著者
平尾 和子
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.2-13, 2021-02-20 (Released:2021-06-01)
参考文献数
56

糖質および糖質を含む食品(糖質含有食品)は,主食や副菜,デザートに広く用いられ,調理には欠かせない素材である.これまで糖質含有食品を対象とし,調理科学的視点からその食品の理化学的性質および利用特性,調理操作により生じる食品の変化の解明などを目的として,第一に,調理の実習で生じた疑問の解明,第二に,新しい糖質素材の理化学的性質や利用適性の解明・提案,第三に,澱粉に対する副材料(糖類,タンパク質,脂質など)添加による相互作用の解明など,大きく三つのテーマについて研究を行ってきた.研究対象とした糖質含有食品は,米,雑穀,タピオカパールなどの粒状食品,粉状の小麦粉や米粉および馬鈴薯,トウモロコシ,キャッサバ,サゴなどの澱粉(天然・加工)およびこれらを用いた加工品,各種糖類など多種多様である.本稿では,これまでの研究のうち,パール状澱粉における新たな調理操作法(ポット法)の確立,大麦混合飯の炊飯条件の基準の提案および各種大麦の利用法,さらにはシェッフェの単純格子計画法を用いた澱粉ゲルに及ぼす分離大豆タンパク質と大豆油の影響の検討および結果を示す三角図の簡易描画法の提案など,研究の一部を紹介する.
著者
三浦 聡子 クロフツ 尚子 保坂 優子 藤田 直子
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.180-187, 2021-11-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
18
被引用文献数
1

我が国では米の消費量が50年前の半分にまで低下しており, 食感が異なる, 機能性を有するなどの特徴を持つ新しい米品種が求められている. 我々は, 主食用米とは食感が異なるジャポニカ系の高アミロース米「あきたぱらり」, 「あきたさらり」および機能性米となり得る高レジスタントスターチ(RS)米「まんぷくすらり」を開発した. 本研究では, これら3品種を用いて胚乳澱粉構造を解析した. また, 加工方法が異なる4種類のサンプルを作成して, 異なる消化時間におけるそれらの消化特性をRSアッセイキットを用いて明らかにした. いずれの品種においても, 生の米粉よりも糊化した米粉の方が, 粒のままの炊飯米よりもすりつぶした炊飯米の方が, 短時間で消化する傾向があった. 生の米粉と粒のままの炊飯米を用いた場合, 「まんぷくすらり」は, 2時間以内に消化される澱粉量が他の品種と比べて半減しており, 16時間経過しても消化されないRS値も有意に高かった. 以上のことから, 他の3品種と比べて見かけのアミロース含量とアミロペクチン長鎖の割合が多い「まんぷくすらり」は, 食後短時間の血糖値の上昇が緩やかになる可能性が高く, 整腸作用も期待できる.
著者
奥田 将生
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.193-201, 2014-08-20 (Released:2018-01-25)
参考文献数
22
被引用文献数
3 1

清酒製造で最も重要な蒸米の酵素消化性に関わる要因を研究した。まず,澱粉の組成や構造が大きく異なった胚乳貯蔵澱粉変異体米を用いて,澱粉の分子構造と蒸米の酵素消化性との関係について調べた。その結果,原料米の澱粉中のアミロース含量とアミロペクチンの側鎖構造が蒸米澱粉の老化と関連があり,その結果蒸米の酵素消化性に大きく影響することがわかった。すなわち,アミロース含量が少ない米ほど,また,アミロペクチンの側鎖が短いほど,澱粉の老化が遅く米が硬くなりにくいため,酵素消化されやすかった。次に,清酒製造に用いられる品種では,アミロース含量にあまり差がないためアミロース含量が酵素消化に及ぼす影響は少なく,蒸米の酵素消化性は主にアミロペクチンの側鎖構造に原因する老化性に従うことが明らかになった。さらに,イネ登熟期の気象データと澱粉特性および蒸米酵素消化性との関係を解析し,アミロペクチン側鎖構造および蒸米の酵素消化性は,イネ登熟期の平均気温と高い相関関係を示すことが明らかになった。この結果から,イネ登熟期の気温によりかなり高い精度で原料米の酵素消化性に関する酒造適性を予測できることが明らかとなった。
著者
伏信 進矢 山田 千早 荒川 孝俊 北岡 本光
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.103-108, 2020-05-20 (Released:2021-06-01)
参考文献数
30

レボグルコサン(LG)はグルカンの熱分解で生じるグルコースの1,6-アンヒドロ糖であり,LG資化性の真核微生物から得られたLGキナーゼとそれを利用した研究は近年大きな進展がみられた.我々は先行研究をもとに細菌Pseudarthrobacter phenanthrenivoransからLG脱水素酵素(LGDH)を取得しその生化学的性質及び構造と機構を明らかにした.LGDHはLGとNAD+に特異的な活性を示し,3-ケトレボグルコサンを生成する酸化反応を触媒することがわかった.さらに,LGDHの結晶構造をNADH及びLGとの複合体を含めて決定することに成功し,その構造的特徴や基質認識,反応機構などを明らかにした.LGを含むアンヒドロ糖はバイオマス燃焼や農産物熱処理などで大量に生じていることから,それらを資化できる微生物とその酵素の研究は近年ますます盛んになっている.今後は,真核微生物由来のLGキナーゼだけでなく,細菌由来のLGDHの利用研究も発展すると期待される.
著者
大沼 貴之
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.15-20, 2016-02-20 (Released:2019-03-18)

キチナーゼに関する研究は,酵素反応によるバイオマスであるキチンの低分子化および生理活性を示すキチンオリゴ糖生産の効率化を目的として,これまで主に微生物が生産するファミリーGH18キチナーゼを用いて行われてきた.その成果として,本酵素が強固な結晶構造をもつキチンをプロセッシブ分解する仕組みの解明や,"基質補助機構"と呼ばれる触媒反応機構を巧みに利用した糖転移反応によるオリゴ糖合成法の確立などが挙げられる.一方植物も構造的に多様なキチナーゼを生産するが,植物由来キチナーゼの構造機能相関およびその有効利用に関する研究はあまり進んでいなかった.本総説では筆者らが植物キチナーゼに焦点を当てて行った以下の研究の成果,(1)GH19キチナーゼ-基質複合体の立体構造の決定およびグライコシンターゼへの変換とそれらを利用したキチンオリゴ糖の化学-酵素合成法の確立,(2)植物クラスVキチナーゼの立体構造の決定と糖転移反応を増強した変異型酵素の開発,(3)キチンに結合性を示すLysMドメインの機能解析,について報告する.
著者
時村 金愛 久米 隆志 藤田 清貴 北原 兼文
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.29-34, 2017-02-20 (Released:2022-10-26)
参考文献数
16

サツマイモ品種「こなみずき」の澱粉製造において,塊根磨砕物のpH を変えて調製した澱粉の白度や粘度特性等を測定し,pH 調整が澱粉の品質に与える影響を調査した.モデル実験では,「こなみずき」塊根を磨砕した磨砕物に水酸化カルシウム[Ca(OH)2] 飽和水溶液を添加してpH を6.4~9.0 の範囲で調整してから澱粉を調製した.無添加のpH 6.4 で調製した澱粉は白度が84.9 であるのに対して,弱アルカリ(pH 7.8~9.0) で調製した澱粉は白度が87.3~88.3 と向上した.一方,RVA による粘度上昇温度は58.4~59.9°C の範囲にあり,また澱粉ゲル(わらびもち) や澱粉糊液の付着性や粘弾性においても大きな変化はなく,pH 調整が澱粉の粘度特性や物性に与える影響は認められなかった.次に,澱粉製造工場における磨砕工程にpH 調整を適用した結果, 塊根磨砕後のpH を8.8 に調整して製造した澱粉は91.7 と高い白度の値を示した.また,磨砕工程でのpH 調整が澱粉の粘度特性に与える影響は小さく,澱粉白度が向上した澱粉はポリフェノール吸着量の目安となるアルカリ着色度の値も低かった.これらのことから,栽培環境のストレスによりポリフェノール含量が高まった「こなみずき」塊根であっても,磨砕工程のpH 調整によって澱粉へのポリフェノール吸着が抑制され澱粉白度を向上できることが明らかになった.
著者
河原 祥太 水田 紘子 吉田 聖一朗 宮本 宜之
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.94-99, 2021-05-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
17
被引用文献数
1

コンドロイチン硫酸(CS)は,長い糖鎖の特定のオリゴ糖配列がタンパク質と相互作用することによって生化学的機能発現を誘導する.そのため,CSオリゴ糖は薬理学的応用が期待され多くの研究がされている.しかし,CSオリゴ糖の大量調製が難しいこととその構造の多様性により単離精製は困難であり,工業的な生産がなされていなかった.本研究では,エイ軟骨抽出物から生産されたCSオリゴ糖を起源とし,サイズ排除クロマトグラフィと陰イオン交換クロマトグラフィを組み合わせることで二糖から六糖までの単一分子量に単離精製されたCSオリゴ糖の大量調製に成功した.また,D-グルクロン酸を両末端に持つ奇数糖,及びN-アセチル-D-ガラクトサミンを両末端に持つ奇数糖の調製にも成功した.最終精製物の構造は,質量分析により決定された.今回単離精製されたCSオリゴ糖により,CS関連研究の飛躍が期待される.
著者
袴田 航 平野 貴子 西尾 俊幸
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.72-78, 2021-05-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
25

糖鎖は細胞内で糖タンパク質・糖脂質などとして存在し,重要かつ多様な生命機能を提供している.それら糖鎖の構築には,多種類の糖加水分解酵素・糖転移酵素が関わっている.ヒト細胞内の主要なオルガネラには複数のexo-型糖加水分解酵素が存在し,その阻害剤は細胞内で糖鎖構造を変化させることにより,免疫機能調節・がん転移制御・抗がん作用・バクテリアおよびウイルス感染抑制と予防効果等を示すため,有望な創薬ターゲットとなっている.これら酵素の阻害剤を開発するためには,ヒト細胞を用いた標的酵素阻害評価系の構築が必要となる.本研究では,ヒト培養細胞を酵素源とし生細胞中の微弱な標的酵素活性を効率的に検出可能な蛍光基質を開発し標的酵素阻害評価系の構築することによって,目的阻害剤の探索を可能とした.本稿では特に小胞体グルコシダーゼ阻害剤がエンベロープウイルスに対して抗ウイルス活性を示すこと中心に述べる.小胞体グルコシダーゼ阻害剤は,薬剤耐性ウイルスの出現回避・ウイルス感染予防薬となりうる宿主標的型抗ウイルス剤に大別される.しかしながら,糖構造を基盤とする既知小胞体グルコシダーゼ阻害剤は,抗ウイルス活性を示すが高い親水性に基づく低い膜透過性の問題があり,問題解決を目指したそれらの誘導体も抗ウイルス薬として上市には至っていない.そのため,既知阻害剤の構造展開といったアプローチではなく,標的酵素の蛍光基質開発,それを用いたヒト培養細胞における阻害剤探索系を構築し,化合物ライブラリより阻害剤探索する方法を採用した.その結果,目的の性質を有するヒット化合物が得られ,その合成法を確立,さらに構造展開を行うことによって,既知阻害剤よりも高い抗ウイルス活性を有する誘導体を得ることができた.
著者
藤井 匡 栃尾 巧
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.66-71, 2021-05-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
26

フラクトオリゴ糖(FOS)は,スクロースにβ-2,1-結合フルクトースユニットが転移したポリマーで,プレバイオティクスとして広く使用されている.特に三糖のFOSであるケストースは,酪酸産生菌などの腸内有用菌を選択的に増殖させるなど,プレバイオティクス機能が特に高いことが報告されている.我々は,ケストースを効率的に生産するために,四糖のFOSであるニストースの副生が抑制されケストースを特異的に生成する酵素の取得を試みた.大腸菌表層提示法を用いてスクリーニングした結果,Beijerinckia indica 由来酵素の変異体BiBftA H395R/F473Yがケストースを特異的に蓄積した.特にH395Rが重要な変異であり,ケストース以上の長鎖が生成することを抑制し,かつスクロースが糖転移せずに分解することをも抑制していると考えられた.反応のタイムコースを確認した結果,BiBftA H395R/H473Yによってスクロースの44%程度がケストースに変換され,このときニストースの副生は1%程度に抑制されていた.この改良酵素は,ケストース結晶の飛躍的生産コスト削減と生産効率向上に寄与すると考えられた.
著者
安東 竜一 影嶋 富美 高田 正保 中村 保典 藤田 直子
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.168-174, 2015

米澱粉における変異遺伝子と澱粉の利用特性との相関を解明することを目的として,既報のモチ性変異体米系統に続き,澱粉生合成関連アイソザイム(スターチシンターゼIIIa(SSIIIa),SSIVb,枝作り酵素IIb(BEIIb))が欠損したウルチ性変異体米系統(<i>ss3a</i>, <i>be2b</i>, <i>ss3a</i>/<i>ss4b</i>, <i>ss3a</i>/<i>be2b</i>)から得た澱粉の食品への利用特性について分析し,ウルチ性の野生型である日本晴と比較した。日本晴≪<i>be2b</i><<i>ss3a</i>≪<i>ss3a</i>/<i>ss4b</i>≒<i>ss3a</i>/<i>be2b</i>の順で糊化・膨潤し難い物性を示し,特に二重変異による糊化・膨潤の抑制が顕著であった。be2bの消化率は,未糊化状態では48.4%と難消化性を示したが,糊化状態では日本晴と同等であった。鶏唐揚げ衣への利用適性評価では,日本晴と比較して,変異体米澱粉の食感は調理直後では好ましかったものの,保存後では劣る傾向にあった。しかしながら,澱粉にまで精製せずに,米粉として用いることで,二重変異体米において保存後の食感が改善された。