5 0 0 0 OA 漢方と温泉

著者
大塚 吉則
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.159-167, 2012 (Released:2012-10-11)
参考文献数
14
被引用文献数
1

古代中国においては,時の権力者は温泉を憩いの場として利用していた。玄宗皇帝は温泉を引いて宮殿(華清宮)を建てて内部に池を配置し,楊貴妃を伴ってこの地で時を過ごしていた。温泉の効能は古代中国でも知られており,漢の科学者張衡の温泉賦をはじめとして多くの記載が残っているが,漢方医学と直接関連した書物としては,李時珍の本草綱目が有名である。温泉は「温湯」として地水類の一つに数えられており,硫黄の臭いを発する地表からわき出る(沸泉)熱い湯として認識されている。日本においては江戸時代,貝原益軒が養生訓に温泉入浴についての注意事項を記載している。その後,後藤艮山が高温泉に入ることが重要であるとし,彼の弟子香川修徳はその著書一本堂薬選で,温泉入浴方法にまで言及している。温泉療法は「気血水」のすべてに影響を与えており,漢方とともに用いればさらにお互いの効用を増強させうるものと思われる。
著者
玉野 雅裕 加藤 士郎 岡村 麻子 星野 朝文 高橋 晶
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.275-280, 2018 (Released:2019-02-27)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

高齢の慢性心不全患者は増加しており,感染の合併などで高率に急性増悪を来し,フロセミド静脈注射,トルバプタン内服治療が行われている。しかし,一定の頻度で難治性患者(フロセミドやトルバプタンに対するノンレスポンダー)が存在し,臨床上問題になっている。今回我々は,難治性の心不全に五苓散が著効した2症例を経験した。五苓散投与により2症例とも尿量が増加し,症状,理学所見,各種の検査所見は著明に改善した。さらに退院後,これらの薬剤は継続投与され,心不全の増悪による再入院は約1年間にわたって回避された。この結果は,五苓散の臓器,組織の水の偏在を正常化する作用,および腎集合管におけるトルバプタンの作用を再活性化させた可能性が考えられ,今後,慢性のうっ血性心不全に対する五苓散併用の有用性が示唆された。

5 0 0 0 OA 腹診の全て

著者
山田 光胤
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.573-582, 2009 (Released:2010-03-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

日本漢方は,診察法として腹診の手法を行う。腹診は,四診,すなわち望,聞,問,切診の中の切診の一部ではあるが,診断である証の判定の為に,最も有力な情報が得られる手技である。また,腹診は,東亜諸国,諸地域に伝承されている伝統医学の中で,日本で,唯一,独自に発展した診察法である。なお,現代行われている腹診は,主に古方,傷寒論系医学におけるものであるが,折衷派医学にも影響が及んでいる。さらに,腹診は,形式的認識ではあるが,手技,手法である故,一応の修練,習熟が必要である。本稿で,古昔より長年にわたって集積された腹診の知見を解説する。
著者
木村 容子 田中 彰 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.205-211, 2013 (Released:2013-11-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

目的:当帰芍薬散と加味逍遙散が有効な冷えのタイプを検討した。研究デザイン:後ろ向きコホート研究。対象と方法:冷えを主訴とし,随証治療にて当帰芍薬散エキスまたは加味逍遙散エキスを1ヵ月以上投与した患者188名を対象とした。初診時にデータ登録された随伴症状や体質傾向など多岐にわたる62項目から,クロス表分析により冷えの治療効果(頻度および程度の改善)と関連の高い項目を選出し,さらに多変量解析により治療効果予測の最適モデルを解析した。結果:当帰芍薬散の有効な冷えは,腹部の冷え(オッズ比5.0),めまい(7.7),目のかすみ(16),のぼせ(5.6)を訴え,怒りっぽさ(0.11)や耳鳴のない(0.025)場合であった(p <0.001)。一方,加味逍遙散では全身の冷えはなく(0.099),発作性発汗があり(14),立ちくらみのない(0.21)ことが最適な効果予測因子となった(p <0.001)。加味逍遙散では四肢(AIC -8.64),特に,足の冷え(-2.23)と関連があった。結論:当帰芍薬散は腹部の冷え,加味逍遙散は全身の冷えがない場合に,四肢,特に足の冷えに有効だった。
著者
安井 廣迪
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.177-202, 2007-03-20 (Released:2008-09-12)
被引用文献数
8 5

現在の日本の漢方医学の形は, 過去における諸学派の理論や方法の影響を受けて形成された。この医学は, 当初は中国医学の模倣であったが, 徐々に日本独特の形を獲得, 16世紀に至り, 曲直瀬道三らの努力によって当時の明の医学システムを全面的に導入することに成功し, 一大学派を形成した。17世紀後半に入ると, 中国の『傷寒論』研究ブームの影響が日本に及び, この古典に基づいた医学体系を構築する学派が出現した。とりわけ吉益東洞は徹底して『傷寒論』処方の研究を行い, 処方を特定の症候に対応させて運用する方証相対システムを考案した。そのあと後世派と古方派の医術を臨床的に折衷する学派が出現した。折衷の形はさまざまであり, この学派に属する多くの医師によって, 個性溢れる治療が行われた。1868年の明治維新後, 漢方医学は正統の地位を外れたが間もなく復興し始め, 少数ながら精鋭の漢方専門医によって『漢方診療の実際』 (1941) が出版されて, 現在の漢方医学の基礎を作った。その後の漢方医学は, 現代医学的な研究を多く取り入れ, 学派も以前とは異なった形で存続している。
著者
熊本 友香 久末 伸一 安田 弥子 井手 久満 知名 俊幸 井上 正浩 斉藤 恵介 磯谷 周治 山口 雷蔵 武藤 智 堀江 重郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.160-165, 2013 (Released:2013-11-18)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

今回,我々は加齢男性性腺機能低下症候群患者(late onset hypogonadism : LOH)に対する補中益気湯の有効性について検討した。帝京大学付属病院泌尿器科メンズヘルス外来を受診し,Aging Male Symptoms(AMS)scale が27点以上で,テストステロン補充療法を施行していない47例に補中益気湯エキス7.5g/日を8週間投与した。投与前および投与8週間後のAMS と各種ホルモン値,各種サイトカインについて検討した。47例中31例で評価が可能であり,補中益気湯8週間の投与によって遊離テストステロンは有意な上昇を示し,ACTH とコルチゾールは有意に低下した。補中益気湯投与後の自覚症状は各種質問紙で変化なかった。本検討により補中益気湯はLOH 症候群患者のホルモン値に影響を与えることが証明された。今後,長期間投与による症状変化の検討を要するものと考えられた。
著者
福田 美絵子 來村 昌紀 隅越 誠 小林 亨 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.204-211, 2012 (Released:2012-10-11)
参考文献数
9

麗澤通気湯は『蘭室秘蔵』収載の方剤で副鼻腔炎との関連が推測できる諸症状を改善する事が知られている。先にわれわれは,本方剤が奏功した常習頭痛,気管支喘息,気管支アミロイドーシスの3症例を報告した。本稿は副鼻腔炎を合併した,月経前症候群,頭痛,食欲不振,手指知覚障害,咳嗽を主訴とした5症例に対し,副鼻腔炎を目標に本方剤を単独,あるいは補助的方剤との併用を行い,本方剤の証を明確にすることを試みた症例の報告である。
著者
木村 容子 山崎 麻由子 佐藤 弘 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.106-112, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
12

漢方医学において疲労倦怠感は気血水スコアの気虚に分類されるが,補気剤を用いても軽快しない場合がある。 一部の慢性的な症状の背景には瘀血が存在すると考えられている。慢性の疲労倦怠感が駆瘀血剤(桂枝茯苓丸加味4例,桃核承気湯2例,併用4例)で改善した10症例(M/F1/9,年齢中央値46歳,範囲23—55歳)を経験した。 体格はほぼ中等度,自覚症状では,頚または肩の凝りが9/10例,便秘が5/10例,のぼせまたはホットフラッシュが5/10例であった。食欲不振はなく,むしろ過食が10例中5例に認められた。診察所見では,舌下静脈怒張(8/10例),臍膀圧痛(9/10例),目の隈(5/10例)などが認められ,舌や腹部所見は3—8ヵ月後には軽減または消失していた。 慢性の疲労倦怠感には瘀血の徴候を呈する症例がある。これらの症例には補気剤で補うよりも,まず瘀血を目標にして治療が有効な可能性がある。
著者
大平 征宏 齋木 厚人 大城 崇司 鈴木 和枝 龍野 一郎 白井 厚治 秋葉 哲生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.272-277, 2013 (Released:2014-02-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

症例は減量手術後に体重増加を来した51歳女性。若年時より肥満があり,30歳の時に糖尿病を発症した。45歳時には糖尿病性ケトアシドーシスで入院した。48歳時に過食症の診断も受けており,食事・運動療法では減量困難であった。減量手術を受け,体重は減量手術後6ヵ月で11kg 減少した。しかし,術後7ヵ月頃からリバウンドした。この頃,精神状態も不安定であり,日中は常に何かを食べている状態であった。不安定な精神状態の治療を目的に,抑肝散エキス5g/日を投与した。抑肝散投与後,摂取エネルギーの減少に伴って体重は減少した。患者本人も精神状態の改善を自覚した。また,HbA1c(JDS)も抑肝散投与後に8.7%から7.1%に改善した。本症例では抑肝散が患者の精神的不安定を改善することによって過食を抑える事で,体重減少およびHbA1c の改善が得られた可能性が示唆された。
著者
高久 俊 高久 千鶴乃 平馬 直樹 高橋 秀実
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.202-211, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
14

衛気虚証患者の体質改善に対する少量の玉屏風散末内服の有用性について報告する。対象は易感冒,アレルギー性鼻炎,発汗異常のうち1-2つを主訴とする患者30例である。玉屏風散末は黄耆,白朮,防風の3生薬を粉末にして混合したものを使用した。その有効性については内服開始6ヵ月後あるいは1年後に自覚症状の改善度をスコア化して評価した。玉屏風散末内服は24例(80.0%)で有効(著効19例,有効5例)であり,主訴別では特に易感冒(17例中著効12例を含む16例で有効)およびアレルギー性鼻炎(13例中著効6例を含む10例で有効)に対して高い有用性を示した。また有効症例全24例中,一日内服量0.7-1.4g の症例が19例(79.2%)を占めた。以上,構成する3生薬いずれも保険適応があることを勘案すると,玉屏風散末は少量内服で高い効果を示す経済的な衛気虚証患者の体質改善薬となりうることが示唆された。
著者
中山 毅 田中 一範
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.647-651, 2009 (Released:2010-03-03)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

妊娠中および帝王切開術直後に発生した癒着性イレウスに対して,大建中湯エキスを服用することにより,保存的に加療できた症例を経験した。症例は29歳女性。15歳の時に小腸軸捻転にて開腹歴あり。妊娠11週に癒着性イレウスを発症したため,大建中湯を投与したところ,大量の下痢便を認め症状は軽快。その後,胎児ジストレスにて36週に緊急帝王切開を施行。腹壁前面に小腸の強固な癒着を認めた。術後4日目に術後癒着性イレウスの診断にて,大建中湯を経口投与した。6日目に,軟状便および排ガスを認め,9日目には経口摂取を開始。その後は異常なく25日目に退院した。妊婦の高齢化に伴い,イレウス合併妊娠の報告が数多く認められる。妊娠中は母子ともに,重篤化しやすく外科的処置が必要となることが多いが,妊娠中や出産時に発生した癒着性イレウスに対して,大建中湯を用いることにより,保存的に改善する症例もあると考えられる。
著者
木村 容子 清水 悟 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.147-153, 2010 (Released:2010-07-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

緒言:大柴胡湯が有効な全身倦怠感や易疲労感の患者タイプを多変量解析により検討した。対象と方法:全身倦怠感や易疲労感を訴え,随証治療にて大柴胡湯を投与した患者53名を対象とした。随伴症状,体質傾向,舌所見,腹部所見,年齢,性別,身長,体重,高血圧・高脂血症・糖尿病の有無,さらに,1カ月後の胸脇苦満の改善の有無を加えた計46項目を説明変数とし,全身倦怠感や易疲労感の改善の有無を目的変数として,多次元クロス表分析により最適な説明変数とその組み合わせを検討した。結果:大柴胡湯によって全身倦怠感や易疲労感を改善できる患者タイプは,「発汗」,「のぼせ」,「喉のつまり感」,「胸の圧迫感」などの自覚症状を伴う人であった。特に,発汗の症状があって治療後に胸脇苦満が軽減する場合に,大柴胡湯による全身倦怠感や易疲労感の改善が最も関連する結果となった。考察:「喉のつまり感」や「胸の圧迫感」などの気うつが背景にあると推測された。発汗は頭を含めた上半身に多い傾向があり,また,大柴胡湯による全身倦怠感や易疲労感の改善は,初診時の胸脇苦満の部位(右,左,両方)よりもむしろ治療後に胸脇苦満の軽減を認める人に認められやすいと考えられた。
著者
田原 英一 後藤 雄輔 吉永 亮 井上 博喜 矢野 博美
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.94-101, 2020 (Released:2020-12-07)
参考文献数
24

四物湯を含む処方が奏功した6例を経験した。症例1は13歳男性で起床困難であったが,集中力低下を目標に治療したところ,通学も可能になった。症例2は18歳女性で,起床困難だったが,同じく通学が可能になった。症例3は10歳女性で,治療により部分的に通学可能となった。症例4は42歳男性で,社交不安に対して四物湯を追加したところ改善した。症例5は多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。症例6は56歳女性で同じく多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。いずれの症例もうつ,不安が明らかであり,4例でコルチゾールの低下を認め治療により回復した。四物湯は血虚を治療することで集中力,判断力を回復し精神症状を改善すると考えられる。
著者
周防 一平
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.147-154, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
41

岡部素道は昭和の日本鍼灸界における第一人者であった。その功績は,経絡治療の樹立,GHQ 旋風時のGHQ との直接交渉,北里研究所東洋医学総合研究所設立への貢献など数知れない。そこで筆者は昭和鍼灸史の見直しを目的とし,戦前における岡部の治療方法とその成立過程についての調査を行うこととした。岡部晩年の内弟子であった相澤良氏に対する岡部本人の談話の聞き取り調査,岡部最初の論文「古典に於ける補瀉論に就て」を中心とした岡部の著作,論文等の調査を行ったところ以下のことが判明した。戦前の岡部の治療は,晩年の比較脈診による69難本治法とは異なり,六部定位による脈位脈状診に基づき診断を行い,単刺による一経補瀉を行っていた。現在一般にいわれている昭和14年(1939)3月3日の新人弥生会結成が経絡治療の始まりではなく,昭和11年(1936)の段階で経絡治療の理論・臨床体系が出来上がっていた。
著者
山本 昇吾 藤東 祥子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.13-21, 2015 (Released:2015-06-29)
参考文献数
20

【目的】原発開放隅角緑内障に対して,標準的治療を基本にして長期にわたり漢方治療を行った症例を呈示し,緑内障治療における漢方の意義について考察する。【症例】症例1は,男性で初診時17歳の原発開放隅角緑内障症例である。34年間で3度手術を行ったが,漢方治療を継続しながら経過を観察し得た症例である。症例2は,女性で初診時56歳,初診より約30年前に原発開放隅角緑内障と診断されたが,その後希望により漢方治療を19年間継続している症例である。いずれも失明状態になることが危惧されていたが,漢方治療を継続することにより視機能を維持し,眼圧もコントロールすることができた。症例3は,女性で初診時23歳,漢方内服中に眼圧は正常範囲に低下し,内服中止により眼圧上昇を示した。【考察】原発開放隅角緑内障における眼圧上昇に対して有効な特定の処方名は挙げられないが,少しでも有効な漢方方剤はある。また,漢方を継続的に服用することは視機能維持にも有効である可能性がある。【結語】漢方薬は原発開放隅角緑内障の眼圧低下及び視機能維持の補助的治療に用いて有効である。
著者
斉藤 晶 竹越 哲男
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.336-339, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
12
被引用文献数
3

耳管開放症はまれな病気でなく,全人口の5%に存在している可能性がある。自声強聴や耳閉感がよく見られる症状である。薬物治療,手術を含め種々の治療が行われているが,満足した結果が得られていない。漢方医学的には,気虚または血虚と考えることができる。耳管開放症の漢方治療は加味帰脾湯が良く知られていた。今回,補中益気湯を10症例に投与した結果を報告した。4例が改善,1例がやや改善,4例が不変であった。作用機序は,耳管の緊張の亢進,耳管周囲の脂肪組織の増加,精神面への影響を考えた。補中益気湯が耳管開放症の選択肢の1つとなることが期待される。
著者
竹田 眞
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.322-324, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
4

顔面神経麻痺後の異常神経再生による「ワニの涙」症候に対する根本的治療は無い。この現象は唾液支配分枝が涙腺を異常支配する事により起こるとされている。今回筆者は右顔面神経麻痺後の「ワニの涙」症候を針治療にて急速な改善を認めた一例を経験したので報告する。用いた針は和針(ステンレス製)1寸6分,3番である。また取穴は,右聴宮,右太陽,右和髎であった。10分間の置針一回のみで「ワニの涙」症候は完全に消失し,再発は無かった。しかし食事中の瞼裂狭小は改善するものの完全には消失しなかった。
著者
加藤 彩 中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.336-339, 2013 (Released:2014-05-16)
参考文献数
8
被引用文献数
1

繰り返す性器ヘルペスの治療には,抗ヘルペスウイルス薬の継続投与による再発抑制療法が行われているが,漢方薬による治療報告は散見される程度である。今回,繰り返す性器ヘルペスの再発に補中益気湯が奏効した症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。症例は,34歳女性,2回妊娠2回出産。数年前より性器ヘルペスの再発を繰り返し近医にて治療していたが,再発が頻回となり当科を初診した。再発所見の他,全身倦怠感,食欲低下などを自覚し,気虚と考え補中益気湯を7.5g/日投与開始した。服用後2週間で全身倦怠感は消失。徐々に再発回数は減少し一年弱で服用を中止したが,その後も再発は認めなかった。本症例は,全身倦怠感,食欲低下の改善ともに,性器ヘルペスの再発回数も減少していった。性器ヘルペス再発の状態を気虚と考え,補中益気湯で治療は可能と考えられた。