著者
金城 達也 寺林 暁良
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.469-489, 2012-12-26

本稿は徳之島における生業活動の組み合わせとその変遷を整理し,そのな かでのソテツの位置づけを明らかにすることを目的とした。 歴史的に見た場合,徳之島の生業は稲作を主体に成り立っていた。同時に サトウキビの生産も重要な位置にあり続けた。また,イモや野菜類は自家用 の作物として栽培され,食糧が十分に手に入らない時代には主食のひとつと して重宝されていた。しかしながら現在においては水稲作付は自家用を除い てほとんど営まれなくなった。 そのような状況のなか,徳之島ではソテツの広がる景観が残されてきた。 畑地などの空間にソテツが配置されてきた意味も,こうした生業複合のなか で位置づけられる。同時に,徳之島におけるソテツの意義は現在の利用のな かでも位置づけなおすことができる。 その結果,徳之島の人々が歴史的に複合的に生業を組み合わせることで生 活をなりたたせてきたことが明らかになった。そのうえで,現在の徳之島に おけるソテツ景観が人々の多様な生業活動の結果として形成されてきたこと を指摘し,二次的生業(Second major subsistence)としてのソテツの可能性 について議論した。
著者
松宮 新吾
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.139-158, 2009-09

新学習指導要領により、小学校高学年における外国語(英語)が必修化され、週1コマ年間35時間の「英語活動」が5、6年生で実施される。 他方、中等教育機関では、教育特区等により早期英語教育を経験した学習者と未学習者とが混在した状況で英語教育が行われている。 本研究では、この移行期という特異な機会を捉え、早期英語学習者と未学習者との比較調査を行い、早期英語教育が学習者に及ぼす影響や効果を検証し、2011年から全面実施される小学校英語活動の教育効果について論じる。 学習者要因に係わる因子を分析した結果、早期英語学習者は、英語学習や異文化に対する好感的態度、統合的な目的意識等においてプラスの有意差を示した。 一方、言語スキルに係わる比較分析では二群間の統計的な有意差が確認できなかった。 これらの結果から、現行の「音声に慣れ親しむ」英語活動から、「文字認識」を含めた統合型英語活動についての提言を行う。
著者
村松 哲夫
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.11-28, 2011-12-26

東日本大震災のような大規模な災害が発生した場合,復旧・復興に向けた中長期的支援と同時並行的に短期的支援,すなわち,生活必需品,医療資源を可及的速やかに被災地に送らなければならない。実際,政府は自衛隊に災害派遣命令を出して,行方不明者の捜索に当たらせると共に,現地に物資を 運ばせた。一方,民間企業も独自に物資を被災地に送った。しかし,結果として,被災民に物資が十分に届いたとは言えなかった。これで特に困るのは慢性疾患患者である。日常的に服用している薬が入手できず,服用が途絶すれば,疾患の悪化は時間の問題である。 被災地域以外では,物資が十分にあり,生産余力も十分にあるのにもかかわらず,被災地に物資が届かないのは,官民共同のロジスティクスが構築できないからである。 このようなときは,政府が率先して民間に頭を下げて協力を要請すべきである。そして,それにかかる費用は政府が責任を持って支弁し,後に国民は相応の負担を甘受すべきである。その上で,官民共同のロジスティクスを早急に構築し,被災者に大量の物資を供給すべきである。そうすれば,生活必需品,医薬品も送れる。これによって,一般被災者だけではなく,慢性疾患患者も安できる。特に後者は必要な薬を入手,服用でき,それによって,疾患の悪化をある程度抑えられる。これは,中長期的に見ると,医療費の抑制に繫がり,そこで節減できた医療費を復興財源の一部にも充てられる。 今回のような轍を踏まないために,政府,地方自治体,企業,国民は,災害への備えを怠るべきではない。
著者
ファルトゥシナヤ エカテリーナ
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.49-67, 2010-12-24

外国文学と比較した際に顕著となる日本文学の特徴として、エッセーというジャンルが盛んであることと、早い段階に女性作家が登場し、今日まで一定の地位を保ち続けていることが挙げられる。本論文では、日本の女性作家のエッセーにおけるモノの描写に着目し、モノの描写がとりわけ顕著に見られるふたりの女性作家、幸田文と向田邦子を取り上げる。ふたりの作家のモノに対する関わりを分析することで、昭和の女性作家のエッセーの特質となる共通点を明らかにし、さらにふたりの相違点にも注目したい。 幸田文の作品からは『かけら』、『髪』、『雛』を取り上げる。向田邦子については、エッセー集「父の詫び状」から『子どもたちの夜』、『ねずみ花火』、『卵とわたし』、『隣りの神様』を取り上げる。
著者
森下 義亜
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.375-389, 2012-12-26

コミュニティは社会学の鍵概念の一つであり,さまざまに理解・解釈され ながらも,古くて新しい研究テーマとして社会学研究の伝統を占めてきた。 同概念は近年,再び多方面で用いられている。現代都市では,高齢者の社会 的孤立などの種々の課題への対処のためにコミュニティ概念の有効性が認識 されているからである。しかし地域社会での施策が多様化・増加するにもか かわらず,コミュニティの減退や喪失が危惧されているという逆説的現状が あり,高齢者については孤独死・孤立死の問題も起きている。これを踏まえ, 本稿では地域社会でのコミュニティ形成が困難な要因を探ることを目的とす る。 そのためにまず,社会学におけるコミュニティ概念の理論研究の内容を整 理する。そこから読み取れるのは,コミュニティの解放による個人主体の社 会的関係の多様化がみられる一方で,地域社会での集合的なコミュニティの 形成・再生が困難になっているという,現代都市コミュニティの課題の本質 である。 この課題にはコミュニティ形成を目的とする地域社会構造も関連してい る。コミュニティ形成の起点となるのはアソシエーションであり,本研究の 調査地である札幌市では町内会・自治会,および市民活動団体が混在してい るが,近年の同市のコミュニティ形成施策によって,両者が協働する枠組み が整備された。しかしながら現段階では市民活動団体は地域社会システムを 担うまでにはなっておらず,事例としてとりあげる白石区においては,その 枠組みの中心となっているのは町内会・自治会である。その運営や活動はお もに高齢者が担っており,社会参加の観点での意義は小さくない。 しかし低下する加入率や活動参加率から,コミュニティ形成の枠組みが形 骸化している面が指摘できる。また人口構成や町内会・自治会加入率の高低 などの地域特性によらず,全市一律のコミュニティ形成の枠組みとなってい ることも課題の一つであると考えられる。今後の調査では,同枠組みをどの ように活用し,急速に高齢化する札幌市におけるコミュニティ形成をいかに 実現するかを研究する必要がある。
著者
榎本 浩司
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.199-218, 2013-03

グリム兄弟の『Kinder- und Hausmarchen(子供と家庭の童話集)』は世界各国で読み親しまれているメルヒェンであり、そこに登場する「魔女」はよく知られた存在である。しかし、グリム童話集には魔女以外にも魔法や魔術、超人的な力を持つ女性たちが登場する。「魔法使いの女」や「賢女」がそうである。彼女たちは魔女と一括りにされがちな存在だが、メルヒェンの中でそれぞれどのような役割を演じ、主人公や他の登場人物との関係性はいかなるものか、また彼女たちに差異はあるのか。本稿では、グリム童話に登場する魔法や超人的な力を行使する女性たちの特徴や行為、容姿を比較し分析することにより、彼女たちのメルヘンでの役割と位置づけを論じる。
著者
西出 佳代
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.137-155, 2012-12-26

Dieser Artikel ist eine uberarbeitete Version meines Vortrags beim Kolloquium an der Universitat Luxemburg im Oktober 2011,bei dem die Problematik der Luxemburgistik von Forschern aus Luxemburg und Japan kritisch erortert wurde sowie die Ziele und die Bedeutungen der Luxemburgistik in Japan diskutiert wurden. Fur die Publikation in Japan habe ich außerdem einige allgemeine Informationen und verschiedene Aspekte der Luxemburgistik hinzugefu gt.Im 1. Kapitel wird die Geschichte des Großherzogtums Luxemburg seit dem Mittelalter in Bezug auf dessen linguistische Situation kurz dargestellt,damit man eine Vogelperspektive auf die luxemburgische Gesellschaft sowie deren heutige hybride und mehrsprachige Situation haben kann. Im 2.Kapitel wird die Thematik der Luxemburgistik unter zwei Gesichtspunkten behandelt:Erstens die Mehrsprachigkeit der luxemburgischen Gesellschaft und zweitens die Entwicklung des Luxemburgischen als einer Ausbausprache,die durch das Sprachgesetz von 1984 aus dem deutschen Dialekt Westmoselfrankisch zur Nationalsprache des Großherzogtums geworden ist. Zum Schluss wird im 3.Kapitel die Luxemburgistik als INTER-kulturelle Forschung in Japan der INTRA-kulturellen Forschung in Luxemburg gegenubergestellt. Damit sollen ihre Moglichkeiten in zwei Richtungen, intern fur Japan und extern fur Luxemburg,entwickelt werden.
著者
吉村 耕治
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.19-37, 2007-09

現代の色彩用語の中には,周辺の色彩を無視した目立ちすぎる色を意味する「騒色」(loud colors)や「やわらかい赤」(soft red)のように,日本語と英語でよく似た感覚表現より構成されている共感覚表現がある.ところが,味覚が共感覚で視覚が原感覚の表現「渋い色」は,英語では聴覚が共感覚の `a quiet color'と表現される.「渋い色」の「渋い」は,「落ち着いた,地味な」の意であるが,複雑な色相からくる灰色みを帯びた「渋い色」を美しいと感じてきた伝統が日本にあったことを考慮すると,この日英語の表現上の違いは,謙虚さに関する日本語と英語の文化の差を反映していると考えられる.『広辞苑』(第5版,岩波書店,1998)は,共感覚の代表的事例である「色聴」(colored hearing)を,「ある音を聞くとそれに伴って一定の色が見える現象」(p. 1149)と定義しているが,この説明には問題がある.共感覚の現象は単独で現れるものではなく,一連のまとまりを持って生じる現象であることが言及されていない.
著者
村下 訓
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.165-183, 2010-03

本稿では、因果論的な説明の論理や行為論的な記述の論理に基づくマーケティング事象の観察・記述において、何が見落とされることになるかを問うことができる地点から、マーケティング・プロセス、すなわち時間を生み出しつつマーケティングの現実を自己組織的に生成し続ける過程を観察・記述するための手がかりを原理論的に探究する。 突破口を開く論点は、議論されるべき前提を議論に先立って前提してしまう理論負荷の問題である。理論負荷されて多様に立ち現れる構造に対して、その構造を生み出す生成の過程はいかにして記述可能となるか。先行するニクラス・ルーマンの社会学的洞察を参照しつつ、この問いに答える記述論理の方法論的可能性を提示する。なお、本稿で探究される観察視点と記述論理の適用が開くマーケティング事象の描像については、稿を改めて議論されることになる。