著者
辻 大介 Tsuji Daisuke ツジ ダイスケ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.211-224, 2017-03-31

社会学 : 研究ノート本稿では、2007年と2014年に実施したウェブ調査の結果から、「ネット右翼」層の規模と属性・行動・意識等の特徴について報告する。「ネット右翼」とは日本版のオルタナ右翼とも言えるものであり、本研究では、1)中国と韓国への排外的態度、2)保守的・愛国的政治志向の強さ、3)政治や社会問題に関するネット上での意見発信・議論への参加という3点から操作的に定義した。この定義に合致するケースは、2007年調査では全標本中の1.3%、2014年は1.8%であった。これらのあいだに統計学的な有意差はなく、「ネット右翼」層が増えたとは言えない。また調査標本の特性を考慮すると、ネット利用者全般における「ネット右翼」の比率は、実際には1%未満と見積もるのが妥当と思われる。2014年調査データの分析結果によれば、「ネット右翼」層には男性が多く、年齢や学歴には有意な特徴はない。ネットのヘビーユーザであり、ソーシャルメディアのなかではTwitterを活発に利用する。「2ちゃんねる」を含む掲示板全般、「ニコニコ動画」を含む動画サイト全般の利用頻度も高く、右派系のオンラインニュースサイトへの選択的接触傾向をもつ。ネット上で他者とのトラブルを経験した率が高く、オンライン脱抑制の程度もネット中毒の程度も強い。This article reports the results of web-based surveys conducted in 2007 and 2014, in order to investigate the actual conditions of Netto-uyoku, online activists of the Japanese alt-right. In this study Netto-uyoku is operationally defined as those who are: 1) xenophobic toward China and Korea, 2) have a nationalistic political attitude, and 3) post or exchange opinions about political issues via the Net. Respondents who meet this definition were 1.3 percent of total samples in 2007, and 1.8 percent in 2014. Statistically there is no significant difference between these ratios, suggesting that Netto-uyoku has not increased in a recent decade. In addition, taking account of sample selection bias, the actual size of Netto-uyoku is estimated at far less than 1 percent of the Japanese Internet users. Analyses of 2014 survey data showed that over three quarters of Netto-uyoku are males, but there are no significant features in their ages and educational backgrounds. They are heavy users of the internet, and prefer Twitter to other social media such as Facebook or LINE. They use BBS websites such as "2channel", video sharing websites such as "Niconico", and online game sites more frequently than other internet users. Netto-uyoku are more likely to experience online troubles or flaming with others, and it seems partly because of their high degree of online disinhibition and internet addiction.
著者
辻 大介 北村 智
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.99-109, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
39

インターネット上では、従来のマスメディア中心型の環境よりも、情報・ニュースの選択的接触が生じやすく、それによって人びとの意見の極性化が生じ、世論や社会の分断を招くのではないかという懸念が、多くの研究者や評論家から表明されている。本稿では、日本の「ネット右翼」やアメリカの“Alt-Right”に見られるようなネット上の排外主義に着目しつつ、2016年に日本とアメリカで実施したウェブ調査のデータから、ネットでのニュース接触が排外的態度の極性化(二極分化)傾向との連関について検証する。分位点回帰分析の結果、日本ではPCを用いたネットでのニュース接触頻度がユーザの排外的態度の二極化傾向と有意に連関していたが、アメリカではむしろ専ら反排外的な方向のみに変化させることが確認された。このことは、ネットにおける態度・意見の極性化の生起が、社会・政治・文化的コンテクストによって左右されることを示唆している。
著者
辻 大介
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.29-39, 2003-07-31 (Released:2017-04-29)

私たちのおこなうコミュニケーションを,物理的・機械的な情報伝達とは十分に区別されるように記述できるかどうかが,理論社会学にとってはひとつの試金石となる.本稿ではその可能性をH.P.グライスの非自然的意味の理論に求める.それは,発話者が何ごとかを意味する(コミュニケートする)ということを,発話者のもつ自己参照的意図から分析するものである.それに対しては,コミュニケーションにおける言語規約的要素を重んじる立場と,自己参照的意図の無限背進を懸念する立場から,批判が提出されてきた.これらの批判は個別の論点をもつため,これまでは分け離して扱われることが多かったが,本稿ではそれらをあわせて考察することをとおして,最終的に,コミュニケーションにおける自己参照的意図と言語の規範性が根源的な関係をもつものであることを示し,グライス流の意図によるコミュニケーションの記述に,社会(学)的記述と呼ぶにふさわしい資格を与える.
著者
辻 大介
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.43-52, 2006-03-25

本稿では、中村[2003]の先行研究によって明らかになった携帯メールと孤独不安の関連について、さらなる検討・考察を加える。2004年の予備調査および2005年の大学生調査の分析結果からは、携帯メールの利用頻度と孤独不安とが正の相関を示すことが確認され、また、携帯メール利用と孤独不安が互いに互いを高めるような螺旋状の増幅過程の存する可能性が示唆された。宮台[2005]はこうした「悪循環」の過程の背後には対人不信が潜んでいると論じているが、2003年の全国調査のデータを再分析した結果からは、孤独不安と一般的信頼尺度はむしろ正の相関関係にあることが認められた。山岸[1998]の信頼に関する議論にしたがえば、この結果は、関係性の流動化による社会的不確実状況への適応として、関係性への敏感さが求められつつ、そのことがまた関係性の不安の感じやすさにつながっているものと解釈できる。
著者
辻 大介 北村 智
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.99-109, 2018

<p>インターネット上では、従来のマスメディア中心型の環境よりも、情報・ニュースの選択的接触が生じやすく、それによって人びとの意見の極性化が生じ、世論や社会の分断を招くのではないかという懸念が、多くの研究者や評論家から表明されている。本稿では、日本の「ネット右翼」やアメリカの"Alt-Right"に見られるようなネット上の排外主義に着目しつつ、2016年に日本とアメリカで実施したウェブ調査のデータから、ネットでのニュース接触が排外的態度の極性化(二極分化)傾向との連関について検証する。分位点回帰分析の結果、日本ではPCを用いたネットでのニュース接触頻度がユーザの排外的態度の二極化傾向と有意に連関していたが、アメリカではむしろ専ら反排外的な方向のみに変化させることが確認された。このことは、ネットにおける態度・意見の極性化の生起が、社会・政治・文化的コンテクストによって左右されることを示唆している。</p>
著者
辻 大介
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.29-39, 2003

私たちのおこなうコミュニケーションを,物理的・機械的な情報伝達とは十分に区別されるように記述できるかどうかが,理論社会学にとってはひとつの試金石となる.本稿ではその可能性をH.P.グライスの非自然的意味の理論に求める.それは,発話者が何ごとかを意味する(コミュニケートする)ということを,発話者のもつ自己参照的意図から分析するものである.それに対しては,コミュニケーションにおける言語規約的要素を重んじる立場と,自己参照的意図の無限背進を懸念する立場から,批判が提出されてきた.これらの批判は個別の論点をもつため,これまでは分け離して扱われることが多かったが,本稿ではそれらをあわせて考察することをとおして,最終的に,コミュニケーションにおける自己参照的意図と言語の規範性が根源的な関係をもつものであることを示し,グライス流の意図によるコミュニケーションの記述に,社会(学)的記述と呼ぶにふさわしい資格を与える.
著者
辻 大介
出版者
日本メディア学会
雑誌
マス・コミュニケーション研究 (ISSN:13411306)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.3-13, 2021-07-31 (Released:2021-09-11)
参考文献数
27

In the United States increasing ideological polarization between the Republicans and the Democrats has deteriorated into a deep partisan divide among the public, exemplified by the Trump phenomenon since the 2016 presidential election. It has been noted that the Internet intensifies and entrenches such polarization of political attitudes through encouraging selective exposure of information based on individual preferences and predispositions.In Japan, although the situation is not as drastic as in the United States, the left-right partisan conflict in the mass public has become more salient under the Abe government than before, particularly on the Internet. This study examined the effects of Internet use to polarize Japanese political attitudes, distinguishing the two-stage processes suggested by the “minimal effects” theory.Analyses of nation-wide survey data randomly collected in 2019 revealed that people with high political interest and efficacy were more likely to seek ʻhard news’ concerning political and social affairs on the Internet, while those who were less politically sophisticated tended to focus more on ʻsoft news’, such as entertainment. The results indicated that the high-choice information environment brought about by the Internet increased the gap between the political actives and the apathies. Second, using a generalized ordered probit regression model as an alternative to a problematic methodology employed in previous studies, this study demonstrated that hours of using the Internet for personal interests had significantly a polarizing effect on the approval/disapproval toward the Abe administration, which was likely affection-based rather than ideology-based. This paper discussed the implications of these findings for civic engagement in democracy.
著者
辻 大介
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.3-20, 2018-06-01 (Released:2021-07-10)
参考文献数
33

日本では、二〇〇〇年代に入ってインターネット上で排外主義的な言説が急速な広がりをみせ、ネット右翼を母体とする「在特会」のようなヘイト団体の活動が深刻な社会問題となるに至った。インターネットが排外主義者を結びつけ、活動を促進させる触媒の役割をはたすことは、先行研究でも確認されている。しかしながら、そうした一部の活動家集団だけでなく、一般層に対しても、ネット利用は排外意識を高めるような因果的作用をおよぼすのだろうか。このことを計量的な社会調査データをもとに分析した検証例はきわめて少ないうえに、それらもネット利用と排外意識が正の相関をもつことを見いだしたにとどまり、因果の向きは明らかでない。 そこで本稿では、二〇一七年一一月に実施したウェブ調査データをもとに、操作変数法を用いた双方向因果モデルに よって、[i]ネット利用が排外意識を強めるのか、それとも、[ii] 排外意識の強い者ほどネットをよく利用するのか、因果の向きを分析した。その結果、[i]の向きのパスは有意な係数値を示し、正の因果効果が認められたが、[ii] の向きのパスは有意でなく、因果効果は支持されなかった。また興味深いことに、ネット利用は反排外的な意識を高める因果効果も同時に有していることが確認された。追加分析の結果から、この相反的な二方向への同時効果は、情報や他者への選択的接触によって生じている可能性――すなわち、排外意識を先有傾向としてもつ者は、ネット上で排外主義的な情報や他者により多く接触することによって、その影響をより強く受け、反排外意識をもつ者はその逆であること――が示唆された。
著者
北村 智 橋元 良明 是永 論 辻 大介 木村 忠正 森 康俊 小笠原 盛浩
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、現代における情報行動の変容について、加齢効果・時代効果・コーホート効果を弁別して明らかにすることを目的とした。2015年に「日本人の情報行動」調査を実施し、2005年調査および2010年調査のデータと合わせて分析を行なった。分析の結果、テレビ視聴時間に関しては、有意な年齢効果と世代効果は確認されたが、時代効果は認められなかった。インターネット利用時間においては、PCインターネット利用時間に関しては2005年から2010年にかけて増加する時代効果のみが確認された一方、モバイル・インターネット利用時間に関して世代効果と一貫して増加を示す時代効果が認められた。