著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.277-285, 2012-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
18

神経性過食症が神経性食思不振症の一亜型として紹介されてから30年が経ち,摂食障害の臨床像,精神病理は大きく変化した.現在,多くのガイドラインが認知行動療法を最もエビデンスを有する神経性過食症への精神療法的アプローチとして推奨している.一方で精神病理の複雑化に伴って感情不耐性,完全主義,中心的な自己評価の低さ,対人関係の困難までを扱う強化認知行動療法へと移行している.また,青年期の神経性食思不振症には家族療法の1つであるモーズレイアプローチが,神経性過食症には対人関係療法の有効性が報告されている.しかし,大学病院を受診する摂食障害患者の精神病理はさらに複雑化しており,全般性の社交不安障害をベースとする症例への認知行動療法や,多衝動性への弁証法的行動療法も考慮しなければならない.
著者
宮崎 友香 佐々木 直
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1075-1084, 2010-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

本症例は52歳女性のパニック障害の既往歴のない広場恐怖を併発したメニエール病患者で,内耳治療,向精神薬服用により心身症状が軽快したが,向精神薬を減薬すると不安や身体症状が悪化し,減薬ができないまま経過していた.そこで,認知行動療法のうちエクスポージャーによる回避行動の消去,認知再構成法による身体症状を過剰に危険なものととらえる認知の変容などを行った.その結果,維持・増悪要因となっていた予期不安が改善し,広場恐怖が消失したため心身症状の顕著な改善に至り,薬物療法の終了が可能になったと考えられた.本症例によって,心理社会的要因が関与するメニエール病に対する認知行動療法の有効性が示唆された.
著者
齊藤 万比古
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.277-284, 2010-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

発達障害は最初に子どもの年代で診断されることが多い障害の代表的なものであるが,発達障害とされる諸障害が成人で注目されるようになったのはわが国ではごく最近のことである.注目が集まるにつれ,成人の間に発達障害を見出したとの症例報告が増えているが,診断の困難さは成人における各発達障害の臨床像が必ずしも確立していないことにもある.診断を難しくしている最大の要因は,発達障害における併存精神障害の併発率の高さと多様さにある.難治性の,あるいは対応困難な成人期の精神障害や心身症の背景に発達障害が存在していないか否かを見極める視点が,この領域の臨床家にとって必須なものとなっている.こうした観点での精神医学および心身医学の整理が必要ではないだろうか.
著者
齊藤 卓弥
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.303-311, 2010-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

発達障害と気分障害の合併は,患者の全体的な機能(functioning)の低下を引き起こし,発達障害の患者の適応をより低いものにする.従来,発達障害患者の気分障害の合併に関してはさまざまな議論があったが,徐々に発達障害に気分障害が合併すること,また発達障害患者に気分障害の評価・診断を行う際にはさまざまな配慮が必要であることが明らかになってきている.発達障害の中で気分障害に注目することは,問題行動の予防をする点からも重要であると考えられるようになってきている.同時に,治療可能な合併する気分障害の治療を積極的に行うことは,発達障害患者のquality of lifeの向上と機能の至適化に重要である.ここでは,気分障害を合併する発達障害の診断・治療について,現在までの知見を概説するのと同時に,米国における発達障害への教育的なかかわりを通して成人の発達障害への支援について1つのモデルを提案する.
著者
川上 正憲 中村 敬 中山 和彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.359-366, 2015

アトピー性皮膚炎に身体醜形障害を併存する1例を報告した.神経質性格を基盤にしたアトピー性皮膚炎の患者が,皮膚症状に対する「とらわれの精神病理構造」を認める場合,外来森田療法は有用である.治療者は,彼女の語り,および彼女の実存を主体的,実存的に我がものとして引き受け,「生の欲望」の涵養を行った(実存的交わり:ヤスパース).また,本症例は皮膚科医師に「顔の皮膚症状は良くなっている」と言われているにもかかわらず,「自分としては良くなっているとは思えない.納得できない」という「皮膚科医師の客観的判断と,本人の主観的判断の不一致」を認めた.こうした認知様式は,身体醜形障害に由来するもので「妄想的心性」もしくは「外見の欠陥に対するとらわれ」と呼ばれる.こうした認知様式が彼女のドクターショッピング行動を引き起こしていたことを指摘した.
著者
浜崎 景 浜崎 智仁 稲寺 秀邦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.842-848, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

ω3系多価不飽和脂肪酸(以下,ω3)は,1970年頃から心筋梗塞などの動脈硬化症に対する予防効果を期待され,さまざまな疫学調査や臨床試験が行われてきた.それ以降ω3に関する論文数は右肩上がりに増加しており(Fig.1),1980年頃より精神疾患に関する疫学調査が報告され,2000年頃から精神疾患患者を対象とした臨床試験が多く行われるようになってきた.これまでのメタ解析の結果をみると,精神疾患の中でも特にうつ病に効果がみられることが示唆されている.現在では日本での気分障害の患者は100万人を超えていると推測されており,ω3が栄養学的な観点から治療の一助になる可能性もある.本稿ではわれわれが得た知見を紹介するとともに,この分野に関する海外からの疫学調査や臨床試験の報告を紹介する.
著者
荒井 弘和 中村 友浩 木内 敦詞 浦井 良太郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.865-871, 2005-11-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

本研究の目的は, 男子大学生を対象として, 身体活動・運動と不安・抑うつとの関係を検討することであった.大学1年生の男子1,159名を対象に, HADS日本語版, 身体活動評価表, および運動行動の変容段階尺度を使用して, 横断的調査を行った.その結果, 運動・スポーツや日常活動性は, 不安とは関連していなかったが, 抑うつとの間に有意な負の相関関係が確認された.また, 運動行動の変容段階が無関心期の者と, それ以外の変容段階の者との間において, 抑うつ得点に有意な差が認められた.しかし, 抑うつに関する結果は, 1,000名を超すサンプル数に影響されている可能性があり, 抑うつに関する結果の解釈には注意が必要である.
著者
河西 千秋
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.801-805, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
9

自殺未遂は最も強い自殺の危険因子であり, 未遂者の自殺再企図防止が自殺予防対策の主要課題とされ, その方略開発が長く国際的な課題であった. そのような中, わが国で実施された自殺対策のための戦略研究・ACTION-Jが, 世界的に初めて科学的根拠性をもってその方略を提示した. ACTION-Jは, 精神科と救命救急センターが連携する17病院群で実施され, 自殺企図で搬送された914名の未遂者を対象に, 試験介入群に構造化されたケース・マネージメント介入が実施された. その結果, 試験介入群では一定期間, 自殺再企図の発生割合が低減し, 介入の実効性に優れていることが示された. 戦略研究の成果活用の必要性はすでに自殺総合対策大綱に言及されており, ケース・マネージメントを実施する人材の養成研修が試行され, 厚生労働省の医療事業化へと進展している. 今後はこのACTION-J介入モデルの一般医療への普及が課題である.
著者
渡部 友晴
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.653-659, 2013-07-01

災害後の学校における中長期の心理支援を考えるうえで,子どもたちが自らの体験に触れ,それを表現する機会をもつことは大変重要である.それはトラウマ反応への対応として有効なだけでなく,喪の作業としても意味がある.またアニバーサリー反応の軽減にも役立っ.そのためにも,そうした表現活動は,適切な時期に,適切な配慮のもと行われる必要がある.時期としては,発災から3カ月あるいは半年くらいが過ぎた以降の中長期対応の時期が望ましい.また表現活動の導入前,事前準備,当日,事後とそれぞれの段階に応じた配慮が必要となる.またこれらの活動は,災害後,子どもたちとともに歩んできた教員らが中心となって行うのが望ましい.実際に表現活動が行われた学校では,心身の反応を呈する子どもたちも少数いたが,そこでの教員らの適切な対処により,反応を成長につなげていくことができた.2年目以降の表現活動としては,心の整理に加え,語り継ぐという観点が加わる.
著者
Samir Al Adawi 鄭 志誠 辻内 琢也 葉山 玲子 吉内 一浩 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.933-941, 2005-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22

国際的にみて, 精神的外傷を引き起こすような死別に対し, 十分に対処がとられている社会は少ない.これにもかかわらず, 死別に対する反応を社会的特性という観点でとらえる人類学的研究はごくわずかであり, 死への悲嘆反応は, 心身医学的問題としてとらえられている傾向がある.本稿では, オマーンの伝統的な社会に存続する不慮の死における死者の生き返り(zombification), そして呪術や魔法に関する信仰(信念)を紹介する.これらの反応は社会的に容認されており, 死者の死の否定を基礎としている.さらに考察では, これらを説明モデルという概念を用いて分析し, 世界各地で観察される類似する悲嘆反応を欧米のタナトロジー(死亡学)研究におけるそれと比較し, 新たな視点で論じる.