著者
阿波加 純 Minda LE Stacy BRODZIK 久保田 拓志 正木 岳志 V. CHANDRASEKAR 井口 俊夫
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1253-1270, 2021 (Released:2021-10-30)
参考文献数
31
被引用文献数
9

全球降水観測 (GPM) 計画主衛星搭載の二周波降水レーダ (DPR) は、2018年5月からKu帯とKa帯の双方でフルスキャン (FS) モードで運用されている。従来のアルゴリズムでは観測幅約125 kmの内側走査領域でのみ二周波処理していたが、FSモードにより、初めて観測幅約245 kmの全走査領域で二周波処理することが可能となった。本論文では、FSモードに対応するよう新たに開発したDPR レベル2のバージョンV06X実験アルゴリズムに含まれる降水タイプ分類 (CSF) モジュールについて述べる。CSFモジュールは、降水を層状性、対流性、その他の3つの種類に分類し、ブライトバンド (BB) 情報を提供する。 Ka帯Matched Scan (Ka-MS) モードとKa帯高感度 (Ka-HS) モードでレーダの感度が異なるため、1ヶ月間の統計では、内側走査領域と外側走査領域においてKa帯のみで一周波処理した各降水タイプの個数に大きな段差が見られた。しかし、二周波処理では、内側走査領域だけでなく外側走査領域でも降水タイプを適切に分類していることがわかった。BB数の統計では、二周波処理を行った場合、特に外側走査領域でBB検出率が大きく向上していることがわかった。 さらに、V06XではKu帯のCSFモジュールに関連する2つの問題、(a) スロープ法で再分類した層状性の降水において非常に大きな地表面降水強度が出現する場合があること、および、(b) BBピークを地表面エコーの上部であると稀に誤判定すること、を解決している。 V06Xでは、GPM DPRアルゴリズムのデータ構造が大幅に変更された。V06Xで導入された新しいデータ構造は、V07A以降にも採用される予定である。この意味で、本稿で概説するV06XのCSFモジュールは、将来の降水タイプ分類アルゴリズムの原型の役割を果たすことになる。
著者
瀬戸 心太 井口 俊夫 Robert MENEGHINI 阿波加 純 久保田 拓志 正木 岳志 高橋 暢宏
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.205-237, 2021 (Released:2021-04-19)
参考文献数
50
被引用文献数
51

全球降水観測(GPM)計画主衛星搭載二周波降水レーダ(DPR)の降水強度推定アルゴリズムを開発した。DPRは、Ku帯レーダ(KuPR; 13.6GHz)およびKa帯レーダ(KaPR; 35.5GHz)から構成される。KuPRアルゴリズムは、熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の降雨レーダ(PR)のアルゴリズムと同様であるが、降水強度Rと質量重み付き平均粒径Dmの関係(R-Dm関係)を、減衰係数kと有効レーダ反射因子Zeの関係(k-Ze関係)の代わりに使用している。R-Dm関係は、KaPRアルゴリズムおよび二周波アルゴリズムにも使用できる。一周波アルゴリズムおよび二周波アルゴリズムともに、R-Dm関係の修正係数εに暫定値を仮定した前進法によりプロファイルを推定し、その結果を評価して最適なεを選択する。二周波アルゴリズムの利点は、εの決定のために二周波表面参照法およびZfKa法(KaPRの減衰補正反射強度Zfを用いる手法)を用いること、およびKuPRまたはKaPRの観測を選択的に利用できることである。また本論文では、R-Dm関係と散乱テーブルの導出およびビーム内非一様性補正手法を詳細に説明している。さらに、アルゴリズムの出力結果を統計的に解析し、各アルゴリズムの特性を示している。
著者
瀬戸 心太 下妻 達也 久保田 拓志 井口 俊夫
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

二周波降水レーダ(DPR)を搭載した全球降水観測計画(GPM)主衛星は、2014年2月28日にH2Aロケットにより打ち上げられ、3月よりDPRの運用が開始された。DPRは、TRMM(熱帯降雨観測衛星)搭載のPR(降雨レーダ;周波数13.8GHz)の後継と位置づけられるKuPR(周波数13.6GHz)と、弱い雨や固体降水の観測に適した設計のKaPR(周波数35.5GHz)から構成されている。図-1に示すように、一部のピクセル(紫色)では、KuPRとKaPRによる二周波同時観測が可能であり、降水推定精度が高くなると期待されている。DPRに適用する降水推定アルゴリズムは、日米共同チームで数年前から開発が進められてきた。打ち上げまでは、PRから作成した模擬観測データを用いて、アルゴリズムの検証と改良を行った。運用開始以降、実際の観測データにより、プロダクトの検証とアルゴリズムの調整を行っている。標準プロダクトは、打ち上げ半年後の9月頃から一般公開される予定である。本発表では、レベル2プロダクトの概要と初期評価結果を紹介する。
著者
井口 俊夫
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大学宇宙航空研究所報告 (ISSN:05638100)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.1001-1018, 1978-08

成層圏中の微量成分を観測する目的で,気球搭載用質量分析装置を製作した.装置はそれ以前の物に比べ,分析器部分を磁場偏向型の物から四重極型の物にかえるなど,改良がなされた.この装置を用いて1977年8月30日に気球観測を行った.得られたデータを検討した結果,観測装置に問題があるように思われた.それを明らかにするために室内実験を行った.その結果,イオン・ポンプからのガスの再放出,イオン・ソースでの反応,イオン化に伴う二次生成物の影響など問題が多く,成層圏中の大気組成を正確には測っていないことが明らかになった.これら気球実験および室内実験を通して明らかになった装置の問題点と今後の展望について述べる.