著者
清水 義之 橘 一也 津田 雅世 籏智 武志 稲田 雄 文 一恵 松永 英幸 重川 周 井坂 華奈子 京極 都 奥田 菜緒 松本 昇 赤松 貴彬 竹内 宗之
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.287-292, 2017 (Released:2018-05-14)
参考文献数
17

近年,小児における末梢挿入式中心静脈カテーテル(peripherally inserted central catheter:以下PICC)は,新生児領域では頻用されており,幼児や学童においても,重要な静脈アクセス用デバイスである.PICC 留置は視診または触診により静脈を穿刺する以外に超音波ガイド下に留置する方法があるが,わが国において,小児患者に超音波ガイド下にPICC を留置する報告はない.われわれは,41 名の小児において,リアルタイム超音波ガイド下にPICC 留置を試みた.56 回中50 回(89%)PICC 留置に成功し,重篤な合併症は認めなかった.屈曲による滴下不良はなく,62%の症例で合併症なく使用された.留置にはある程度の慣れと,鎮静が必要であるものの,静脈のみえにくい年少児でも留置可能であり,小児における有用なルート確保手段であることが示された.
著者
宮尾 秀樹
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.219-226, 2018-10-15 (Released:2018-12-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1
著者
横山 幸浩
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.181-185, 2022-10-15 (Released:2022-11-15)
参考文献数
7

高度侵襲消化器外科手術では,術後感染性合併症の制御が大きな課題である.臨床の現場では,画像検査などで明らかな感染のフォーカスがなく,血液培養検査でも細菌が検出されていないのにもかかわらず,熱発や炎症反応高値が見られることをよく経験する.おそらくこの病態の多くが,あるいは少なくとも一部は血液培養で検出されない程度の微量の細菌が血中に存在する潜在的菌血症であると推測される.われわれは少なくとも消化器外科手術においては,その原因の多くが手術侵襲に伴う腸内細菌叢の乱れや,腸管バリア機能の破綻により宿主の腸内細菌が血液中やリンパ液中に入り込むことによる潜在的バクテリアルトランスロケーション(OB‐T,occult‐bacterial translocation)であると考えている.本稿では,高度侵襲消化器外科手術を受ける患者を対象に行ったO‐BTに関するいくつかの臨床研究の結果を紹介し,その臨床的意義および今後の課題について概説する.

1 0 0 0 OA ―大腸手術―

著者
内野 基 池内 浩基 堀尾 勇規 桑原 隆一 皆川 知洋 楠 蔵人 木村 慶 片岡 幸三 別府 直仁 池田 正孝
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.176-180, 2022-10-15 (Released:2022-11-15)
参考文献数
33

手術部位感染 (surgical site infection : SSI) の危険因子の一つに低栄養があげられる. その改善により合併症予防が期待できるが, 単独でのSSI対策よりもケアバンドル対策の方が有効である可能性もあり, 周術期管理プログラムとして行われることも少なくない. 今回, 本邦の消化器外科手術におけるSSI予防ガイドラインのクリニカルクエスチョンをもとに大腸手術における周術期代謝栄養管理について再考した. 結果的には大腸手術に限定しても周術期管理プログラムはSSI予防に有用であった. しかし術前炭水化物負荷の有効性やその他の周術期栄養管理対策に関してはエビデンス不足により言及できなかった. 大腸手術では閉塞性大腸癌や炎症性腸疾患など低栄養状態である病態も存在し, 個々に合わせた対策が必要である.

1 0 0 0 OA 膵臓手術

著者
海道 利実 宮地 洋介 三本松 毬子 中林 瑠美 武田 崇志 鈴木 研裕 松原 猛人 横井 忠郎 嶋田 元
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.186-191, 2022-10-15 (Released:2022-11-15)
参考文献数
23

膵臓手術には,膵頭十二指腸切除術(Pancreaticoduodenectomy:PD)や膵体尾部切除術などがある.特にPDは,膵や胆管,消化管の再建を伴い,術中の腹腔内汚染などに起因する手術部位感染(Surgical site infection:SSI),特に臓器/体腔SSIの頻度が高く,術後在院日数延長の一因となっている.さらに膵臓手術患者は,術前低栄養や糖尿病,サルコペニアなどを合併していることが多く,SSI発生を助長している.したがって,膵臓手術においては,手術手技や術中の感染症発症予防対策とともに周術期代謝栄養管理がきわめて重要である.そこでわれわれは,2020年4月より「PD術後10日以内の自宅退院を目標アウトカムとするクリニカルパス」を作成し,臓器/体腔SSI予防ならびに早期退院を目的とした周術期代謝栄養管理を開始した.術前は評価に基づく術前栄養運動療法,術中は臓器/体腔SSIの発生を防ぐ工夫,術後は早期離床,早期経口摂取開始などである.その結果,PD施行連続30例の臓器/体腔SSI発生率は3例(10%),術後在院日数中央値は8日(6‐26)と良好な結果を得ることができた.
著者
土師 誠二
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.192-195, 2022-10-15 (Released:2022-11-15)
参考文献数
16

消化器外科領域における手術部位感染(SSI)対策は重要な課題の一つである.腹部緊急手術は,待機手術に比べて全身状態の術前評価が不十分となりやすく,一般に術後感染リスクは高率である.消化管穿孔による腹膜炎など汚染/感染手術では敗血症をはじめ感染症そのものの制御が術後管理の中心となる.また,高齢者やサルコペニア,フレイル症例ではSSIのみならず肺炎,尿路感染症など遠隔感染に対する注意も要求される.腹部緊急手術に対するSSI対策では術中,術後管理が中心となるが,エビデンスに基づいた感染対策を実施する必要がある.術中から感染対策を意識した取り組みが必要であり,早期経口・経腸栄養をはじめ,創縁保護器具,抗菌性モノフィラメント吸収糸,腹腔/創洗浄,血糖管理,低体温防止,などの項目をSSIケアバンドルとして適切に実施することが肝要と考える.
著者
吉川 貴己 青山 徹 林 勉 山田 貴允 川邉 泰一 佐藤 勉 尾形 高士 長 晴彦
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.205-211, 2015 (Released:2016-02-25)
参考文献数
22
被引用文献数
4 2

胃癌手術後には,手術侵襲,術後合併症,術後後遺症などによって,体重が減少する.体重と脂肪量は術後,継続的に減少していくが,筋肉量は3カ月以降増加に転じる.術後1 カ月での体重減少率15%以上は,術後S-1継続の危険因子と報告されたが,ERAS管理など最新の管理によって体重が維持されるようになり,その意義は薄れてきている.一方,新規に報告された術後1カ月での除脂肪体重減少率5%以上は,術後S-1継続の新たな危険因子として,鋭敏な指標である.術後の筋肉量維持には,術後合併症の予防,手術侵襲の制御などが重要であろう.術前運動療法や手術侵襲の軽減を期待した腹腔鏡手術の効果はControversialである.現在,EPA強化栄養療法や,グレリン投与,投与カロリーの増強などの介入研究が臨床試験として行われている.
著者
北川 博之 横田 啓一郎 並川 努 花﨑 和弘
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.139-145, 2022-08-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
14

背景: 食道癌手術における空腸瘻は早期経腸栄養のアクセスルートとして有用であるが, 腸閉塞の原因となりうる. 空腸瘻と十二指腸瘻の腸瘻起因性腸閉塞と術後体重変化に与える影響を検討する. 対象と方法: 2013年3月から2020年11月に食道癌に対して胸腔鏡下食道切除術, 胃管再建を施行した109例の患者背景, 手術成績, 術後合併症, 腸瘻起因性腸閉塞, 術後1, 3, 6, 12カ月後の体重を, 空腸瘻群74例と十二指腸瘻群35例に分類して比較した. 結果: 十二指腸瘻群は空腸瘻群に比べて術前化学療法 (45.7% vs. 78.4%; P=0.001) と出血量 (150mL vs. 120mL; P=0.046) が少なかった. 腸瘻起因性腸閉塞は12例が空腸瘻群に生じた. 十二指腸瘻群は術後1カ月後の体重減少率が空腸瘻群より有意に小さかった (93.9% vs. 91.8%; P=0.039). 結語: 食道癌手術において十二指腸瘻は空腸瘻に比べて手術時間を延長することなく腸瘻起因性腸閉塞を防止し, 術後早期の体重減少を抑制し得ることが示唆された.
著者
秋月 さおり 佐々木 君枝 北島 祐子 梅木 雄二 鳥越 律子 林 真紗美 篠崎 広嗣 鈴木 稔 上野 隆登 神村 彩子 田中 芳明
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.55-65, 2018 (Released:2018-08-23)
参考文献数
18

L-オルニチンおよびL-グルタミン含有食品摂取による周術期栄養改善およびQOL への影響を検討するための介入試験を行った.消化器癌開腹手術を実施する90 歳以下の男女18 名を試験食品摂取群または非摂取群の2 群に無作為に分け,術前・術後の7 日間ずつにわたり試験食品を摂取させ,栄養関連指標,体組成,QOL について評価した.その結果,両群において手術の侵襲による栄養関連指標,体組成量の低下が観察されたが,試験食品摂取による影響はみられなかった.一方で,QOL アンケートより,身体機能,役割機能,倦怠感,疼痛について,非摂取群でみられたスコアの低下が試験食品摂取群では認められなかった.これらのことから,周術期に一定期間L-オルニチンおよびL-グルタミンを摂取することにより,患者のQOL を良好に保つことができる可能性が示唆された.
著者
田崎 亮子
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.133-138, 2022-08-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
5

GLIM基準において, 体重と体重の変化はアセスメント要因の現症項目となっている. 一方, 胃がん術後は多くの患者で体重減少が起きており, 体重やBMI, 体重の変化は栄養管理上重要な評価項目であると思われる. そこで今回, 胃がん手術を受ける患者の術前のBMIをGLIM診断のアジア人の低BMI基準を使って, 栄養状態の評価に使えるのか分析することを目的とした. 胃がん手術を受けた患者のデータをもとに, 年齢, 性別, がんのStage, 術式, BMI, ALBを調査しGLIM基準のBMIに基づいて分類した群の, 術前と術後1カ月のBMIとALBとの関連を分析した. GLIM基準のアジアのBMIで分けた4群で70歳以上の群 (A群B群) でも, 70歳未満の群 (C群D群) でもBMIの低い群 (B群・D群) がALBも低い傾向が伺えた. また, 年齢を加味せず全体では, GLIM基準の低BMIの「現症」を有している方 (B/D群) が, BMI基準値をクリアしている群 (A/C群) より有意にALBが低いことが分かった. GLIM基準は簡便な方法であり今回の調査でも低栄養の診断に使える可能性があることが伺えた. 超高齢社会の進展の中, GLIM基準は医療に限らず, 介護の分野でも広く使用される低栄養の診断基準ではないかと考えた.
著者
中森 裕毅 亀井 政孝
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.175-179, 2020 (Released:2020-11-15)
参考文献数
19

体外式膜型人工肺 (extra‐corporeal membrane oxygenation, ECMO) とは, 血液を一度体外に導き (脱血), 血液に酸素を与え二酸化炭素を除去するというガス交換を人工肺にて行い, 再度血液を体内に戻す (送血) 装置である. ECMO自体が敗血症のリスク因子でもあり, 敗血症へのECMOは従来禁忌とされてきた. 敗血症におけるショックは血管トーヌスの低下に由来するもののみではなく, 敗血症性心筋症 (sepsis‐induced cardiomyopathy, SICM) と呼ばれる心原性ショックが併発している場合がある. SICMは可逆性の心筋症であり, 心機能の回復までの期間の全身の細胞レベルでの血液還流維持としてのECMOの活用は大いに期待される. しかしながら, ECMOは感染, 出血, 臥床といった問題点があり, 多臓器不全を合併する敗血症患者での施行には特に難渋する. 事実, これまでの敗血症に対するVA‐ECMOの治療成績は, 生存退院率が20%程度にすぎないという報告が多い. より細径でより血栓を形成しないカニュレやECMO回路の開発を医工学には期待したい. 医工連携によりSICMの予後改善の余地は大いにあると考える.
著者
民上 真也 柴田 みち 梅澤 早織 久恒 靖人 鈴木 規雄 中村 祐太 伊藤 彩香 水谷 翔 大貫 理沙 穐山 雅代 栃本 しのぶ
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.11-15, 2022 (Released:2022-03-15)
参考文献数
8

新型コロナウイルス (COVID‐19) の世界的な蔓延に伴い, 人々は感染予防対策として新しい生活様式を強いられている. 医療の現場においては, 院内感染対策の徹底, 一般診療とCOVID‐19診療の両立など, 新たな医療体制の構築が求められるようになった. 聖マリアンナ医科大学病院では, 本邦での感染者の発生当初より「神奈川モデル」の高度医療機関および重点医療機関協力病院として多くのCOVID‐19症例を積極的に受け入れて治療を行っている. 院内においては, 救命病棟の改装, コロナ専用病棟への改築, 発熱外来の設置など, COVID‐19診療支援体制の構築に努めてきた. 院内での感染対策としては, 手指消毒, マスク着用, ソーシャル・ディスタンス確保, 黙食など遵守事項の徹底が求められた.NST活動は, 感染予防のため医療者間の接触を最小限にしたチームの再編成が求められ, カンファレンスや回診などの活動も制限された. 他の多くの施設においても, 特に第1波の時期においてはカンファレンスや回診などのNST活動は制限され, また, 院内勉強会や院外での講演会も中止を余儀なくされたため, 従来の形で栄養を学ぶ機会が失われた.
著者
八木 実 大滝 雅博 阿部 尚弘
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.51-54, 2021-04-15 (Released:2022-05-15)

外科領域で術前術後や,化学療法・放射線療法併用時にさまざまな愁訴が出現し,その解決に東洋医学(漢方医学)が果たす役割は大きい.実際にNSTでも,しばしばさまざまな症状とその解決依頼に直面する.このような場面こそ漢方医学の出番であると考えられ,個々の臓器の器質的異常に対して対処する西洋医学とは異なる対応が可能である.このような病態への対応にあたり漢方医学的基礎知識は身に着けておくべきである.本稿では外科医として知っておいた方がよい東洋医学(漢方医学)の基本を概説する.
著者
奥川 喜永 大井 正貴 北嶋 貴仁 志村 匡信 大北 喜基 望木 郁代 横江 毅 問山 裕二
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.55-58, 2021-04-15 (Released:2022-05-15)
参考文献数
22

第四のがん治療として免疫チェックポイント阻害剤が登場し,腫瘍を直接的に標的とせず,腫瘍宿主相互反応を利用した治療の有用性があきらかとなり,周術期を含むがん治療においても,あらためて宿主の状態を改善する集学的治療の重要性が再注目を集めている.特に超高齢化社会を迎える本邦において,今後の消化器外科手術における周術期管理には,手術を受ける宿主の状態そのものの改善を目的とした漢方薬の有用性が周術期管理向上への一助として期待される.漢方薬は数千年の歴史を持つが,最近では特に消化器領域の漢方薬研究が非常に進捗し,生物学的機序が徐々に解明されている.さまざまな漢方薬がある中でも,特に六君子湯はその臨床的有用性とその作用機序も含め,もっともエビデンスが豊富な漢方薬のひとつといえる.本稿では,六君子湯の周術期管理における有用性を,これまでの報告をもとに紹介する.
著者
海保 隆
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.65-68, 2021-04-15 (Released:2022-05-15)
参考文献数
24

外科周術期サポートとしての茵蔯蒿湯の出番は, 減黄不良の閉塞性黄疸症手術例への術前投与や, しばしば大量肝切除を必要とする肝門部領域胆管癌, 術前肝予備能の低下した原発性肝癌などの肝切除後の高ビリルビン血症に対する予防投与などである. 高度侵襲手術による肝内胆汁うっ滞などにも効果が期待されるが, 感染を起因とした肝内胆汁うっ滞にはまず感染のコントロールを優先する. 留意すべき点として, 有効成分のgenipinは茵蔯蒿湯の構成生薬“山梔子”の成分geniposideが腸内細菌により分解され生成されるので, 健常な腸内細菌叢が保たれていることが肝要である. 術後, 広域抗菌薬の使用により腸内細菌叢が変化していると, 茵蔯蒿湯が有効に働かない可能性がある. 他に同様の働きをする西洋薬が存在しないために, 万が一の場合には使用する意義が大きいと思われる.
著者
西 健 田島 義証 中村 光佑 林 彦多 川畑 康成
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.73-76, 2021-04-15 (Released:2022-05-15)
参考文献数
31

補剤とは, 生体の活力が低下している時に, 生体内に不足している成分を補って機能賦活を行い, 治癒を促進させる漢方薬である. 十全大補湯と捕中益気湯はその代表であり, 免疫賦活効果を中心に, 基礎研究・臨床研究の両面からその有用性が報告されている. 生体に手術侵襲が加わると, 炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの過剰産生が生じ, その結果, 免疫能が低下し, 易感染状態となる. 周術期管理における十全大補湯・捕中益気湯の投与は, 手術侵襲の回復過程における免疫機能のサポートに有用と考えられ, 免疫能が賦活化され, 手術侵襲の負担軽減と生体防御の活性化が期待できる. 十全大補湯は気虚 (気が不足した病態) と血虚 (血が不足した病態) のいずれの病態にも作用する補剤で, 特に高齢者や担癌患者で貧血を伴うような症例でその効果が期待できる. 補中益気湯は気虚 (気が不足した病態) に用いられ, 気が減衰した周術期患者の免疫賦活, 特に感染性合併症の軽減に有用であることが示唆されている.