著者
蔵前 勝彦
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.341-356, 1989-08-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
15
被引用文献数
7 7

本研究はアクリル樹脂注入法によってラットの各種糸状乳頭の微細血管構築の様相を観察し, 乳頭の分類に寄与した。ラットの糸状乳頭をKutuzov et al. (1951) は, simple conical papillae, giant conical papillae, true filiform papillaeの3型に分類した。本論文ではsimple conical papillaeはtype I, IIおよびdigitiform papillaeに分類し, 同様にgiant conical papillaeとtrue filiform papillaeの中間型として, forked filiform papillaeを分類して先人らの分類型に追加した。True filiform papillaeの毛細血管ループは最も単純なヘアピン形態をとっていた。Simple conical papillaeのtype I, type IIおよびdigitiform papillaeのそれぞれの毛細血管ループは基本的には類似していたが, Type IIのループは2または3本の上行脚を有し, 3種のうちもっとも複雑であった。Giant conical papillaeの毛細血管ループは3~5本の上行脚が乳頭の咽頭側面を上行し, 下行脚は舌尖側面を下行しており, 両脚はいずれも別々にループを形成していた。以上の観察結果から, ラットの各種糸状乳頭は乳頭内毛細血管構築の形態的差異によって6分類することができた。
著者
村上 守良 六反田 篤 伊東 励
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.169-176, 1979 (Released:2010-10-28)
参考文献数
15

彎曲徴について, 臨床上ならびに歯の解剖学上有効な指針を得るために, 下顎右側の中切歯, 側切歯および犬歯の歯冠長を12等分し, Contracerを用いて歯軸に直交する各断面の輪郭と切縁観輪郭における彎曲徴を角度的に観察した。次のような結果が得られた。1.切縁観輪郭では, 下顎中切歯および下顎側切歯には彎曲徴は認められない。下顎犬歯は明らかに彎曲徴が認められる。2.歯冠各部の輪郭では, 下顎中切歯で切縁側1/4の領域に, 下顎側切歯で切縁側2/3の領域に, 下顎犬歯で尖頭より3/4の領域にそれぞれ明らかに彎曲徴が認められる。3.下顎中切歯において切縁側1/4の領域で明らかに彎曲徴が存在することは他の要素と合わせて左右側鑑別の一助となし得る。
著者
尾之上 さくら 橋本 修一 今井 敏夫 丹羽 源男
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.570-585, 1999-12-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
41
被引用文献数
2

アルカリ性ホスファターゼ (ALP) は, 細胞表面のグリコシルホスファチジルイノシトール (GPI) アンカー型タンパク質の一つであり, 骨芽細胞の石灰化と密接に関わっている。本研究では骨芽細胞様細胞株MC3 T3-E1のALP活性量におよぼす培養環境の影響を明らかにするため, この細胞をさまざまな播種密度と継代頻度で培養した。MC3T3-E1細胞を6, 500cells/cmcm2の播種密度で週1回継代培養すると, 130日以上たってもこの細胞 (W1/HD) は高いALP活性と石灰化能を保持していた。しかし1, 300cells/cmcm2の播種密度で, 週2回継代培養すると, この細胞 (W2/LD, W2/HD-LD) は培養50日以内にもとの細胞のもつALP活性と石灰化能のいずれも90%以上を失ってしまっていた。これら形質変化した細胞を130日間培養すると, ALP活性とコンフルエント時の敷石状形態を失ったW2/LDやW2/HD-LD細胞の細胞集団倍加時間とタンパク質生成能はいずれもW1/HD細胞の場合に比べてそれぞれ有意に短くまた低くなった。一方, W2/LDとW2/HD-LD細胞ではもう一つのGPI-アンカー型タンパク質である5'-ヌクレオチダーゼの活性もALP活性の場合と同様にW1/HD細胞の酵素活性の1/10以下にまで減少していた。しかしW2/LDやW2/HD-LD細胞の酸性ホスファターゼとβ-グルクロニダーゼ活性はW1/HD細胞に比べ逆に有意に増加していた。培養環境により誘導されるこれら細胞の形質変化は, 培養した培地中の生物学的因子や電離放射線の照射に起因するものではなかった。これらの結果から, MC3T3-E1細胞は高頻度・低密度の播種による継代培養を行うと, MC3T3-E1細胞の骨芽細胞様の特性からGPI-アンカー型酵素活性と石灰化能が特異的に失われることが示唆された。
著者
原田 吉通 冨野 真悟 小川 和久 和田 忠子 森 進一郎 小林 繁 清水 徹治 久保 博英
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.13-18, 1989-02-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
16
被引用文献数
1

昭和53年から昭和61年までの9年間に放射線学実習で撮影された平均年齢24.3歳の男女1,353人の全顎デンタルX線写真のうち小臼歯部を目的としたものと大臼歯部を目的としたもの及びパノラマX線写真を使用し, 下顎第一大臼歯の3根の出現頻度について調査した。結果は次の通りである。1. 3根は右側歯数1,163本中240本 (20.6%), 左側歯数1,168本中200本 (17.1%) であった。2. デンタルX線写真による歯根数の確認は, 小臼歯部目的の写真のみで3根の確認できたもの274本 (11.8%), 小臼歯部ならびに大臼歯部目的の写真のいずれでも確認できたもの124本 (5.3%), 大臼歯部目的の写真のみで確認できたもの42本 (1.8%) であった。3. パノラマX線写真で3根の確認できたものは, 440本中70本 (15.9%) であった。4. 左右両側に第一大臼歯の存在している人1,070人のうち, 両側共3根の人は136人 (12.7%), 片側のみ3根の人は127人 (11.9%) であった。
著者
内田 憲二 宮本 武典 佐藤 俊英
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.56-66, 2000-02-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
21

無麻酔・無拘束下のウサギのリズミカルな咀嚼運動に対する嚥下の影響を調べた。咀嚼時と嚥下時に下顎運動軌跡と咬筋, 顎二腹筋, 甲状舌骨筋の筋電図を記録した。固形飼料の咀嚼運動中の嚥下の影響は5つのタイプに分類される。 (1) 嚥下が下顎運動の開口相に影響し休止期を示すもの (OPタイプ), (2) 閉口相に影響し休止期を示すもの (CLタイプ), (3) 閉口相と開口相の両方に影響し休止期を示すもの (CL/OPタイプ), (4) 閉口と開口の両相に対して影響しないもの (Non-influタイプ), (5) 不十分な閉口相を引き起こし, 長い休止期の後に開口相に移行させるもの (Pタイプ)。観察された嚥下の52%がOPタイプ, 26%がCLタイプ, 12%がCL/OPタイプで10%が他のタイプであった。CLタイプとCL/OPタイプでの閉口相の変調は, 固形飼料の咀嚼中歯根膜からの入力による咬筋活動の抑制に関与し, OPタイプとCL/OPタイプでの開口相の変調は, 咽頭性入力による顎二腹筋活動の抑制に関与すると結論できる。
著者
高田 靖司 酒井 英一 植松 康 立石 隆
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.203-209, 2002-06-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

齢推定した野生ハツカネズミの晒骨頭蓋 (n=443; 月齢0.6-16.2) を観察し, 大臼歯歯冠の咬耗速度や, 上・下顎骨の歯槽骨の吸収を調べた. これを野生ハツカネズミと同様の食物を与えて飼育したハツカネズミの晒骨頭蓋 (n=36: 月齢0.6-10.0) と比較した. 野生ハツカネズミでは, 寿命が短く, また飼育したネズミに比べて大臼歯の歯冠が急速に咬耗し, 歯槽骨の著しく吸収された歯周疾患がみられた. 野生集団では, 早くも生後3カ月で歯冠が著しく咬耗し, 歯槽の槽間中隔や根間中隔が吸収・消失したネズミが現れた. このことは, 野生集団で加齢が急速に進行したことを示している. 歯槽骨の吸収は歯冠の咬耗や齢と関連していた. 野生ハツカネズミでみられた, 歯冠の著しい咬耗や歯槽骨の吸収の原因や背景を考察した. その結果, これらの加齢変化に対して, 彼らの食物や摂食行動が強く影響したと推測した.
著者
堀尾 強 河村 洋二郎
出版者
歯科基礎医学会
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.524-532, 1988

姿勢の違いが咀嚼運動に及ぼす影響を明らかにするために, 被験者16名につき坐位および仰臥位の2つの異なった姿勢における咀嚼運動パターン, その運動パターンと食品のテクスチャーとの関係を調べた。姿勢を坐位から仰臥位へ変化させることにより咬筋筋電図の振幅が減少し, 最終嚥下までの咀嚼回数, 咀嚼時間が増加した。また, 姿勢変化による咀嚼回数, 咀嚼時間の増加の割合は食品の硬度による差はあまりなく, 食品の付着性, 粘着性の大きい食品では仰臥位における増加率が小さくなる傾向があることが明らかとなった。各食品のテクスチャーと咀嚼運動の関係については, 付着性, 粘着性というテクスチャーを有する比較的軟らかいガム, チーズの咀嚼時には咀嚼筋筋電図の振幅や放電持続時間および咀嚼回数, 咀嚼時間が増大し, 咀嚼運動は食品の硬度ばかりでなく, 付着性, 粘着性の影響も強く受けることが見いだされた。<BR>本実験から坐位と仰臥位における咀嚼パターンの相違に及ぼす影響は食品のテクスチャーによって異なることが示唆された。
著者
高橋 知敬
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.133-145, 1982-03-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
31
被引用文献数
3

姿勢の違いが咀嚼及び嚥下機能に及ぼす影響について明らかにするため, 被験者46名につき坐位及び仰臥位の2つの異った姿勢における咀嚼及び嚥下時の顎運動パターン, 食品粉砕能率, 口における物の大きさの弁別能をそれぞれ比較した。両姿勢問で咀嚼及び嚥下時の顎運動パターンは相違した。また, 食品粉砕能率は両姿勢問で相違がないにもかかわらず, 仰臥位では坐位に比べて嚥下するまでには咀嚼回数を増加させ, 食品をより細く粉砕して嚥下した。一方, 大きさ弁別実験では弁別能自体は姿勢の変化による影響を受けなかったが, 弁別に際し出現する基準板の大きさについての錯覚現象には変化が認められ, 仰臥位では坐位に比べてこの錯覚の程度が小さかった. このような姿勢の違いによる咀嚼系機能の変化の機序の1つとして・閉口筋中の感覚受容器の活動の姿勢の違いによる変化が関与していることが示唆された。
著者
岩見 憙道
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.188-198, 1980 (Released:2010-10-28)
参考文献数
42

口腔連鎖球菌の解糖反応の律速段階を明らかにするため, S. mutans PK1とS. sanguis NCTC10904株の休止菌のグルコース消費速度, 乳酸生成速度, 解糖中間体の菌体内濃度を測定した。これらの測定値から計算した質量作用比と平衡恒数を比較し, S. mutansではATP-グルコースホスホトランスフェラーゼ (AGPT), ピルベートキナーゼおよび乳酸脱水素酵素によって, S. sanguisではAGPTとピルベートキナーゼによって触媒される反応が律速段階であることが分かった。さらにこれら両菌で反応溶液のpHを変化したときの解糖中間体の菌体内濃度の変動から, 酸性pHで解糖速度が減少するのはAGPTにより触媒される反応の阻害のためであること, この阻害はS. mutmsよりもS. sanguisで強いこと, また, S. mutansでのフッ素添加による解糖速度の減少はAGPTとエノラーゼによって触媒される反応の阻害のためであることが考えられた。
著者
Ki-ichiro Tanaka Toshio Ono Nobuhiko Katsura
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.219-226, 1988-04-20 (Released:2010-06-11)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

ミドリシャミセンガイ殻よりヒドロオキシアパタイトに強く吸着するタンパク画分を単離した。これは分子量14万で, アスパラギン酸, グルタミン酸, グリシンに富む酸性タンパクである。またニンヒドリン陽性の末同定の酸性成分を含む。一方, γ-カルボキシグルタミン酸は含まない。このタンパクのアミノ酸組成はオステオネクチンやボーンモルフォジェネテックプロティン (bone morphogenetic protein) のアミノ酸組成に類似している。このタンパクはカルシウム親和性を有し, α-ヘリックス, β-構造をかなり含み, そのコンフォメーションはカルシウムイオン濃度を高めても, ほとんど変化しなかった。このタンパク画分は疎水結合, S-S結合によって会合した多量体タンパクである。
著者
葛城 啓彰 鈴木 安里 長曽 一成 岡村 勝文 斎藤 和子
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.57-64, 1996-02-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
22
被引用文献数
3 1

強酸性電解水の細胞毒性について, C3Hマウス皮下組織由来繊維芽細胞であるL929細胞を用い細胞毒性について検討した。細胞毒性は, 細胞生死判別法におけるトリパンブルー排拙試験に準じたFDA-PI二重染色法によるフローサイトメトリー法, コロニー形成法, MTTアッセイにより行った。FDA-PI二重染色法によるフローサイトメトリー法でLD50値は, 血清非存在下で25W/W%, 10%血清存在下で43W/W%であった。コロニー形成法によるLD50値は25W/W%, MTTアッセイによるLD50値は20W/W%であった。以上の結果より, 強酸性電解水は, 繊維芽細胞に対し, 細胞毒性を示し, この細胞毒性は, 5~20%血清存在下でも残存することが示された。これらの結果より, 強酸性電解水の生体応用に関しては, 外用に限定されることが望ましく, 十分な注意が必要である。
著者
石山 巳喜夫
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.1054-1071, 1984-12-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
35
被引用文献数
1

従来, 歯鯨類のエナメル質に関する組織学的研究は非常に少なく, 未知の部分がきわめて多い。今回著者は主に走査型電子顕微鏡を用い, 現生歯鯨類6科7種のエナメル質の組織学的構造について検索を行なった。マッコウクジラのエナメル質は歯の先端部のごくわずかの部位に局在し, 無小柱エナメル質である。ツチクジラのエナメル質は非常に菲薄な無小柱エナメル質で, 3-5μmの厚さしかなく, 哺乳類としては特に発達の程度が低い。一方, マダライルカ, マゴンドウおよびラプラタカワイルカはいずれも有小柱エナメル質を有し, そのprism patternは種類あるいはエナメル質の部位により変化に富んでいる。またスナメリのエナメル質はエナメル・ゾウゲ境付近においては小柱構造が明瞭であるが, 中層部において不明瞭となり表層に至る。イシイルカのエナメル質は無小柱, 有細管エナメル質で, 異状な低石灰化度を示す。すなわち歯鯨類のエナメル質は各科ごとに非常に多様な組織構造を呈している。また一般に大型種において発達が悪く, 小型種においてよい傾向にある。
著者
三代 幸彦 石見 隆夫
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.576-580, 1981-12-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
18

いくつかのアミノ酸が唾液内乳酸産生を抑制した。ヒト汚染全唾液にグルコースとアミノ酸を加えて好気静置下にインキュベートすると (グルコース100mg/100ml, アミノ酸10mM), アミノ酸無添加時にくらべ乳酸量が低下する場合がある。その低下率は次のようであった。(1) システイン, イソロイシン, ロイシンは, いずれもすべての被検者 (9名) において30~70%,(2) スレオニン, セリン, アルギニンはそれぞれ7名, 4名, 3名の被検者において20~60%,(3) トリプトファン, リジンは各2名, ヒスチジン, アラニン, グリシン, バリンは各1名において20~30%であった。なお, フェニルアラニン, アスパラギン, グルタミン酸, グルタミン, プロリンは, すべての被検者において低下を全く示さなかった。
著者
駒田 格知
出版者
Japanese Association for Oral Biology
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.541-550, 1986-10-20 (Released:2010-10-28)
参考文献数
16

サケ科魚類の口腔および咽頭には多数の歯が植立し, その分布状況は骨の形態や配置と共に属や種の重要な分類形質として認められている。一方, サケ科魚類数種においては成熟期に達すると口部の骨格系および歯系に著るしい性差が生ずると報告されている。しかし, その詳細については不明なことが多い。そこでサケ科サケ属サケ, Oncorhynchus keta, の産卵期成魚の口部骨格系および歯系に関してその大きさや歯胚率等について測定し雌雄間で比較した。サケ雄成魚の口部を構成する骨は同年齢・同体長の雌成魚に比べて大きく, それら骨上に植立する歯の長さも大きい。この傾向は口部両顎を構成する骨や歯においてより顕著であった。さらに, 雄成魚の顎骨上の歯の数は雌成魚より少ないが, 機能歯の割合は高く, 脱落歯の数も多い。このような性差は産卵・受精期における雄成魚の攻撃的行動等の生活習性と深く関連していると推測された。
著者
山口 隆幸 浅見 知市郎 小林 寛
出版者
歯科基礎医学会
雑誌
歯科基礎医学会雑誌 (ISSN:03850137)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.127-141, 2002
被引用文献数
17

草食性動物で偶蹄目のニホンカモシカとオオツノヒツジの舌と舌乳頭について, 光顕と走査電顕により観察し, 比較解剖学的に検討した.<BR>糸状乳頭の外形に関しては, 両種ともに太い1本の主突起と, 細長い数本の副突起からなる. 糸状乳頭の結合織芯は, ニホンカモシカでは円筒形の基部の周辺から細長い2次芯が馬蹄形に並び, オオツノヒツジでは多数の小突起が馬蹄形に並び, 後方の数本の基部が癒合している. 茸状乳頭の結合織芯は, 両種ともに1次芯が先端の丸まった円柱状で, ニホンカモシカでは側面に縦走するヒダがあり, オオツノヒツジでは側壁や上面は小さく尖った2次芯でおおわれる. 上面には両種共味蕾を入れる小陥凹が数個ある. 舌隆起部には大型円錐乳頭が分布し, 芯の基部は大きく, 表面は多数の小突起 (2次芯) でおおわれる.<BR>有郭乳頭の数は, ニホンカモシカでは約20個, オオツノヒツジでは両側に数個ずつある. 中央乳頭部の溝側上皮内に多数の味蕾をもち, 輪状溝の底に漿液腺の導管が多数開口する. 両種ともに葉状乳頭はない. 舌根部表面は平坦で, 上皮下によく発達した粘液腺が分布する.<BR>以上から, ニホンカモシカでは舌隆起部の大型円錐乳頭の結合織芯はウシに酷似するが, 糸状乳頭と茸状乳頭の結合織芯はイエウサギのものに似る. オオツノヒツジの糸状乳頭の結合織芯は, 同じ偶蹄目で草食性動物のなかにあって, ニホンカモシカとプロングホーンとの中間に位置する立体構造をもち, この構造はさらにシロイワヤギからシバヤギへと複雑化し, ウシの癒合型へと進化したことが推測される.