著者
菅 みゆき 福島 成樹 山下 由美 遊川 知久 徳田 誠 辻田 有紀
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.167-174, 2018-09-25 (Released:2019-10-10)
参考文献数
18

千葉県山武市の調査地においてラン科植物を食害するハエ類の調査を行った.まず,植物の種によって加害するハエの種が異なるかどうかを検証するため,6種のランより果実や花茎を採集し,内部に寄生するハエ類を比較した.次に,季節によってハエの種が異なる可能性を検証するため,ランの開花時期である春(5月)から夏(7月)にかけて採集されたハエ類の比較を行った.クマガイソウより得られた成虫標本は,ランミモグリバエと同定された.また,ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子領域の配列を用いた分子同定の結果,様々なランより5~7月にかけて採集されたハモグリバエサンプルの配列は,ランミモグリバエの配列とほぼ一致した.このことから,本調査地ではランミモグリバエが様々なランを食害しており,季節によりハエの種に変化はないと考えられた.また,本研究では3種のランについて果実内に見られたハエの発育段階を約2週間おきに観察し,幼虫および囲蛹期間の推移状況を明らかにした.キンランとクマガイソウ果実の被害が大きく,個体群維持のため,ランミモグリバエの防除が必要であると考えられた.
著者
菊地 波輝 小西 和彦
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.165-170, 2022-12-25 (Released:2022-12-25)
参考文献数
10

Stenichneumon Thomson, 1893 comprises 23 species in the Holarctic, Oriental, and Neotropical regions. In Japan, five species, S. culpator iwatensis Uchida, 1926, S. militarius naironis Uchida, 1926, S. nigriorbitalis Uchida, 1930, S. odaiensis Uchida, 1932 and S. posticalis (Matsumura, 1912) have been recorded. Here, we report new host records, S. culpator iwatensis emerged from pupa of Autographa nigrisigna (Walker, 1858) and S. posticalis emerged from pupa of Ctenoplusia agnata (Staudinger, 1892). The latter host was collected as larva, and this is the first information on the host life stage attacked by this genus. New distributional records are S. nigriorbitalis from Shikoku and S. odaiensis from Hokkaido. In addition, we provided an identification key to Japanese species of the genus.
著者
田中 幸一 浜崎 健児 松本 公吉 鎌田 輝志
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.189-199, 2013-10-05 (Released:2018-09-21)

鯉淵学園農業栄養専門学校構内(茨城県水戸市)において2004年に,水生生物の生息地を提供することを目的として,水路および池から成る面積1,500m^2のビオトープが造成された.このビオトープの生物の生息地としての機能を評価するため,2006〜2011年に,トンボ目成虫および水面・水中の水生昆虫(コウチュウ目およびカメムシ目,トンボ目幼虫)の調査を行った.トンボ目成虫は合計9科31種,水面・水中の水生昆虫は少なくとも41種が確認され,本ビオトープが水生昆虫の生息地として好適な環境であると考えられた.トンボ目成虫,水面・水中の水生昆虫の種数は,2007年までは増加したが,2008年には減少した.この減少の原因として,池や水路の底に泥が堆積し水生昆虫にとっての生息環境が悪化したことが考えられたため,浚渫を行った.浚渫後には,トンボ目成虫および水生昆虫の種数は回復した.これらの結果から,ビオトープ造成後の水生昆虫種数の変化とその要因およびビオトープの管理について考察した.
著者
小出 哲哉 山田 佳廣 山下 文秋
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.18-24, 2008-03-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
27

コマルハナバチ創設女王を誘引し,営巣させるための簡単で効率的な誘引巣箱を考案した.この誘引巣箱は,段ボールから作り,その中に木綿綿を入れた.野外に設置した15巣箱のうち53.3%が創設女王によって利用された.綿をちぎったり,綿に穴を開けたり,あるいは糖蜜や花粉を加えても営巣率に有意差はなかった.外部からの侵入者による破壊がないと,巣箱に作られた86%のコロニーが新女王を産出した.
著者
立田 晴記 坂巻 祥孝
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.194-205, 2011-07-05 (Released:2018-09-21)

近年の幾何学的形態測定学の発達によって,生物の形態的特徴を「シェイプ」と「サイズ」に明確に区分して解析できるようになり,多数の標識点間の相対的な位置関係の変異(歪み)も評価できるようになった.そのため,従来検出が難しかった微妙な形態の違いや部分的な形態の歪みなどを量的に検出する精度が飛躍的に向上した.ここでは利用頻度が高い 1)多変量形態測定学,2)標識点の配置に基づく形態測定学,3)輪郭記述法の特徴を大まかに解説し,特に利用価値が高いと考えられる昆虫およびクモ・ダニ類を材料とした近年の幾何学的な標識点測定法と輪郭記述法の研究例を総説した.
著者
中嶋 智子 中尾 史郎
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.95-105, 2022-09-25 (Released:2022-09-29)
参考文献数
29

南アジア,東南アジア,東アジア,オセアニア地域に広く生息する放浪種のミナミオオズアリPheidole fervens Smith, 1858は,日本国内では,南西諸島から九州南部に連続分布している.京都市で2020年にミナミオオズアリを採取したので,本州初記録として報告するとともに,本種の現在の生息状況と2016年以降の発見場所周辺の調査資料から本種の侵入定着の時期を推定し,同時に在来アリへの影響を明らかにした.2016年から2019年に実施した調査では26種のアリ類が採取されミナミオオズアリの採取はなかったこと,ミナミオオズアリは2020年9月に97個体,2021年10月に457個体とわずか30分間の砂糖水ベイト誘引でメジャーワーカーを含む多数のワーカーが採取されたことから,侵入定着時期は2019年から2020年初頭と推定した.2021年11月下旬と12月中旬に実施した調査では,陸続きである南北方向に約100 m拡がっていたことから本種の分布拡大速度は2年間で約50 mと予想した.この調査で15種2150個体のアリを採取し,ミナミオオズアリ侵入区とその周囲の非侵入区に分けアリ相を比較し,ミナミオオズアリ侵入の影響をみた.侵入区でミナミオオズアリは,他のアリ種に比べ62 %と最も高い採取率を示し,採取個体数も総採取アリ数の66 %と,すでに優占種であった.侵入区では,在来の普通種のトビイロシワアリTetramorium tsushimae Emery, 1925の平均採取個体数は非侵入区の1 %と少なく,クロヤマアリFormica japonica Motschoulsky, 1866は採取されず,ぞれぞれの採取率はミナミオオズアリの存否で差異が認められたことから,これらとミナミオオズアリが置き換わる可能性も示唆された.一方,オオズアリP. nodus Smith, 1874は,その生息適地に重なるミナミオオズアリの分布域では,ミナミオオズアリと同所的に生息し,オオズアリの存否では平均採取個体数と採取率には差異はみられず,本種の侵入による影響は小さいと考えられた.また,ミナミオオズアリに先んじて侵入定着しているケブカアメイロアリNylanderia amia(Forel, 1913)では,その平均採取個体数と採取率が侵入区で2.7個体と29%,非侵入区で2.1個体と29%と同程度の値を示し,侵入区と非侵入区で採取率に差異がなく,本種の侵入影響は明確ではなかった.
著者
寺山 守 砂村 栄力 藤巻 良太 小野 高志 江口 克之
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.55-59, 2022-06-25 (Released:2022-06-29)
参考文献数
25

The invasive ant Technomyrmex brunneus Forel, 1895 originally distributed in tropical Asia, in late years has invaded the island of Hachijo-jima in Tokyo Prefecture. On this island the population of T. brunneus shows high-density in residential areas, causing serious problems as a household pest. During a preliminary survey carried out in 2017, this species was found to be present in all the five settlements of the island, with high density in four of them. Therefore, in order to confirm the invasion fronts in the island, we conducted a time-unit sampling in the autumn of 2020. We sampled along the coastal perimeter road as well as the mountain roads and trails toward Mt. Nishi-yama and Mt. Higashi-yama. The result of our survey shows that T. brunneus is widely distributed along the coastal road. On the other hand, at the foot of Mt. Nishi-yama and Mt. Higashi-yama, it occurs only near the entrances of the mountain roads and trails, while the inner forests have not yet been invaded.
著者
柴田 愛 渡邊 和彦 吉尾 政信 石井 実
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.59-69, 2002-09-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
44

モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora Boisduval)の成虫の日周活動を25〜28℃14L-10Dの実験空間(290×320×高さ240cm)において観察した.天井には40Wの白色蛍光灯32本を設置し, 床面中央の照度を約2, 000lxに保った.床面には人工芝を敷き, 蜜源や休息のための植物, キャベツなどを配置した.実験は3シリーズ行ない, それぞれ雌10個体(雌区), 雄10個体(雄区), 雌雄各5個体(雌雄区)を放飼して3日間ずつ行動を観察した.(1) 飛翔および吸蜜活動については, すべての区で明期開始から約2時間は活性が低く, 5〜9時間目に高まり, 明期終了前約2時間は活性が再び低くなる活動リズムが観察された.(2) 飛翔に費やす時間は雄区で最も長く, 雄区・雌雄区ともに雄の探雌飛翔は明期の前半に長い傾向が認められた.(3) 雌区では明期を通じて植物に静止している個体が多く, 雌雄区の雌は短い飛翔を繰り返した.(4) 産卵活動は明期の前半に多く見られたが, 雌雄区の雌では, 明期終了直前にも産卵と吸蜜活動に小ピークが見られた.(5) 「はばたき反応」は, 雄区では明期後半に多く見られたが, 雌雄区の雄ではほとんど見られなかった.(6) すべての区において, 雌雄ともに明期終了前に植物に静止する行動が見られたが, これは植物を寝場所とするためと考えられた.(7) これらの結果から, モンシロチョウ成虫の活動は, 温度や光周条件などさまざまな環境条件が保たれた空間でも一定の日周性を示すが, 同性間, 異性間の個体間干渉によって変化することが示唆された.
著者
渋谷 園実 桐谷 圭治 村上 健 深谷 緑 森廣 信子 矢島 民夫 福田 健二
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.95-103, 2015-10-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
32

地表徘徊性甲虫のクロツヤヒラタゴミムシは,日本全国および東アジアに広く分布し,森林的環境に多く出現する.樹木の伐採や笹薮の刈り払いの後にクロツヤヒラタゴミムシの個体数が顕著に増加した例があり,本種の生息地変化に対する鋭敏な反応がうかがえたが,今後環境変化の指標種として活用していくためには,本種の生態的特質,とりわけ食性の解明が必要である.そこで,千葉県柏市の大青田の森(100 ha, 35°54’ N, 139°55’ E)で2012年の春期(5月~7月)と秋期(10月~12月)にピットフォールトラップで捕獲した1,273個体のうち112個体を解剖し,消化管内容物の顕微鏡観察を行った.112個体のうち,83個体から定型物が検出され,多種の節足動物を捕食していることがわかった.また同一個体から複数種と思われる餌生物の体片が検出されたことから,一度に様々な種類の餌を食べていることがわかった.本種は広食の捕食者(generalist predator)であり,数mm程度の小型の餌を丸飲みか噛み砕く程度で捕食していると考えられる.また複眼や2本爪が多く検出されたことから昆虫類の成虫も捕食していると考えられる.一方,種まで同定できたホソムラサキトビムシなど,トビムシ類は11個体から検出された.以上のように,消化管から餌の完全個体,あるいは定型の体片が検出できたので,解剖は本種の食性を推定する有効な手段であると考えられた.
著者
綿引 大祐 吉松 慎一
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.49-55, 2017-04-05 (Released:2019-04-05)
参考文献数
16

ツツジ類の害虫として知られるベニモンアオリンガEarias roseifera Butlerの幼虫が,Exobasidium属菌によって引き起こされるツツジ類もち病の菌えいとその表面に生じた白色粉状の子実層を摂食する様子を野外および屋内の飼育下において観察し,本種の菌食性とえい食性を確認した.野外における記録:埼玉県ふじみ野市大井と鹿児島県屋久島町安房において,ツツジ類もち病の菌えいから合計3個体の若齢・中齢幼虫を採集した.いずれの地点においても中齢幼虫は肥大して丸まった菌えいの内側に静止,あるいは組織内部へ食入しており,菌えいには内側と外側(表と裏)の両面に生じた子実層をかじり取るように摂食した跡が残っていた.屋内における記録:屋久島町宮之浦より得られた1雌成虫から採卵・ふ化した幼虫を用いて簡易飼育実験を行った結果,菌えいと子実層のみを餌資源として全ステージを完了できることが明らかとなった.その場合,若齢幼虫期は菌えいの組織内部に食入・成長し(えい食性),中齢幼虫期以降は組織外へと完全に脱出,菌えいの表面に生じた子実層を積極的に摂食することも判明した(菌食性).さらに,茨城県つくば市で得た1個体の終齢幼虫を用いて行った60分間の低速度撮影からは,本種が菌えいの表面に生じた子実層を積極的に摂食している様子が鮮明に観察された.なお,通常本種はツツジ類の新芽や花芽の基部側面に穴をあけて植物体の組織内部へ食入・食害することが知られているが飼育下でも同様の習性を観察でき,それはほとんどが若齢幼虫によるものであることが分かった.今回の実験においてベニモンアオリンガの幼虫は,寄主植物の葉茎と菌えい,および菌類の子実層を摂食し,特に中齢~終齢幼虫が積極的に子実層を摂食していた.チョウ目の菌食性は,様々なグループで派生的に繰り返し生じたものであるとされており,今回明らかになった本種の食性は,植食性から完全な菌食性へと移り変わる進化段階を示している可能性もある.
著者
横田 智 山尾 僚 鈴木 信彦
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.252-263, 2012-10-05 (Released:2018-09-21)

ワーカー多型の進化とその生態学的意義を解明するために,ワーカーに二型(メジャーおよびマイナーワーカー)がみられるオオズアリの分業体制を定量的に解析すると共に,メジャーの重要性が高い餌条件下で,カースト比やメジャー形態の可塑的変化が生じるのかを検証した.室内でサイズの異なる餌(大きい餌:フタホシコオロギ成虫,小さい餌:大きい餌を凍結粉砕したもの)を与え,餌場に現れたワーカーの個体数やメジャー比,行動様式,餌の解体の有無などを観察した.大きな餌を与えた場合,メジャーが餌場に多く現れ,マイナーが運搬行動に従事し,メジャーが解体行動に従事するという明確な分業がみられた.メジャーがいるコロニーでは,ほとんど場合餌が解体されたのに対し,メジャー不在のコロニーでは解体が生じたのはわずかであり,いずれも女王によるものであった.63日間,大きな餌を与えたコロニーと小さな餌のみを与えたコロニーのメジャー比及びメジャーの頭幅を比較したところ,メジャー比には違いはみられなかったが,頭幅には餌の大きさに相関した違いが生じた.腹部に栄養を貯蔵したメジャーがいるサブコロニー,貯蔵していないメジャーがいるサブコロニー,メジャーがいないサブコロニーをそれぞれ飢餓条件に置いて生存率を記録した結果,貯蔵したメジャーがいるコロニーが最も生存期間が長かった.以上の結果から,オオズアリの採餌におけるワーカーの明確な分業体制とメジャーによる食物貯蔵機能が明らかになり,メジャー形態の可塑的変異も確認された.メジャーカーストは餌の解体や栄養貯蔵に重要な役割を担っており,餌資源の獲得や維持に大きく貢献していると考えられた.
著者
末吉 昌宏
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.85-100, 2018

<p>シイタケ栽培地域の植生がキノコバエ類群集に及ぼす影響を明らかにするため,森林内の植生とキノコバエ類群集を調査した.また,菌床栽培施設のキノコバエ類群集を森林内のそれと比較した.大分県日田市内の菌床栽培施設3ヶ所,スギ・ヒノキ林9ヶ所(ホダ場3ヶ所を含む)および広葉樹林8ヶ所(ホダ場2ヶ所を含む)を調査地として,林内調査地の各所に10 m四方の1方形区を設置した.方形区内の胸高直径50 mm以上または樹高2 m以上の樹木の種と幹数,腐朽木体積,林床被度を記録した.マレーズ式トラップなど6種類の方法で採集されたキノコバエ類の属を単位とした非計量多次元尺度法による群集解析の結果は森林内の樹種構成や腐朽木量によってキノコバエ類群集が異なることを示した.原木シイタケ害虫であるナカモンナミキノコバエの分布はスギ・ヒノキ林ホダ場に集中していたため,生産現場で効果的に防除を行うことで被害が軽減すると考えた.森林内の根返りはシイタケトンボキノコバエの生息場所となっている可能性があるため,根返りが多く発生している林分に隣接する生産現場は警戒を要する.</p>
著者
村田 浩平 土屋 守正 増島 宏明
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.75-87, 2007-12-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
18

太平洋上空を浮遊する昆虫相に関する調査をこれまで報告例のない1月から3月にかけて東海大学海洋調査実習船望星丸により1999年,2002年,2003年の3航海実施するとともに,独立行政法人海洋研究開発機構が運行する海洋地球研究船みらいにより2005年に1航海実施し,以下のような結果を得た.1.全航海で得られた海上を浮遊する空中移動性昆虫の目別個体数は,多い順にハチ目,ハエ目,カメムシ目,チャタテムシ目,アザミウマ目,コウチュウ目であり,そのほとんどが体長1mm前後の微小な昆虫であった.2.得られた昆虫の個体数は,主な分散源と考えられるオーストラリア大陸やニューギニア島近海で多かった.また,陸地から400km以上離れた海上で得られることもあったが,多くが陸地から数十キロ以内で得られた.3.海洋上空で昆虫が得られる条件として,最も近い島から風が吹いていること,海洋上空で昆虫が得られる傾向が見られた.また,風速との関係では無風時,強風時には得られない傾向が見られた.4.航路によって得られる昆虫の個体数には違いが見られ,日本から南東への往復航路では他の航路に比べて少ない傾向が見られた.5.イチジクコバチ科の1種は,ニニーゴ島沖120kmの海上で得られ,コバチ上科の1種,アザミウマ科の1種は,ニューギニア島から40km離れた海上で生存状態で得られていることから,これらの種は,島嶼間を分散する可能性があることが示唆された.6.港に停泊中に得られた昆虫の目構成は,海洋上空とは異なり,ハエ目,カメムシ目,ハチ目の順で多く,環礁で少なく火山島で多い傾向が見られた.7.甲板では,アカアシホシカムシ,ヒメアケビコノハ,トゲハネバエ科の1種,ツヤウミアメンボ,ハネアリなどが得られ,これらは海洋島が点在する海域では,島嶼間を分散する能力を持つことが示唆された.
著者
初宿 成彦
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.205-211, 2012-10-05 (Released:2018-09-21)

気象台が記録している初鳴日と日平均気温に基づき,大阪市内の36年間(1976〜2011年)のクマゼミ成虫発生量の年変動を推定した.クマゼミは1980年代初めに増加し,現在まで多い状態が続いている.発生量には明瞭な周期性は見られなかった.