著者
和田 有希子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.629-653, 2003

これまで鎌倉時代の臨済禅は「兼修禅」と「純粋禅」という枠組みで捉えられるのが一般的であった。この枠組みは、「純粋禅」を、禅の清規を導入し、従来の顕密諸宗から完全に距離を取った存在と見、一方の「兼修禅」を、顕密諸宗を併習する禅として明確に区別するものであった。しかしこうした枠組みは、当該期臨済禅とは何かということや、臨済禅の中世思想世界における意義を埋没させてしまう。そこで本稿では、この枠組みを一度措き、当該期臨済禅僧の交流の実態を踏まえた上で、「兼修禅」・「純粋禅」に分類されてきた円爾弁円と蘭渓道隆による『坐禅論』の内容を比較検討した。その結果、当該期臨済禅僧には「兼修禅」「純粋禅」の区分を超えた密接な交流があったこと、また円爾・蘭渓の思想に共通性の高い構造があることを確認した。このことは、「兼修禅」「純粋禅」の区分を前提とする前に、宋代臨済禅に由来する両者の臨済禅僧としての共通性とその内実に、より着目すべきことを示唆している。
著者
榎戸 輝揚 和田 有希 土屋 晴文
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.192-200, 2019-04-05 (Released:2019-09-05)
参考文献数
33
被引用文献数
1

科学探査が及んでいない対象を人類未踏の世界と呼ぶならば,多くの人は宇宙や深海を思い浮かべるのではないだろうか.実は,太古から身近な自然現象である雷雲や雷放電も,極端な環境のために観測が難しく,これまで知られていなかった高エネルギー現象が近年になって発見されている未踏領域である.そもそも,雷放電がなぜ起きるかという基本的問題にも未解明な点が残され,高エネルギー物理学の知見が重要となってきた.本稿では,古典的な可視光・電波での観測のみならず,X線やガンマ線の観測,宇宙線,原子核物理や大気化学に広がる「雷雲や雷放電の高エネルギー大気物理学」という新しい分野を紹介したい.雷雲の中では,大小の氷の粒が互いにぶつかりあって電荷分離が生じ,強い電場が生じる.この電場が大気の絶縁作用を破壊し,大電流が流れて強力な電磁波や音を放つのが雷放電である.この雷放電に伴う新しい現象が,1990年代から大気上層で見つかっている.ひとつは,スプライトやエルブスと呼ばれる,奇妙な形状で赤色や青色に発光する高高度大気発光現象(Transient Luminous Event, TLE)である.もうひとつは,雷放電に伴って宇宙空間に放たれる,継続時間がミリ秒で20 MeVまでのエネルギーの地球ガンマ線フラッシュ(Terrestrial Gamma-ray Flash, TGF)である.これらは,雷放電に伴う電場変化で電子が加速され,大気分子の脱励起光や,電子の制動放射を観測していると考えられる.さらに地上観測でも,自然雷やロケット誘雷で突発的なX線やガンマ線も検出された.こういった雷放電に同期した放射に加え,雷雲そのものからも,10 MeVを超えるガンマ線が数分以上も地上に降り注ぐ現象が観測されている.一発雷と呼ばれる強力な冬季雷が発生する日本海沿岸の冬季雷雲は世界的にみても稀で,雲底も地表に近いために大気吸収の影響が小さくなり,こういった放射線の測定に有利な環境になっている.そこで我々も10年以上にわたって放射線測定器を設置し,雷雲からのガンマ線を実際に数多く観測してきた.この準定常的なガンマ線の発生機構は,雷雲内の強い電場で加速されなだれ増幅した相対論的電子からの制動放射と考えられており,地球大気という密度の濃い環境下での電場による粒子加速という珍しい物理現象の研究が可能となっている.さらにここ数年で新検出器による多地点マッピングを実現したことで,思わぬ発見にも出会うことができた.雷放電で生じるガンマ線が大気中の窒素や酸素の原子核に衝突し,光核反応を起こすことが明らかになったのである.光核反応で原子核から大気中に飛び出す中性子と,生成された放射性同位体がベータプラス崩壊で放出する陽電子を地上観測で検出できたのだ.これは,雷放電が我々の上空で陽電子を生成するという面白い事実を明らかにしたのみならず,雷放電の研究が原子核の分野にも広がることを意味する.また,光核反応で雷放電が大気中に同位体15N,13C,14Cを供給することは,大気化学とのつながりでも今後の研究の進展が期待できる.本稿では,学術系クラウドファンディングや市民と連携したオープンサイエンスへの試みも紹介しつつ,国内外での高エネルギー大気物理学の潮流と我々の学際的な挑戦を紹介したい.
著者
榎戸 輝揚 和田 有希 古田 禄大 湯浅 孝行 中澤 知洋 中野 俊男 土屋 晴文 鴨川 仁 米徳 大輔 澤野 達哉
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本海沿岸の冬季雷雲からは 10 MeV に達するガンマ線が観測されてきた(Torii et al., 2002, Tsuchiya & Enoto et al., 2007)。これは、雷雲内の強電場により電子が相対論的な領域まで加速され放射される制動放射ガンマ線と考えられている。これまでの観測では単地点が多く、現象の生成・成長・消失の追跡は難しかった。そこで我々は、雷雲の流れに沿ってマッピング観測を行うことで、放射の始まりと終わりを確実に捉え、ガンマ線強度やスペクトル変化を測定し、雷雲内で生じる物理現象の全貌を明らかにすることを狙っている。2016年度は、小型コンピュータ Raspberry Pi で読み出せる小型で安価な FPGA/ADC ボードの開発と BGO シンチレータの主検出部や専用読み出し回路基板を組み合わせて標準観測モジュールを作成し、石川県の高校や大学の屋上に設置して観測を開始した(和田ほか JpGU M-IS18 の発表を参照)。2016年12月8日から9日にかけて、金沢-小松の4地点で雷雲ガンマ線を検出したのを皮切りに、複数のイベントを捉えている。本講演では、私たちが進めている多地点ガンマ線観測の現状と、今後、そこからアプローチできる雷雲内の物理現象の理解について紹介したい。
著者
榎戸 輝揚 湯浅 孝行 和田 有希 中澤 知洋 土屋 晴文 中野 俊男 米徳 大輔 澤野 達哉
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

日本海沿岸の冬季雷雲から 10 MeV に達するガンマ線が地上に放射されていることが観測的に知られており(Torii et al., 2002, Tsuchiya & Enoto et al., 2007)、雷雲内の強電場により電子が相対論的な領域まで加速されていると考えられている。これまでの観測では単地点の観測が多く、電子加速域の生成・成長・消失を追跡を追うことは難しかった。そこで我々は、雷雲の流れにそって複数の観測点を設けたマッピング観測を行うことで、放射の始まりと終わりを確実に捉え、ガンマ線強度やスペクトル変化を測定し、加速現象の全貌を明らかにすることを狙っている。冬季雷雲の平均的な移動速度は ∼500 m/ 分で、単点観測で数分にわたりガンマ線増大が検出されるため、およそ数 km 間隔で約 20 個ほどの観測サイトを設けることを考えている。そこで、CsI や BGO シンチレータ、プラスチックシンチレータと独自に開発した回路基板、小型のコンピュータ Raspberry Pi を組み合わせ、30 cm 立方ほどの可搬型の放射線検出器を開発し、金沢大学と金沢大学附属高校に設置して観測を開始した。個々の放射線イベントの到来時間とエネルギー、温度などの環境情報を収集してる。今後、観測地点を増やして、マッピング観測を行いたい。なお、本プロジェクトは、民間の学術系クラウドファンディングからの寄付金によるサポートも得ておこなわれた。
著者
榎戸 輝揚 和田 有希 土屋 晴文
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.192-200, 2019

<p>科学探査が及んでいない対象を人類未踏の世界と呼ぶならば,多くの人は宇宙や深海を思い浮かべるのではないだろうか.実は,太古から身近な自然現象である雷雲や雷放電も,極端な環境のために観測が難しく,これまで知られていなかった高エネルギー現象が近年になって発見されている未踏領域である.そもそも,雷放電がなぜ起きるかという基本的問題にも未解明な点が残され,高エネルギー物理学の知見が重要となってきた.本稿では,古典的な可視光・電波での観測のみならず,X線やガンマ線の観測,宇宙線,原子核物理や大気化学に広がる「雷雲や雷放電の高エネルギー大気物理学」という新しい分野を紹介したい.</p><p>雷雲の中では,大小の氷の粒が互いにぶつかりあって電荷分離が生じ,強い電場が生じる.この電場が大気の絶縁作用を破壊し,大電流が流れて強力な電磁波や音を放つのが雷放電である.この雷放電に伴う新しい現象が,1990年代から大気上層で見つかっている.ひとつは,スプライトやエルブスと呼ばれる,奇妙な形状で赤色や青色に発光する高高度大気発光現象(Transient Luminous Event, TLE)である.もうひとつは,雷放電に伴って宇宙空間に放たれる,継続時間がミリ秒で20 MeVまでのエネルギーの地球ガンマ線フラッシュ(Terrestrial Gamma-ray Flash, TGF)である.これらは,雷放電に伴う電場変化で電子が加速され,大気分子の脱励起光や,電子の制動放射を観測していると考えられる.さらに地上観測でも,自然雷やロケット誘雷で突発的なX線やガンマ線も検出された.</p><p>こういった雷放電に同期した放射に加え,雷雲そのものからも,10 MeVを超えるガンマ線が数分以上も地上に降り注ぐ現象が観測されている.一発雷と呼ばれる強力な冬季雷が発生する日本海沿岸の冬季雷雲は世界的にみても稀で,雲底も地表に近いために大気吸収の影響が小さくなり,こういった放射線の測定に有利な環境になっている.そこで我々も10年以上にわたって放射線測定器を設置し,雷雲からのガンマ線を実際に数多く観測してきた.この準定常的なガンマ線の発生機構は,雷雲内の強い電場で加速されなだれ増幅した相対論的電子からの制動放射と考えられており,地球大気という密度の濃い環境下での電場による粒子加速という珍しい物理現象の研究が可能となっている.</p><p>さらにここ数年で新検出器による多地点マッピングを実現したことで,思わぬ発見にも出会うことができた.雷放電で生じるガンマ線が大気中の窒素や酸素の原子核に衝突し,光核反応を起こすことが明らかになったのである.光核反応で原子核から大気中に飛び出す中性子と,生成された放射性同位体がベータプラス崩壊で放出する陽電子を地上観測で検出できたのだ.これは,雷放電が我々の上空で陽電子を生成するという面白い事実を明らかにしたのみならず,雷放電の研究が原子核の分野にも広がることを意味する.また,光核反応で雷放電が大気中に同位体<sup>15</sup>N,<sup>13</sup>C,<sup>14</sup>Cを供給することは,大気化学とのつながりでも今後の研究の進展が期待できる.本稿では,学術系クラウドファンディングや市民と連携したオープンサイエンスへの試みも紹介しつつ,国内外での高エネルギー大気物理学の潮流と我々の学際的な挑戦を紹介したい.</p>
著者
古田 禄大 the GROWTH collaboration 楳本 大悟 中澤 知洋 奥田 和史 和田 有希 榎戸 輝揚 湯浅 孝行 土屋 晴文 牧島 一夫
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.72, pp.500, 2017

<p>我々は雷雲内の粒子加速機構の解明を目指し,新潟県柏崎刈羽原発内で雷雲由来ガンマ線の測定を継続している。2014–15年冬には約100秒間に10万カウント前後という高統計のガンマ線増大現象が複数観測され,地上に届くガンマ線放射の広がりの大きさや形状が判明した。本講演ではモンテカルロシミュレーションを用いて,電場加速された電子が地上にもたらす制動放射ガンマ線の分布をモデル化し,実データと比較することで,加速現場の高度や加速方向の広がりを推定する。</p>
著者
多和田 有希
出版者
東京藝術大学
巻号頁・発行日
2011-03-25

平成22年度
著者
本村 昌文 渡辺 道代 和田 有希子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

介護と看取りの現場と近世日本思想史研究の接点を構築し、現代日本社会に生じている介護と看取りの諸問題の解決に資する死生観の解明を行った。本研究では、17世紀日本の死生観と介護・看取りの現場とのつながりを検討し、伝統的な死生観のもつプラス面とマイナス面を明らかにした。またこうした作業を通して、伝統的な死生観をもとにして、介護と看取りを支える精神的基盤を再構築していく端緒を得ることができた。
著者
曽根原 理 牧野 和夫 福原 敏男 佐藤 眞人 大島 薫 松本 公一 岸本 覚 山澤 学 大川 真 中川 仁喜 和田 有希子 万波 寿子 クラウタウ オリオン 青谷 美羽 杉山 俊介
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本の近世社会において、東照宮が果たした役割を考えるため、関係する史料を各地の所蔵機関などで調査した。また、近世初期に東照宮を設立する際に基盤となった、中世以来の天台宗の展開について、各地の天台宗寺院の史料を調査した。加えて、年に二回のペースで研究会を行い、各自の専門に関する報告を行い議論した。そうした成果として、日本各地の東照宮や天台宗寺院に関する著作と論文を公表することが出来た。