著者
呂 清夫
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.4-12, 1998-02-01

バーリンとケイ(B.Berlin & P.Kay)の色名進化論によれば, 標準中国語(Mandarin)には基本色名が白, 黒, 紅, 黄, 緑, 藍の6種類しかないから,日本語, 韓国語(Korean), 広東語(cantonese)などに比して発展が遅れたことが力説されている。本研究は主に色名が存在する歴史的文献によって, バーリンとケイの色名進化論にある標準中国語についての問題点を明らかにする。つまり標準中国語の起源である古代中国語には, 西暦紀元前にすでに11種類以上の基本色名が存在していた。そして中国語にある色名の発展が他の民族の色名進化状態ともあまり変わらないことを明らかにした。
著者
齋藤 美穂
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-10, 1992-05-01
被引用文献数
17

日本における色彩嗜好研究の中で「白」に対する嗜好は近年比較的安定した傾向と考えられている。本研究では, 日本での色彩晴好を, 地理的にも文化的にも近い韓国と比較してみた。調査は東京 (100名) とソウル (99名) の被験者に対し, 同一の65色からなるカラーチャートを呈示し, 好きな色 (嗜好色) と嫌いな色 (嫌悪色) を3色づつ選択すると同時に選択理由も明らかにしてもらうという方法により実施した。選択された色に対しては, 両国の嗜好色と嫌悪色における一般的な嗜好順位を比較し, 色相別・卜ーン別に傾向を検討した。更に両者の嗜好傾向の特徴を明らかにするために双対尺度法 (DUAL-SCALING) による分析を施し, またX^2検定により有意差を検討した。その結果, 「白」や「ビビッドブルー」は両国に共通して好まれるものの, 色相やトーン別に検討した場合, 好みの傾向には交叉文化的な違いがあることが明らかとなった。
著者
須長 正治 城戸 今日子 桂 重仁
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.209, 2018-09-01 (Released:2018-09-24)
参考文献数
16
被引用文献数
3

色覚異常の混同色でない色で配色し,その後,色覚異常が混同する色の間で色を変更するというカラーユニバーサルデザインとなる新しい配色手法が提案されている.しかし,この方法には,いくつかの問題点があるため,実用化されるまでには至っていない.そこで,本研究では,このカラーユニバーサルデザイン配色手法における問題点を明確し,その解決方法を提案した.さらに,市販の配色カードを用い,色見本セットを試作し,実用化に至るひとつの道筋を示した.
著者
北嶋 秀子
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.227-238, 2015

暈繝彩色は,仏像や仏具など仏教関係のものに施され,主に「紺(青)・丹(赤)・緑・紫」のグラデーションを用いて,鮮やかな多彩感や立体感を表す装飾的な彩色技法である.暈繝彩色は,インドから中国に伝わり,中国で完成したと考えられる.以前にも拙稿で暈繝彩色について検証したことがあるが,本稿では敦煌莫高窟における進化の過程とともに,暈繝彩色の定義についても再検証した.敦煌莫高窟の壁画を時代ごとに『中国石窟・教煌莫高窟』で確認しながら,先学の研究を基に暈繝彩色について再検証した結果,教煌莫高窟において6世紀前半には筆禍らしき彩色法が見られ,7世紀には暈繝彩色が完成していたと考えられる.薄暗い石窟内は少ない光量ゆえに,物体が平面化し通常と異なる視感竟に陥ることが想像される.その平面化の問題を解決する方法として,暈繝彩色を構成するグラデーションの段数を,増やすことが考えられた.それによって「色彩による立体感」を獲得し,暈繝彩色が爛熟期に達したと考えられるのである.さらに,暈繝彩色のグラデーションは,彩度を強く意識したトーンのグラデーションであることも明らかになった.薄暗い環境下で立体感を表出するために工夫された彩色法が,それまでの暈繝彩色を完成された暈繝彩色へ高めたと考えられる.
著者
國本 学史
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.36-39, 2017

近代日本において,色彩論は欧米より輸入され,受容される.その過程で,日本画家である田口米作により,『色彩新論』が著された.同書は,当該書が刊行された明治40年前後の,欧米の近代的な色彩論を主に紹介する書籍とは性質が異なる.また,水彩・油彩画家等による絵画技法の解説・入門書のように色彩を説明する書籍とも性質を異とする.米作は著作の中で,色彩理論の解説に加え,日本の色彩文化論的内容を含む独自の視点を示している.これは当時の色彩論的書籍ではあまり見られない特徴である.独特の色彩理論が構築された要因として,米作が浮世絵師出身でポンチ絵師であったこと,美術学校のようなアカデミズムとは距離があったこと,日本画出身者としての問題意識のもとで色彩理論を独自に学んだこと,が挙げられる.一方で,米作は『色彩新論』刊行を待たず早世し,弟子筋へ技術や知識が継承されなかった.田口米作の特異な色彩論の知見は後世に受け継がなかった一方で,その後日本ではマンセル理論等が取り入れられ,日本の色彩論は,さらなる変化を遂げて行った.本論は,田口米作の『色彩新論』成立のこうした諸背景を整理し,その特異性を明らかにする.
著者
松田 博子 名取 和幸 破田野 智美
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.69, 2019-03-01 (Released:2019-06-23)
参考文献数
26

好きな色がパーソナリティと関係すると思っている人は少なくないが,パーソナリティが色の好みに影響を及ぼす理由についてはほとんど解明されていない.本研究は調査の季節,場所,対象者の年齢,職業を限定し,11年間継続して,延べ2026名(男性931名,女性1095名)の大学生の調査を行った.75色のカラーチャートから,「好きな色」,「着たい色」,「よく着る色」を選択するよう求め,後日YG性格検査を実施し,約半数の色にパーソナリティとの関係が示された.さらに,選択した「好きな色」,「着たい色」,「よく着る色」の色イメージ得点と,選択者のYG検査のパーソナリティ特性の12尺度得点との相関を求めた.男女とも相関が見られ,自らのパーソナリティによく似たイメージの色を好み,着たいと思い,よく着るという知見が得られた.また情緒安定性,協調性,思考的外向に男女の違いが見いだせた.
著者
五十嵐 崇訓
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.65, 2018-03-01 (Released:2018-06-09)
参考文献数
87
被引用文献数
1

肌は,人間にとって最も“目にする”身近な認識対象の一つである.そのため,肌の外観(アピアランス)は,学術・産業分野における重要な研究の対象として研究が進められている.この際,肌のアピアランスの特徴を決定する重要な因子の一つである“色”は,不可欠な評価対象である.そのため,肌の色彩を理解する上で有用となる様々な観点からの研究が展開されている.本報では,このような多岐にわたる研究分野の中から,肌色とその周辺に関する基礎知見として三つの観点から先行研究をレビューする.まず,肌色に関する一般的な評価知見として,(1)データベースに基づいた肌色特徴に関する最近の研究を振り返る.次に,しばしば肌色の理解において必要となる生理学的観点からの評価知見として,(2)分光データや画像データなどから肌の主要色素(メラニンとヘモグロビン)を定量化・指標化するための解析法の事例をレビューする.最後に,これらの評価では捉えづらいと考えられる肌特有の評価知見として,(3)肌・顔に特徴的な知覚を扱った最近の研究事例の一端を振り返る.
著者
高橋 直己 坂本 隆 加藤 俊一
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.170, 2018-07-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
27

本研究の目的は,複雑な色彩特徴を持つ画像から代表色を抽出する人の知覚過程を参考にして,データ分析に基づく代表色抽出手法を提案することである.人は画像を見たとき,画素の一つ一つを知覚するのではなく,画像全体を俯瞰して少数の代表色を知覚し,それに基づいて色彩特徴を認識する.また,画像を見て瞬時に直感的に,色彩イメージを想起したり,色彩特徴によるグループ分けをしたりする.こうした人の知覚・認知機能をコンピュータで代替する技術は未だ確立されていない.本研究では,画像に応じて代表色の色数が適応的に決まらない既往研究の問題点に着目し,画像領域分割と階層クラスタリングをあわせた方法でこの問題を解決した.また人間が抽出した代表色と提案手法が推定した代表色の距離を評価基準とし,代表色抽出法の比較評価を行った結果,従来手法より提案手法の方が統計的に人間の抽出結果に近い推定をすることが示された.
著者
江良 智美
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3+, pp.94, 2019-05-01 (Released:2019-07-06)
参考文献数
7

中高年男性を対象としたファッションは女性向けファッションと比較すると必ずしもバリエーションが豊富とはいえない.その原因には「男らしさ」に対する固定概念や働き方,ワーク・ライフ・バランスが大きく関係しており,心理学,男性学の観点から考察しても中高年男性とファッションの関係性の解明は喫緊の課題である.本研究は中高年男性を対象とした総合的なファッション研究の試論第一段階として,ファッションに関する色彩について対象者が日常的に感じる主観的な意見についての質的調査を試験的に行なった.結果,今後規模を拡大した調査研究を行うにあたっての諸問題を抽出できた.
著者
槙 究 増田 倫子
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.232-243, 2000-12-01
参考文献数
8
被引用文献数
4

実物の色と記憶色では色が異なるとの研究報告がある。本研究では、その違いが記憶保持期間における色の変容によるものかどうかを明らかにするために、物体の色を記憶後、3回に渡って再生させる実験を行った。その結果、以下のようなことがわかった。(1)物体の色の記憶は、ある程度の正確さを持っている。しかし、色相は記憶色の影響を受けてずれることがあるし、彩度の中彩度側にずれて記憶される傾向がある。(2)低彩度の色は、色相の記憶における個人差が大きい。(3)一旦記憶された色は、一週間後まで、安定して再生される。(4)色記憶時の背景の違いは、記憶される色の違いとなって現れる。記憶保持過程には影響を及ぼさない。(5)実物の色と記憶色が異なるのは、色の記憶が時間と共に変化するためではなく、記憶のプロセスに起因する。
著者
山田 雅子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, 2019

<p> 日本人女子学生による肌の色の言語的表現を探った調査では,男性の方が女性よりも色黒,女性の方が男性よりも色白と表現される傾向が捉えられている(山田, 2017).だが,色みについては不明瞭なままであった.</p><p> 調査方法に若干の変更を加え,97名の日本人女子学生を対象として新規に調査した結果,男性の方が女性(回答者自身を含む)よりも色黒で黄み寄り,女性(同)の方が男性よりも色白で赤み寄りといった意識が持たれていることが判明した.また,当該傾向は現実に対する評価よりも理想において顕著となることが捉えられた.</p><p> 更に,肌の色の明るさに関する言語表現の選択パタンには両調査で共通する部分が多分に見られ,日本人女子学生というほぼ同質の対象者ならば一定の反応パタンが安定的に存在することが推察された.同時に,こうした肌の色に対する選択パタンによって,人物の美的評価における肌の要素(色白肌,肌のきめ細かさ)の重視特性が異なる傾向も確認された.</p>
著者
畠山,富雄
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, 2004-12-01
著者
佐々木 三公子 川端 康弘
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.27, 2018-01-01 (Released:2018-02-07)
参考文献数
15

本研究では,カテゴリ境界色を色典型性の高い物体または低い物体の画像に着色し,典型色の知識が色記憶の変化方向に与える影響を検証した.実験1の結果,同じ境界色を着色した場合でも,物体によって色相の変化方向が異なり,色典型性の高い物体条件では呈示されたそれぞれの物体の典型色方向に近づくことが分かった.また,実験2では実験1の結果が色カテゴリよりも典型色の影響を強く受けたことを示すために,実験1で用いた呈示色をカラーチップ画像にして色カテゴリ分類課題を行った.実験2で分類したカテゴリが,実験1で呈示した物体の典型色と異なった場合,記憶の変化方向がカテゴリのフォーカル色と典型色のどちらに近づいたか集計した結果,物体の典型色方向に変化した割合が有意に多かった.一方,色典型性の低い物体の場合にはフォーカル色方向に近づく割合が多かった.このことから,色典型性が高い場合,物体色の記憶は物体の典型色の影響を受けて典型色方向に変化することが示唆された.