著者
渡邉 英徳
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.12-16, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)

私たちは,社会に“ストック”されている1964年大会の資料を“フロー”化するデジタルアース・コンテンツ「東京五輪アーカイブ1964-2020」を制作した。本稿で説明した情報デザインによって,ばらばらの粒子のように“ストック”され,固化していたデータが結び付けられ,液体のように一体となって流れる“フロー”となる。この“フロー”をさまざまなデバイスを通して生み出すことにより,資料についてのコミュニケーションが創発し,情報の価値が高まる。その結果として,55年前・1年後の五輪が,ひとつの流れのなかに位置付けられ,過去に学び・未来に活かす「継承」の機運を生み出せると,私たちは考えている。
著者
山口 滋
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.58-64, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)

医農薬品やプラスチック等,私たちの身の回りの化学品の多くは有機分子から作られている。目的の有機分子を作るために不可欠な手段として,有機合成がある。とくに分子と分子をつなげるための「触媒」の開発は有機合成のなかでも中心的な課題のひとつである。触媒開発をはじめとする有機合成分野の研究は人間の経験知に基づく試行錯誤で行われている。この試行錯誤をDXにより効率化しようという研究が近年盛んに行われている。しかし有機合成分野の「DX」は本当に必要であろうか?「DX」の潮流における触媒反応開発分野の変化と今後について概観する。
著者
樽見 博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.335-339, 2013-08-01 (Released:2017-04-18)
参考文献数
3

書物の誕生と同時に古書は生まれ,書物の流通の歴史が始る。書店の初期の形態は,新刊書の制作から販売,さらに古書の売買も伴うものであった。書物の刊行が増えるに従って新刊書店と古書店は分離し,流通の仕方も変わった。古書業界は業者間の交換市を経営し,需要と供給の関係から販売価格を決めるシステムを確立した。全国組織を作り貴重な古書を掘り起こし,古書の後世への伝達という役目を果たしてきた。21世紀に入り,書物の世界にもデジタル化の波が押し寄せてきた。書物という形態に大きな変革が起きようとしているが,1冊1冊に個性が備わる古書の価値を見極める仕事として,今後ますますその専門的な知識と経験が問われるようになってきた。
著者
木目沢 司
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.67-73, 2022-02-01 (Released:2022-02-01)

国立国会図書館(NDL)電子情報部は,NDLにおける情報システムに関連する業務の一元化による効率化及び円滑化を図るため,2011年10月に設置された。以降電子情報部は,NDLの基幹システムである国立国会図書館業務基盤システム等のリニューアルをはじめ多くのシステムの新規開発やリプレースを行ってきた。本稿では2021年10月に設置から10周年を迎えたことを機に,電子情報部が行ってきた情報システム整備の取組について振り返り,その成果を省察する。またNDLにおける今後のシステム整備の方向性と課題について考察する。
著者
福山 樹里
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.54-60, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)

本稿の目的は,Europeanaが国も分野も異なる様々なデジタルアーカイブからメタデータを収集し,管理し,提供している方法を,公開されている文書類をもとに解説することである。はじめに,メタデータを収集しているアグリゲータモデル,収集したメタデータの処理工程,公開と出力までを概観する。次にEuropeanaのメタデータモデルであるEDMに焦点を当て,その開発方針と特徴を整理する。その後EDMを有効に機能させるメタデータの運用について,品質確認プロセスも含めて説明し,最後にEDMに関わる今後の課題をまとめる。
著者
古賀 崇
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.48-53, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)

本稿では国際的動向を踏まえつつ,日本におけるデジタルアーカイブのゆくえを考えるための論点を提示した。すなわち,アーカイブズ領域でうたわれてきた「証拠的価値」や,デジタル・スカラーシップの進展とともに意識すべき「学術研究上のルール」を踏まえつつ,デジタル技術のポテンシャルを生かした「より深い利用」を促すため,どのようなかたちでデジタルアーカイブを構築・運用するのが望ましいか,ということを,本稿では論じた。国際的標準・規格や,図書館での「ディスカバリ・サービス」といった横断的・包括的検索システムとの関係も,考慮すべき論点に含まれる。
著者
片山 善博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.168-173, 2007

図書館本来の機能,つまりミッションは,民主主義社会の国民・住民の「自立支援」を「知的インフラ」という側面で支えることである。真の民主主義社会の実現には,政府と国民との間でできるだけ広範な情報共有が必要であると同時に,政府が発信する情報だけでなく,いわば「対抗軸」ともいうべき客観的資料や政府案への問題点を論じた資料など,バランスの取れた情報環境が必要である。また,重要な政策決定を審議する際,失敗事例,諸外国事情を含め,基礎となる資料や情報は不可欠である。それらの情報環境を担うのが図書館であり,図書館のミッションといえる。そして,それらの情報へのアクセスを的確に行うのが司書の役割である。
著者
椎名 ゆかり
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.146-152, 2014-04-01 (Released:2017-04-13)

アメリカの図書館でマンガが所蔵されるようになったのは近年のことである。長い間マンガ,特に「コミック・ブック」と呼ばれるマンガの刊行物は,「子供向けの低俗な読み物」として時には規制運動も巻き起こるほど批判され,図書館はむしろ「コミック・ブック」に対して批判する側であった。その図書館が21世紀に入り,マンガを積極的に支持し,所蔵対象にするようになっている。本稿では,マンガが図書館に所蔵されるようになった歴史的経緯を概観し,この変化の起こった要因の一部に,マンガが「グラフィック・ノベル」として再発見された点や日本マンガ人気があった点を考察することにより,アメリカ社会におけるマンガの文化ヒエラルキーの変遷を検証する。
著者
出口 弘
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.122-132, 2014

本稿では日本の漫画を広く絵物語のコンテクストの中で位置づけ,その文化史的な意義と可能性を明らかにする。日本の絵巻や浮世絵,絵草紙,漫画などの諸コンテンツは社会階級に依存せず創作され,また複製や二次創作を積極的に是認する文化を持つ。これは欧州型の,オリジナル作品にオーラがあるとみなし二次創作を是認せず,権威による作品の評価を基軸とするアートの文化とは大きく異なる。本稿では,絵物語の歴史を概観しながら,あらゆる社会の場から表出され,異なる立ち位置の人々の世界観を混淆循環させる力と多様性を持つメディアとしての絵物語空間に着目する。その上で,漫画の様な絵物語を日本のサブカルチャーではなくメインカルチャーとして位置づけその可能性を論じる。
著者
矢口 勝彦
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.8-15, 2021-01-01 (Released:2021-01-01)

TRC(図書館流通センター)の電子図書館サービスは,2011年1月に1号館として堺市立図書館(大阪府)に導入して以降,公共図書館において昨年度までで75自治体,年間平均8~9自治体のペースで採用されてきた。ところが,今年度になってコロナ禍における緊急事態宣言下の臨時休校,臨時休館時の読書,学習支援ツールとして注目され,2波,3波に備えるべく急激に採用が増えており今年度1年間の採用数が,昨年度までの導入数とほぼ同程度になることが予想されている。本稿では,TRCの電子図書館サービスを例にとり,電子図書館の概要,特長,導入メリット,課題,電子図書館を取り巻く環境,学校連携,教育現場での電子図書館の活用事例を紹介する。
著者
大谷 裕
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.258-264, 2010
参考文献数
15
被引用文献数
1

PubMedをめぐる近年の大きな動向として2009年10月のインターフェイスの変更およびこれに付随した2010年2月の追加修正が挙げられる。本稿ではリニューアルされたPubMedの基本的な使い方および近年普及しているEBMの実践に必要なエビデンスに基づいた文献の検索について述べる。文献検索については,EBMの5つのステップを踏まえたPI(E)COの作成,MeSHを用いた検索タームの選択,エビデンスレベルを意識した研究デザインの絞り込みについて実例を交えて述べる。また併せて,日本語をMeSHに翻訳するフリーオンライン辞書WebLSD(ライフサイエンス辞書)を紹介する。
著者
福林 靖博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.82-87, 2022-03-01 (Released:2022-03-01)

令和3年改正著作権法により,国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信先の範囲が,令和4年から従来の図書館から個人に拡大されることとなった。本稿では,国立国会図書館による所蔵資料デジタル化事業及び図書館向けデジタル化資料送信サービスの現況について整理したうえで,今回の法改正に至る背景・経緯と,法改正を受けて令和4年5月のサービス開始に向けて準備を進めている個人向けデジタル化資料送信サービスについて紹介する。
著者
眞喜志 まり
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.472-478, 2017-09-01 (Released:2017-09-01)

システマティック・レビューにおいては,網羅的・系統的な文献検索が不可欠な作業として求められる。本稿では,システマティック・レビューの理解に必要となるキーワード,EBMとコクランについて紹介したのち,システマティック・レビュー,特にシステマティック・レビューにおけるデータベースの選択・検索について概説する。システマティック・レビューの文献検索は,データベースごとに特徴と機能,注意点を理解したうえで,検索式を設定することが重要である。また,システマティック・レビューやシステマティック・レビューに利用でき得るリソースの情報収集とアップデートを継続することも必要である。
著者
豊田 恭子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.323-328, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)

米国の公共図書館が資金調達目的で設立する図書館財団は,2018年には630団体を数え,近いうちに,公共図書館の10館に1館は,図書館財団を有する勢いをもつ。資産規模も,2017年の合計額は,2015年の3倍に伸びた。公共図書館が図書館財団をもつ最大の利点は,公的機関のもつ様々な規則や制限から離れたところで,独自の財源を持てることにある。図書館は,図書館財団を通して実験的な新サービスを提唱し,直接,住民や私立財団,企業などから資金を調達し,その実現につなげることができる。それは,新しい時代の図書館の役割を,社会に広く認知させる役割も果たしている。
著者
山口 直比古
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.467-472, 2016-09-01 (Released:2016-09-01)

病院には医療関係者のための図書室と,患者のための図書室の二種類の図書室がある。前者は医学図書館であり,主に医学情報を提供している。地域医療支援病院などの3割程度に設置されており,相互協力(ILLでの文献複写依頼)を中心に司書が一人で仕事をしている。後者は,患者・家族・市民のために医療・健康情報サービスを行っている。患者の立場に立ってインフォームドコンセントを支援する,という役割を担っている。全国に100以上の患者図書室が開設されている。それらの現状と問題点などを紹介する。さらに,一般市民に対する健康情報サービスが,公共図書館を中心に広がっているため,病院の図書室ばかりではなく,大学医学部図書館との連携・協力が求められている。
著者
井上 奈智
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.8, pp.362-365, 2021-08-01 (Released:2021-08-01)

図書館資料としてのアナログゲームの検索は,現時点では十分な検索ツールは乏しい。また,購入する側も知識が十分でない場合もあるため,先行して導入した図書館のリストに頼ることが現実的であると考えられる。アナログゲームに精通した者であれば,ボドゲーマなど,アナログゲームを検索できるウェブサイトがある。
著者
藤田 節子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.135-140, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)

図書の索引がどのように作成されているのか,その実態を把握するために,学術出版社の編集者へのアンケートとインタビュー調査,および著者へのインタビュー調査を行った。その結果,索引の必要性については,編集者,著者とも認識しているが,編集者は,時間の制約や体系的な索引作成技術の欠如などから,十分な索引編集を行なえない状況にある。一方,著者は,自分の図書の内容については熟知しているが,索引作成の技術や経験が少ない。総じて索引作成が適切に行なわれていない現状が明らかになった。今後,著者や編集者,出版社に対して,索引作成技術の普及やガイドブックの整備が求められる。