- 著者
-
稲吉 真子
- 出版者
- 北海道大学文学研究科
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.147-159, 2016-01-15
「も」の基本的な用法である「累加」とは,「同じカテゴリーに属するとい
う判断(同一範疇判断)を示すこと」である。しかしながら,その用例を見
てみると,同一範疇の判断がつきにくい,もしくは同一範疇のものが文脈上
に存在しない場合も多くある。「も」の同一範疇を判断する基準としては,統
語的同一範疇判断と語用的同一範疇判断があり,その内どちらかが必要とな
るが,語用的同一範疇判断についてはある種の推論を必要とすることが多い
ため,統語的同一範疇判断と比較し,同一範疇判断がつきにくいと言える。
同一範疇判断がつきにくいか否かについては,類命題の有無が大きく関与し
ており,それぞれの用例を類命題との関わりから考察する必要がある。
なお,類命題がないものに関しては,類命題以外にどのような同一性に基
づき「も」を使用しているのかについて,新たなる観点を導入して検討する
必要があるが,それについては,「世界知識」という観点を導入し,話し手の
もつ「世界知識」に基づき発話がなされているタイプとして分類することが
できる。
また,数量をとりたてる「も」についても,類命題がないタイプとして位
置づけることができるが,これについては,「まで」,「しか(ない)」,「は」,
などの,他のとりたて詞との対応関係から,「も」の特徴を明らかにしていく。
以上のように,本稿では,「も」の基本的な用法とそれ以外の用法について,
統語論的観点から整理した上で,新たなる観点を取り入れつつ,語用論的観
点からの考察を試みる。