著者
佐々木 周作 若野 綾子 平井 啓 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.91-94, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
12

看護師は利他的であることが望ましい,という通説がある.しかし,本研究は,行動経済学の利他的選好のうち,“純粋な利他性”を強く持つ看護師ほど心理的に燃え尽きやすいことを実証的に示した.本研究では,日本国内の医療機関に勤務する看護師501名を対象にインターネット・アンケート調査を実施し,その中の仮想的実験質問を使って看護師の利他的選好の種類を識別した.重回帰分析の推定結果から,他人の効用が自分の効用と正に相関する純粋に利他的な看護師は,いずれの種類の利他性を持たない看護師に比べバーンアウト指標の中の情緒的消耗感が高いこと,また,精神安定剤・抗うつ剤を常用している可能性が高いことがわかった.
著者
平井 啓
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.310-317, 2016-10-15 (Released:2022-11-05)
参考文献数
7

総合病院におけるサイコオンコロジーなどの身体疾患の領域において,患者や家族の精神医学的・心理学的問題への対応は必須であり,メンタルヘルスの専門家のコンサルテーションによる対応が求められる。精神・心理的コンサルテーション(psychiatric and psychological consultation)は,一般的なコンサルテーションと同様にコンサルタントとコンサルティからなる構造があり,そのなかで,問題解決プロセスに準じて,患者と家族の問題や,コンサルティの課題について包括的アセスメントを行い,それに基づく仮説構築と仮説に対する解決策を考え,それらをコンサルティに提示し,コンサルティと協働で事例の問題解決を進めていくものである。本論では,精神・心理的コンサルテーションの背景となっているコンサルテーション,包括的アセスメント,問題解決技法などの概念について整理を行い,特にコンサルタントに求められるスキルという観点から,この精神・心理的コンサルテーション活動の構造と機能について明らかする。。
著者
佐々木 周作 平井 啓 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.132-135, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

本研究は,行動経済学におけるリスク選好が日本人女性の乳がん検診の受診行動に及ぼす影響を検証する.乳がん検診の主対象である40歳台・50歳台の女性のうち,自治体検診・主婦検診の乳がん検診の対象者と想定できる者602名に対し,インターネット・アンケート調査を実施した.その中に,プロスペクト理論に基づいた仮想的実験質問を設定し,回答者の,利得局面と損失局面それぞれでのリスク回避度を抽出した.分析結果から,利得局面でリスク回避的に意思決定する人ほど乳がん検診を受診する確率が低いこと,また,損失局面でリスク愛好的に意思決定する人もまた受診する確率が低いことが分かった.さらに,追加分析によって,乳がんに関わる選択の結果を利得局面で認識する人と損失局面で認識する人の両方が存在する可能性を示した.
著者
大谷 大和 松永 悟之 平井 啓之
雑誌
研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:21888663)
巻号頁・発行日
vol.2019-SLP-127, no.39, pp.1-6, 2019-06-15

本稿では深層学習を用いた波形接続型感情音声合成のための感情制御法について述べる.従来の波形接続型感情音声合成では,1) 素片単位での混合が困難であるため,中間的な感情表現が乏しい,2) 入力された感情強度に従い素片の感情の種類を切り替えるため,感情による声質の変化が不連続になるといった問題があった.これらの問題を解決するために,提案手法では深層ニューラルネットワーク (DNN) を用いて,平静音声のスペクトル特徴量と感情強度から感情音声と平静音声の差分スペクトルを予測し,これを平静の素片に畳み込むことで所望の感情強度の感情素片を生成する.また,入力感情強度に応した差分スペクトル特徴量を予測可能にするため,データ拡張により感情強度に対応した差分スペクトル特徴量を生成し,これらを学習に用いることで所望の制御則を DNN に埋め込む.実験的評価では,従来手法と比較して滑らかな感情制御ができていることを確認した.
著者
平井 啓
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.231-236, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
8

サイコオンコロジーはがん患者の全人的医療, すなわちBio-Psycho-Social Modelに基づく実践と研究を行う分野として発展してきた. Bio-Psycho-Social Modelの一つの具体的な実践例として, がん医療における包括的アセスメントが挙げられる. 包括的アセスメントは, 患者の問題を, ①身体症状, ②精神症状, ③社会・経済的問題, ④心理的問題, ⑤実存的問題の順番にアセスメントしていくフレームワークである. 本稿では, この包括的アセスメントの考え方についてBio-Psycho-Social Modelの観点から解説し, さらにこの中でも特に心の問題を扱う専門家が役割を担うことになる精神症状のアセスメントと心理的問題のアセスメントの具体的な方法について示した. 最後に, 今後のBio-Psycho-Social Modelを発展させるための課題についてその方向性の提示を行った.
著者
平井 啓 山村 麻予 鈴木 那納実 小川 朝生
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.27-34, 2021 (Released:2021-02-05)
参考文献数
27
被引用文献数
1

【目的】医療現場において,意思決定が困難である高齢者のがん治療事例の特徴と,医師による対応について探索的に明らかにする.【方法】腫瘍内科の医師7名に対してインタビューを実施した.調査項目は,意思決定困難な事例やその対応,意思決定支援に関することである.逐語記録をもとにカテゴリー分析を行った.【結果】まず,意思決定困難な事例は,認知機能・身体機能を含む[患者要因]と,周囲の状態である[環境要因]の二つに大別された.前者はさらに特性要因と疾病・加齢による要因に分けられる.次に,医師の対応は,[アセスメント]と[対応スキル],および[環境対応]の3カテゴリーとなった.【考察】患者への情報提供のために,患者要因や環境要因のアセスメントを行ったうえで,それぞれに対応するスキルを発揮する必要がある.具体的なスキルとしては,患者に応じた説明,目標の立案,ナッジを使うことが挙げられた.
著者
平井 啓之 本多 清志 藤本 一郎 島田 育廣
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.296-304, 1994-04-01 (Released:2017-06-02)
参考文献数
12
被引用文献数
2

音声の基本周波数(F_0)の変化に伴う喉頭軟骨の位置変化を観測して、F_0調節の生理機構を考察した。F_0上昇の生理機構は主に輪状甲状筋の活動によって行われることがよく知られているが、F_0の下降については輪状軟骨の弛緩だけでは説明できない問題があり、現在でも明らかにされていない。本研究では、F_0下降の生理機構の理解を目標として、磁気共鳴装置(MRI)を用いて約1〜1.5オクターブのF_0範囲で持続発声を行ったときの喉頭の正中矢状断面の撮像を行った。複数の被験者の断層像より喉頭周囲構造の輪郭を抽出した。結果、F_0の昇降におおむね従う喉頭の上下動などの形態変化が観測された。F_0下降においては喉頭の下降に伴い輪状軟骨が回転する現象が観測された。これは声帯を短縮させる方向への回転であり、輪状軟骨の後板が頚椎の自然湾曲に沿って移動する結果生ずるものである。F_0下降に伴う喉頭下降の現象や外喉頭筋の活動の理由はこの生理機構により説明できると考えられる。
著者
新城 拓也 森田 達也 平井 啓 宮下 光令 佐藤 一樹 恒藤 暁 志真 泰夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.162-170, 2010 (Released:2010-12-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1 4

本研究は, 主治医が終末期がん患者の死亡確認を行うことや臨終に立ち会うことが, 家族のつらさと医師の対応への改善の必要性に影響するかを明らかにすることである. 2007年, 95のホスピス・緩和ケア病棟の遺族670名を対象に質問紙調査を行った. 全体の73%の遺族が回答した. どの医師が死亡確認を行うか, 医師が臨終に立ち会ったかは家族のつらさとは関連がなかった. 一方, 死亡確認と立ち会いは, 医師の対応への改善の必要性とは有意な関連があった. しかし, 医師が「臨終に立ち会ったこと」と, 「立ち会えなかったが, その日は頻繁に部屋に来ていた」ことの間には, 医師の対応への改善の必要度に有意差はなかった. したがって, 家族は主治医の死亡確認や, 臨終の立ち会いを望んでいるが, もし死亡確認や立ち会いができなかったとしても, 心理的なつらさが強まることはなく, 臨終までに頻繁に部屋に行くことで十分な対応であると考えていることが示唆された. Palliat Care Res 2010; 5(2): 162-170
著者
平井 啓 谷向 仁 中村 菜々子 山村 麻予 佐々木 淳 足立 浩祥
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.90.17239, (Released:2018-12-25)
参考文献数
27
被引用文献数
1

It is necessary to develop the effective psycho-educational concepts and materials to enhance the uptake behavior of appropriate specialized institutions of mental health care, such as psychiatric clinics or centers providing psychotherapy. In this research, we developed the core concepts and materials, which can be used for the Web sites, or pamphlets intended to enhance appropriate uptake behavior, by conducting internet-based research and a formative interview based on a social marketing approach. As a result of an analysis of 819 first-time users of mental health care services that met eligibility criteria, descriptive characteristics of the uptake behavior for mental health care were revealed and the differences in mental health care literacy between people with a shorter distribution of the untreated period (DUI) and a longer DUI were clarified. By formative research based on the social marketing frame-work, we developed core concepts and materials consisting of the characteristics of the people with a shorter DUI (WHO), the messages about preventing a longer DUI (WHAT), and effective methods for presentation and communication (HOW).
著者
岩満 優美 平井 啓 大庭 章 塩崎 麻里子 浅井 真理子 尾形 明子 笹原 朋代 岡崎 賀美 木澤 義之
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.228-234, 2009 (Released:2009-07-07)
参考文献数
12
被引用文献数
3 5

本研究では, がん診療連携拠点病院を中心とした緩和ケアチームで一定の活動経験のある7名の医師および看護師を対象に, フォーカスグループインタビューを実施し, 緩和ケアチームが心理士に求める役割について検討した. インタビュー内容の質的分析の結果, 緩和ケア領域に携わる心理士が役割を果たすために必要な知識として, 第1に, 基本的ならびに専門的な心理学的知識とスキルが挙げられた. 第2に, がんに関する全般的ならびに精神医学的知識が挙げられた. その他に, 他職種の役割と医療システムに関する知識が求められており, 医療者への心理的支援を望む声も認められた. 以上より, 本研究で明らかにされた心理士に求める役割とは, がん医療に関する幅広い知識をもとに他職種と十分にコミュニケーションをとりながら, 心理学的な専門性を活かして, 患者・家族, および医療者に心理的支援を行うことであった. Palliat Care Res 2009; 4(2): 228-234
著者
平井 啓 山村 麻予 鈴木 那納実 小川 朝生
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.183-191, 2023 (Released:2023-07-31)
参考文献数
19

【目的】今日の医療現場において,患者の意思決定の重要性や支援のためのスキルを認識し,実行することはスタッフに不可欠の資質能力である.医療従事者を対象とした意思決定支援に関する研修を構築し,その効果検討をすることを目的とした.【方法】開発した研修を医療機関で実施し,研修の前後の2時点でアンケート調査を行った.調査は無記名で,匿名化のためのIDを使用した.【結果】意思決定支援に必要な知識とスキルを軸に3時間の研修を開発した.アンケート調査の結果,研修の前後で知識や効力感の向上がみられた.【考察】研修により,意思決定支援に関する理解度が深まり,それによる日常業務への効力感も高まることが確認できた.自由記述からは学び直しの意義や困難場面への応用可能性への言及がみられた.今後は,多職種での共同が不可欠となる医療現場において,連携しながらの意思決定支援について検討する必要がある.
著者
市倉 加奈子 日野 亜弥子 田上 明日香 井村 里穂 石田 陽菜 深瀬 裕子 村山 憲男 村瀬 華子 島津 明人 平井 啓 田ヶ谷 浩邦
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.94.21046, (Released:2023-02-01)
参考文献数
39

Workplace changes, such as remote work during the COVID-19 pandemic, have caused serious psychological distress for workers. The aim of this study was to examine job stressors and coping strategies among Japanese workers during the pandemic. The study was a qualitative methods approach using a web-based survey for Japanese workers in May 2020. We asked about job stressors and coping strategies with free text comments. We performed context analysis and categorized job stressors and coping strategies. Of the participants, 59.2 % suffered psychological stress from workplace changes during the pandemic. We identified 11 categories of job stressors including “work-life balance,” “lack of communication,” “overwork,” and “diminishing work role.” We also identified 16 categories of coping strategies including “distraction,” “dealing with work tasks,” “looking for ways to communicate,” “environmental coordination of work-at-home,” “online chatting,” and “psychological disengagement.” This study shows that Japanese workers tried many ways to manage their job stressors under the burden of the state of emergency. In the future, we should examine the association between coping strategies and psychological distress during the COVID-19 pandemic.
著者
吾妻 健 ウォン Z. ブレーラー D. ロー C.T. イトイ I. ウパタム S. 杉山 広 田口 尚弘 平井 啓久 川中 正憲 波部 重久 平田 瑞城 BLAIR David LO Chin-tson ITHOI Init UPATHAM Suchart WANG Zaihua
出版者
帯広畜産大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

アジアに於ける日本住血吸虫類には、日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫の3種が知られているが、具体的な相互の類縁関係については、未だ不明である。本研究では、これら3種の系統類縁関係を調べるため、1)ミトコンドリアDNAの塩基配列、2)染色体のC-バンドパターン、3)中間宿主貝の核型、4)中間宿主貝の感受性、5)終宿主の感受性、及び6)終宿主における肉芽腫形成反応、について分析実験を行なった。1)ミトコンドリアDNAの塩基配列:本研究ではチトクロームCオキシダーゼサブユニットI(COI)領域のPCR増幅を試みた。各サンプルはTEバッファーでホモジナイズし、フェノール/クロロフォルムで2回、クロロフォルムで1回、処理した後、エタノール沈殿により、DNAを回収した。回収したDNAはテンプレートとして、PCRを行なった。プライマーは、5'- TTT TTT GGG CAT CCT GAG GTT T -3'及び5'- TAA AGA AAG AAC ATA ATG AAA AT -3'である。PCRの条件は、95℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 3分、30サイクルである。得られた増幅断片はTAベクターにクローニングして、ABIのオートシーケンサー(373A)を用いて塩基配列を調べた。ホモロジー検索及び系統樹作成はClustalV(近隣接合法)とPaup(最大節約法)を用いて行なった。その結果、2つの異なる方法とも同じ結論に達した。即ちマレー住血吸虫は日本住血吸虫よりは、メコン住血吸虫に近く、メコン住血吸虫とクラスターを形成することが分かった。比較のために用いたアフリカ産のマンソン住血吸虫とビルハルツ住血吸虫は一つのクラスターを形成し、アジア産の日本住血吸虫類から隔たっていることが分かった。2)染色体のC-バンドパターン:日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫のC-バンド分析を行ったところ、日本産の日本住血吸虫では、W染色体長腕のC-バンド内だけに真性染色体質の挿入が認められたが、メコン住血吸虫及びマレー住血吸虫では、両腕のC-バンド内に真性染色体質の挿入が認められた。さらにC-バンドの量はメコン住血吸虫及びマレー住血吸虫において日本住血吸虫より増加していることが観察された。このことから、メコン住血吸虫とマレー住血吸虫がより近縁であると推定され、ミトコンドリアDNAの結果と一致した。3)中間の宿主貝の核型と感受性:これは、宿主-寄生虫関係の進化と寄生虫自身の種分化との関係を明らかにするために行われた。まず、宿主貝の染色体について核型分析を行ったところ、a)マレー住血吸虫の第一中間宿主貝Robertsiella gismaniでは2n=34で性染色体はXY型であるが、Y染色体は、点状であること、b)メコン住血吸虫の第一中間宿主貝Neotricula apertaでは2n=34であるが、Y染色体は存在せずXO型であること、c)日本住血吸虫の第一中間宿主貝Oncomelania nosophora(ミヤイリガイ)では、2n=34で、性染色体はまだ未分化であること、等が明らかになった。4)中間宿主貝への感受性:日本産の日本住血吸虫とマレー住血吸虫をOncomelania nosophora(ミヤイリガイ)、O.minima(ナタネミズツボ)、Bythinella nipponica(ミジンニナ)の3種の貝に感染させたところ、両住血吸虫ともOncomelania nosophora(ミヤイリガイ)に感染し、セルカリアまで発育することが明らかとなった。4)終宿主の感受性:メコン住血吸虫及びマレー住血吸虫のセルカリアをマウス(ddY)、ハムスター(シリアン)、スナネズミ(MGS)の3種の終宿主への感染実験を行なったところ、すべてにおいて感染が成立することが分かった。15EA07:終宿主における肉芽腫形成反応:日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫のセルカリアをマウスとラットに感染させ、肉芽腫形成反応の程度を比較した。まず、マウスでは3種住血吸虫とも著明な細胞反応を示したが、3種に差は認められなかった。しかし、ラットでは各々異なる程度の反応を認めた。即ち、肉芽腫形成反応はメコン住血吸虫で最も弱く、マレー住血吸虫で、最も強い反応を示した。一方、肝内虫体に対する細胞反応は虫卵に対する反応と逆にメコン住血吸虫で最も強く、マレー住血吸虫で、最も弱い反応を示した。このことから、宿主細胞の認識は虫体と虫卵で大きく異なることが分かった。
著者
平井 啓
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.7-11, 2014 (Released:2014-04-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1

がん患者は、身体症状のみならず、再発・転移に対する心配や漠然とした不安感、さらには人間関係のストレスなどの多様な問題を抱えている。これらのがん患者の抱える多様な問題に対して心理療法・精神療法による対応が行われている。最近では特に、行動医学的方法の一つである認知行動療法が注目されている。そこで筆者らは、平成19年度から厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業「がん患者に対するリエゾン的介入や認知行動療法的アプローチ等の精神医学的な介入の有効性に関する研究」(明智班)において、認知行動療法の一つに分類される問題解決療法を日本のがん患者向けにアレンジしたプログラム開発を行った。問題解決療法の有効性は、海外では多数報告され、問題解決療法による介入によって、患者の問題解決のための対処能力が向上し、その結果患者が日常の様々な問題に対して効率的に対処できるようになり、精神状態やQOLを自らの力で維持できるようになると言われている。そのため、がんと診断され治療する過程で様々な心理社会的問題が日常的に生じるがん患者にとって、問題解決療法は最も適した心理的介入の一つと考えられる。そこで研究班では、術後乳癌患者36名を対象として、つらさと支障の寒暖計、抑うつと不安の尺度であるHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)日本語版を用いたスクリーニングを行い、心理的苦痛が大きいとされた患者に対して、5週間の問題解決療法プログラムによる介入を実施した。プログラムを完遂し、フォローアップ可能であった19名について解析を行った結果、介入前と3ヶ月後のフォローアップ時のHADS得点に統計的有意差がみられ、介入前後で得点の平均値は6.05 (SD=1.94) 点減少していた。また介入の効果量は0.82と高いことが示されたことから、この介入プログラムが、抑うつ、不安などのストレスを低減しQOL向上に寄与したと考えられる。このように問題解決療法は日本のがん医療において有効性を持った介入方法の一つであると考えられ、がん医療における問題解決療法の必要性と普及の方法について検討する必要がある。
著者
平井 啓之 党 建武 本多 清志
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.918-928, 1995-12-01
被引用文献数
13

喉頭を含めた発話器官の生理学的モデルを作成した。このモデルは、各筋の活動量を入力として、舌・喉頭・顎などの発話器官に加わるすべての力が釣り合うときの発話器官の位置を求め、得られた声道形状及び声帯長を用いて音声の生成を行なうものである。また、本モデルでは、舌・下顎・舌骨・喉頭は互いに筋によって接続され力の授受が考慮されているため、舌と喉頭との相互作用を表現することができる。測定された筋電信号を入力として発話時の声道形状及び音声を生成し、発話時の声道断面のMRI画像及び実音声との比較を行なった。また、本モデルを用いて外舌筋のF_0に及ぼす影響について検討した。
著者
菅原 亨 郷 康広 鵜殿 俊史 森村 成樹 友永 雅己 今井 啓雄 平井 啓久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第25回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.14, 2009 (Released:2010-06-17)

哺乳類の味覚は,基本的に甘み・酸味・苦味・塩味・うま味の5つを認識することができる。その中で苦味は,有毒な物質の摂食に対しての警告であり,ほぼすべての動物が苦味物質に対して拒否反応を示す。一般に苦味は,有害物質の摂取に対する防御として進化してきたと考えられている。一方,チンパンジーにおいて寄生虫感染の際に自己治療として植物の苦味物質を利用することが知られている。苦味は薬理効果のある植物の認識としての役割も併せ持つことを示唆している。我々は,霊長類における苦味認識機構の進化・多様化に興味を持って研究をおこなっている。 苦味は,七回膜貫通型構造を持つ典型的なG蛋白質共役型受容体の1種であるT2Rを介した経路で伝わる。T2Rは,舌上皮の味蕾に存在する味細胞の膜上で機能しており,全長およそ900bpでイントロンがない遺伝子である。近年の研究で,T2Rは霊長類ゲノム中に20~40コピー存在していることがわかっている。特徴的なことは,その遺伝子数がそれぞれの生物種で異なることである。これらの種特異性は,採食行動の違いと関連があると考えられる。また,ヒトやチンパンジーでは,味覚に個体差があることが知られているが,その要因はT2R遺伝子群の1つであるT2R38の一塩基多型(SNP)であることが明らかにされている。T2Rの機能変化は,個体の味覚機能に直接影響を与えると考えられる。 本研究では,46個体の西チンパンジーでT2R遺伝子群の種内多型を解析した。T2R遺伝子群の進化や個々のT2R遺伝子のSNPを解析し,チンパンジーにおける味覚機能の進化や採食行動との関連性を考察した。
著者
古賀章彦 平井 百合子 平井 啓久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第27回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2011 (Released:2011-10-08)

<目的> StSat 反復配列が形成するブロック1か所あたりの平均の大きさは、 過小に推定して、3 × 109 bp(ゲノムサイズ)× 0.001(割合の推定値)/ 24(染色体数)/ 2(両末端)= 60 kb である。異なる染色体の端部に塩基配列が均質で、かつ長大な領域が、テロメアに加えて存在していることになる。このため「StSat 反復配列の領域で非相同染色体間の組換えが頻繁に起こる」との推測が成り立つ。これを直接検出することを我々は目指している。ただし、特定の反復単位を見分ける手段はないため、マーカーのDNA断片を染色体に組み込んだうえでその挙動を追うことになり、時間を要する。そこで、短時間で可能な間接的な検証のための実験を考案し、これを行った。<方法> StSat 反復配列を含む約 30 kb のプラスミドクローン(A)と、含まない同じ大きさのクローン(B)を作り、それぞれをチンパンジーの培養細胞にリポフェクション法で導入した。クローンはサークル状であるため、染色体との間で組換えが1回起こるとクローンの全域が染色体に組み込まれる。これが起こることを可能にする時間として4世代ほど培養した後、AとBに共通する部分をプローブとして、染色体へのハイブリダイゼーションを行った。<結果> Aを導入した方でのみ、主に染色体端部にシグナルが観察された。StSat 反復配列の部分で組換えが起こってクローンが染色体に取り込まれたとの解釈が順当であり、頻繁な組換えの間接的な検証であるといえる。<考察> 一般に染色体のある場所で組換えが起こるとその近辺での組換えが抑制されることが、知られている。これを考慮すると、「チンパンジーでは StSat 反復配列があるために、隣接する領域での非相同染色体間組換え頻度は、ヒトより低い」ことが可能性として考えられる。