著者
山本 欣司
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.52-60, 2005

小学校六年国語教材「海の命」は、教師用指導書や実践報告等を見る限り、父を殺された太一が、「父を破った瀬の主」を捕らえ父を乗り越えようとするものの、瀬の主を「海の命」と見ることで認識を転換し、共生を選ぶ物語として教授されているようである。しかし、太一から殺意が感じられず、瀬の主への恨みも読み取れないこと、太一の出会ったのが「父を破った瀬の主」かどうか確定できないことなどから、そもそもこの小説は復讐譚的枠組みとは無縁であると考えられる。作品に突然の転回をもたらしたのは、太一がそれまで抱いてきた瀬の主への憧憬であり、海への畏敬の念であった。「海の命」は、与吉じいさの後継者としての太一の生が描かれた作品である。
著者
小二田 誠二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.75-83, 1989-08-10

近世の仇討小説は厖大な量に上るが、"ワン・パターン″で面白みがなく、個々の趣向でしか評価できない、という見方が強い。しかし、量産された背景には、仇討小説の持つ本質的な魅力があった筈である。本稿では、実録等を材料として、趣向を捨象し、仇討小説の定型を抽出し、仇討小説が定型を保ちつつ史的な流れの中で、仇討とは別の副次的な主題を持って来たことを確認し、近世に於ける仇討小説の意味を考察した。
著者
倉田 容子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.34-44, 2012-12-10 (Released:2018-01-25)

本稿では、『悪魔の手毬唄』の物語構造を一九五〇年代後半の農村表象という文脈から照射し、パロディとして引用された『楢山節考』との批評的距離を検討した。『悪魔の手毬唄』には同時代の農村の「リアリティ」が織り込まれるとともに、「リアリティ」と手毬唄に代表されるフォークロアとの結節点において、戦前・戦後のそれぞれ異質な排除をめぐる暗闘が刻印されている。農村の封建的秩序を主なモティーフとしてきた金田一シリーズの転換を見定めつつ、〈戦後啓蒙〉の語りからも反動的なナショナリズムからも身をそらす『悪魔の手毬唄』の農村表象の位相を明らかにした。
著者
佐々木 孝浩
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.12-20, 2014-07-10 (Released:2019-07-20)

和歌一首をどこで改行し何行で記すかという書式は平安末期には成立しており、定家も『下官集(げかんしゆう)』に関連する記述を遺している。三大手鑑に収載される『新古今集』以降の勅撰集の古筆切八〇葉五七種を対象として、装訂や書形とも関連させつつ、和歌の書式を確認し、行数の違いによる差異のあり方やその意味について考察し、特に一般的な二行書から一行書になる際に起こる、漢字表記の増大化傾向について具体的な検討を行った。
著者
大塚 英志
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.25-35, 2010-04-10

例えばアニメーション作家。新海誠はまず、小説に似たことばを連ね、それを自分で「声」として朗読し、その上に映像絵コンテを重ねていく。そんなふうに「ことば」や「小説」から立ち上がっていくアニメーションがある。あるいは発表者(大塚)が思春期の若者たち、あるいは時に医師を介して臨床の現場で「書きかけの絵本」を渡し完成させるワークショップ。そこでは一人一人が古典的で懐しい「成長の物語」を自ら描くことでささやかな自己治癒を果たしているように思える。「文学」とかつて呼ばれたものを「制度」と批判してみたところで古い文学に涙する学生たちを幾人も見る。「文学」について何かを語り、そして「文学」に何かを取り込み右往左往し、終わりや変容や脱構築を語る場所とは別のところで、「文学」の役割もその作法もいくらでも引き受けている場所がある。あるいは引き受ける方法がある。ただ、それを「文学」と呼ぶことはもう必要ない。必要なのは文学の役割であり、そう呼ばれることをめぐっての他愛のない何かでは多分ない。
著者
田中 徳定
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.1-11, 2003-07-10

「家」の永続性は祖先崇拝と表裏一体となっている。それゆえ、歴史学における「家」成立の研究では、祖先祭祀の観点から多くの成果が積み重ねられてきた。本稿では、「木幡寺呪願文」の分析から、藤原氏の木幡墓所が、子孫繁栄を願って四神相応の地に点定され、さらに仏教による祖先祭祀が行われていたこと、その後も藤原「氏」繁栄の基盤として認識されていたことを明らかにした。また、中世に氏から家が分立していく藤原氏の祖先祭祀では、各家の始祖が建立した寺院が「家」の精神的紐帯となっていくことを考察した。
著者
品田 悦一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.1-13, 2002-04-10 (Released:2017-08-01)

『万葉集』のことばは、それを使用した古代人にとっては決して国語ではなかった。それは畿内の貴族たちのことばであり、また倭歌という特殊な文化を背負う言語であって、古代国家の版図の津々浦々に通用するような性格は持ち合わせてはいなかった。明治中期に過去の諸テキストから国民の古典が選出されたとき、それら諸テキストの使用言語は過去の国語として追認された。とりわけ『万葉集』のことばは、国語の「伝統」の栄えある源泉として仰がれ、この観念のもと、万葉調の短歌がさかんに創作される。興味深いのは、近代短歌の使用言語が、古代語そのものでも、それと現代語との混融物でもなかったという点だろう。伝統の復興であるべきものが、その実、いまだかつて存在しなかった言語を新たに作り出してしまったのだ。その言語は、しかも、歌壇の外側にはほとんど通用しないという点で、事態を導いた「国語」の理念を裏切ってもいた。素朴で自然で、原始的生命力に満ちていて、そのうえ意味不明な言語。こいつはいったい、なんという鵞鳥だい。
著者
赤坂 憲雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.43-51, 1983-04-10

Biwa-Hoshi was an outsider who visited the communities and the very Japanese way of calling him was "Marebito". Those people drifted around the boundary area of the communities, so they were also called "the people of the boundary", and they were accepted with respect and fear by the settlers of the
著者
小林 一彦
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.24-32, 1998-07-10 (Released:2017-08-01)

中世では、貴族社会内部で固定された家職の継承と、それに必要な相伝文書の伝領とが家嫡決定に重要な意味を持っていた。御子左家の場合、為家没後、勅撰集を編むという最も重大な家職は為氏・為世と二条家によって継承され、京極家の為兼も一時期これを担っていた。しかし、相伝文書を伝領した冷泉家だけが、為相・為秀と代を重ねながら勅撰の家として成立するには至らない-その時、為秀にはどのような戦略があったのか。家業継承者であることの証明書としての和歌文書、そのような意義を歌論書に見出すことで、中世の偽書の問題を考えてみたい。
著者
花崎 育代
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.57-66, 2006

昭和五七(一九八二)年一月公表の「核戦争の危機を訴える文学者の声明」は、約半年で五六二名の署名を集めたが、賛否の意見が、反核の是非よりも、その声明自体を問題として展開された。大岡昇平は署名したが、アンケートには答えず、反核集会に出席するような行動もとらず、これに関わるまとまった文学作品も書かなかった。戦争を「人間」と資料重視の手法で作品化してきた大岡には、核戦略が高度化しかつ秘匿されている以上、文学化は不可能であったからだといえる。しかし大岡は「反核」の意志は明確に表明し続けた。
著者
五嶋 千夏
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.36-47, 2013 (Released:2018-06-14)

本論文では、宮沢賢治の農本主義と農本ナショナリズムとの近接性を「ポラーノの広場」と『家の光』との比較によって検討した。両者は農本的な志向があるが、『家の光』では、満州事変以降、ナショナリスティックな農本主義と、地域社会構想に専念した農本主義とに分かれていた。「ポラーノの広場」における産業組合は、後者に近接したものだと考えた。
著者
越前谷 宏
出版者
日本文学協会 ; 1952-
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.36-47, 2016-12