著者
牧 輝弥 保坂 健太郎 北 和之 石塚 正秀 渡辺 幸一 五十嵐 康人 當房 豊
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

氷雲の形成を促す「氷晶核(氷核活性を持つ粒子)」の発生源は不明であり,その粒子密度は気候変動予測での不確定因子となる。その為,近年,分析・観測技術の向上に伴い検出可能となった大気浮遊微生物(バイオエアロゾル)の氷核活性へ学術的関心が集まるようになった。特に,微生物活性が高い森林からは氷核活性微生物が頻繁に放出されると推測されている。しかし,微生物の森林からの放出量は定かでなく,森林が氷晶核の主要発生源とは断定できない。そこで,本研究では,観測機器を完備した森林観測サイトにおいて,地上観測と高高度大気観測を併用することで,森林地表から高高度までの浮遊微生物の鉛直分布を明かとし,氷核活性微生物の森林からの放出量を追究しつつある。2019年度は,筑波実験植物園において,森林内と森林上空を浮遊する大気粒子を,ヘリコプターと建物屋上を併用して捕集した。大気粒子から微生物のゲノムDNA直接抽出し(培養を経ない),解析した結果,森林内には,数百種以上の細菌と真菌が浮遊しており,真菌(特にキノコ)が樹冠上から上空にまで浮遊し垂直分布していることが明らかになった。大気粒子試料から,20種程度の真菌と細が分離培養され,その内,3種で高い氷核活性が認められたため,氷核活性微生物が森林外へと放出されている強力な手がかりが得られた。今後,定量PCRによる氷核活性微生物の定量に取り組む。こうした風送微生物に関する研究成果への学術的評価は高く,大気科学雑誌Atmos. Environ.やエアロゾル研究(牧代表主著)に論文発表された。また,充実した研究成果から導き出される「微生物・キノコと雲形成の関連性」は社会的注目度も高く,科学テレビ番組(例:林先生の初耳学:MBSテレビ,ガリレオX:BSフジ)に取りあげられ,研究紹介執筆(空飛ぶ微生物ハンター:汐文社)や招待講演の依頼を受ける機会に恵まれた。
著者
渡辺 幸一
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.129-139, 2016 (Released:2016-08-09)
参考文献数
42
被引用文献数
2

ビフィズス菌は,主にヒトや動物の腸管から分離されるグラム陽性の多形性桿菌であり,系統分類学的にはActinobacteria門のBifidobacteriaceae科に属する6属58菌種で構成される.なかでもBifidobacterium属は,50菌種10亜種で構成され,その中心を占めている.微生物の分類体系は,菌種同定や分類法の技術の進歩と密接な関係にある.DNA-DNA相同性試験(DDH)法は,1960年代から用いられ,現在でも菌種を区別するための最も重要な基準である.一方,16S rRNA遺伝子配列データに基づく系統解析は,煩雑な操作と熟練を必要とするDDHに替わる菌種分類の標準法として位置づけられている.しかしながら,16S rRNA遺伝子単独では菌種の分類同定が不可能である菌種グループが数多く存在する.近年,ハウスキーピング遺伝子の塩基配列に基づく多相解析法[Multilocus Sequence Analysis(MLSA)あるいはTyping(MLST)]および全ゲノム塩基配列の相同性(ANI)など,DDH法を補完・代替する分類方法が開発されている.ここでは,ビフィズス菌の分類法の現状と動向について解説する.
著者
渡辺 幸一
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.153-161, 2011-11-10 (Released:2015-01-06)
参考文献数
21
被引用文献数
4 6

何世紀にも渡ってモンゴルの遊牧民は非常に多種の伝統的発酵食品を作り続けている。モンゴルの伝統的なアイラグ(馬乳酒)は、馬乳を原料に固有の乳酸菌による発酵と酵母によるアルコール発酵とによって作られる。アイラグばかりでなくタラグ(ウシ、ヤク、ヤギあるいはラクダなどの家畜の乳で作られたヨーグルト)は古来からモンゴル人の栄養源として重要な役割を演じてきた。これまで、モンゴルの伝統的発酵乳のプロバイオティクスとしての有用性を評価する目的で多くの研究がある。本稿ではモンゴルの伝統的発酵乳のアイラグとタラグにおける乳酸菌と酵母の多様性について概説する。
著者
渡辺 幸一
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 = Journal of Japan Society for Lactic Acid Bacteria (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.153-161, 2011-11-10
参考文献数
21
被引用文献数
1 6

何世紀にも渡ってモンゴルの遊牧民は非常に多種の伝統的発酵食品を作り続けている。モンゴルの伝統的なアイラグ(馬乳酒)は、馬乳を原料に固有の乳酸菌による発酵と酵母によるアルコール発酵とによって作られる。アイラグばかりでなくタラグ(ウシ、ヤク、ヤギあるいはラクダなどの家畜の乳で作られたヨーグルト)は古来からモンゴル人の栄養源として重要な役割を演じてきた。これまで、モンゴルの伝統的発酵乳のプロバイオティクスとしての有用性を評価する目的で多くの研究がある。本稿ではモンゴルの伝統的発酵乳のアイラグとタラグにおける乳酸菌と酵母の多様性について概説する。
著者
渡辺 幸一
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.129-139, 2016

ビフィズス菌は,主にヒトや動物の腸管から分離されるグラム陽性の多形性桿菌であり,系統分類学的には<i>Actinobacteria</i>門の<i>Bifidobacteriaceae</i>科に属する6属58菌種で構成される.なかでも<i>Bifidobacterium</i>属は,50菌種10亜種で構成され,その中心を占めている.微生物の分類体系は,菌種同定や分類法の技術の進歩と密接な関係にある.DNA-DNA相同性試験(DDH)法は,1960年代から用いられ,現在でも菌種を区別するための最も重要な基準である.一方,16S rRNA遺伝子配列データに基づく系統解析は,煩雑な操作と熟練を必要とするDDHに替わる菌種分類の標準法として位置づけられている.しかしながら,16S rRNA遺伝子単独では菌種の分類同定が不可能である菌種グループが数多く存在する.近年,ハウスキーピング遺伝子の塩基配列に基づく多相解析法[Multilocus Sequence Analysis(MLSA)あるいはTyping(MLST)]および全ゲノム塩基配列の相同性(ANI)など,DDH法を補完・代替する分類方法が開発されている.ここでは,ビフィズス菌の分類法の現状と動向について解説する.<br>
著者
苗村 晶彦 渡邉 善之 小柳 信宏 楊 宗興 渡辺 幸一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.172-176, 2017

首都圏に由来する汚染気塊の影響により,これと北接する福島県において光化学スモッグ注意報が発令されることがある.森林の物質循環に及ぼす大気の影響を調べるため,福島県中通りを流れる阿武隈川水系の源流域において,平水時のCl<sup>-</sup>濃度およびNO<sub>3</sub><sup>-</sup>濃度を測定した.渓流水中のCl<sup>-</sup>濃度は,高い順に郡山,福島,西白河となった.首都圏の秩父多摩甲斐山岳域と比較すると,本調査値は標高の割りに郡山と福島でCl<sup>-</sup>濃度が高かった.NO<sub>3</sub><sup>-</sup>濃度については,3地点の平均濃度が12.8 μMで渓流水へのリーチングが相対的に小さく,地点間の変動も小さかった.関東周辺の森林渓流水では高濃度のNO<sub>3</sub><sup>-</sup>が観測されるが,福島県中通りにおいては関東地方の窒素飽和問題とは異なることが考えられる.
著者
渡辺 幸一 石坂 隆 竹中 千里
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.997-1006, 1999-10-25
被引用文献数
6

1994年から1996年までの夏期および秋期に乗鞍岳山頂付近(標高2770m)において霧水の採取・化学分析を行ってきた。pHが4以下の強い酸性霧が夏期だけでなく、秋期においても観測された。霧水中の陰イオン成分では硫酸イオンの濃度が最も高かったが、硝酸イオン濃度に対する硫酸イオン濃度の当量比は、1960年代の乗鞍岳よりもかなり低い値であった。これは、1960年代と1990年代の日本の大気汚染の特徴が反映されているものと考えられる。 硝酸イオンに対する硫酸イオンの濃度比は秋期に比べて夏期の方が高い値であった。夏期においては、ナトリウムイオン濃度に比べて塩化物イオン濃度の方がはるかに高く、非海塩起源の塩化物イオンも霧水の酸性化に寄与しているものと考えられる。硫酸イオン濃度に対するアンモニウムイオン濃度の比も秋期より夏期の方が高かった。また、1994年の7月には、硫酸イオンが高濃度であるにもかかわらず、pHが6以上と比較的高い霧も観測された。霧水中の過酸化水素濃度は夏期においては3&sim;180μM程度で、平均濃度は60μMであったが、秋期においても比較的高濃度(60&sim;70μM)の過酸化水素が観測された。
著者
渡辺 幸一 名取 千晶 朴木 英治
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.122-128, 2005-06-10
被引用文献数
4 4

2003年秋期に立山において霧水の採取・分析を行った。霧水のpHは, 中腹の美女平で4.1〜5.0, 山頂に近い室堂平で3.3〜5.1であった。美女平では海塩起源成分がしめる割合が高く, 立山が比較的海岸に近いためであると考えられる。霧水中のNO_3^-/nss-SO_4^<2->(N/S)は美女平で高く, 室堂平で低かった。pHが4以下の強い酸性霧は室堂平でしばしば観測され, 酸性霧中の硫酸イオン濃度が高かった。今回の観測期間中で最もpHが低い霧水が観測された9月19日について後方流跡線解析を行った結果, 大陸の汚染物質の影響を強く受けている可能性が示唆された。
著者
渡辺 幸一
出版者
富山県立大学
雑誌
富山県立大学紀要 (ISSN:09167633)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.152-156, 2004-03-31

北陸地方の山岳大気環境の評価を行うため、2003年の秋期(9〜11月)に立山において、オゾン(O_3)濃度の測定や霧水の採取・分析を行った。立山中腹の美女平(標高、1000m)で測定したO_3濃度の平均値は34ppbvであった。10月上旬までは、日中(午後)に濃度が高くなる明瞭な日変化が観測されたが、11月には、夜間に濃度の極大がみられた。日中の濃度増加は光化学反応によるものと考えられ、夜間の濃度増加は、山風による上空大気の沈降によるものと考えられる。夜間の濃度増加は10月においても観測され、10月上旬には、O_3濃度のダブルピークがみられた。霧水のpHは、3.3〜5.3であった。霧水のpHは、中腹の美女平より、山頂に近い室堂平(標高、2450m)のほうが低く、強い酸性霧(pH<4)も観測された。後方流跡線解析の結果から、強い酸性霧が観測された期間の室堂平の空気塊は、大陸の工業地帯を起源としていると考えられた。大陸起源の汚染物質による霧水の酸性化が、北陸地方の山岳域で起こっている可能性が示唆される。
著者
飯塚 芳徳 五十嵐 誠 渡辺 幸一 神山 孝吉 渡辺 興亜
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.245-254, 2000-05-15
被引用文献数
1 2 1

1998年3~4月, スバールバル諸島アウストフォンナ氷帽頂上において, 多点積雪断面観測による積雪試料の採取を行なった.試料は化学分析に用いられた.<BR>各積雪断面は, 深さ0.50~0.79mを境に, 雪質の違いから上部と下部に分けられる.上部はしもざらめ雪としまり雪, 下部は氷板とざらめ雪が層を成している.下部はδ<SUP>18</SUP>O値や電気伝導度の変動が保持されていない.これらの結果は, 下部の積雪が融解を経験していることを示す.融解による化学主成分の減少過程は各イオン種ごとで異なる.Na<SUP>+</SUP>, Cl<SUP>-</SUP>に比べてMg<SUP>2+</SUP>, SO<SUB>4</SUB><SUP>2-</SUP>は流出しやすい.K<SUP>+</SUP>, Ca<SUP>2+</SUP>は融雪後も他のイオン種と相関のない鋭いピークを残している.<BR>融解を経験していない積雪のMg<SUP>2+</SUP>/Na<SUP>+</SUP>比が0.11±0.02であり海塩比 (0.12) とほぼ一致するのに対し, 融解を経験した積雪のMg<SUP>2+</SUP>/Na<SUP>+</SUP>比は0.03±0.02の値をとる.Mg<SUP>2+</SUP>/Na<SUP>+</SUP>比は氷コア中のフィルンの融解の有無を明らかにする指標になると考えられる.
著者
渡辺 幸一 石坂 隆 田中 浩
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1153-1160, 1995-12-25
被引用文献数
6

大気中における過酸化物や他の微量気体(O_3,SO_2)の濃度の測定を夏から初秋にかけて、中部日本に位置する乗鞍岳の山頂付近(標高2770m)で行った。過酸化水素(H_2O_2)やオゾンは真夜中に濃度が最も高くなり、真昼に最も低くなった。深夜にH_2O_2やO_3濃度が高くなるのは上層大気の沈降によるものと考えられ、このような日変化は低地での変動とまったく逆である。また、夏の乗鞍岳では、SO_2(S(IV))をH_2SO_4(S(VI))へと酸化させる能力の指標とされている[H_2O_2]/[SO_2]の比がほとんどの期間で1より大きく、SO_2の酸化剤が十分に存在していることがわかった。すなわち、夏期においては、水滴中でのSO_2の不均質酸化が非常に速いものと考えられる。
著者
渡辺 幸一 永尾 一平 田中 浩
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.393-398, 1996-06-25
被引用文献数
1

小笠原諸島母島において大気中のH_2O_2濃度やO_3濃度を1995年4月及び7月の2度にわたり測定した. 4月においては, 小笠原諸島が大陸性気団に覆われた時にO_3やH_2O_2が高濃度となった. 7月のO_3濃度は4月より低かったが, H_2O_2濃度の平均値は4月より高かった. これは, 日射量の違いによるものと考えられる. 過酸化水素濃度は通常, 日中に高く夜間に低くなったが, 相対湿度が比較的低い時には, H_2O_2濃度が夜間に増加する現象がしばしば観測された. 夜間におけるH_2O_2濃度の減少は相対湿度に強く依存していた. 海洋大気中では夜間におけるH_2O_2の消失は不均質過程 (heterogeneous process) によるものである. この消失割合 (loss rate) は, 0.3〜6.5×10^<-5> s^<-1>程度で, 相対湿度が高くなると大きくなることがわかった. このような過程は海洋大気中におけるHO_x濃度に重要な影響を与えているものと考えられる.
著者
渡辺 幸一 朴木 英治 久米 篤 青木 一真 中野 孝教 石田 仁 松木 篤 岩坂 泰信 松木 篤 田中 泰宙
出版者
富山県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

高所に出現する弱い黄砂(バックグランド黄砂)の動態やその自然環境へ及ぼす影響を評価するため、立山において、エアロゾル粒子、微量気体成分、降水、霧水、積雪などの観測・分析を行うと共に、植生への影響について検討した。年度による程度の違いはあるものの、毎年秋期に「バックグラウンド黄砂」の影響がみられることがわかった。立山山の植生は、大気汚染物質だけでなく、黄砂粒子の影響も大きく受けている可能性が示唆された。また、立山での観測と並行して、回転翼航空機による富山県上空大気観測も行った。観測結果から、高所では高濃度の光化学オキシダント物質に植生が晒させやすいと考えられる。