著者
内出 崇彦 今西 和俊
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Earthquake statistics needs parameterized information on earthquakes. One of such parameters is the magnitude. The local magnitude scales, such as the JMA magnitude (Mj), based on amplitudes of seismograms are easy to estimate and therefore usually included in earthquake catalogs. The moment magnitude (Mw) is based on the physical source parameter, seismic moment, however needs much effort for the estimation especially for microearthquakes. Though the consistency between Mj and Mw is guaranteed for the medium earthquakes, we need to check that for microearthquakes.As for use of earthquake catalogs, we should know the completeness magnitude above which catalog is complete. A type of it is Mc defined as a magnitude where magnitude-frequency distribution starts deviating from the Gutenberg-Richter’s (GR) law. Another one is based on earthquake detectability. Schorlemmer and Woessner [2008] proposed MP based on the detectability inferred from the pick information. They showed the Californian case that MP is smaller than Mc, which indicates the breakdown of the GR law. It is important to confirm if the breakdown really occurs. Our study investigates if the discrepancies are also seen in case of Mw.Mw Estimation for MicroearthquakesWe stably estimate seismic moment of microearthquakes based on moment ratios to nearby small earthquakes whose seismic moments are available in the NIED MT catalog, by a multiple spectral ratio analysis [Uchide and Imanishi, under review]. Applying this method to earthquakes in Fukushima Hamadori and northern Ibaraki prefecture areas, eventually we obtained the seismic moments of a total of 19140 earthquakes (Mj 0.4 - 3.8). The striking result of this study is that the change in slopes of the Mj-Mw curve: 1 and 0.5 at higher and lower magnitudes, respectively (see Figure). The discrepancies between Mj and Mw are significant for microearthquakes, suggesting that Mj underestimates the sizes of microearthquakes.Completeness Magnitudes and b-valuesThe result above must affect earthquake statistics. Here we study Mc and b-value of the GR law. Following Ogata and Katsura [1993], we assume the earthquake detectability as the cumulative normal distribution with a mean, μ, and a standard deviation, σ, and estimate the GR parameters (a and b) together with μ and σ. We define Mc = μ + 2.33 σ where the detection rate is 99 %. Applying this method to the monthly seismicity data in the study area, we found that the Mc for Mw is lower than that for Mj converted into Mw, however still larger than MP converted into Mw. This may be due to the breakdown of the GR law for microearthquakes, though another possibility is that the incompleteness of earthquake catalog overestimates the detectability, resulting the underestimate of MP.b-values for Mw (bw) are systematically larger than those for Mj (bj). The temporal trends for bw and bj are similar to each other. When bj increases, bw also increases. This does not affect discussions inferred from the qualitative temporal change in b-values [e.g., Nanjo et al., 2012]. bw is often larger than 1.5, indicating that the moment release is dominantly done by smaller earthquakes.AcknowledgementWe used the JMA Unified Earthquake Catalog, seismograms from NIED Hi-net and the NIED moment tensor catalog.Figure: Comparison between Mj and Mw inferred from the multiple spectral ratio analyses (color image for the distribution and circles for the median Mw) and the NIED MT solutions.
著者
室谷 智子 有賀 暢迪 若林 文高 大迫 正弘
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

明治22年(1889年)7月28日午後11時40分頃,熊本地方で地震が発生し,熊本市内で死者約20名,家屋全壊230棟以上,さらに熊本城の石垣が崩れるなどの被害が発生した.この地震の震源は,熊本市の西部に位置する金峰山で,マグニチュードは6.3と推定され(宇津,1982,BERI),地震発生から21日間で292回,5ヶ月間で566回の余震が観測された(今村,1920,震災予防調査会報告).震源が平成28年(2016年)熊本地震とは少し離れているようであるが,この明治熊本地震への関心は高い.国立科学博物館は,この明治熊本地震に関する資料を所蔵しており,本発表では,それらについて紹介する.熊本市に今も残る冨重写真館の写真師・冨重利平は,明治熊本地震の際,被害の様子を撮影しており,熊本城の石垣の崩壊や,熊本城内にあった陸軍第六師団の被害,墓石の転倒状況,城下町での仮小屋の風景など,11枚の写真を所載した写真帖が国立科学博物館に残されている.写真撮影のポイントは不明であるために完全に同じ場所か分からないが,明治熊本地震で石垣が崩壊した飯田丸や西出丸,平左衛門丸は,平成28年熊本地震でも崩壊している.冨重は軍や県の依頼によって写真を撮影する御用写真師でもあり,軍や県,地震学会の依頼で撮影したものかどうかの経緯は不明であるが,熊本へ震災状況の視察にやってきた侍従に県知事からこれらの写真が寄贈されていることから(水島,1899,熊本明治震災日記),県の依頼で撮影したものかもしれない.これらの写真は,日本の地震被害を写した最初の写真と思われ,国立科学博物館ホームページ「国立科学博物館地震資料室」(http://www.kahaku.go.jp/research/db/science_engineering/namazu/index.html)にて公開している.この地震の際には,帝国大学理科大学(現東京大学理学部)の小藤文次郎や関谷清景,長岡半太郎(当時は大学院生)といった研究者が現地調査を行っている.大きな被害を引き起こした地震の近代的調査としては,この熊本地震がほぼ初めての例となった.地震から11日後の8月8日に現地入りした長岡は,熊本市の西にある金峰山周辺の町村で建物被害や地割れを調べ,ノートや手帳に調査状況や建物被害,地割れ等の被害地点のスケッチを残しており,それらが国立科学博物館に科学者資料として保存されている.古い地震の被害状況を窺い知ることができる資料としては絵図が有効であるが,国立科学博物館では明治熊本地震の絵図も所蔵している.明治22年7月30日印刷,8月出版と記された「熊本県下大地震の実況」絵図は,家屋が倒壊し,下敷きになっている人々が描かれている.また,被害の状況を記す文章も書かれており,「実に近年稀なる大地震なり」と記されている.歴史上,熊本地方は何度も大地震に見舞われているが,平成28年熊本地震が起きた際,過去に熊本で大きな地震が起きたとは知らなかったという人が多かったことからも,被害を伴う地震が稀であるために,大地震について後世に継承されていなかったと思われる.
著者
太田 鉄也 吉川 馨 松本 由奈
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2016年度日本ジオパークネットワーク全国大会の開催地は伊豆半島ジオパークである。当ジオパークでは、フィリピン海プレートの動きと共に伊豆の北上及び本州への衝突という、島弧-島弧衝突の過程を、海底火山や陸上火山活動(独立単成火山群を含む)、南方系生物化石など、多様なジオサイトから知ることができる。また、温泉や海山の幸があふれ、首都圏からの観光客が多い地域である。このような地域で開催される全国大会では、来訪者は何を求め、地域に何を残すことができるのか。私たちは大会コンセプトを「連携:つながりを作ろう、深めよう」に定め、特に以下の3つのテーマで内容を深めていこうと考えている。1)ジオパーク同士の連携各ジオパークの背景にある「日本固有の物語」や「列島誕生と各地域の物語」のつながりを探り、世界に発信していくべき物語は何かを考える。(これは伊豆半島ジオパークが世界に向けた課題とされているものでもある)さらに、近接する箱根ジオパークと連携したジオツアーを行う2)世界遺産やエコパークとの連携伊豆半島とその近接地域には、世界文化遺産「富士山」及び、同じく世界文化遺産である「明治日本の産業革命遺産」の構成資産(韮山反射炉)が存在する。また、静岡県という規模まで視野を広げると、南アルプスエコパークや世界農業遺産「静岡の茶草場」も存在する。保全、教育、住民参加を促す仕組みなど、世界遺産やエコパーク等と共通する課題と手法について情報を共有し連携の可能性を探る。3)食とジオの連携当ジオパークでは、ジオパークの活動に賛同する法人や個人を応援会員やサポーター会員として募り活動の裾野を広げている。これらの会員には地元の商店主や旅館ホテル等様々な業態が存在するが、全国大会の会場で彼らと連携し、地域の食を紹介することを検討している。当ジオパークは、面積2,027k㎡(海域を含む、陸域で1,585k㎡)の中に15の市と町で構成される広域のジオパークである。事務局は各市町及び県から派遣された職員によって構成され、行政組織と絶妙な距離感を保ちつつ運営がされている。また、推進協議会が認定したジオガイドが自らの意思でジオガイド協会を立ち上げ各地のジオパークと交流を図るなどジオガイドの活動が熱心な地域でもある。さらに、地域の小中高校では教師と事務局の専任研究員が連携して熱心な教育活動が行われている。このような広域の行政区域でどのように意思決定を行い、大会を運営していくのかも今後の当ジオパークに課せられた大きなチャレンジである。
著者
久利 美和 Suppasri Anawat 寅屋敷 哲也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁は2014年8月30日に「特別警報」を導入し、国土交通省は2015年1月20日に「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」を公表しており、災害情報の提示のあり方の模索段階にあるといえる。本論では、科学的な不確実性がある中で迅速判断が求められる場でのサイエンスコミュニケーションの事例として、時間空間幅が広く、自然災害の中でも火山活動情報に焦点をあて、火山活動情報の中でも、東日本大震災以降の論点となった「作動中(発展途上)の科学」や「科学の不確実性」のあつかいに焦点をあて、日本での発信側と受信側の事例を検討する。とくに、活動頻度の高い事例として、2014年8月と2015年5月の噴火で迅速な避難を行なった口永良部火山、活動頻度の低い火山事例として2015年4月に火口周辺危険警報の出た蔵王火山に焦点をあてた。2015年5月29日に口永良部島の新岳火口において火山噴火が発生し、我が国の火山において初めての特別警報(噴火警戒レベル5)が発表され、島外への避難が行われた。2015年の口永良部火山活発化からの全島避難にいたるまでの、住民の火山活動情報の活用についても検討した。聞き取り調査は2015年7月と10月に実施した。主な聞き取り先は、屋久島町役場(宮之浦支所,口永良部支所)、口永良部消防団関係者、口永良部島内区長、である。2015年7月は「2014年8月以前の火山防災意識」「2014年8月以降の火山防災意識」「2015年5月避難の判断と状況」について、2015年10月は、「2015年避難時の再聞き取り」「2015年10月以降帰島に向けた考え」について、聞き取りを行った。これまで指摘されてきた専門家と行政や報道との情報伝達に限らず、非専門家ながら高い関心を持つ地域住民との関係構築や不確実性を含めた情報伝達が重要であることが示唆された。2015 年4月7日以降、蔵王火山御釜付近が震源と推定される火山性地震が増加し、13日に火口周辺警報(火口周辺危険)が発表された。5月17日の火山性微動を最後に、地震の少ない状態で経過し、6月16 日に解除された。御嶽での災害後に活発化した最初の火山であった。4月14日の報道を通じて、行政の観光関係者のコメントとして「(エコーラインの冬期閉鎖からの開通を前に)でばなをくじかれた」「蔵王山が噴火する火山との認識はなかった」との報道があった。情報解除後は、宮城・山形両県での観光支援を中心としたさまざまな施策が行われた。4月の警報直後、6月の解除後の観光地での対応について、2016年1月に宮城・山形両県の観光関連事業主に面談調査を行った。「(噴火は過去のことで)噴火する認識がなかった」という回答が大半を占めるとともに、地学現象と生活の時間スケールの隔たりが、対策への理解を妨げている現状が示唆された。
著者
永松 冬青 大木 聖子 広田 すみれ
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

首都直下地震や南海トラフでの巨大地震に備えて早急な防災対策が求められているが、東日本大震災での甚大な被害を目の当たりにしてもなお、巨大災害への対策が十分に進んでいるとは言いがたい。防災対策を進める方法のひとつとして、地震リスクに関するコミュニケーションの向上が挙げられるだろう。そこで、文部科学省地震調査研究推進本部が2005年から毎年発表している「全国地震動予測地図」を用いて、リスクコミュニケーションの効果を測定する調査を行った。地震動予測地図は、ある地点が今後30年にどのくらいの確率で震度6弱以上の揺れに見舞われるかを確率と色とで表現したものである。地震本部は「地震による揺れの危険度を正しく認識し、防災意識や防災対策の向上に結びつける(2009)」ために作成・発行しているとしている。一方で、既存のリスクコミュニケーション研究では、確率情報の伝達について、文脈の影響が大きく、確率伝達が非常に困難であることが指摘されている(Visschersら、 2009)。そこで本研究では、地震動予測地図における確率の認知のされかたを明らかにするとともに提示手法の効果を検討することで、提示方法の改善案を検討した。調査はウェブアンケートで行った。対象者は35~55歳までの世帯主か世帯主の配偶者で、自宅がある地域の地震動予測確率が高い地域(震度6弱の地震の発生確率が30年間に26-100%)と低い地域(3%未満)の居住者である。質問項目は大きく、震度階の閾値測定、地震動予測地図を用いた実感や恐怖感情の測定、防災行動意図の変化調査の3つからなる。はじめに、気象庁の震度階を提示して「怖いので対処が必要」と感じるかを尋ね、当該実験参加者の震度階の閾値を測定した。次に、回答者をランダムに6つのグループに分類し、以下の流れで自宅がある地域の予測確率を回答してもらった。グループ1:世界地図で他の都市の地震リスクを確認し、自宅の地震動予測の色を回答。グループ2:世界地図で他の都市の地震リスクを確認し、自宅の地震動予測の数値を回答。グループ3:自宅の地震動予測の色のみ回答。グループ4:自宅の地震動予測の数値のみ回答。グループ5:世界地図や自宅の地震動予測を見ずに後述の質問に回答、グループ6:世界地図だけを見て後述の質問に回答。その後すべてのグループの回答者に、実際に自分が地震に遭うと思うかについて「必ず遭いそう〜まずないだろう」の5段階と「よくわからない」から、自宅の地震動予測確率に恐怖を感じるかについて「非常に怖い〜全く怖くない」の5段階と「よくわからない・その他」からそれぞれひとつを回答してもらった。また、調査冒頭で既に行っている防災対策を13項目の中から選択してもらい、一連の調査に回答してもらった後に再び13項目を提示し、今後さらに充実させたい防災対策を選択してもらった。(項目:非常持出し袋の準備、家具転倒防止、地震保険への加入、家族との連絡方法の確認、出入口の確保、避難場所の確認、ガラス飛散防止、ブロック塀転倒対策、耐震診断、耐震補強、転居)本調査は2015年度地震学会秋季大会にて発表した内容を、地震リスクが低い地域に拡張して調査したものである。地震リスクが高い地域に住む被験者においては、地震動予測地図の見せ方(世界との比較/色/数値)によらず被災実感が高くなっていることや、特に色で予測確率を回答する実験群は恐怖感情につながっているということがわかった。このようなリスク認知の変化は中地域に住む被験者には見られなかったが、このことは、少なくとも地震動予測地図が中地域住民に対して「他に比べて安心である」という危険な安心情報を与えることはしていないことを示唆している。本研究では、これが低い地域に住む被験者に対しても有効かどうかを検証し、報告する。【参考文献】・永松冬青・大木聖子・飯沼貴朗・大友李央・広田すみれ「地震予測地図の確率はどう認知されているのか」日本地震学会2015年度秋季大会発表論文集, 2015.・大伴季央,大木聖子, 飯沼貴朗, 永松冬青, 広田すみれ「地震予測での不確実性の認知とコミュニケーション手法の改善」日本リスク研究学会2015年度秋季大会発表論文集, 2015.・広田すみれ「地震予測『n年にm%の確率』はどう認知されているのか−極限法を用いた長期予測に対する怖さの閾値の測定−」,日本心理学会第78回大会発表論文集, 2015.・VisschersH. MVivianne, MeertensMRee. (2009). Probability Information in Risk Communication : A Review of the Research Literature. Risk Analysis, 29.・地震調査研究推進本部地震調査委員会. (2009). 全国地震動予測地図 技術報告書
著者
山田 俊弘
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

日本地球惑星科学連合の英語表記は Japan Geoscience Union となっており,Geo (地球)関連学会の連合組織であることを示唆している.言い方をかえれば earth science のことであるが,これは戦後発足した地学教育の「地学」earth sciences に通じる.「地学」には天文分野も含まれており,ある意味では現在の「地球惑星科学」に近い内容だからである.しかしこうした領域設定がどのような背景で1940年代の時点で出て来たのか必ずしも十分に説明されていない.戦後地学教育の成立に主導的な役割を果たした地質学者の一人小林貞一 (1901–1996) の足跡を追うことによってこの問いに答えられないか検討してみたい.​ 小林が1942年に公にした地学教育の振興策についての論考ではすでに「地学を地球を対象とする諸学の総称と解するのが最も適切であろう」として,地球を宇宙の一天体として見る天文学や,固体地球物理学,海洋学,気象学まで含めていた (小林 1942: 1474).戦後になるとその主張は明確化し,「地学」とは「地球の科学 (Earth Sciences) の事である」として,古今書院の地学辞典 (1935) や旧制高校の地学科の内容を例に,地質学を主体としつつ地球物理や測地,地球化学,天文気象,気候,海洋,湖沼等を含めた分野と定義した (小林 1946 : 17).同じ時期に地学教育を推進した藤本治義 (1897–1982) が地質学鉱物学を中心に「地学」を考えていたことをみれば,小林の認識の新しさがわかる.​ このような小林のある種の確信に満ちた主張の背景には1930年代までに知られるようになってきた宇宙の進化や太陽系の形成についての諸説があったと考えられる.​ たとえば天文学者の一戸直蔵 (1878–1920) が翻訳したアレニウス (Svante August Arrhenius, 1859–1927) の関係書は,『宇宙開闢論史』(小川清彦と共訳)(1912年),『宇宙発展論』 (1914年),『最近の宇宙観』 (1920年) と出版されていた.一方,京都帝大で宇宙物理学の分野を開拓した新城新蔵 (1873–1938) の天文関係書には,『宇宙進化論』 (1916年),『天文大観』 (1919年),『最新宇宙進化論十講』 (1925年),『宇宙大観』 (1927年) などがある.またハッブル (Edwin Powell Hubble, 1889–1953) の The Realm of the Nebulae が『星雲の宇宙』として翻訳されたのは1937年のことだった(相田八之助訳、恒星社).​ 小林が京都時代に新城の一般向けの講演を聞いたかどうかわからないが,1930年代にアメリカで在外研究をした際に,ヨーロッパを含む多くの博物館を見学したことも考慮に入れると,このころまでの地球像の提示が宇宙や太陽系の生成を含むものになっていたことを実感していたことが彼のジオサイエンス観の背景にあったと推測されるのである.引用文献小林貞一 1942: 地学の特質と教育方針, 地理学, 10, 1473-1494.小林貞一 1946: 地学とは何ぞや, 地球の科学, 1-1, 17–19.
著者
松尾 諒 堀之内 龍一 酒井 敏
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

森という場所は涼しい。都会の中にある木々に囲まれた公園でさえもそれは同じである。ではなぜ涼しいのかということについては突き詰められていない。漠然と、街と森とでは森のほうが気温が低く、相対湿度が高いということがわかっているだけだった。また植物が蒸散を行うということから、植物の蒸散量を計測することは植物の生態への興味や都市緑化のためなどの多角的な方向から盛んに行われてきた。そこで「蒸散量」という「観える」値は水蒸気という言葉と関連付けられ「観える」値として認識されていった。故に「植物が蒸散を行うから森や公園は涼しい」という意見は一般に広まっているように思える。しかし、もっと単純に気温と水蒸気量を眺めてみるとどうだろうか。これまででも街と森の気温と相対湿度を観測し、その差を見るということについては試みられてきたはずである。しかし、少し前までの相対湿度のセンサーというのは、誤差が±5%と大きいものが多く、気象庁のJMA-10型地上気象観測装置の湿度計でやっと誤差±1%という観測精度であった。もし街と森とで湿度を比較しようとしても、この誤差の大きさでは森のほうが相対湿度が高いという大まかな差は分かるものの、大気中の水蒸気量を比べるといった細かな差を測ることはできなかった。しかし、昨今のIT化や産業の自動化、モバイル端末の普及などによりセンサー市場の需要が高まる中で、センサーの精度も飛躍的な向上が見られた。そして相対湿度センサーについても誤差±0.2%とするものが現れたのだ。これにより今まで「観えなかった」ものが観えるようになってきたのだ。すなわち、街と森での大気中の水蒸気量の差が有効なデータとして観測できるようになったのである。すると街と森での気温と水蒸気量について見えてきたものがある。まず、街と森の気温差と水蒸気量差の変化は連動しないということだ。もし、水の蒸発によって街と森で気温差がつくのであれば気温差と水蒸気量の差は比例するはずである。しかし実際には午前中のうちに気温差は最大となり、水蒸気量の差は殆ど変化しない。水蒸気量の差が大きくなるのはその後である。次に森は街よりも常に気温が低いということだ。常にというのは季節に関係なく、昼夜を問わず、まさに常にである。これは森に常に気温を冷やす要因があるということを示している。そうでなければ、放射冷却の影響を考えると、少なくとも夜は森のほうが気温が高くなるはずだからである。更に飽差(ある温度と湿度の空気に、あとどれだけ水蒸気の入る余地があるか)と街と森の水蒸気量の差の間には非常に高い相関があることが分かった。これはすなわち街と森の水蒸気量の差について、植物の生物的な作用による説明ではなく、大気の混合過程のみで説明できる可能性を示している。現在はこのことを検証するために、街と森における気温と相対湿度を一年を通して観測しようとしており、今回はその経過を発表するものである。
著者
鈴木 健太 山本 正伸 入野 智久 南 承一 山中 寿朗
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

氷期の急激な気候変動やイベントとして,ダンスガード・オシュガーサイクル(DOサイクル)とハインリッヒ・イベント(HE)が知られている.HEの氷山流出がDOサイクルの温暖化を引き起こしたという考えが有力であるが,すべてのDOサイクルの温暖化がHEに対応しているわけではない.またDOサイクルの寒冷化速度は時期によりさまざまであり,その速度の支配因子は不明である.このような疑問を明らかにするには,ローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊と氷山流出イベントを復元する必要がある. 本研究では,過去7万6千年間の西部北極海堆積物層序を確立し,堆積物の起源と運搬過程を推定した.これにもとづきカナダ北極諸島側からの氷山流出イベントを検出し,氷山流出が起きる条件を考察した.また,西部北極海への氷山流出イベントと温暖化との関係,ローレンタイド氷床北極セクターの崩壊と寒冷化速度の関係を考察した.この目的のため,2011年と2012年に韓国極地研究所の砕氷調査船ARAONによって西部北極海チュクチボーダーランドから採取された5本の堆積物コアについて,IRD含有量と鉱物組成,粒度分布,色,GDGT濃度と組成,有機物量の分析を行った. IRD含有量と鉱物組成が西部北極海チュクチボーダーランドの堆積物層序の確立に有用であることが示され,イベント層としてドロマイト濃集層とカオリナイト単独濃集層が認められた.ドロマイト濃集層は9,000年前と11,000年前,42,000~35,000年前,45,000年前,76,000年前に認められ,カナダ北極諸島からの氷山により運搬されたと考えられる.ドロマイト濃集層堆積時は海水準が現在と比較して40mから80m低かった時期に対応していた.ローレンタイド氷床の縁が北極海に達し,かつ北極海が厚い棚氷や海氷に覆われていなかった時期にのみ,ローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊が起きたと考えられる.9000年前のドロマイト濃集層の堆積はH0に,45000年前のドロマイト濃集層の堆積はH5と年代誤差の範囲内でほぼ同時であった.30,000~12,000年前にはローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊は起きておらず,亜間氷期1~4の温暖化には北極セクターの崩壊は関与していないと考えられる.45000年前にはローレンタイド氷床の北極側とハドソン湾側の両方で崩壊が起きたと推定されるが,直後の亜間氷期の寒冷化速度は,他の亜間氷期に比べて長い.ローレンタイド氷床の大規模な崩壊により,氷床の成長に時間がかかり,寒冷化に時間がかかったと考えられる.14,000年前のカオリナイト単独濃集層は,その堆積学的特徴から氷河湖の崩壊に伴う淡水の大量流出により形成された可能性がある.
著者
後藤 明日香
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-06

1、研究目的 私は空の観察をしている際、空の濃淡が日によって異なっていることに気が付いた。そこで、空の青色の濃淡に影響する要素は何かに興味を持ち、研究を始めた。空の濃淡に関係する要素としては、空気中の塵や埃などが知られているが、私は観測がしやすい水蒸気に着目して研究を進めた。2、研究方法、研究結果、考察 まず、東西北方向の空を地上にてデジタルカメラ(CASIO EXLIM EX-10)を用いて撮影した。撮影は、2015年1月19日~1月29日の晴れている日に行った。撮影した写真を上空方向から地上に向かって高層、中層、低層に分け、ペイントソフト(ペイント.ink)を用いて、各層から適当に三か所選び色を抽出し、RGBの平均値を求めた。本校地学講義室にて使用している装置(DAVIS Vantage Pro2)を用いて、気温、湿度、気圧、風力、風向の5つのデータを採集し、水蒸気量と水蒸気圧を求め、空の色の濃淡と気象の関係性を調べた。その結果、青空の色が濃い日は、水蒸気量が少ない日であったことがわかった。つまり、空の色の濃淡には水蒸気量が関係しており、水蒸気量が多い日は青空の色が濃いと考えられる。さらに、撮影地点、色の抽出方法の改善を行った。撮影の場所を地上から空全体を撮影できる屋上に変更し(2015年9月28日~10月15日)、撮影方向も東西南北の4方向に増やした。RGBのデータもより詳しく抽出するため、写真の画素を475ピクセルに設定し、上空方向から地上に向かって3行ごとに高層、中層、低層の三層に分けた。ソフトは解析ソフト(Adobe photoshop CS5(64bit))を用いて、各行から一番色が濃いピクセルの色を無作為に抽出し、そこからRGBの値を求めた。その結果、青空の色が濃くなっていた日は水蒸気量が少ない日であった。逆に、青空の色が薄い日は水蒸気量が多い日であった。よって、1月に行った実験の結果と同じ結果が得られた。また、10月5日と8日は同程度の水蒸気量であったので、両日の青空の色の濃淡の比較を行ったところ、空の色の濃淡が異なっていた。このことから、水蒸気量以外にも空の色の濃淡に関係している要素があることが予想される。 そこで、水蒸気量以外で採集していた気圧、風力に着目した。比較した2つの日の天気図を見てみると、青空の色が濃かった日は、発達した低気圧が日本付近を通過していた。このことより、気圧も著しく低くなり、風力も大きくなっていた。このことより、発達した低気圧が日本列島付近に通過したことにより、大気中の塵やほこりが風に飛ばされるなどして減少する。それによって、青色の光を反射しやすい、大気分子の割合が大きくなり、青色の光が多く散乱される。逆に、緑や赤の光を反射しやすい塵やほこりの割合が減少してしまったため、緑や赤の光は散乱されにくくなってしまい、青色の割合が大きくなり、青空の色が濃くなったと考えられる。よって、気圧、風力も空の色の濃淡に関係している。 また、季節によって空の色はどのように変化するのかについても考察を行った(秋:2015年9月28日~10月15日、冬:2016年2月17日~2月24日)。水蒸気量については、秋のほうが冬に比べて水蒸気量が多くなっていた。空の色の濃淡については、秋のほうが冬に比べて青空の色が濃くなっていた。この結果から、両季節の一番青空の色が濃くなっていた日は、秋は水蒸気量、気圧ともに低く、これまでと同じ結果が出た。一方で、冬は気圧は低いものの水蒸気量は観測した日の中で最も高い値であり、これまでとは異なる結果が出た。このことより、気圧による空の濃淡の変化は、季節が変わっても共通しているが、水蒸気量による空の濃淡の変化は季節によって異なると考えられる。3、まとめ青空の色の濃淡の変化には、水蒸気量が関係しており、水蒸気量が少ないほど青空の色は濃くなる。また、水蒸気量のほかに、気圧、風力も空の色の濃淡に関係している。 秋と冬で気象や青空の濃淡について比較すると、秋のほうが水蒸気量が多かった。また、青空の濃淡おいて、秋のほうが青空の色が濃かった。 両季節で青空の色が濃くなっていた日、冬は水蒸気量が最も多かった日に青空の色が濃くなっていたことより、気圧の変化は季節が変わっても共通するが、水蒸気量による濃淡の変化は季節によって異なると考えられる。
著者
大林 秀行 坂田 周平 山本 伸次 磯崎 行雄 服部 健太郎 平田 岳史
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Most of the global events, such as formation of magma ocean, core-mantle segregation, crust formation, and/or chemical evolution of atmosphere, could be completed within the first 0.5 Byr of the Earth History, so called Hadean Eon. Despite the great importance of the Hadean Eon, no petrographic record can be found for this stage, and only geochemical information can be derived from small minerals such as zircons or other accessory minerals within zircons (e.g., apatite, muscovite, or biotite). For geochemical studies for Hadean Eon, many pioneering studies have been made based on the isotope geochemistry on zircons collected from Jack Hills and Mt. Narryer, Western Australia. It is widely recognized that zircons collected from these area have been thought one of the most principal clues for Hadean studies. Moreover, further detailed studies have been carried out from small inclusions in zircon crystals. Zircons from Jack Hills contain various mineral inclusions such as muscovite, quartz, biotite, apatite and so on, and about two-thirds of them are muscovite and quartz, probably due to secondary replacement of primary apatite (Hopkins et al., 2008, Rasmussen et al., 2011). Recently, biogenic carbon, as graphite inclusion, was recovered from 4.1 Ga zircon, but an abundance of carbon-bearing Jack Hills zircons of only about 1-in-10,000 (Bell et al., 2015). In addition, the percentage of Hadean zircons to detrital zircons in Jack Hills was as small as 7% (Holden et al., 2009). For these reasons, large number of age data for zircon grains must be defined to derive reliable and objective information concerning the Hadean history of the Earth. To overcome this, we have developed new analytical technique to define precise age data from combination of U-Pb (Pb-Pb) dating method with high sample throughput.We have developed rapid and precise dating technique for zircons using laser ablation ICP-mass spectrometer (LA-ICP-MS), equipped with two Daly ion collectors (Nu Plasma IID, Wrexham, UK). Laser ablation instrument used in this study was ESI NWR193 laser ablation system (New Wave Research, Oregon, USA). Combination of multiple collector-ICPMS system and ArF Excimer laser ablation system enables us to measure Pb-Pb age for the sample within 10 second/spot, and uncertainties in the resulting Pb-Pb age data can be minimized by the multiple-collector system setup. Based on the age determination system using LA-MC-ICPMS technique, we just started to measure Pb-Pb age data from 180 grains of zircons within an hour . In this presentation, difference in the resulting age histogram for the zircons collected from Jack Hills will be discussed, and detailed observation for various inclusions in the Hadean zircons will be demonstrated in this talk.
著者
都司 嘉宣
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

慶長9年12月16日の深夜,本州の南方海域で起きた地震による津波は,房総半島から四国・鹿児島に至る海岸に大きな影響をもたらした.この地震はしばしば,東海沖,南海沖に起きる巨大地震と解釈され,あるいは関東沖と南海沖の離れた2海域に生じた二元地震と理解されることもあった.たしかに,この地震による津波は,四国の阿波,土佐の二国と,八丈島,および房総半島で特に大きかったためこう理解されることには一理あった.しかし,この地震が明白に京都で無感であったこと,近畿・中部地方に地震の揺れによる被害記録が全くないこと,東海地方,あるいは紀伊半島の海岸で明白な大きな津波の来襲を示す記録が湖西市白須賀をのぞいてほとんどなかったことは,この地震が東海地震,あるいは南海地震であるという見解には大きな疑問を抱かせるものであった.このように見解の分かれる慶長九年の地震像に対して石橋ら(2013)は,この地震が小笠原海溝のプレート境界に生じた巨大地震ではないかという作業仮説を提案し,この地震が東海沖,および南海沖に震源がないモデルによっても既知の津波高分布を説明しうることを示した. この地震が,房総半島に大きな津波被害をもたらしたことは,『房総治乱記』などの軍記物の記録に記載があることが知られていた.そこには「潮災に逢しは,辺原,新官...」に始まる文章で,津波に被災した35個の集落名が記されている.この文章の文末に「都(すべ)て四十五ケ所也」とあるが,写本が書き写されるうちに10カ所の村名が脱落したらしく,現在の写本に見る集落名は35カ所である.この津波記録が軍記物にしか記されていないことから,文書としても信頼度が劣るとみなされてきたのはやむを得ないことであった.しかしながら,筆者らは被災35カ村の一つである鴨川市天面(あまづら,「尼津」)の西徳寺のご島津実隆住職から,この寺の縁起に地震・津波の生々しい現地記載があるとのお知らせを受け,その記載を調査した.その結果,この寺で大きな揺れを感じたこと,金属製の本尊が津波で流され,後に付近の井戸で発見されたと記された,この寺の縁起記録を検証することが出来た(伊藤ら,2005).これによって『房総治乱記』の記載の真実性をしめす具体的な現地記録を得たこととなった.しかしながら,この時は当時この本尊の仏像が安置されていた場所が不明で,正確な津波浸水値を測定することまでは出来なかった.昨年,同御住職から,寺の敷地の借り受けのいきさつを示す江戸時代以前の記録が新たに見つかったとの御連絡を得た.筆者はさっそく同寺に出向き,記録文献を閲覧させていただき,慶長津波当時,同寺の本堂は既に今と同じ位置にあり,そこにあった本尊が津波に流失したことの確証を得た.慶長津波の時に本尊が置かれていた台座の標高を測定したところ,ここでの津波浸水高さは17.3mであることが判明した. この調査の後,筆者は,津波被災があったと記録される房総沿岸35ヶ村のうちに,集落の形態から,そこでの津波の浸水高さの最小値が推定できる場所があることに気付いた.例えば矢指戸(やさしど,現いすみ市大原字矢指戸)は津波被害が起きた村の一つであるが,矢指戸の明治期の5万分の一地形図と現代の住宅地図を見ると,集落で一番低い家屋の前の道路の敷地の標高はすでに7.7mであり,そこから一気に海岸汀線に下りる地形をしている.いっぽう,津波によって家屋の全壊流失が生ずるには敷地上2.0mの冠水は必要であるとされる(越村ら,2009).このことから,矢指戸で家屋被害を生ずるためには,津波浸水高さは最小限9.7mあったことが知られるのである.同様の考察によって,岩船で7.7m,日在(ひあり)で6.8m(以上現いすみ市),一宮町東浪見(とらみ)で,6.4m,一宮で6.9mが津波浸水の下限値であることが判明する.以上のことから,慶長九年地震の津波の房総半島での浸水高さ(の下限)の分布図として図2を得る.宝永(1707),安政東海(1854),昭和19年(1944)東南海地震など,東海沖の海域に震源のある地震の津波が,房総半島の中部および北部でこのように大きな津波高となったことはなく,この津波起こした地震の震源の位置は関東地方の南部沖にあったことが示唆される. 謝辞:鴨川市天面の西徳寺の島津実隆住職には,同寺所蔵の貴重な文献を閲覧する機会を与えていただき,感謝申し上げます. 参考文献石橋克彦・原田智也,2013,1605(慶長九)年伊豆-小笠原海溝巨大地震と1614(慶長十九)年南海トラフ地震という作業仮説,地震学会秋季大会,108伊藤純一・都司嘉宣・行谷佑一,2005,慶長九年十二月十六日(1605.2.3)の津波の房総における被害の検証,歴史地震,20,133-144.越村俊一・行谷佑一・柳沢英明,2009,津波被害関数の構築,土木学会論文集B,65(4),320-331.
著者
丸橋 暁 丸橋 友子 丸橋 美鈴
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

ホワイトチョコレートはダークチョコレートよりも融けやすいと言われる.ホワイトチョコレートとダークチョコレートとの融解温度の差を利用してミグマタイトをつくってみた.【材料】・ホワイトチョコレート・ダークチョコレート【方法】ホワイトチョコレートとダークチョコレートとを容器に詰め,湯煎をして融解させた.【なぜそんなことを?】家族で肥後変成帯のミグマタイトを見に行った.その振り返りにキッチン変成岩岩石学として,ミグマタイトチョコレートをつくってみた.【結果】ミグマタイトの構造を再現したミグマタイトチョコレートをつくることができた.ミグマタイトがどのようなものかがこの振り返り実験で実感できた.
著者
田村 理納 宮澤 理稔
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2011年3月11日に発生したMw9.0東北地方太平洋沖地震の4日後に、静岡県東部においてMj6.4(Mw6.0)の地震が発生した。この地震は、東北地方太平洋沖地震のセントロイドから約450km離れた余震域外の領域で発生しており、また約4分前に発生した福島県沖の地震(Mj6.2)の表面波が通過している最中に発生していたため、どの様な誘発過程を経て発生に至ったのかを調べた。まず、静岡県東部地震の震源にどのような応力変化が働いていたのかを調べるため、静的ΔCFF、表面波と地球潮汐による動的ΔCFFを調べた。東北地方太平洋沖地震による静的応力変化及び表面波による動的応力変化の最大値は、それぞれ約21 kPa, 200 kPaであり、動的応力変化は静的応力変化に比べ一桁大きかった。地球潮汐による応力変化と福島県沖の地震の表面波による動的応力変化は最大で約1.2 kPa, 0.3 kPaであった一方、静岡県東部地震発生時の値はいずれも負の値で約-0.2 kPa, -0.01 kPaであった。次に、静岡県東部地震の破壊域での前震活動の有無について調べた。気象庁一元化震源カタログによると静岡県東部地震の発生前に震源域を含む領域では地震活動が認められていないため、matched filter法により検出を試みたところ、本震の約17時間前に本震の震源から約2km北北東の場所にM1.0の地震が1つ見つかったが、それまでの微小地震活動を考慮すると本震を誘発した前震とは結論付けられない。以上の結果を踏まえ、地震発生サイクルにおけるclock advanceによる、静岡県東部地震の「見かけ遅れ誘発」の可能性を提案する。まず静岡県東部地震の震源域の摩擦応力が、東北地方太平洋沖地震による静的な応力変化及び、表面波の動的な応力変化によって急速に増加した。その後、東北地方太平洋沖地震の大規模な余震の表面波による動的な応力変化及び、地球潮汐による応力変化によって摩擦応力がより摩擦強度に近づき、応力擾乱がなかった場合の発生予定時刻よりも早まって(clock advance)地震が発生した。大振幅の応力擾乱が作用してから遅れ破壊に至るまでの時間が、地震発生サイクルのスケールと比べてわずかでしかないことから、もともと静岡県東部地震のような地震が発生する準備が十分整っていたことが示唆される。
著者
山本 希 三浦 哲 市來 雅啓 青山 裕 筒井 智樹 江本 賢太郎 平原 聡 中山 貴史 鳥本 達矢 大湊 隆雄 渡邉 篤志 安藤 美和子 前田 裕太 松島 健 中元 真美 宮町 凛太郎 大倉 敬宏 吉川 慎 宮町 宏樹 柳澤 宏彰 長門 信也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

蔵王山は,東北日本弧中央部に位置し宮城県と山形県にまたがる第四紀火山であり,現在の蔵王山の火山活動の中心となる中央蔵王においては,火口湖・御釜周辺での火山泥流を伴う水蒸気噴火など多くの噴火記録が残されている.一方,蔵王山直下では,2011年東北地方太平洋沖地震以後,深部低周波地震の活発化や浅部における長周期地震や火山性微動の発生が認められ,今後の活動に注視が必要であると考えられる.そのため,地震波速度構造や減衰域分布といった将来の火山活動推移予測につながる基礎情報を得るために,「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の一環として,人工地震を用いた構造探査実験を実施した.本人工地震探査は,全国の大学・気象庁あわせて9機関から21名が参加して2015年10月に行われ,2箇所のダイナマイト地中発破 (薬量200kgおよび300kg) によって生じた地震波を132点の臨時観測点 (2Hz地震計・500Hzサンプリング記録) および定常観測点において観測した.測線は,屈折法解析による火山体構造の基礎データの取得およびファン・シューティング法的解析による御釜周辺の地下熱水系の解明を目指し,配置設定を行った.また、地中発破に加え、砕石場における発破も活用し、表面波解析による浅部構造推定の精度向上も目指した.得られた発破記録から,解析の第一段階として,初動到達時刻を手動検測して得られた走時曲線のtime term法解析を行った結果,P波速度5.2~5.5 km/sの基盤が地表下約0.5kmの浅部にまで存在することが明らかとなった.また,本人工地震探査時および2014年に予備観測として行った直線状アレイを用いた表面波の分散性解析の結果も,ごく浅部まで高速度の基盤が存在することを示し,これらの結果は調和的である.一方,ファン状に配置した観測点における発破記録の初動部および後続相のエネルギーを発破点からの方位角毎に求め,御釜・噴気地帯を通過する前後の振幅比から波線に沿った減衰を推定した結果,御釜やや北東の深さ約1km前後に減衰の大きな領域が存在することが示された.中央蔵王においては,これまで主に地質学的手法により山体構造の議論が行われてきており,標高1100m以上の地点においても基盤露出が見られることなどから表層構造が薄い可能性が示唆されてきたが,本人工地震探査の結果はこの地質断面構造とも整合的である.一方で,得られた速度構造は,これまで蔵王山の火山性地震の震源決定に用いられてきた一次元速度構造よりも有意に高速度であり,今後震源分布の再検討が必要である.また,御釜やや北東の噴気地帯直下の減衰域は,長周期地震の震源領域や全磁力繰り返し観測から推定される熱消磁域とほぼ一致し,破砕帯およびそこに介在する熱水等の流体の存在を示唆する.今後のさらなる解析により,震源推定の高精度化など,火山活動および地下流体系の理解向上が期待される.
著者
長岡 央 Fagan Timothy 鹿山 雅裕 長谷部 信行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Based on previous study of lunar returned samples and meteorites, the main suites of pristine nonmare igneous rocks have been classified into the following four types: (1) ferroan anorthosite (FAN) or ferroan anorthositic-suite (FAS), (2) magnesian suite (Mg-suites), (3) alkali-anorthosite-suite and (4) KREEP basalt and possibly related rocks such as quartz-monzogabbro (QMG) /monzodiorite (QMD), granite and felsite. The latest suite type, the evolved rock samples related to KREEP, may have been derived from residue of the lunar magma ocean (urKREEP), or from low degrees of partial melting or some other process to account for their high incompatible trace element (high-ITE) compositions. Granite and felsite have Th-rich compositions (10 to 60 ppm), and such lunar samples with bulk SiO2 content of >60wt% originated from silicic volcanic or exposed intrusive material. Recent global remote sensing data have presented several candidates of silicic volcanism over the Moon based on indicators such as ITE-rich compositions, dome-like topography, characteristic infrared spectra (Christiansen Feature), and high albedo. Silica-rich, broadly granitic samples have been identified in lunar returned samples and lunar meteorites, but are rare.Lunar meteorite Northwest Africa (NWA) 2727 is a breccia paired with NWA 773 and the other meteorites of the NWA 773 clan. An olivine cumulate gabbro (OC) is common to most of these lunar meteorites within the NWA 773 clan; in fact NWA 2977 and 6950 consist entirely of OC lithology. However, in addition to the OC lithology, several clast types, including in olivine phyric basalt, pyroxene phyric basalt, pyroxene gabbro, ferroan symplectite, and alkali-rich-phase ferroan (ARFe) rocks have been discovered from the NWA 773 clan. The ARFe clasts have K-feldspar and/or felsic glass, a silica phase and minerals rich in incompatible elements such as merrillite. In this work, we characterize a felsic clast in NWA 2727 and compare our results with other lunar samples to discuss silicic volcanism.A polished thin section (PTS) of NWA 2727 was investigated by a combination of petrographic microscopy and electron probe micro-analysis. The NWA 2727 breccia includes a variety of large-scaled lithic clasts (>1mm) including: OC, ferrogabbro, pyroxene-phyric basalt, and the felsic igneous clast. The felsic clast has a modal composition of 37% silica, 34% plagioclase, 14% K-feldspar, 6% high-Ca pyroxene, 5% fayalite, 3% Ca-phosphate, 1% ilmenite, and traces of troilite and chromite. Feldspar compositions of the plagioclase are near An85-90. Two compositional types of pyroxene were identified—one near hedenbergite (Wo46Fs53, Mg#=1 [calculating Mg# as Mg/(Mg+Fe)x100]) and the other with zoning and more magnesian compositions (Wo25-30Fs55-65, Mg#=8~20). The K-feldspar is also zoned with variable concentrations of Ba, clearly detected in elemental X-ray maps (quantitative analyses of Ba are planned). The abundance of silica + feldspars (>80 mode%), the high proportion of K-feldspar to plagioclase, and the very ferroan compositions of mafic minerals attest to the felsic composition of this clast. Subhedral-euhedral olivine crystals up to 0.3 mm in maximum length are preserved, and silica and K- and Ba-feldspar occur in elongate parallel crystals indicating an igneous origin. These observations indicate that this clast was derived from silica-rich magma.Silicic volcanism is also interesting from the viewpoint of landing site candidates for future lunar landing mission. Global gamma-ray observations have presented several high-Th regions in PKT, but the main lithology of the Th-rich regions remains a subject of dispute; possibilities include mafic impact-melt breccia, KREEP basalt, QMD, and felsite/granite. If a lander/rover mission to a high-Th region is equipped for analysis of major elements, in situ analyses on the Moon can be compared with silica-rich samples such as the felsic clast in NWA 2727.
著者
髙濱 聡 溜渕 功史 森脇 健 秋山 加奈 廣田 伸之 山田 尚幸 中村 雅基 橋本 徹夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁では,地震調査研究推進本部の施策に基づき,全国の高感度地震計のデータを収集し震源決定等の処理を一元的に行い,その結果を地震カタログとして公表している。 現在の地震カタログは,精査により一定の基準を満たしたものを掲載することとしている。しかし,東北地方太平洋沖地震後の余震域では余震活動は低下してきているものの以前と比べれば活発な状況にあり,処理対象地震の規模の下限を上げた処理を行っていることから,検知されても処理基準未満であるため地震カタログに掲載されない地震がある。 これに対処するため,平成25年度に同本部地震調査委員会の下で検討が行われ,1)これまでの検知能力は維持し,2)検知された地震のすべてを地震カタログへ掲載する,3)精度に段階をつけた品質管理を行う,の3つの方向性を示した報告がまとめられた。 気象庁ではこの報告を踏まえ,自動震源を活用するなど,震源決定処理手順を変更し改善する。具体的には,領域と深さごとに精査を行う地震のMの閾値(以下,Mthと記す)を設定し, Mth以上の地震については,現行通りに精査した震源決定を行い,Mth未満の地震については自動震源を基本とし,検知されても自動震源が求まらない地震については,最大10点程度の観測点を検測する簡易な手順により震源決定を行うことで、処理の効率を高める。精査される震源の目安は、内陸の浅い地震はM2以上とし,海域については陸域(観測網)からの距離に応じてMを上げて最大でM4以上とする。また,処理方法と精度の違いがわかるような登録フラグを新たに設ける。 ここでは、新たな地震カタログを用いて気象庁が作成する震央分布図等の資料について、具体例を紹介する。
著者
大木 郁也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

カルデラ内イグニンブライトは,カルデラ外に比べ,カルデラ形成に伴う噴火の始まりや終わり,その後の情報をより完全に記録している.しかしながら,厚いカルデラフィル堆積物により埋積されるため,カルデラ底部へアクセスできないなどの問題点がある.それゆえ,カルデラ内イグニンブライトの層序及び地質構造,堆積相を連続的に記載した例は少ない. 本研究は,カルデラ内イグニンブライトを連続的に観察できる理想的な例として三途川カルデラをとりあげ,そのカルデラ内イグニンブライト(虎毛山層)の層序や地質構造,堆積相を記載し,年代測定を行った.その結果,三途川カルデラの噴火史及び地質構造発達史について明らかにした.秋田県南部に位置する三途川カルデラは,カルデラ形成時に堆積したとされる軽石流堆積物(虎毛山層)により埋積される.虎毛山層は主に結晶に富むデイサイト質の火山礫凝灰岩,ブレッチャ,凝灰岩からなる.全体の層厚は1500m以上である.更新世(1.2 Ma;K-Ar法)に相当し,女川から西黒沢相当層間の基盤岩を不整合関係に被覆する.本層は5つの岩相からなる.5つの岩相とは,(1)ユータキシティック組織が発達した塊状無層理の火山礫凝灰岩(emLT), (2)塊状無層理の角礫岩(mlBr), (3)斜交層理が発達した火山礫凝灰岩(xsLT), (4)平行層理が発達した凝灰岩(//sT), (5)遍在的に成層構造を持つ火山礫凝灰岩(dsLT)である.emLTは本層の主体をなし繰り返し分布する.mlBr及びxsLTはemLTの下位に発達し,//sT及びdsLTはemLTの上位と中部にそれぞれ発達する.5つの岩相はシャープまたは漸移的に変化する.これらの岩相の特徴及び接触関係はすべてイグニンブライトの岩相を特徴づけるため,本層はイグニンブライトのシーケンスからなると判断できる.イグニンブライトに先行する降下軽石堆積物が欠如することやイグニンブライトの層厚が1500 mを超えること,本層の分布がカルデラ内に限られることから,本噴火は約1.2 Maにマグマ溜まりの天盤崩壊をトリガーとして発生し,プリニー式噴火フェーズのないイグニンブライトを形成するフェーズから始まったと考えられる.さらにイグニンブライト岩相が繰り返し分布することから,本層は7層の火砕流堆積物(PDC-1 to PDC-7)に識別される.7層の火砕流堆積物の存在より,本噴火で発生した大規模火砕流はwaxingとwaningを繰り返しながら少なくとも7回の火砕流パルスを発生させたと解釈できる.大規模火砕流の給源方向は,イグニンブライト中に発達するデューン構造やインブリケーションの方向から推定でき,北東から南西方向であると考えられる.給源方向にある大鳥谷沢では結晶に乏しいことやmlBrが多く狭在することからも支持される.また,虎毛山層は高松岳周辺を中心に環状に分布し,外側へ急傾斜する.この地質構造は高松岳を中心としたドーム状の隆起構造を示唆する.この隆起構造は,後カルデラ期の再生ドームと考えられ,虎毛山層形成後に発達したと考えられる.
著者
加藤 倫平 植田 勇人 吉田 孝紀
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

北海道中軸部の空知-エゾ帯の主要な構成メンバーとして南北に渡って広く分布する白亜系堆積物は蝦夷層群と呼ばれ,多くの層序学的・古生物学的研究が重ねられてきた。その層序は従来から下部,中部,上部に区分されている(Matsumoto, 1942など)が,蝦夷層群の下部と中部の境界の層序学的位置は各地で異なり,蝦夷層群の広域的な対比は困難である。一方,蝦夷層群分布域全域に渡って追跡できる珪長質な凝灰岩や火山砕屑性砂岩からなる鍵層が確認され,北海道中央部では丸山層と命名された (Matsumoto, 1942;本山ほか,1991など)。この鍵層の堆積年代は蝦夷層群の広域的層序対比に有効であると考えられる。しかし,空知-エゾ帯北部の天塩中川地区や南部の春別川地区においても,化石の産出が乏しいため,この丸山層に対比されるような地層の特定は困難である。このような化石の産出に乏しい地層の年代決定には,U-Pb法による砕屑性ジルコンの年代値が有効である。よって,本研究では,天塩中川地区と春別川地区の凝灰岩層中の砕屑性ジルコンを用いて,U-Pb法により堆積年代を決定し,蝦夷層群下部~中部に及ぶ層準の広域的層序対比を試みた。ジルコンのU-Pb測定には新潟大学のLA-ICP-MS (Agilent 7500a ICP-MS及びNew Wave UP213 レーザーアブレーションシステム)を用いた。 その結果,天塩中川地区の蝦夷層群中部の白滝層の凝灰岩の堆積年代として,96.3-103.4Maを得た。一方,春別川地区の蝦夷層群中部春別川層の凝灰岩層の堆積年代として,98.5±0.5Maを得た。これらの凝灰岩及び凝灰質砂岩の岩石学的性質は珪長質であることが分かった。すでに報告されている北海道中央部の丸山層の堆積年代は浮遊性有孔虫の検討から,102-105Maである(高嶋ほか, 1997b)。また,北海道中央部の日陰の沢層の凝灰岩層のサニディンから98.98±0.38Maおよび99.16±0.37Maの Ar-Ar年代がすでに報告されている(Obradovich et al., 2002)。これらの凝灰岩層は,96-127MaのK-Ar年代を示す渡島帯の花崗岩類(柴田・山田, 1978など),100.6±3.3MaのAr-Ar年代を示す火山岩類(滝上, 1984など)に由来すると考えられる。
著者
松永 康生 神田 径 高倉 伸一 小山 崇夫 小川 康雄 関 香織 鈴木 惇史 齋藤 全史郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

草津白根山は長野県と群馬県の境に位置する、標高2000mほどの活火山である。山頂に位置する湯釜は強酸性の湖水を有し、その地下では度々活発な地震活動が観測されている。また、本白根山麓には草津温泉や万代鉱温泉などの湧出量の豊富な源泉が存在することから、山体の地下には熱水系が発達しているものと考えられている。地球化学的な研究によれば山頂部の噴気や湯釜湖水、また山腹の幾つかの温泉は、気液分離した貯留層由来である一方、本白根山麓の草津温泉や万代鉱温泉などは、より初生的なマグマ性流体がこの貯留層を経由せずに天水と希釈され噴出したものと解釈されている(Ohba et al., 2000)。白根山を東西に横断する測線にて行われたAMT法による調査では、深さ3~4kmまでの比抵抗構造が明らかにされ、山体の西側に厚さ最大1kmほどの低比抵抗体が見つかった。これは変質した第三紀火山岩であると解釈されている。地球化学的な調査と合わせるとこの変質帯が不透水層として働くことで、山腹の温泉と山麓の温泉のそれぞれの経路を分け、混合を妨げていると考えられた(Nurhasan et al., 2006)。また、万代鉱周辺で行われたAMT法による調査では、源泉より地下へと広がる低比抵抗体が確認され、こちらは流体の供給路と解釈されている(神田ほか, 2014)。このように源泉ごとの生成過程の違いや、地下浅部の構造はある程度は分かっているものの、より詳細な深部の構造については未だによく分かっていない。そのため今回は表層への熱水の供給経路やその供給源、さらには草津白根山の火山活動全体の駆動源であるマグマ溜りの位置を明らかにすることを目的とした広域帯MT観測を本白根山において行った。調査は山体西側の万座温泉から本白根山頂を経て万代鉱温泉に至る東西約10kmの測線上の計12点において広帯域MT観測を行った。得られたデータのうち三次元性の強いデータを除去し、Ogawa and Uchida(1996)によるコードを用いて2次元インバージョンを行った。このようにして得られた比抵抗構造の特徴として、①山頂から西側の万座温泉地下へと細長く伸びる長さ数キロほどの低比抵抗体②東斜面の表層付近に広がる低比抵抗体③東斜面深部に見られる高比抵抗の大きなブロックの存在があげられる。②については、前述のAMT法観測(Nurhasan et al., 2006)により推定された変質した第三紀火山岩であると考えられる。この低比抵抗体の下部には深部へと続く高比抵抗ブロック(③)が見られる。ただし、観測データのうち特に長周期側で得られたデータは人工ノイズ源の影響を受けている可能性もあり、このような構造が実際に存在するかはよりデータを精査し検討する必要がある。ポスターでは、これまでに得られている結果について発表する。
著者
三反畑 修 綿田 辰吾 佐竹 健治 深尾 良夫 杉岡 裕子 伊藤 亜妃 塩原 肇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2015年5月2日に鳥島の近海で発生したM5.7の地震は,震央から約100km北方の八丈島では60cmの津波が観測されるなど,地震の規模から想定されたよりも大きな津波を引き起こした「津波地震」であったと言える.Global CMT解の震源は,伊豆・小笠原海溝に沿った火山体である須美寿カルデラ付近の地下浅部に定まっている.この地域では規模・震源メカニズムの類した地震が,1984年,1996年,2006年に観測され,同様に津波を発生させている(Satake and Gusman, 2015, SSJ).1984年の地震に関して,Satake and Kanamori (1991, JGR) は長波近似を用いた津波伝播シミュレーションにより,円形の隆起の津波波源モデルを提案した.震源メカニズムは地下浅部でマグマ貫入に伴う水圧破砕(Kanamori et al., 1993)や,カルデラの環状断層(Ekström, 1994, EPSL)の火山活動に伴うCLVD型の地震モデルが推定されている.2015年の鳥島地震による津波は,海洋研究開発機構が設置した10の海底水圧計から成る観測点アレーによって観測された.水圧計アレーでの観測波形は,波束の到達時間が長周期ほど遅くなる分散波としての特徴を示しており,特に位相波面の到来方向が観測点と震源を結ぶ方向から,低周波の位相波面ほど大きく外れるという特異な傾向が確認された(深尾ほか,本大会).本研究では,津波を分散性の線形重力波として扱い,周波数ごとの位相波面およびエネルギー波束の波線追跡をおこなった.まず,線形重力波の理論式と平滑化した水深データを用いて,各周波数での二次元位相速度場・群速度場を反復計算により帰納的に計算した.位相速度・群速度の両速度場を用いることで,周波数ごとの位相波面およびエネルギー波束の伝播時間の測定が可能になる.そして,球面上の地震波表面波の波線方程式(Sobel and Seggern, 1978, BSSA; Jobert and Jobert, 1983, GRLなど)と同様な方程式について数値積分を行い,須美寿カルデラを波源とする各周波数の波線を追跡した.周波数に依存する波線追跡の結果,低周波の波ほど水深の影響を受けて波線が大きく曲がる様子が確認された.特に,波源から北東へ射出した波線が北側に大きく曲がり,周波数が低いほど波面の進行方向が変化する傾向が見られた.この結果は,水圧計アレーに入射する位相波面の到来方向が周波数に依存して変化するという観測結果と調和的である.また,波線追跡に基づくエネルギー波束(群速度)の到達時間は,水圧計アレーの各周波数帯における波束の最大振幅の到達時間によく一致した.さらに,周波数帯によらず波源の北方向で波線が集中する様子が確認された.この結果は,北側の広い方向に放射された波が地形変化による速度勾配によりエネルギーが集中することで,八丈島での振幅が大きくなった可能性を示唆している.本手法による周波数に依存する波線追跡により,長波近似がよく成り立つ長周期の波動だけでなく,分散効果により後続波として到達する高周波の波についても同様に波線を追跡し,津波伝播の特徴をより詳細まで捉えることができる.例えば,周波数帯ごとの津波の伝播経路上の特徴的な地形が波形に与える影響を考察することや,高周波の後続波を含むエネルギー波束の到達時間を,少ない計算量で推定することが可能になる.