著者
斎藤 了一 富永 昌治 堀内 隆彦
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.39-42, 2017

<p> 本研究では著名な印象派画家の色彩表現に着目して色使いの特徴解析を行っている.研究開始当初は,画家ごとの作品全体での色度点分布から主成分分析による解析や,3属性で作品ごとの平均値を用いた多面判別面による解析で色使い傾向を検討してきた.また,分布全体主成分や平均値では詳細な特徴を抽出し切れないため,画家ごとの色度点分布を属性ごとに均等分割し,分割中心値と分割域幅の関係を関数表現することで詳細な色特徴の解析を考案した.本報では,この分割による解析法を発展させて,各画家の作品ごとに3属性の近似曲線を数値表現することで,より詳細な解析をしたので報告する.対象としたのは,マネ,セザンヌ,ゴッホ,モネ,ルノアールの5画家における全65作品である.各画家作品の色分布を3属性ごとで色度点の個数が均等になるよう8分割し,この分割結果から分割中心値と分割域幅の関係を近似した曲線を求め,色相については余弦関数で近似し,明度と彩度では2次関数で近似曲線を得た.この近似曲線を数値表現して作品の比較をすることで色分布状態による特徴を示すことができ,且つ,平均値を合わせた検討により詳細な特徴を見出すことができた.</p>
著者
高松 操 石上 桂子 乾 宏子 丸山 眞澄 市場 丈規 髙橋 晋也
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.102-105, 2017

25名の女性の頬を測色し,分光反射率曲線と物理測色値を得た.また,510-600nmの凹み面積をヘモグロビン(Hb)影響度として算出した.同時に,「色白さ」や「色み(赤み−黄み)」,「透明感」といった肌の印象を視感評価した.Hb影響度を含む測色値と視感評価の結果を比較した結果,肌の色特有の色の見えを確認した.明度が高い肌(L*>68)は,色相値やHb影響度に依らず「色み(赤み−黄み)」評価が中庸となり「色白」と評価された.明度が低い肌(L*<63)はHb影響度が高い場合が多く,色相は赤み寄りであったにも関わらず「色黒」で「黄み」と評価された.中明度の肌(63≦L*≦68)では,Hb影響度が高く赤み寄りの場合は「赤み」で「色白」に,Hb影響度が低く黄み寄りの場合は「黄み」で「色黒」と評価されやすかった.このように,「色白さ」は明度や白さだけでなく色相にも依存する一方,「色み(赤み−黄み)」の判断も色相だけでなく明度や白さに依存するという結果が示された.この結果から,肌の色を高明度・中明度でHb影響度が高い・中明度でHb影響度が低い・低明度の4タイプに分け,分光反射率曲線と肌印象視感評価プロフィールからその特徴をまとめた.
著者
菊池 麻実子 五十嵐 崇訓 佐藤 平行 藤村 努
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3+, pp.114-117, 2017-05-01 (Released:2017-10-07)

医療や化粧品分野においては,色素沈着や炎症等の状態評価が求められる.この評価では,メラニンやヘモグロビンを主とする皮膚内色素の定量化が不可欠である.色素の定量化法として,少数の波長における皮膚の分光吸収率を用いてメラニン・ヘモグロビン量にそれぞれ相関するインデックス値(“メラニンインデックス”,“紅斑インデックス”)を算出する手法がすでに提案され,本手法をベースとした機器が開発されるなど,広く利用されている.しかし,本手法には,メラニンインデックス値にデオキシヘモグロビンの吸収に由来する影響が含まれるなど,定量化精度における課題が指摘されてきた.本研究では,この課題を解決するため,メラニンとヘモグロビンの分離精度を向上した新たな算出式を考案した.また,色素状態の理解において,色素の空間分布を把握することが重要であるため,スペクトルカメラを用いて皮膚の分光データを空間分布として取得し,メラニンインデックスと紅斑インデックスの画像化を試みた.これにより,インデックス算出式について画像を用いた検証実験が可能となり,メラニン・紅斑インデックスの空間分布を精度よく可視化できる技術を確立した.
著者
大山 正
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.283-287, 2001-12-01
参考文献数
13
被引用文献数
9
著者
江良 智美
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, 2018

<p> スチームパンク(Steampunk)はSF小説,ファンタジー文学のサブジャンルの1つである.19世紀の産業革命やフランス・ロマン主義的な文化生活形態がオルタナティブワールドとして発展した世界を想像して描かれている.映像作品やアニメにおいても人気の高いモチーフで,スチームパンクの世界観を芸術作品やファッションにアレンジして表現する愛好者は世界的に多く,独自のファンコミュニティが形成されている.</p><p>本研究はスチームパンクのカラーデザイン研究の第一歩として文学作品の描写や挿絵からスチームパンクを象徴する色彩を検討した.また,作品舞台となったヴィクトリア朝時代のイギリス,20世紀初頭のフランスで実際に用いられた色彩を調査し分析した.色彩に関してはDICカラーガイド「フランスの色彩」を使用し,メインカラー2色,アクセントカラー6色を抽出した.更に,それらを用いカラーデザインを行い,女性向け衣装を制作し展示をした.</p>
著者
滝沢 正仁 石黒 陽平 木嶋 彰
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.187-197, 2016-11-01 (Released:2017-01-13)
参考文献数
16

人の肌,あるいはそれを表現する絵画において,透明感という質感表現は重要なテーマの一つである.メイクアップ化粧品における肌の透明感の演出方法には,赤色光を透過させる,青色光を反射させる,均一にする,光沢を付与するといったものがあるが,本研究ではそれらに付加する新たな透明感演出方法を確立する試みとして,肌の質感を表現するために用いられる絵画技法から見出された“ 複層構造であることを知覚させる演出効果” に着目し,その知覚メカニズムの分析,および評価法の開発を行った.その結果,画像の多重解像度解析によって分解された各帯域の標準偏差を比較した際に,特定の帯域で生じるギャップによって複層構造が知覚されること,ギャップの強度を示す指標値によって複層構造の知覚を評価できることを明らかにした.
著者
裵 湖珠
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.213, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
4

私たち人間は,五感で様々な情報を得ている.その中で最大の情報を得る感覚は視覚である.特に感情の表現では「色」は感情の言語的な表現を視覚情報として伝達する媒体でもある.日本は急速な経済発展のあと,人口の減少や経済の低成長化等によって,近年の社会では,既成世代から若者まで新しいものに対する挑戦や意欲が減退している.先行研究の目的は表現単語で日本語の「わくわく」を選び「わくわく」が持っているイメージを色で表現するときどのような色彩で表現されるのか,国別,地域別に差は現れるのかを調べ共通点と相違点を発見し,第4次産業であるAIや人間の感性をデータベースに活用する研究である.日本国内でアンケート調査を実施し,その調査では同じ12色の色鉛筆を提供してA4用紙を使用し,アンケートの質問項目には9つの質問や実際に画を描く方法を選択した.この結果では男女差が見え男性の場合,形が存在するモノ的な表現が多く,女性の場合は確実な形を持っているよりも,表現的なイメージや抽象的な形で表現し,色も同じような表現する傾向を表れる.色の傾向的には,男女共同に暖色系の色が寒色系の色よりも多くの割合で選択された事が分かった.
著者
野尻 健介
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.209, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
4

香りの特徴や人物の印象は主に言葉で表現されるが,言葉のみでそれらの特徴や印象を伝達・共有することは難しい.そこで,「言葉」だけではなく「色」も利用することで,香りの特徴を容易に共有できるのではないかと考えた.PCCS表色系の有彩色30色と無彩色6色,および金銀(色紙)の合計38色を配置した色票を作成した.実験協力者は評価対象(香り,人物)の特徴に合致する色を色票から2色選択すると同時に,選択した2色の香りの特徴に対する寄与率も評価した.次に,この寄与率の集計結果に応じた枚数の各色のパネルを与え,体系的に配置することで評価対象に特徴的な色のパターンを作成した.この評価手法をAroma Rainbow®と名付けた.Aroma Rainbow®により香水の香りや人物を評価したところ,評価対象に特徴的な色パターンが得られた.また得られた色パターンの類似度を比較することで,同様の色イメージを有する香りや人物を抽出することが可能となった.本手法を応用することで人物の印象に合致した香水を提案できる可能性が強く示唆される.
著者
槙,究
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, 1998-11-01

似合う色についての理論であるパーソナルカラーシステムについて, その妥当性を検討するために, 胸のところにさまざまな色の布地をあてて, 女子大生6名に印象評価してもらう実験を行った。その結果, 次のようなことがわかった。(1)似合う色の個人差が小さいこと(2)高明度・中彩度色や中明度・高彩度色は, 地味な印象を与える方が似合うと評定されること(3)暗い色は, それ自体では好まれないが, 似合いの評定では, それが改善されること(4)似合う色の個人差は, 髪の色との関連が大きいこと(5)人々をイエローベースの色が似合うグループ, ブルーベースの色が似合うグループに分離できないこと
著者
白須賀 優香 後河内 鉄 石井 通友 坂東 敏博
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6+, pp.72-75, 2017-11-01 (Released:2018-02-20)
参考文献数
7

赤チョークや青チョークの視認性の低さは以前から問題となっており,色覚異常者にとっては色の違いも認識できないという問題を抱えている.本研究では,色覚異常の生徒と健常である生徒が共に黒板のチョークを視認できる照明の開発を目的とする.また照明にバリアフリー性を持たせるだけでなく健常者である生徒にとっても今以上に視認性が向上し快適に板書を行うことができる分光分布を検討する.第一・第二色覚者が「赤と緑が区別しにくい」という一般則は,黒板にチョークで書く文字についてはあてはまらない.検査表や食肉で有用とされていた照明がチョークではあまり有用といえなかったことから特定の色に関して同じ波長が有用であるとは一概に言えないことが分かった.チョークに関しては,赤と青の区別をするという点について,赤チョークがマゼンタのような分光反射率を持っていたことから青チョークとの差別化には,赤チョークのピーク波長付近であり,人間の認識できる範囲の赤波長である600nmが有用ではないかという結論に至った.
著者
北嶋 秀子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, 2018

<p> 暈繝彩色は7 世紀に中国からわが国へ伝来した彩色技法である.主に仏教的なものに使用され,「鮮やかな多彩感」や「立体感」を表す.中国と日本の暈繝彩色は,同じ画材,同じ描法であるにも関わらず,違いが認められる.敦煌莫高窟に代表される中国の暈繝彩色は「立体感」を,それに対して日本の場合は,「鮮やかな多彩感」を重視した.その結果,日本の暈繝彩色は平面的で,その後装飾的なものになったと考えられる.</p><p> 本稿ではもともと立体感を表す彩色技法であった暈繝彩色が,なぜ日本では平面的で,後に装飾的になったのかを考察した.奈良時代までは立体感を帯びた暈繝彩色であったが,徐々に日本独自の暈繝彩色へと変容する.そこには当時の平面的な絵画(仏画)の影響があり,その変容の時期は,密教請来との関係が考えられる.</p><p> 8 世紀に立体的であった暈繝彩色は,9 世紀の過渡期を経て,10 世紀に平面的になった.そして11 世紀の平等院鳳凰堂では,平安貴族の耽美主義の影響により,装飾性を重視した暈繝彩色へ推移したと考えられる.日本の暈繝彩色で「鮮やかな多彩感」をどこよりも発揮しているのが,平等院鳳凰堂である.</p>
著者
大森,正子
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, 2002-06-01

本研究では、色彩刺激が、心理と生理に及ぼす効果について明らかにすることを目的とした。色相・明度・彩度と面積の違う合計60試料を作成し、光色刺激による、自律・中枢神経活動を評価するための指標として、心拍変動と脳波の測定行った。心理評価として、SD法による因子分析を行った。実験の結果、以下のような知見が得られた。・開眼状態であっても、α波含有量が後頭部位において顕著に喚起されていた。・小さい面積条件では、光色刺激のCuv^★が、高値になるほど、心理評価の「活動性因子」を高め、α波含有量を抑制することが示喚された。・大きい面積条件では、光色刺激のHuv°が、高値になると後頭部位において、α波含有量を喚起することが示喚された。・感情や情操に関わりのある、前頭部位において、純色、低彩度の光色刺激で、色相のG-P系で、α波成分に1/fゆらぎがみられた。副交感神経活動側に傾いていて、1/fゆらぎを示している光色刺激は、大きい面積条件では、純色赤(5R5/14)・青紫(5PB4/12)、小さい面積条件では、純色黄赤(5YR7/14)・高明度青(5B8/5)であった。生体が安静状態であり、快適に感じているということが、示喚される。・交感神経活動側に傾いていて、1/fゆらぎを示している光色刺激は、生体がよい意味で興奮状態であり、快適に感じているということが示喚された。
著者
大島 未有希 遠山 令子
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.389-393, 2013
参考文献数
7

人の肌の色を研究対象とする際には,ほとんどの場合,その色を色票に再現して検討材料としている.しかし入手が容易な色材を用いていわゆる肌の色の色票を作製したという報告はない.そこで汎用色材を用いての肌の色の色票を作製する場合に必要な原色の選定を試みた.その結果,原色には肌の色を再現する主要色としてモスグリーンとブリリアントピンクの2色,さらに色再現領域を広げる補助色としてライラック,コバルトターコイズ,カドミウムイエローおよびプライマリーホワイトの4色を選定した.それぞれの色には特定の役割があり,これらの6色を適切な比率で混色することにより,連続して肌の色を変化させることができるので,広範囲な肌の色の領域を再現できることが示唆された.
著者
安 愛三 中川 早苗 片山 陽次郎
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.104-112, 1989

本研究は, それぞれ独自の伝統服をもつ現代の韓国女性と日本女性の衣服嗜好色およびイメージについて調査を行い, その差異について検討を行ったものである。実験には, 53組の2色配色からなる Color Chart I と, 65色の単色からなる Color Chart II を用いた。被験者は韓国女性247名と日本女性248名で, 調査項目は洋服の嗜好色, 嗜好配色, 好きな洋服のイメージ, 好きな洋服の配色イメージである。結果は次の通りである。1) 洋服の嗜好色では両国女性ともに Black や White など現代色を好む者が多いが, 日本女性によりその傾向が強くみられた。嫌悪色では, 韓国女性は日本女性が好む Red を非常に嫌い, 日本女性は韓国の伝統色を非常に嫌うなど顕著な差異がみられた。