著者
宮城 眞理 豊里 竹彦 小林 修平 川口 毅
出版者
The Japan Society of Health Sciences of Mind and Body
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.91-99, 2012

本研究は禁煙外来に来訪した受診者を1年以上にわたって追跡調査し,禁煙継続に関わる諸因子を疫学的に明らかにすることを目的とした.特に近年,喫煙が薬物依存症であることが明らかにされ,それに基づいて開発されたニコチン製剤であるニコチンパッチ (二コチネル) および,ニコチン受容体部分作動薬バレニクリン (チャンピックス) を用いた禁煙治療の長期的効果の比較とその他の心身健康に関わる心理的因子の検討を行った.<br>都内の禁煙外来においてバレニクリンもしくはニコチンパッチを用いて治療した102名を対象に治療開始後3ヶ月,1年後に追跡調査した結果,3ヶ月,1年後それぞれの禁煙率は79.3%,62.6%であり,禁煙補助剤別でみるとバレニクリンでは80.0%,68.4%,ニコチンパッチでは77.8%,56.7%であった.禁煙補助剤による副作用は53%にみられ,禁煙補助剤別でみるとバレニクリンでは57%,ニコチンパッチ42%であった.<br>禁煙の持続率に関連すると思われる因子では,禁煙持続群と禁煙しようとしたが,禁煙できなかった喫煙群との間には禁煙外来への受診回数 (3ヶ月<i>p</i> < 0.05,1年<i>p</i> < 0.01) および心理的要因であるSTAI (特定不安) ならびにカウンセリング必要度に有意差がみられ (<i>p</i> < 0.05),さらにカウンセリング必要度の中では,理屈ではよくないとわかっているのにその行動を改められないなどの行動症状,わけのわからないことで,イライラしたり,不安になる,あるいは無気力になるなどの精神症状に有意差が認められた (<i>p</i> < 0.05).<br>以上の結果から,長期的な禁煙効果を高めるためには,受診継続への工夫,禁煙補助剤の開発,ならびに心理的なサポートをするカウンセラーの育成が急務であることが示唆された.
著者
池田 耕二 玉木 彰 山本 秀美 中田 加奈子 西條 剛央
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.102-108, 2009-09-10 (Released:2010-11-19)
参考文献数
23

本研究の目的は,認知症後期高齢患者の理学療法実践において周囲からも一定の評価を受けている4年目の理学療法士の「実践知」の構造の一端を,構造構成的質的研究法により探索的に明らかにし,それらを実践理論や教育モデルの一つとして提示することにある.その結果,実践知モデルは【患者力】と【家族力】の2つのカテゴリーによって構成された.【患者力】は「身体の基本的な動作能力」,「疼痛の程度」,「関節可動域障害の程度」から総合的に評価される《動きからみる身体能力》と「否定的感情」,「肯定的感情」の表出やそれらの「感情の波」として評価される《感情表出パターン》,さらに「理学療法士に対する認識」,「自己や周囲に対する誤認識」から解釈・判断される《関わりの中で感じる認知能力》,「口頭指示の入りやすさ」,「発語能力」,「働きかけに対する反応」から評価される《反応からみるコミュニケーション能力》の4つのサブカテゴリーによって構成された.また【家族力】は,「家族の退院にむけた希望」や「家族の理解や協力」によって構成された.これによって認知症後期高齢患者の社会復帰に向けた問題点の一端を,患者とその家族,それらのバランスという視点から評価することや,それによって理学療法を施行する際には,どこに大きく焦点をあてるべきかが理解しやすくなる可能性が示唆された.また理学療法実践においても柔軟なストラテジーの選択に活用できるということからして有用性が発揮される可能性が示唆された.
著者
吉田 渡 藤城 有美子
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.27-34, 2012-02-10 (Released:2012-02-22)
参考文献数
16
被引用文献数
1

ポリオ体験者の装具受容れ意識と現在のQOLに対する装具の貢献度を,装具の導入状況別に明らかにすることを目的として,507人を対象に質問紙調査を実施した (回収率58.8%).対象者を装具の検討なし群,未使用群,継続群,再開群,中断群に分類し,受容れ意識については継続・再開・中断群で,装具貢献度については継続・再開群で比較した.受容れ意識では,「装具導入の阻害要因」は全群で同程度に強く意識されていたが,「装具導入の促進要因」,「装具使用のメリット」は継続群で高く,特に心理的側面での差が見られた.主観的な装具貢献度は,継続群で高かった.使用継続には,生活の中で装具の利用価値を実感する必要があること,再開群ではそのメリットを感じないまま必要に迫られて装具使用を再開し,適切な受容れがなされていない可能性があることが示唆された.ポリオ体験者のwell-beingのためには,心理社会的側面にも配慮した装具の提供を行うことが望まれる.
著者
菊池 大典 鈴木 はる江
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-22, 2020 (Released:2020-06-07)
参考文献数
21

国が推進する地域医療構想の実現に向けて,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の需要が増す中,作業療法士(以下,OTR)の配置は必ずしも十分ではない.本研究は訪問リハに従事するOTRの職業性ストレスとその関連要因を明らかにすることを目的に,OTR101名(有効回答率78.9%)の職業性ストレスを調査し,ストレス反応と基本属性,臨床経験,ストレス要因の関連性を分析した.重回帰分析の結果,満足度がストレス反応の緩衝要因として最も影響しており,活気には正の相関(β=0.437,調整済みR2=0.305)を示し,抑うつ感(β=-0.546,調整済みR2=0.291),イライラ感,疲労感,不安感,身体愁訴には,満足度が負の相関として回帰式が得られた.このことから良好なメンタルヘルスを保つ為には,仕事と家庭に満足していることの重要性が示唆されたと共に,今後は満足度の具体的な内容を明らかにすることが,より良いメンタルヘルス対策の検討に資すると考えられた.
著者
大東 俊一
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.92-95, 2013-09-01 (Released:2013-09-13)
参考文献数
3
著者
入井 俊昭 岩楯 公晴 青木 清
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.96-102, 2013-09-01 (Released:2013-09-13)
参考文献数
12
被引用文献数
3

孤独死の問題が取り上げられる時,社会との繋がりが希薄になっていることが原因であるという見方がされる.また,心身健康の側面から見たとき,精神疾患者は,周囲の理解を得ることが難しく,同様に社会との繋がりが希薄になってくる.本研究では,独居死と精神疾患の関連を明らかにするために,過去3年間に実施された法医剖検例から性別,年齢,死因,既往歴等を抽出し,調査した.剖検例1702件のうち,独居死は472件であった.このうち,精神疾患者群は,123件見られ,その年齢構成は,高齢者よりも,若年層に多いことが示された.死因について,特徴的な傾向として,男女とも精神疾患者群では,中毒及び自殺の割合が高く,特に,65歳未満の女性の精神疾患者群では,この傾向が顕著であった.この中には,薬物の多量摂取が疑われる事例があり,精神疾患者特有の現象と考えられ,精神面でのサポートの必要性を示している.
著者
佐藤 和彦
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.93-101, 2009-09-10 (Released:2010-11-19)
参考文献数
17
被引用文献数
1

容易に実施できるリラクセーション手法の一つに呼吸法がある.しかし,どのような呼吸法がリラクセーション効果を生じさせるかについては諸説があって明らかではない.本研究では,特別な修練を行うことなく誰もがその場で実施できる呼吸法として,呼吸パターンに着目する.呼吸法の実施前後における心拍,血圧の測定,及び各呼吸法に関する快適度等の主観評価を行い,呼吸パターンの違いによる効果を考察した.呼吸パターンとして「吸気-止息-呼気」を「呼吸法X-Y-Z」として秒数表記した場合,パターン化した呼吸法自体への不快感がない人においては,「呼吸法2-1-4」がより効果的であることが示唆された.修練不要な簡易な呼吸法であっても一定の効果があり,その呼吸パターンにおけるリラクセーション効果は,呼吸法自体の快適度によって影響を受けることが明らかになった.
著者
中川 仁 青木 清 大東 俊一
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.49-59, 2011-02-10 (Released:2011-05-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

養成過程にある理学療法士の心身ストレスを性格類型との関連から明らかにすることを目的として,理学療法士養成校の学生84名と新人理学療法士102名に対し,ストレスについてアンケート調査とYG性格検査を行った.このアンケート結果を因子分析して,ストレス因子を抽出した.重み付けした因子得点を従属変数として,臨床経験の有無およびYG性格類型を独立変数として分散分析を行った.その結果,4つのストレス因子が抽出された.気分の変調因子は臨床経験と性格類型のそれぞれに,対人関係因子は性格類型についてのみ主効果が見られた.また,将来の見通し因子は交互作用がみられたが,食欲不振因子は関連がみられなかった.これらのことより,新人理学療法士のB·C類では気分の変調に陥りやすいことが考えられた.また,E類以外の新人理学療法士は将来についての葛藤に悩まされる可能性があることが示唆された.なお,対人関係は性格による違いはなく,食欲不振は誰にでも生じ得るストレスであることが明らかになった.
著者
大谷 喜美江 冨澤 栄子 筒井 末春
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-9, 2016-02-01 (Released:2016-02-22)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本研究の目的は,Daily Upliftsのレジリエンスへの影響を,日常いらだち事およびコーピングの特性を踏まえ検討する事である.方法は横断的質問調査であり,2014年5月に労働者1,300名へ電子メールで調査を依頼した.調査項目は,属性,レジリエンス尺度 (RS),日常いらだち事尺度 (DHS),コーピング特性簡易尺度 (BSCP),筆者作成のDaily Uplifts 30項目である.分析方法は,RS総得点を従属変数とした階層的重回帰分析で,属性,DHS総得点,BSCP下位尺度,Daily Uplifts項目を順次モデル1~4として投入した.調査回答者は502名であった.階層的重回帰分析の結果,高いレジリエンスへの有意な独立変数は,BSCPの問題直接解決・視点切替,Daily Upliftsの,楽しい・嬉しい・心地が良い出来事の想像,友人や仲間とのコミュニケーション,暮らしに滞りがない,が含まれた.労働者のレジリエンスは,Daily Upliftsと関係しており,特に労働者の心のヘルスプロモーションへの活用可能性が示唆された.
著者
粕谷 大智 川口 毅
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.79-90, 2011-09-10 (Released:2011-09-15)
参考文献数
24

【目的】腰痛ガイドラインにおいて,治療者の対応 (指導,共感,励まし) が,治療成績や満足度を向上させるというエビデンスがある.しかし,腰痛患者の健康や疾病に対する考え方,理解度,性格が治療の効果を左右する可能性があり,腰痛患者の信念体系を把握した上での対応が求められている.今回,慢性腰痛患者の健康統制感と身体所見との関係を調査し,心身健康科学からみた慢性腰痛患者の特徴と介入後の変化について検討した.【対象と方法】慢性腰痛と診断された49例を対象とした.評価法は,健康統制感尺度 (JHLC) と腰痛QOL尺度 (JLEQ) と不安評価尺度 (STAI) とVASと身体所見との関係を調査した.介入は,セルフケアや鍼灸治療など集学的治療を行い,介入3カ月までJHLCの推移と,それぞれの指標との関連について検討した.【結果および考察】JHLCは5つ下位尺度の中で,内在的統制において点数が高い傾向であった.また,介入3ヵ月後においてQOL尺度,STAI,VAS,身体所見とも有意に改善を認め,JHCLは内在的統制で有意に点数が増加した.VASの初診時と介入3ヶ月時の変化量を基準変数とした重回帰分析の結果では,QOL,STAI,身体所見の変化量で寄与率が強く,JHLCでは外在的統制の医療関係者の項目の変化量に寄与率が強い傾向であった.以上,内在的統制が高い患者であること,または介入により内在的統制を高めることと,外在的の因子では医療従事者の関わりが,より効率的な保健行動を向上させる可能性が示唆された.
著者
久住 武
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.10-17, 2008-02-10 (Released:2010-11-25)
参考文献数
12
著者
楢原 理恵 島田 凉子
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.124-129, 2012

本研究の目的は,3交代制看護師のバーンアウトの重症度別の心身の症状の違いを明らかにし,看護師のバーンアウトの早期発見および対策についての示唆を得ることである.<br>総合病院の3交代制看護師133名に質問紙調査を実施した.調査項目は,精神健康調査票 (The General Health Questionnaoire以下GHQ30とする),Maslack Burnout Inventoryの日本語版 (以下MBIとする),職務意識の低下度とした.有効回答98名 (73.7%) を分析対象とした.バーンアウトの重症度として,バーンアウトが重症化するに従って職務意識も低下する<sup>1)</sup>との前提に基づいた先行研究での結果を本研究においても検証した上で,職務意識の段階を「バーンアウトの軽度・中等度・重度」と仮定した.バーンアウトの重症度と看護師の心身の症状の関連については,GHQ30下位尺度と情緒的消耗感の得点をピアソンの積率相関係数を算出した.その結果,「バーンアウトの軽度」には「身体症状」と有意な正の相関,「バーンアウトの中等度」にはGHQ30下位尺度全ての心身の症状との有意な正の相関,「バーンアウトの重度」には,「精神・神経症状」のみが有意な正の相関を認めた.よって,バーンアウトの早期発見や離職防止においては,看護師の身体症状に着目することが有効であることが示唆された.
著者
野中 真由子
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.47-53, 2008-02-10 (Released:2010-11-25)
参考文献数
6

精神科看護師は,看護師のストレス要因に加え,精神疾患を抱える患者とのコミュニケーションの困難さ,患者の病状の把握や看護介入の困難さ,疾患の特徴から再発を繰り返しやすいという状態に起因するストレスがあると考えられる.また,精神疾患の多様化に伴い,ストレスは増強することが予想され,臨床で働く精神科看護師はその多様なストレスに柔軟に対処する力が必要となる.したがって,これまで以上に職場におけるメンタルヘルスが維持され,職業性ストレスを起こさない対策が求められると考える.本研究では,精神科病院に勤務する女性の精神科看護師76名を対象にストレス要因とその対処行動の実態についてのアンケート調査を行い,有効回答72名を対象にt—検定を用いて解析した.この結果,仕事のストレス要因は『心理的な仕事の質的負荷』『身体的負荷』『職場環境』であった.対処行動では,ストレス要因の大きい群と小さい群の比較を行ったところ,ストレス要因の大きい群に『仕事や生活の満足度』が少なく,『回避的認知・行動』が大きかった.しかし,これは精神科看護師に特有な対処行動とは考えにくかった.そこで,サポート体制の大きい群と少ない群での比較をした結果,サポート体制が多い群に『活気』があり,『不安』『抑うつ感』が少なかった.これらから,ストレス低減のための一つとして緩衝効果の高いサポート体制をより強化していくことが,ストレス要因が多い精神科看護師にとってもより健康的な対処行動を形成する上で有効であることが示唆された.
著者
西川 明美 吉田 浩子
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.72-78, 2017 (Released:2017-09-15)
参考文献数
16

本研究の目的は,産後1カ月の母親の母乳育児不安とそれに関連する諸要因を心身健康科学の視点から分析し,母乳育児不安の低減につながる知見を得ることであり,産後1カ月の母親196人を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した(回収率100%有効回答183人有効回答率93.4%).有効回答者183人を分析したところ,57.9%(106人)に「母乳育児不安」が見られ,関連要因として,出産経験,仕事復帰予定,出産準備教室参加経験,退院時・1カ月時の栄養方法,睡眠の状況,育児に対する楽しさの実感の有無が挙げられた.さらに,母乳不足ぎみ,乳頭・乳房痛,赤ちゃんの飲み方,乳頭保護器の使用が不安の直接要因であった.これらのことから,育児経験のない初産婦が出産直後から退院時までの短期間で新生児に対する育児技術を習得することは困難な可能性が示唆された.
著者
守口 善也
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.10-16, 2011-02-10 (Released:2011-05-10)
参考文献数
24