著者
鄭 暁紅
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.110, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
2

中国ミャオ族の歴史の中,色彩の応用は極めて複雑である.その色彩は記号化され,視覚から意味の多重化までなっている.本論文はシンボル学から,中国ミャオ族色彩を記号として応用する意味を研究する.論文の論理の成立は,ミャオ族の伝統的な色彩に基づいて非常に複雑な記号的な状態を備えている.視学から,ミャオ族の伝統色はあまりにも複雑な表示方式で,歴史を感知次元で,その複雑さは絶えず変化し,最も直接的な身体体験から,微妙な感情体験まで,その記号の表示方式が固定していない.シンボル学の角度から,ミャオ族の伝統色彩が異なる歴史条件の下で,その色彩の感知を考察し,複雑な歴史の霧の中で,相対的にはっきりした伝統色彩の変化道を見つけることができる.ミャオ族服装の色彩は,その伝統文化のなかに特殊な存在である,その色彩象徴の変化プロセスは,ミャオ族色彩の歴史変化の普遍的な意味を持っている,ミャオ族伝統色の秘密を開ける鍵を見つけることができるかもしれない.本論文の研究重点は,ミャオ族服装色の記号的意味を研究し,視覚から中国ミャオ族伝統色彩の多重変身の鍵を研究し,その色彩意義と象徴を解読し,有効的な応用方法を探る.
著者
宍倉 正視 竹下 友美 後藤 史子 溝上 陽子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3+, pp.163-166, 2017-05-01 (Released:2017-10-07)
被引用文献数
1

高齢化社会における課題のひとつとして,高齢者にとって表示物の配色が見分けにくいケースへの対応がある.例えば,美術館や博物館など展示品の保護といった観点から照明を暗くしなければならない室内環境での案内板や説明パンフレットには,暗い環境下における読みやすさが必要とされている.そこで,我々は文字-背景配色印刷物を対象に,照度/年齢層/配色パターンが文字の可読性にどのような影響を与えるか評価した.評価には,無彩色または有彩色で着色した文字および背景矩形の印刷物サンプルを用いた.サンプル色として,無彩色は黒・グレー6色・白(紙白),有彩色用にJIS安全色に使用される2.5PB色相から明度・彩度の異なる19色を選定した.評価の結果,照度が低くなると,若年者に比べ高齢者では無彩色配色および2.5PB+黒配色の可読性低下がみられた.黒文字+無彩色背景に対する年齢層による可読性の違いは高齢者と若年者のコントラスト感度の違いが影響していると考えられ,黒文字+2.5PB低彩度背景色サンプルにおいては照度と加齢を考慮した色差値と可読性の関係が先の無彩色配色のコントラスト感度と同じような傾向を示すことが判明した.
著者
西村 和昇 平井 経太 堀内 隆彦
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3+, pp.111, 2019-05-01 (Released:2019-07-06)
参考文献数
2

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いたVirtual Reality(VR)体験は,臨場感のある没入体験を可能にする.近年では,VRシミュレーションを用いた外科手術訓練などにも利用され,エンターテイメントに限らず,専門的分野においても広く普及している.VRの有用性やVR酔いのようなVR特有の症状に関する研究は多く行われているが,一方,現実空間とVR空間における見えの違いを詳細に調査した例は少ない.我々は先行研究において,通常のデスクトップディスプレイとHMDにおける色の見えを調査するため,単色のパッチ画像刺激を用いた主観評価実験を行った.その結果,HMD上ではデスクトップディスプレイより明度と彩度が高く知覚される可能性が示唆された.そこで,次のステップとして,本研究では,現実空間を再現したシーン画像を用いた場合でも,デスクトップディスプレイとHMDにおいて色の見えが異なるかを調査した.実験結果より,シーン画像を用いた場合でも,HMDによる再現の方が,明度と彩度が高く知覚される可能性が示唆された.また,被験者によって注視する範囲が異なったにもかかわらず,明度と彩度は同様に高く知覚される結果が得られた.
著者
盛田 真千子 香川 幸子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-12, 1993-05-01
被引用文献数
4

慣用色名は誰にでも理解され, 色が想像できるものでなければならないのだが, 時代変化の激しさと, 多様化, 個性化の進展している社会のなかで, 認識が必ずしも一致するとは限らない。そのため, 色名かどのように認識されていろか, また, その認識に影響を及ぼす諸要因について, 若年層の男子に調査を実施し, 第1報, 第2報と比較検討した。若年層の男子においては, JIS Z 8012から選出した105語の慣用色名で, 認識がされている色名は53.3%, 認識があいまいな色名は18.1%, 認識がされていない色名は28.6%であった。被調査者の生活意識の因子分析では7因子が抽出され, 因子の構造に男女間で差がみられた。男子は女子より, 経済や外国の文化に関心が高く, 手工芸には関心は低い傾向にあった。男子の色名の認識度は, JIS S 6028, JIS S 6026, JIS S 6006などの顔料に直接, 記名されてある色名で, 認識が高かった。女子は男子より色名の色を正確に把握し, 色名も多く認識していた。これは, 女性の服装色や色に対する関心が高いことが, 影響していると考える。また, 文化や生活環境と深く結びついた色名が, 高い認識につながり, 暖色系統の色名は, 寒色9紫系統の色名より認識されやすい傾向が, 男子の調査でもみられた。
著者
北嶋 秀子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.83-94, 2009-06-01

日光東照宮(以下,東照宮)・陽明門の正面に懸かる勅額は,人目につきやすい箇所に配されている為,特別な意味が込められていると考えられる.「極彩色」と称されるその類は,勅額のほかに「置紋」と呼ばれる独特な意味を与えられた「青地に金彩」の紋様として,水盤舎・虹梁などに見出される.置紋の形象には龍や鳳凰などが採用され,いずれも徳川家康(1542-1616,以下,家康)を象徴するものであると一般的には理解される.「青地に金彩」を陰陽五行説の五色から検証する場合,「金=黄+金属光沢」と表すことができるので,色相においては青と黄で比較しなければならない.青と黄を字義から検証すると,青は「青侍」のように官位の低いことを表し,また中国では「青袍」が「賎者の服」とされることから,身分の低い者の服の色であることがわかった.それに対して色相・黄は天皇と皇太子だけに着用を許された「禁色」として用いられる色である.青と黄が身分や官位において対照的な色相であることは新たな発見であった.東照宮において,その「極彩色」の代表とも目される「青地に金彩」は,「視覚的な対照性」と「色格における対照性」という2つの対照性をもって成り立つ.金のもつ意味は黄に準じるが,さらに権力や富を象徴するのが金であり,この部分が東照宮では大きな意味をもつ.すなわち,勢い猛の徳川幕府や家康を「極彩色」や「金」で表したのである.
著者
酒井 英樹
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.59, 2018-03-01 (Released:2018-06-09)
参考文献数
20

赤い血が流れているにも拘わらず,肌表面で静脈が青く見えるという現象は,色の不思議として,定期的に新聞や科学雑誌の読者質問で取り上げられる“よくある質問”である.しかし,その回答は2つに分かれており,実際(物理的)には青くはなく,青く見えるのは錯視である(錯視説)というものと,実際(物理的)に青くなっており,その理由は短波長である青色光は皮膚内部で散乱されやすいからだ(散乱光説)というものとがある.本稿では,どちらの説が正しいかを調べることを目的に,腕の静脈,及び(同じく青く見える)蒙古斑の分光測色を行った.その結果,腕の静脈,蒙古斑とも,物理的には青くはなく,黄赤であった.ただし,周辺の皮膚色に比べて,明度,彩度とも低下していた.この結果は,錯視説を支持するものであり,青く見えるのは,明るく鮮やかな周辺の皮膚との色対比などの心理効果によって,反対色である青が知覚されるためと考えられる.ただし,その錯視量についての評価は行っておらず,錯視の詳しいメカニズムについては,今後検証が必要である.
著者
鈴木 恒男
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.153-161, 1991
被引用文献数
10

色再現に於いては肌色の再現が一番重要であるとよく言われている。その為に, 肌色の特性及びその再現に関しては多くの研究がなされている。しかし, その肌色再現の人種間の比較に関しては研究が非常に少ない。本報告では, 日本人と欧米人の好ましい肌色を白人女性の写真を使って調査した。その結果, 日本人は欧米人よりも赤みの肌色を好む事が分かった。この事は従来白人及び日本人で独立に行なわれた研究とも対応するものである。
著者
三浦 久美子 堀部 奈都香 齋藤 美穂
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.74-84, 2008-06-01
被引用文献数
4

本研究では、色彩の持つ印象及び気分の作用を整理し、色彩に対する調和香を検討することを目的とした。実験は、100名(男性42名/女性58名)の対象者に、18色のカラーカード(3トーン、5色相の有彩色及び3色の無彩色)の印象評定(SD法)及び気分評定を課すと同時に、各色彩に対する8種の香り(シナモン、ペパーミント、バニラ、ローズマリー、レモン、アニス、ペッパー、 ローズ)の調和度を評定させる(4件法)という手続きによって行われた。色彩の印象評定及び気分評定、各々の結果に対しクラスタ分析を施し、18色を分類した結果PALE系(ペールピンク、ペールイエローなど)、COOL系(ペールスカイ、ビビッドグリーンなど)、VIVID系(ビビッドレッド、ビビッドイエロー)、DARK系(ダークレッド、オリーブなど)、MONOTONOE系(ダークブルー、ブラックなど)の5クラスタに分類された。これらの各クラスタに対する調和香を検討した。その結果、概して、PALE系にはバニラ、COOL系にはペパーミントやローズマリー、VIVID系にはレモン、DARK系にはシナモンやローズ、MONOTONOE系にはペッパーやアニスが調和する傾向が得られた。
著者
江良 智美
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.232, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
18

スチームパンク(Steampunk)はSF小説,ファンタジー文学のサブジャンルの1つである.19世紀の産業革命やフランス・ロマン主義的な文化生活形態がオルタナティブワールドとして発展した世界を想像して描かれている.映像作品やアニメにおいても人気の高いモチーフで,スチームパンクの世界観を芸術作品やファッションにアレンジして表現する愛好者は世界的に多く,独自のファンコミュニティが形成されている.本研究はスチームパンクのカラーデザイン研究の第一歩として文学作品の描写や挿絵からスチームパンクを象徴する色彩を検討した.また,作品舞台となったヴィクトリア朝時代のイギリス,20世紀初頭のフランスで実際に用いられた色彩を調査し分析した.色彩に関してはDICカラーガイド「フランスの色彩」を使用し,メインカラー2色,アクセントカラー6色を抽出した.更に,それらを用いカラーデザインを行い,女性向け衣装を制作し展示をした.
著者
呂,清夫
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, 1998-02-01

バーリンとケイ(B.Berlin & P.Kay)の色名進化論によれば, 標準中国語(Mandarin)には基本色名が白, 黒, 紅, 黄, 緑, 藍の6種類しかないから,日本語, 韓国語(Korean), 広東語(cantonese)などに比して発展が遅れたことが力説されている。本研究は主に色名が存在する歴史的文献によって, バーリンとケイの色名進化論にある標準中国語についての問題点を明らかにする。つまり標準中国語の起源である古代中国語には, 西暦紀元前にすでに11種類以上の基本色名が存在していた。そして中国語にある色名の発展が他の民族の色名進化状態ともあまり変わらないことを明らかにした。
著者
児玉 晃
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.95-101, 2008-06-01
参考文献数
4

規格の変遷では、ANSI、JIS、ISOなどの絡み合いがあり、ドラマもある。それらの中から幾つかのポイントに絞り、規格の説明も含めて解説する。
著者
田辺 弘子 杉本 賢司
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.152-162, 2004
参考文献数
6
被引用文献数
2

厳島神社は、593年に海上に建設された特殊建物である。神社の配置計画は、世界的にも独自性の高い設計として認められ、世界遺産に登録された。島全体が、神の領域として守られており、墓地や畑などの建設が許されなかった。そして、長い年月を経過しても宝物類が完全な姿で伝承されている。本研究では、厳島神社の有する独自の建築様式の変遷と配置計画、色彩について調査を行ったものである。厳島神社は、多くの国宝や重要文化財を有し、砂州の上に建ちながらなぜ、これほど健全に維持されて現在に至ったのかを建築的に検証を行った。また、厳島神社はすべてが朱塗りで構成されており、朱色の鳥居と神橋(別名:勅使橋、太鼓橋)は神域を守るために入り口を防備する重要な役割を果たしている。海上に位置する鳥居の構造は、両部鳥居という耐震性の高いものであり、海上にあっても浮き上がらない設計が行われている。さらに、烏居の素材は水に強い楠が採用された。鳥居の接合部の補修は、法隆寺と同じ、継ぎ木という日本の独特の仕口の技術を駆使している。海上という最悪の建築条件のなかでどうしてここまで耐えることができたのか、素材と塗装技術、建築のディテールを検証した。本研究により、今後の維持管理の基礎資料の一部として供することを目的としたものである。
著者
小林 光夫 吉識 香代子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.249-261, 2001-12-01
被引用文献数
1

PCCS(Practical Color Co-ordinate System)は, 色彩調和を考慮した表色系である.PCCSは, 色相, 明度, 彩度という三属性による色表現のほかに, 配色に有用な"トーン"の概念をもっている点に特色がある.しかし, PCCSのトーンと三属性値との対応は, いくつかのトーン代表色でしか与えられていないし, 他の表色系との関連も明確でない.また, PCCSの色票集の色票の数が少ない.これらの理由で, PCCS利用の範囲は狭められている.われわれは, PCCSの各トーン代表色におけるPCCS三属性値とマンセル三属性値の関係を分析したところ, PCCS-マンセル間の簡明な数学的関係を見出すことができた.また, この関係を利用し, 相互表色値変換のアルゴリズムを構成した.さらに, トーンを表わす色相に依らない座標系を, PCCS三属性値からの簡単な線形変換という形で, 構成することができた.この結果, 任意のマンセル表色値に対し, PCCS三属性値およびPCCSトーンを計算することが可能となり, PCCSの利用範囲の拡大が期待される.
著者
張 粤 齋藤 美穂
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.328-337, 2005-12-01
被引用文献数
1

共産主義の政治色としての赤は、今日相変わらず中国の最たるイメージ色であり続けている。本研究は現代の中国人学生の赤のイメージに対する解釈を試みたものである。本研究は中国の北京、武漢、杭州、重慶の4つの地域において、536名の大学生(男性294名, 女性232名)に対し、赤系色票を提示したうえ、赤に対する認識、赤に対する嗜好、赤い物の所有状況、赤からの連想語、日中のイメージ色、色彩に対する態度などに関するアンケート調査を行った。その結果、中国人学生は赤を嗜好する傾向が見られた。彼らにとって、赤は伝統、政治、機能などの意味が込められる色であることが分かり、特に、代々受け継がれてきた伝統の「めでたい」意味が強く赤の嗜好を左右することが分かった。また、文化交流と時代の影響で赤が持つ意味も変化してきていることが示唆された。