- 著者
-
國本 学史
- 出版者
- 一般社団法人 日本色彩学会
- 雑誌
- 日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.3+, pp.200, 2020-05-01 (Released:2021-09-06)
- 参考文献数
- 15
黄櫨染は令和のお代替わりに際して,天皇が身につける袍・束帯の色と見なされた.しかし,即位礼において天皇が黄櫨染袍・束帯を身に付けるのは,明治天皇以降である.孝明天皇の代までは,即位礼には冕服を天皇は着用していた.黄櫨染は,櫨を用いた染色とされる.位色がもたらされた中国の影響が大きいと考えられるが,中国の櫨と日本の櫨は文字が同じながら異なる植物と推測され,両国の櫨材染色を比較しても同色ではない.平安時代の『延喜式』の記録では,黄櫨と蘇芳の交染であるとされたが,これは中国皇帝の袍・衫の赭黄や赤黄の色に似せるためとも考えられる.中国の服色制度の受容に際して,黄櫨染以外は唐の常服の色を日本の礼服(後,束帯)に適用している.しかし,中国皇帝の常服の赭黄・赤黄の色は,日本の律令制度における「衣服令」の天皇の礼服位色としては適用されず,後代に規定されるようになる.天皇が神事等に着用する帛衣・斎服の「白」,「麹塵の青」,「赤白橡」,などの天皇位色も生じたが,黄櫨染のみ天皇に絶対的に限定されていた.そして黄櫨染は,近代の即位礼における天皇の服色として規定されることで,新たな意味性を付加されている.