著者
國枝 秀世
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.925-932, 2001

「あすか」の一番大きな特徴は, 初めて10keVまでの撮像観測ができたことである.2-10keVのエネルギー帯域でこれまでの「ぎんが」に比べ2桁高い感度が実現され, 遠方の暗い銀河まで観測可能になった.高いエネルギーの観測では, 吸収体に隠された天体も検出でき, 近傍の銀河に潜む活動的銀河核も次々見つかった.「あすか」のもう一つの特徴は焦点面に置かれたCCDカメラによる分光である.スペクトルに見られる吸収構造, 輝線構造を分光することで, 大質量ブラックホールを持つ活動的銀河核近傍の, 強い重力場と強い放射場における物理現象が明らかにされた.この問題は, 最近観測を始めたChandra, Newtonの二大X線天文衛星でさらに大きく展開されようとしている.またもう一歩踏み込んだ研究にはAstro-E2の登場が待たれる.
著者
山中 長閑 吉永 尚孝 旭 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.382-387, 2018-06-05 (Released:2019-02-05)
参考文献数
15

夜空に輝く星々や我々人間を構成する電子と原子核,つまり物質は実際宇宙の主成分の一つをなしている.しかしながらそもそも宇宙に物質が多く存在し反物質がほとんど存在しない,というこの一見当たり前の事実は,実は非自明な現象である.CP対称性とよばれる対称性の破れがあってこその現象なのであり,観測から導かれる物質の量は,素粒子物理の標準模型に組み込まれたCPの破れで説明できる量をはるかに超えている.加えて宇宙には,標準模型内の粒子ではないと考えられる粒子(暗黒物質)や未知のエネルギー(暗黒エネルギー)が存在する.標準模型は現在までに地上で行われた加速器実験の結果のほとんど全てを説明する強力な素粒子物理模型であるにもかかわらず,その奥に私たちの知らない新しい物理が控えているのではないかと,多くの研究者が期待を胸に新物理の探索に挑戦している.新物理の候補のうち,多くの研究者に有望視されていた電弱スケールの超対称標準模型は,超対称粒子が期待される質量領域に見つからないことから最近その特別な地位を譲りつつある.新物理の解明へのこれまでの指針が変更を余儀なくされ,次第に新物理の証拠探しはエネルギーを上げた加速器実験によって新粒子の直接検出を目指す「エネルギーフロンティア」から,標準模型で禁止されているはずの物理過程に新物理の効果を探索する「超精密フロンティア」へと,その重心を移しつつある.この際に鍵となるものの一つは上述のようにCPの破れである.スピン方向に沿って定常的に生じた粒子の電気分極を電気双極子モーメント(Electric Dipole Moment, EDM)と呼ぶ.EDMはスピンに沿って定義されているのに,空間反転と時間反転に関してスピンとは異なる変換性を示すという奇妙な物理量.時間反転に関するこの性質は,CPT定理を通じてEDMがCP対称性の破れに関係する観測量であることを物語っている.新物理は標準模型とは異種のCPの破れを含むはずである.標準模型のCPの破れはフレーバー混合に関わるものであるため,フレーバー対角な観測量であるEDMには低次で現れず,観測にかからない.もし実験で大きな値のEDMが見つかったなら,それは間違いなく新物理に由来するものである.EDMの研究は現在,スピンを持つ様々な粒子―中性子,反磁性原子,常磁性原子,ミュオン,陽子・重陽子―を対象に世界中で探索実験が実施または計画されている.理論的にも検討が進み,これら異なる粒子のEDMがそれぞれどのような新物理に感度を持っているのか,それらの実験データが得られた時にどのような解析をすればよいのかもわかってきた:各々の新物理が生み出すCP非保存相互作用は低エネルギーでは限られた個数のパラメータで表され,これらのパラメータはハドロン物理・核物理・原子物理の過程を通じて様々な素粒子・複合粒子にEDMを生じさせる.これを逆に辿ると,測定されたEDMから各パラメータの値が求められ,その値が新物理の存在の証拠を与えることとなる.我々は,キセノンや水銀などの反磁性原子のEDMが素粒子からハドロン,原子核,原子の各階層を繋げて新しい物理を解明する際に持つ感度を明らかにしてきた.こうして今後実験の進展によりEDMが,それもただ一例ならず決定されるようになれば,提案されているいずれの模型が描く新物理が実際に現れるのかを判別する道が拓かれることになる.
著者
田村 亮 長谷 正司 福島 孝治
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.652-657, 2021-10-05 (Released:2021-10-05)
参考文献数
11

「物質のハミルトニアンを知りたい」,物性研究者なら誰でも思うことだろう.しかし,対象物質の実験結果を説明できるハミルトニアンを構築するのは,一筋縄にはいかない.ハミルトニアンの関数系,含まれるパラメータ値を決定するためには,多くの試行錯誤が必要となるためである.この煩雑な作業を回避するにはどうしたらよいだろうか.近年注目されている機械学習をはじめとしたデータ駆動手法の利用が一つの道筋だろう.我々は機械学習を利用することで,実験・観測データからハミルトニアンを推定する手法を開発した.ハミルトニアンを推定するために,実験データが与えられた際のハミルトニアンの事後確率を定義する.ベイズ推定を利用することで,この事後確率は,ハミルトニアンが与えられた際の測定ノイズを含めた実験データの尤度(計算物質科学手法により評価可能)および事前分布で表すことができる.事前分布は,推定するハミルトニアンに対する事前知識を表し,推定対象に適した分布を導入する必要がある.このようにして定義された事後確率を最大とするハミルトニアンが最も実験・観測データを説明できると推定される.しかしながら,この事後確率の最大条件探索は,使用する計算物質科学手法によっては簡単ではない.あるパラメータの組における事後確率の値は,対象とする物理量を計算物質科学手法により評価することで得られる.そのため,計算に時間がかかる場合,最大条件を見つけるのは困難である.これを克服するために,機械学習が使える.機械学習を利用することでできるだけ少ない試行回数でよりよい条件を探索することができるベイズ最適化を,事後確率の最大条件探索に利用した.テストケースとして,1次元量子スピン系に対して適用した.ベイズ最適化を用いることで,物理学でよく利用されるマルコフ連鎖モンテカルロ法や勾配法よりも物理量の計算回数が少なくても,よりよい最大条件を見つけ出せることがわかった.一方で,ベイズ最適化を用いると実験データを説明できるハミルトニアンを高速に導出することはできるが,事後確率の最大条件だけでは,観測ノイズを見積もることはできない.そこで,マルコフ連鎖モンテカルロ法によって事後確率を詳しく解析することで観測ノイズを求め,推定されたハミルトニアンに誤差をつける手法を開発した.このように開発された手法の有用性を示すために,実際の実験系への適用として,低次元量子スピン系KCu4P3O12に対して高磁場測定で得られた磁化過程および帯磁率の実験結果から,スピンハミルトニアンを推定した.その結果,推定されたスピンハミルトニアンは,実験データをよく再現できた.また,磁気的相互作用の誤差も見積もることができた.推定されたスピンハミルトニアンを用いることで,実験室レベルでは直接見積もることが難しい,スピンギャップや磁気エントロピーなども予測することができる.つまり,“高価”な実験なしに物質を理解できるため,ハミルトニアン推定は物質開発のコスト削減に繋がり,新物質の発見を加速させるだろう.また,この手法は,ハミルトニアンが定義でき,入力する実験・観測データを計算できる計算手法があれば利用することができる.物理学における様々な分野において,広く応用できる手法である.
著者
小池 幸人 中村 厚 澤渡 信之 戸田 晃一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集 71.2 (ISSN:21890803)
巻号頁・発行日
pp.2859, 2016 (Released:2017-12-05)

木星の大赤斑をRossby波のKdVモデルによって理解しようと試みは古くから数多くなされている。YamagataとFlierlらにより提唱された中間地衡風(IG)力学は,その渦糸解の非対称性,すなわち低気圧が高気圧より極めて安定である等,大赤斑の特性を理解するうえで様々な利点がある。我々はWilliams-Yamagataの模型[1]にしたがって,大赤斑の安定性(長寿命)の起源を,特に,背景にあるKdV的な可解性との関連に焦点を当てて,詳細に議論する。参考文献[1] Williams, Yamagata "Geostrophic regimes, intermediate solitary vortices and Jovian eddies"

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出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.157-161, 2015

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