著者
夏秋 優
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.2-11, 2020-03-25 (Released:2021-10-21)
参考文献数
12

昆虫による皮膚炎は,昆虫由来の毒成分や唾液腺成分に対する刺激性炎症反応,あるいはアレルギー性炎症反応によって生じる.本稿では有害昆虫の中で,刺咬性昆虫であるハチ類やアリ類,サシガメ類,吸血性昆虫であるカ類,ブユ類,ヌカカ類,アブ類,ノミ類,トコジラミ,そして接触性昆虫である毛虫類,甲虫類について概説した.そしてこれら有害昆虫による皮膚炎の治療や予防対策についても述べた.
著者
関根 一希 渡辺 直 東城 幸治
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.119-131, 2020-12-25 (Released:2021-10-21)
参考文献数
65

Ephoron of polymitarcyid mayflies in East Asia includes three species, E. shigae, E. limnobium, and E. eophilum, but the former two species are not separated on their molecular phylogenetic trees. All-female automictic parthenogenetic reproduction is known only in Japanese E. shigae in which bisexual and unisexual populations are distributed across Japan without any clear biogeographic boundaries. Population genetic structure studies show the parthenogenetic origin occurred only once in western Japan and then expanded all over Japan. In some rivers, both reproductive types coexist, and parthenogenetic females occupied the population within 20 years after unisexual introduction. Ephoron shigae has univoltine life cycles, and adults emerge synchronously in early autumn in bisexual or unisexual populations. It is a future problem for this ecologically interesting mayfly to inhabit the same rivers with both reproductive types.
著者
中村 剛之
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.121-130, 2016-07-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
7

昆虫の形態をスケッチする方法を鉛筆による下書きから,インクを使ったペン入れ,仕上げまで手順を追って解説した.スケッチは観察した内容を人の頭の中で咀嚼し,その内容を紙の上に描き写したもので,写真のような単なる色や明るさの転写とは大きく異なる.見えるものを見えた通りに描くのではなく,描き方を工夫することで写真ではとらえにくい構造を人に伝わりやすい形で描くことができる.これがスケッチの利点であり,面倒を排して図を描く意義である.
著者
武藤 将道 吉井 重幸 塘 忠顕
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.18-24, 2022-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
16

We report the distribution, infestation, and feeding plants of the alien longhorn beetle Apriona swainsoni swainsoni (Hope, 1840), recently discovered from Fukushima Prefecture, Japan, which is a serious pest of Styphnolobium japonicum in China. We found a specimen collected at Sukagawa City in 2014, suggesting that this species was introduced in Japan by 2014 at the latest. In some areas of Sukagawa and the adjacent Koriyama Cities, where A. swainsoni swainsoni has been found, S. japonicum and Maackia amurensis, which are planted as a roadside tree, especially the latter, have been infested by this alien species. Additionally, in captivity, we found that A. swainsoni swainsoni can eat two native Fabaceae species, Lespedeza bicolor and L. homoloba, which are widely distributed from hilly to montane areas in Japan. It is necessary to consider whether A. swainsoni swainsoni will be expand its distribution in Japan.
著者
永幡 嘉之 越山 洋三 梅津 和夫 後藤 三千代
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.104-112, 2013-04-05 (Released:2018-09-21)

電柱から回収されたカラスの巣から,ハナムグリ亜科の空の土繭2個と幼虫の死体1個体を発見した.この昆虫種および巣の持ち主の鳥種を同定するため,土繭の中に残っていた蛹殻,幼虫の死体,および巣材からDNA試料を抽出した.昆虫種については,ミトコンドリアDNAのCOI領域を分析対象とした.まずコウチュウ目用のユニバーサルプライマーセットを用いてPCRを行い,その後ダイレクトシーケンス法でPCR産物の塩基配列779bpを決定することで種同定した.鳥種については,ミトコンドリアDNAのチトクロームb領域を分析対象とした.ハシブトガラス,ハシボソガラス,ミヤマガラスの各種に特異的なプライマーと全種に共通なプライマーを用いてPCRを行ったのち,そのPCR産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い,増幅されたバンドの鎖長でカラスの種類を判定した.その結果,土繭と幼虫の死体の計3個体は全てアカマダラハナムグリであり,巣の主はハシボソガラスであることが判明した.また,これらのアカマダラハナムグリ3個体で2つのハプロタイプが識別されたことから,少なくとも2個体のメス成虫がこの巣に産卵したことがわかった.アカマダラハナムグリは,これまで猛禽類など動物食性鳥類の比較的大型の巣内で幼虫が腐植土や雛の食べ残しを餌として発育することが知られていたが,雑食性で比較的小さい巣を作るハシボソガラスの巣も繁殖資源として利用していることが,今回はじめて明らかとなった.
著者
中山 裕人
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.67-74, 2007-12-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
14

従来,日本では北海道と本州から知られていたヒメシカシラミバエを北部九州の犬鳴山系で発見した.本種は九州から記録される唯一のシカシラミバエ類の種である.2004年から2006年にかけての犬鳴山系の調査で本種有翅成虫が多数採集されたが,犬鳴山系には約700頭のニホンジカが生息しており,ヒメシカシラミバエはニホンジカに寄生していると思われた.ヒメシカシラミバエ有翅成虫は犬鳴山系では5月から12月に現れたが,これは本州の既産地に比べると出現終了期が遅く,結果的に長い出現期間だった.本州ではヒメシカシラミバエに加えてクロシカシラミバエが同所的にニホンジカに寄生しているが,ヒメシカシラミバエ有翅成虫は春から秋に出現する一方,クロシカシラミバエ有翅成虫は晩秋から初冬に出現している.犬鳴山系でヒメシカシラミバエ有翅成虫が晩秋から初冬にかけても現れていたのは,犬鳴山系にはクロシカシラミバエが生息していないため,ヒメシカシラミバエとクロシカシラミバエの生態的競合がないからではないかと推察された.また,ヒメシカシラミバエ有翅成虫はしばしば捕虫網の外側に飛来したが,捕虫網の色が白でも青でも飛来傾向に差は認められなかった.加えて,ヒメシカシラミバエは,ヨモギの葉を入れたシャーレ中で120〜135時間(丸5日以上)生きた個体がいたことから,羽化後未吸血のまま5,6日生きる個体も存在しうることが示唆された.
著者
野間 健吾 西村 知良
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.58-65, 2023-06-25 (Released:2023-06-28)
参考文献数
28

移入種であるカメムシ目カメムシ科キマダラカメムシの地理的分布やその拡大を理解するためには生活史を詳しく知ることが重要である.そこで2020年4月から2021年4月まで神奈川県藤沢市のサクラ類36個体とカツラ11個体に見られる個体数を月に2回の頻度で測定し季節消長を調べた.どちらの木でも1齢幼虫は6月に,2齢以上の幼虫は6月から9月に見られた.成虫は5月から10月に見られたが,その個体数には越冬世代の出現と思われる6月の小さなピークと第1世代の羽化と思われる9月の大きなピークが見られた.このことから調査地では成虫で越冬する年1化の生活史だと考えられた.また1齢幼虫と成虫の個体数のピークの間をふ化から羽化までの期間として成長期間を推定すると約90日だった.国外の個体群の生活史には,高緯度に見られる年1化性から低緯度の多化性まで存在することが知られている.年間世代数で見れば,国内の個体群は高緯度地域の国外個体群に由来する可能性がある.またこれまで寄主植物として知られていなかったカツラにおいて幼虫は成長可能であることが分かった.
著者
吉澤 和徳
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.112-120, 2016-07-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
61

Current understanding of the phylogenetic placement and higher-level systematics of the order Psocodea (“Psocoptera”+Phghiraptera) was reviewed. Recent molecular phylogeny and phylogenomics placed Psocodea to the sister of the Holometabola, but those studies could not reject the monophyly of Paraneoptera (Psocodea +Condylognatha) statistically. Therefore, monophyly of Paraneoptera, as strongly suggested morphologically, remains a well-founded and highly likely hypothesis. Monophyly of the Psocodea and the placement of Phthiraptera within the “Psocopteran” suborder Troctomorpha are well established morphologically and molecularly. Monophyly of all“Psocopteran” (Trogiomorpha, Troctomorpha including Phrhiraptera, and Psocomorpha) and Phthirapteran (Amblycera, Rhynchophthirina, and Anoplura) suborders is also well supported morphologically and molecularly, but monophyly of the Phthirapteran suborder Ischnocera is controversial.
著者
杉本 美華
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-15, 2009-03-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
26

日本には約50種のミノガ科の種が生息しており,成長した幼虫の携帯型の巣筒であるミノは大きさや概形,表面に使われる素材等の特徴で属あるいは種までの同定が可能である.成虫が脱出後の空になったミノの保存性が高いことから,ミノによる種の同定によって過去の生息範囲を推測することができる.一方,若齢幼虫期のミノは,形態が単純で種の特徴が十分現われていないために正確な同定は期待できず,これまで主に中齢幼虫期から終齢幼虫期のミノが同定に用いられた.しかし,日本産のミノガについて,このような識別形質を含むミノの形態の詳細な記載とその比較はこれまでほとんど行なわれてこなかった.そこで本研究では,ミノの形態から属あるいは種の同定を容易にすることを目的として,日本産ミノガ科23属30種について,成長した幼虫あるいは終齢幼虫のミノの写真を示し,その形態的特徴と蛹化状況を記述するとともに,これまで発表されていなかったミノによる種や属の検索表を,2論文に分けて発表する.第1報では原始的な小型ないし中型種の中で比較的普通な13属19種について記載を行なった.その結果,ミノの本体は円筒形,紡錘形,円錐形または管状で,表面には種特異的な被覆物がつけられていた.中齢ないし老齢幼虫期のミノは,種や属を同定するための有効な特徴を備えていた.
著者
井上 大成
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.211-229, 2018-12-25 (Released:2019-12-25)
参考文献数
58

茨城県つくば市の森林総合研究所において,1997年から2016年まで,固定した3,300 mのルートに沿って歩行し出現したチョウの種と個体数を記録するトランセクト調査を行った.20年間で63種21,699個体が記録された.各年の4~11月までの調査で記録された総種数は36~43種で,このうち森林性種は21~28種,草原性種は13~18種であった.同様に各年の個体密度(調査1回あたりの個体数)は39.9~91.1個体で,このうち森林性種は8.1~25.0個体,草原性種は27.3~66.1個体であった.草原性種の種数,全種の個体密度および草原性種の個体密度は,年を追って有意に増加した.季節別には,4月,5月,6月,9月,10月の種数,4月,5月,6月,7月,10月の個体密度が年を追って有意に増加した.また全種の個体密度および草原性種の個体密度と,積算温度との間には有意な正の相関が認められた.最優占種は常にヤマトシジミであったが,その優占率は調査の初期よりも後期で低くなった.ヤマトシジミ以外に,10位までの優占種となった回数が10回以上と多かった種は,サトキマダラヒカゲ,モンシロチョウ,キタキチョウ,キタテハ,ベニシジミ,ウラギンシジミ,ジャノメチョウ,イチモンジセセリ,ツマグロヒョウモンであった.調査期間中に個体数が有意に増加したと考えられる種は13種(ツマグロヒョウモン,キタキチョウ,ジャノメチョウ,ベニシジミ,ヒカゲチョウ,ムラサキシジミ,モンキチョウ,ツバメシジミ,メスグロヒョウモン,ナガサキアゲハ,ムラサキツバメ,アカボシゴマダラ,ヒオドシチョウ)で,有意に減少したと考えられる種は8種(ヒメジャノメ,アオスジアゲハ,クロアゲハ,キアゲハ,コムラサキ,キマダラセセリ,トラフシジミ,ゴイシシジミ)であった.多様度指数(H′と1−λ)はそれぞれ2.057~3.710と0.466~0.836,均衡度指数J′は0.387~0.702で,森林性種と草原性に分けた場合,草原性種ではこれらの指数の値が年を追って高くなる傾向があった.密度と多様度指数との関係は,1990年代頃の「低密度・高多様度」から,2000年代頃の「中密度・低多様度」を経て,2010年代頃の「高密度・高多様度」の状態へと移行してきた.個体数が増加した種には,移入種以外では高茎草原・疎林を生息地とする種が多いことから,近年の「高密度・高多様度」は,草刈り頻度の低下および場所による草刈り時期のばらつきと,薬剤散布の中止によってもたらされていると考えられた.
著者
利光 花菜美 林 大祐 矢野 文士 細石 真吾 徳田 誠
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.87-94, 2022-09-25 (Released:2022-09-29)
参考文献数
19

Ants play an important role in forest ecosystems in terms of biomass and various biological interactions, but non-destructive continuous observation of colonies is difficult for species nesting in trees. During the investigations of forest arboreal small mammals using wood nest boxes between January and December 2021, nestings of Camponotus kiusiuensis Santschi were observed at high frequencies in a census site on Mount Kyougatake, Saga Prefecture, Kyushu, Japan. We surveyed the nesting site preference of C. kiusiuensis and conducted monthly observations of colony compositions from spring to winter. Among three types of nest boxes, small (500 cm3), medium (1,000 cm3), and large (2,000 cm3), C. kiusiuensis nested in the large nest boxes at significantly higher frequencies. Although the nest boxes were either set at low (1.5–2.0 m high) or high (3.5–4.0 m high) positions of trees, no significant differences were detected in the nesting sites between them. The number of colonies was the highest in April and it gradually decreased from spring to autumn. In the nest boxes in which colonies of C. kiusiuensis were continuously observed until autumn, the developmental stages of immature individuals inside were almost uniform: larvae were observed from April to June, pupae in July, and many adults including males and new alate queens were found in August and September. No or very few ant individuals were observed in October and November, suggesting that workers moved the larvae to other places in late autumn. Based on our observations, the arboreal nest boxes seem not to be suitable sites for overwintering.
著者
片山 栄助
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.57-68, 2008-06-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
20

ミカドアリバチはマルハナバチ類の前蛹や蛹の外部捕食寄生者で,ときには寄主のコロニーを崩壊させる重要な天敵である.2003年9〜10月に栃木県大田原市で,室内飼育によって本種の産卵習性を観察した結果,本種のメスは寄主繭の外部から針を突き刺して,繭内の寄主体表に卵を産下することが明らかになった.次の4点について観察結果を記述し,他種との比較考察を行った.1)継続観察に基づくメスの産卵行動,2)寄主体表での卵の産下位置と卵の付着状況および卵の形態,3)産卵時の寄主麻酔の有無と産卵された寄主の発育との関係,4)ミカドアリバチの針の形態.これらの観察結果および既知種での卵排出の観察記録から,ミカドアリバチにおける寄主体表への卵の産下過程は次のように考えられる.メスは針鞘で寄主の繭層を貫通し,針鞘を左右に開く.針を伸ばして寄主体表をさぐり,寄主を刺して麻酔する.生殖口から排出された卵は針の下面にある浅い溝状の窪みに接して下降し,先端まで滑り下りると寄主体表に軽く付着する.
著者
二見 恭子
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-29, 2001-03-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
24

アマギエビスグモを材料として, 母親の保護が卵嚢の生存におよぼす効果と, 母親自身が保護中に受けるコストを定量化した.1) アマギエビスグモの雌は葉を折り曲げて作った卵室内で卵嚢を保護する.2) 雌を卵嚢から取り除くと, 卵嚢の生存率は大きく下がった.雌を取り除いた卵嚢の死亡原因は, ほとんどが捕食によるものであった.高い捕食圧がアマギエビスグモの雌の卵嚢保護行動を維持していると考えられる.3) アマギエビスグモの雌は, 卵嚢を保護することで体重を有意に減少させ, 10日間の保護前後の体重差は約11%であった.
著者
上田 恭一郎
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.59-69, 2018-03-05 (Released:2019-10-08)
参考文献数
8
被引用文献数
1

明治以降の日本の博物館の歴史を振り返ると,教育・展示部門に主力を置いた教育博物館としての役割が顕著であり,資料収集,保存・整理,研究,教育・展示といったバランスのとれた博物館活動を18世紀末には確立した欧米の博物館の歴史とは異なることが指摘される.欧米の博物館が昆虫学の発展へ貢献してきたことは,1)歴史的標本の保存機関,2)分類学を支える保存機関,3)研究された資料の保存機関,4)収集資料の研究機関,5)展示・教育機関といった形でまとめられるが,日本の博物館ではこれまで不十分であった.その原因は主に資料が十分に収集されてこなかったことにあるが,高度経済成長の時代を経て,国内外での資料収集活動が活発化し,国内に多くの実物資料・文献が保存されるに至った.組織的にも博物館の活性化は進み,国立科学博物館の充実,地方での大型館の建設,大学博物館の新設が相次いだが,現場スタッフ数の少なさ,依然として展示に重きを置くことに主因がある狭隘な収蔵庫の問題は残っている.他方ネット環境の充実は,国内外での研究協力体制を刷新し,博物館においても研究に関する多くの情報が入手しやすくなった.上述した昆虫学の発展への貢献が日本の博物館においても期待される時代を迎えたと思われる.