著者
榊原 均 石原 正仁 柳沢 善次
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.901-922, 1985
被引用文献数
11

1981年10月22~23日に台風8124号内の日本中部(~36&deg;N/140E)に大雨が起きた。この大雨を主にドップラーレーダーのデータを使って調べた。本研究の主な目的はそれが台風のらせん状降雨帯なのか,それとも他の型の降水系なのかを知ることである。<br>台風は長波の谷の南東部にあり,温帯低気圧に変りつつあった。この大雨は台風中心の北側にある幅の広い雲の帯の南東端で起きた。ドップラーレーダーで観測されたこの大雨の構造で最も顕著な特徴は南東側下層から北西側上層に傾いた強風軸である。これは傾いた中規模上昇流を意味する。傾いた上昇流の軸より下では対流規模の垂直運動が中規模上昇流の中に含まれていた。傾いた上昇流の軸より上では対流規模の垂直運動はほとんど存在しなかった。この大雨の南部では中層の空気が北西側から侵入した。この侵入した空気は降水粒子の蒸発により冷却し,中規模下降流を形成したと思われる。この大雨には顕著な地上収束線が伴っていたが,南部を除き大雨への効果は二次的なものであった。この大雨の構造は台風のらせん状降雨帯,眼の壁雲および中緯度スコールラインとそれぞれ少しずつ似ていた。しかしながら,この構造は温帯低気圧に変化しつつある台風の北側に発生する大雨に特徴的なものと考えられる。<br>大雨の中での降水粒子の生成と輸送の相対的重要性を調べるために,降水粒子の中規模水収支解析の結果とその解釈も示される。
著者
眞島 善雄 喜多村 一男
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.12, pp.400-404, 1940

Assuming that an upper air current obeys the law of gradient wind and the horizontal temperature gradient of each layer is uniform, the hodograph formed by the upper wind vectors must be nearly a straight line, because the lenght of the hodograph mainly relates to the temperature and the values of the horizontal temperature gradients, and closely to the acceleration of vertical circulation in the baroclinic field.<br>The area enclosed by the wind vectors and the hodograph relates also closely to the movement of the energy and acceleration of horizontal circulations of the air.<br>Under the idea above mentioned we investigated the hodograph of the upper air current and explatined its application.
著者
NGUYEN T. Hanh 石島 健太郎 菅原 敏 長谷部 文雄
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1149-1167, 2021

<p> インドネシアのビアクで行われたCoordinated Upper-Troposphere-to-Stratosphere Balloon Experiment in Biak (CUBE/Biak)観測キャンペーンの一環として行われたクライオジェニックサンプリング実験による大気サンプルから推定された平均大気年齢(mean age)の成層圏高度分布について、大気大循環モデルに基づく化学輸送モデル(Atmospheric general circulation model-based Chemistry Transport Model: ACTM)を用いたBoundary Impulse Evolving Response (BIER)法とラグランジュ後方流跡線解析の二つの方法を適用して検証した。ACTMは、大気大循環モデルをEuropean Centre for Medium-Range Weather Forecasts Reanalysis-Interim (ERA-Interim)にナッジングすることにより、1時間間隔の現実的な気象場を提供した。BIER法では陽に解像されない拡散混合過程を考慮することが可能であり、後方流跡線解析では空気塊が観測地点に到達するまでの経路を区別できる。ACTMによって再現された共通の輸送場に対して二つの方法を適用することは、CO<sub>2</sub>とSF<sub>6</sub>から推定された平均年齢を評価する上で有用である。計算に用いた輸送場の信頼性は、ラグランジュ法によって再現されたCO<sub>2</sub>、SF<sub>6</sub>、および水蒸気の鉛直分布を観測結果と比較することで評価した。二つの方法による平均年齢をCO<sub>2</sub> ageと比較すると、ラグランジュ法の結果が比較的良い再現性を示した。ラグランジュ法の平均年齢はやや小さくなるバイアスが見られたが、このことは流跡線計算を一定の有限時間で停止させているためであると考えられる。一方、BIER法の平均年齢は、高度25km以上においてCO<sub>2</sub> ageよりも大きくなっており、モデルの拡散の効果が大きい可能性が示唆された。これとは対照的に、SF<sub>6</sub> ageとの比較では成層圏下部のみで再現性が良いものの、SF<sub>6</sub> ageはラグランジュ法の平均年齢よりもかなり大きくなった。ラグランジュ法では中間圏起源の空気塊が含まれていないことや、観測された上層のSF<sub>6</sub>濃度が流跡線から再現された濃度よりもかなり低くなっていることから、観測された大気サンプルがSF<sub>6</sub>消失の影響を受けた中間圏大気との混合の影響を受けているために平均年齢が過大評価になっているという仮説を裏付けている。</p>
著者
山田 広幸 伊藤 耕介 坪木 和久 篠田 太郎 大東 忠保 山口 宗彦 中澤 哲夫 長浜 則夫 清水 健作
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1297-1327, 2021
被引用文献数
11

<p> 2017年台風第21号(ラン)対する上部対流圏の航空機観測を、新たに開発したドロップゾンデシステムを備えた民間ジェット機を用いて行った。これは、日本の研究グループがドロップゾンデを用いて非常に強い台風の内部コアを観測した初めての事例である。本論文では、目の暖気核構造と、それに関連するアイウォールの熱力学的および運動学的特徴について記述する。この台風は観測の2日間において、鉛直シアーが強まる環境で最大の強度を維持した。ドロップゾンデにより、この期間に対流圏中層と上層に温位偏差の極大をもつ二重暖気核構造が維持されたことが捉えられた。この2つの暖気核は相当温位が10 K以上異なり、起源が異なることが示唆された。飽和点分析により、上部暖気核の空気はアイウォールから流入したことが示唆された。鉛直シアーベクトルの左半円側におけるアイウォール上昇気流は、台風の中心側で相当温位が高く絶対角運動量が低い2層の構造を持っていた。飽和点とパーセル法の分析から、この中心側の上昇気流で相当温位が370Kを超える暖かい空気が目の境界層から流入し、最終的に上部暖気核に輸送されることが示唆された。これらの結果から、目の境界層を起源とする高い相当温位の空気の鉛直輸送が、鉛直シアーによる台風強度への負の影響に対抗して、上部対流圏の目の継続的な昇温に寄与するという仮説が導かれた。この研究は、相当温位の計算に必要な温度と湿度の測定が、ドロップゾンデのような消耗型の機器でしか行えない現状において、アイウォール貫通型の上部対流圏航空機観測が暖気核構造の監視に重要であることを示している。</p>
著者
Yuji KITAMURA Akihiro HORI Toshimasa YAGI
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.655-666, 2013 (Released:2013-11-29)
参考文献数
26
被引用文献数
5 9

Wind tunnel experiments and large-eddy simulations for stable stratification are performed to specify flux Richardson number Rf and turbulent Prandtl number Pr as a function of gradient Richardson number Ri. We attempted to avoid self-correlation by using independent samples for the variables commonly contained in these nondimensional numbers and confirmed the dependence of Rf and Pr on Ri for 10−3 < Ri < 5. We found that Rf could exceed unity in a stable boundary layer under a developing stage, while the assumption of local energy balance violates for Rf > 1, which corresponds to negative production of turbulent kinetic energy. Nevertheless, the analysis of the TKE budget shows that the third-order term in the prognostic equation of TKE, which plays a role in the TKE transfer, can contribute to increase TKE despite negative TKE production. Therefore, TKE cannot be determined locally and the effects of TKE transfer must be taken into account in the region satisfying Rf > 1.
著者
OHARA Ryota IWASAKI Toshiki YAMAZAKI Takeshi
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2021-065, (Released:2021-07-02)
被引用文献数
1

This paper presents a study of impacts of evaporative cooling from raindrops on precipitation over western Japan associated with the Baiu front during a heavy rainfall event from 5 to 8 July 2018. First, we conducted analyses on dynamic and thermodynamic features of the stationary Baiu front using the Japanese 55-year Reanalysis (JRA-55). During this period, great amounts of water vapor were transported continuously to the stationary Baiu front, supporting the record-breaking rainfall. The 299 K isentropic surface was identified as a frontal surface. Along the isentropic surface, warm moist air adiabatically ascended, became saturated at around an altitude of 500 m, and initiated active precipitation systems. We found that the diabatic cooling near the tip of the frontal surface played an important role in keeping the position of the frontal surface without its northward retreat. Next, numerical sensitivity experiments were conducted to examine impacts of evaporative cooling and the topography on the heavy rainfall formation by using a cloud-resolving non-hydrostatic numerical model (The Japan Meteorological Agency Non-hydrostatic Model: JMA-NHM) with a horizontal resolution of 3 km. A heavy precipitation area extending from the Chugoku region to central Kinki was simulated regardless of whether the terrain was flattened or not. The precipitation was formed mainly by updrafts above a frontal surface at a potential temperature of 300 K. This precipitation area shifted northward by more than 100 km when the raindrop evaporation was turned off. The raindrop evaporation suppressed the northward retreat of the frontal surface by maintaining cold airmass amounts below the frontal surface.
著者
HEIM Christoph HENTGEN Laureline BAN Nikolina SCHÄR Christoph
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2021-062, (Released:2021-06-25)
被引用文献数
8

We analyse a multi-model ensemble at convection-resolving resolution based on the DYAMOND models, and a resolution ensemble based on the limited area model COSMO over 40 days to study how tropical and subtropical marine low clouds are represented at kilometer-scale resolution. The analysed simulations produce low cloud fields that look in general realistic in comparison to satellite images. The evaluation of the radiative balance, however, reveals substantial inter-model differences and an underestimated low cloud cover in most models. Models that simulate increased low cloud cover are found to have a deeper marine boundary layer (MBL), stronger entrainment, and an enhanced latent heat flux. These findings demonstrate that some of the fundamental relations of the MBL are systematically represented by the model ensemble which implies that the relevant dynamical processes start to become resolved on the model grid at kilometer-scale resolution. A sensitivity experiment with the COSMO model suggests that differences in the strength of turbulent vertical mixing may contribute to the inter-model spread in cloud cover.
著者
阿波加 純 Minda LE Stacy BRODZIK 久保田 拓志 正木 岳志 V. CHANDRASEKAR 井口 俊夫
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1253-1270, 2021 (Released:2021-10-30)
参考文献数
31
被引用文献数
9

全球降水観測 (GPM) 計画主衛星搭載の二周波降水レーダ (DPR) は、2018年5月からKu帯とKa帯の双方でフルスキャン (FS) モードで運用されている。従来のアルゴリズムでは観測幅約125 kmの内側走査領域でのみ二周波処理していたが、FSモードにより、初めて観測幅約245 kmの全走査領域で二周波処理することが可能となった。本論文では、FSモードに対応するよう新たに開発したDPR レベル2のバージョンV06X実験アルゴリズムに含まれる降水タイプ分類 (CSF) モジュールについて述べる。CSFモジュールは、降水を層状性、対流性、その他の3つの種類に分類し、ブライトバンド (BB) 情報を提供する。 Ka帯Matched Scan (Ka-MS) モードとKa帯高感度 (Ka-HS) モードでレーダの感度が異なるため、1ヶ月間の統計では、内側走査領域と外側走査領域においてKa帯のみで一周波処理した各降水タイプの個数に大きな段差が見られた。しかし、二周波処理では、内側走査領域だけでなく外側走査領域でも降水タイプを適切に分類していることがわかった。BB数の統計では、二周波処理を行った場合、特に外側走査領域でBB検出率が大きく向上していることがわかった。 さらに、V06XではKu帯のCSFモジュールに関連する2つの問題、(a) スロープ法で再分類した層状性の降水において非常に大きな地表面降水強度が出現する場合があること、および、(b) BBピークを地表面エコーの上部であると稀に誤判定すること、を解決している。 V06Xでは、GPM DPRアルゴリズムのデータ構造が大幅に変更された。V06Xで導入された新しいデータ構造は、V07A以降にも採用される予定である。この意味で、本稿で概説するV06XのCSFモジュールは、将来の降水タイプ分類アルゴリズムの原型の役割を果たすことになる。
著者
広瀬 正史 重 尚一 久保田 拓志 古澤 文江 民田 晴也 増永 浩彦
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1231-1252, 2021 (Released:2021-10-29)
参考文献数
58
被引用文献数
6

全球降水観測(GPM)計画主衛星搭載二周波降水レーダ(GPM DPR)による降水の統計は入射角に依存した系統的なバイアスによって過小評価となっている。5年間のGPM DPR Ku帯降水レーダ(KuPR)Version 06Aデータによる降水量は、衛星の直下付近における統計に比べて陸では7%、海では2%少ない。本研究では、直下付近の観測データを参照して、低高度降水強度鉛直分布(LPP)と浅い降水の見逃し(SPD)の影響を推定した。 はじめに、降水の構造的な特徴や環境変数で分類した直下付近のデータベースを用いてLPPを更新した。高標高域や中高緯度等、高度2km以下で下方増加傾向の降水プロファイルが卓越する場所では、LPP補正によって降水量が増加しており、全球平均降水量は5%増加した。続いて、降水頂2.5km以下の降水データの検出数に見られる入射角間の差異をもとに、SPDによる全降水量への寄与を推定した。SPDに関する影響はLPP補正の結果と同程度であった。本研究では、地表面クラッターの干渉しない最低高度と空間的に平均した浅い降水の割合に対するSPD補正のルックアップテーブルを作成し、3か月間の0.1度格子の統計にSPD補正を適用した。SPD補正の結果、浅い降水が卓越する亜熱帯の少雨域や高緯度の降水量が50%ほど増加した。これらの2つの補正により、陸の降水は8%、海の降水は11%増加することが分かった。北緯60度から南緯60度におけるKuPRの降水平均値を他のデータと比較すると、補正によって衛星・雨量計合成データとの差異は−17%から−9%へ、陸の雨量計のみのデータとの差異は−19%から−15%へと縮小した。
著者
SI Dong DING Yihui JIANG Dabang
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2021-058, (Released:2021-06-04)
被引用文献数
6

An unprecedented cold wave swept through most parts of East Asia in January 2016, leading to record–breaking low temperatures and widespread snowstorms in many regions. Our analysis indicated that this East Asian cold wave was triggered by a series of consecutive extreme events in the Northern Hemisphere from late 2015 to early 2016. (1) On 28 December 2015, a severe cyclonic storm emerged in the North Atlantic, and a downstream blocking high formed in Europe through the downstream development process. The strong southerly jet stream between the storm and its downstream–blocking high steered the storm into the Arctic Circle, transported enormous warm and moist air masses, establishing warm conveyor belts, which led to an extraordinary Arctic warming event in late 2015; (2) This Arctic warming event in late 2015 resulted in a distinct Arctic dipole pattern resembling the negative phase of the Arctic Oscillation in early–mid-January 2016; and (3) The dipole pattern induced eastward propagation of the Rossby wave and led to the occupation of two downstream blocking highs in Urals and western North America. These two blocking highs, together with the low pressure between them, resulted in an inverted omega–shaped circulation pattern (IOCP) over the Siberia–North Pacific region. In addition, the IOCP distinctly modulated the meridional circulation cell along the East Asia–Siberia regions, which generated negative vorticity and anticyclonic advection to the Siberian region, ultimately intensifying the Siberian high. The IOCP and the associated enhanced Siberian high eventually induced the outbreak of a mega-cold wave in East Asia in January 21-25 2016.
著者
村松 照男
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.77-90, 1983
被引用文献数
51

成熟した台風における眼の直径及び絹雲の天蓋(cirrus canopy)の日変化が, GMSの画像上で観測された。台風とともに動く矩形の中に占めるTBB(等価黒体温度)の量の変化をTBB≦-70&deg;C,-7&deg;<TBB≦-50&deg;C,-50&deg;<TBB≦-30&deg;C,-30&deg;<TBB-0&deg;Cの各しきい値で定量的に求めた。TBBが-70&deg;C以下の領域では地方時の6~7時半に極大があらわれ,18~21時に極少となった。極大の起る時刻は-50&deg;TBB≦-30&deg;Cの領域で16~18時,-30&deg;TBB≦0&deg;Cの領域では21時以後となり,TBBのしきい値の上昇とともに遅れている。衛星で観測された眼径は朝の鋭い極少,午後のなだらかな極大を示し,TBB≦-70&deg;C領域の変化と逆位相であった。対流の日変化における早朝の極大に帰因する絹雲の吹き出しによる,拡大と見かけ上の昇温のためTBBの分布にも日変化が現れ,眼径の変化となったことが解析された。<br>また,台風が島を通過する際,cirrus canopyは減少し,また,海洋性の極大に加え,午後の極大があらわれ,二重極大の現象が解析された。
著者
和達 清夫
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.5, no.6, pp.119-145, 1927-06-20 (Released:2009-02-05)
参考文献数
13
被引用文献数
6 10

地震の震源の深さに就いては從來種々の結果が得られて居るが、近來近地地震觀測の精密さに依り震源の深さは殆んど總ての地震に就き四十粁内外が最も普通となされて居る。我が國に起る多くの地震に就きても、多くの研究は悉くこの程度の淺き震源の深さを與へて居る。而るに著者は或種の地震を研究したる結果、其れ等が三百粁以上の深き震源を有すべき結論に達し、假りに之を深層地震と呼ぶ事にした。此の結論が正しければ、從來の地震源捜索法に改良を要し、又過去の地震表の訂正を要することゝなる。依うて本論文に於て其の決論の達したる研究を述べて學會の批判を仰がんと欲す。多くの集蒐されたる深層地震中特に大正十五年七月廿七日の地震は、本州中央部の地下約三百五十粁の深さに發現したる代表的の深層地震なりと考へらるゝを以て、其の記象型及び震波の走時に關し詳細の調査がなされて居る。本論文に於ては右研究の結果として、地震源の深さ及び地殼上層に於ける震波の傳播速度が求められた。かゝる深層地震の存在は近地地震の觀測に依り地殼上層の物理的状況の研究をなすのに極めて好都合の材料を與ふるものである。近年の觀測に於て確に深層地震であると決定されるものを求め其等の分布から深層地震帶なるものが求められた。この深層地震帶は從來の地震帶と略直角に交叉し從來のものと別にある新しい意味を持つ地震帯であり、其の地震帶附近に於て近來の大地震が發現して居るのも興昧ある事である。此の地震帶に就いても大體の調査がなされて居るが、淺き大地震と深層地震との間に何等かの關係が認められさうである。此の問題は大地震の警戒に關し實際的に興味ある問題を與へるものと思はれる。
著者
菅田 誠治
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.259-277, 2000
被引用文献数
2

様々な時間スケールを持つ大気運動の結果としての長期的全球トレーサー輸送を論じるのに用いることのできる解析法を時間閾値解析法として提起する。この手法は、数値的トレーサー実験において多数の粒子軌跡を解析するのに役立つ。ある解析面を通過する全てのパーセルの運動を考えて、通過から通過までの周期に着目する。与えられた時間閾値よりも長い周期を持つ通過だけを選択する。選択された通過を集積することにより、その閾値よりも長い時間スケールでの輸送に寄与するような、粒子の有効なフラックスを求めることができる。この方法により、大気中のミキシングリージョン間の境界を近似的に検出することができ、また、大気運動のラグランジュ的性質の時間変化を調べることができる。<br>この手法の有効性を確かめるために、大気大循環モデルで得られた北半球冬の対流圏から下部成層圏に位置する多数の粒子の軌跡を調べ、いくつかの時間閾値に対して、各等緯度面を通過する有効な南北質量フラックスを求めた。二日より長い閾値を用いて求めた上部対流圏での有効な南北フラックスの緯度分布において、両中緯度は極小を示す。このことは二日より長い時間スケールの南北輸送が、上部対流圏の中緯度で妨げられていることを示している。これらの時間スケールに対して、有効な正味の南北フラックスから求めた東西平均子午面循環の流れ関数は、対流圏内で半球1セルの構造を示す。
著者
遠藤 辰雄 岩渕 武士 孫野 長治
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.389-400, 1972
被引用文献数
4

1968年,旭川にて冬霧の中での地上電位傾度の観測を行った.汚染された空気と水霧が来ると電位傾度が晴天値の数倍になった.この増加は主に大気の電気伝導度の減少によるものと説明された.<br>また,この水霧が氷化する際に,すでに正に高まった電位傾度が減少し晴天値から更に負電場にまで達するのがみられた.この減少のメカニズムとして,まつ氷晶が選択的に負電荷を帯びることによるためと更に氷晶の成長によりエーロゾル粒子が除かれるため(Facy効果)大気の電気伝導度が水霧時より増加するためと考えた.<br>たまたま観測された降雪に際し,降雪が止み雲がなくなると電位傾度が急に正の高い値へ増加するのがみられた.これは負に帯電した雪が重力的に降下し分離して残った正の空間電荷が雲の切れ間では自由になり下降流により地上へ運び込まれることによるものと説明した.
著者
関山 剛 梶野 瑞王
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.1089-1098, 2021 (Released:2021-08-27)
参考文献数
36
被引用文献数
3

本研究では2種類の水平解像度(3kmおよび250m)を使って、2011年福島原子力事故下の汚染源近傍(距離3.2kmおよび17.5km)沿岸の2観測地点での移流拡散場再現におけるオイラーモデルの性能を検証した。250m格子シミュレーションはこの検証のために新たに実施され、複雑地形上における詳細な風速場と濃度場の再現に成功した。3km格子モデルは福島第一原子力発電所付近の風とプルームの詳細な再現には失敗したが、見逃し率が低いために時折250m格子モデルよりも高い性能を示すことがあった。これは3km格子モデルの数値拡散が大きいことが原因である。オイラー移流拡散モデルの欠点は発生源近くでの人工的な数値拡散だと考えられている。この人工的な数値拡散は空振り率を増加させる代わりに見逃し率を減少させる。この特徴は環境緊急対応(EER)システムにはむしろ好都合となる。その上で、250m格子モデルの結果はプルーム拡大処理(マックスプーリング)によって確実に改善させることができた。この処理はプルームの幅を拡大させることにより、短時間のラグやプルームの小さな位置ずれを目立たなくした。プルーム拡大処理は統計スコアを改善させることで高解像度モデルに有益であり、EERシステムに役立つものである。
著者
小松 謙介 飯島 慈裕 金子 有紀 Dambaravjaa OYUNBAATAR
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.1003-1022, 2021 (Released:2021-08-28)
参考文献数
44
被引用文献数
1

本稿では,複雑な地形の一方で気象観測網が疎であるモンゴルにおいて,Global Satellite Mapping of Precipitation (GSMaP) によって作成された夏季降水量の推定値の不確実性に注目した。まず、モンゴルの気候・水文気象評価に関連して、全球降水観測ミッション(GPM)の観測情報を含む様々な降水量モニタリングプロダクトの特性の違いを検討するため、複数の降水プロダクトで報告されているモンゴル領域内の夏季平均降水量を比較した。プロダクトの経年変動は同程度だったが、記録された降水量は各プロダクトで異なっていた。雨量計補正が施されたプロダクトでは降水量が最も少なく、衛星のみのGSMaP_MVKでは降水量が最も多くなった。続いて、2016年7月にGPM主衛星がとらえたウランバートル近郊での強雨イベント事例を用いて、降水プロダクトの詳細な比較を行った。この事例では、山間部での雨量計補正が施されたGSMaP_Gaugeと雨量計補正が施されていないGSMaP_MVK の推定値が、アルゴリズムのバージョン6と7で大きく異なった。領域気象モデル(WRF)による数値実験、GPM主衛星の観測、地上雨量計の観測との相互比較によって、GSMaP_Gaugeは、GSMaP_MVKの有する大きな誤差を効果的に緩和することが示された。GSMaP_MVK の大きな誤差の原因は、アルゴリズムのバージョン7の雨量推定にあると考えられた。しかし、GSMaP_Gauge による山岳上での降水量の推定値は、地上降水観測網が存在しない局所的な降水量データの欠落により、降水量補正が持つ潜在的な過小評価の影響を受けている可能性がある。これらの知見は,GSMaPアルゴリズムのさらなる改良に参考になるとことが期待される。
著者
Fang-Ching CHIEN Yen-Chao CHIU Chih-Hua TSOU
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.913-931, 2021 (Released:2021-08-27)
参考文献数
33
被引用文献数
3

This paper examined southwesterly flows and rainfall around the Taiwan area during the mei-yu seasons from 1979 to 2018. The occurrence percentage of the southwesterly flow events in southern Taiwan was highly correlated with 6-h accumulated rainfall and heavy precipitation in Taiwan, and those in northern Taiwan showed little correlation. Low pressure to the north of Taiwan and high pressure to the south exerted a large northward pressure gradient force across the Taiwan area, favoring the formation of southwesterly flows and rainfall in southern Taiwan. During an active year of southwesterly flow events, the Pacific high weakened and moisture was transported along two paths in the early mei-yu season: one from the Bay of Bengal and the other from the south of the Pacific high. The moisture-laden air resulted in a high equivalent potential temperature near Taiwan, which, in turn, created a large equivalent potential temperature gradient to the north of Taiwan. This setting favored the activity of mei-yu fronts and produced a low-pressure environment. The pressure gradient thus increased, supporting the formation of southwesterly flows. The southwesterly flows then helped in transporting more moisture toward the Taiwan area, resulting in heavy rainfall as well as a further increase of equivalent potential temperature. This kind of positive feedback produces more fronts, stronger southwesterly flows, and heavier rainfall during the mei-yu season. The study also suggests that the meridional component of the vertically integrated water vapor transport over the South China Sea and the Philippines in the early mei-yu season can be used to predict the occurrence of southwesterly flows and heavy rain for the entire mei-yu season.