代謝栄養学に関連する臨床に関わる研究者は"栄養治療は外科患者のアウトカムと密接に関連する"という事実をまず理解する必要がある.この概念を出発点とし臨床的疑問を解決するための研究課題を自身で見いだして研究を行うことが大切である.そのためには教育セミナーや栄養関連の研究会・学会に積極的に参加することによる代謝栄養学研究に対するearly exposure が最も重要であると考える.職種を問わず大学生・大学院生である学生時代の早期からセミナーや研究会に参加するearly exposure により,できるだけ早くから代謝栄養学の研究に触れさせ,リサーチマインドを育成することが重要と考える.